• 作成日 : 2024年9月3日

任意後見契約公正証書とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説

任意後見契約公正証書とは、判断能力が低下した際に、財産の管理などを信頼できる人に任せる契約の内容を定めた公正証書です。十分に整えた案文を公証役場に持ち込めば、自分の意向に沿った任意後見契約公正証書を作成してもらえます。任意後見契約公正証書の案文の書き方やレビュー時のポイントなどを、条文の具体例を示しながら解説します。

任意後見契約公正証書とは?

任意後見契約公正証書は、本人の判断能力が不十分となった場合に、財産の管理などを信頼できる人に任せる旨を定めた契約の公正証書です。

認知症などで判断能力が低下した際には、家庭裁判所に対して「法定後見」(=成年後見・保佐・補助)の開始を申し立てることができます。しかし、法定後見の場合、本人が後見人などを選べないのが難点です。

任意後見契約を締結すれば、本人があらかじめ任意後見人を選べます。また、任意後見人の代理権の範囲を自由に設定できるので、本人の意思に沿った形でサポートを受けることが可能です。

任意後見契約は、公正証書による締結が義務付けられています(任意後見契約に関する法律3条)。任意後見契約公正証書は、公証役場に申し込めば作成できます。

3つの種類(将来型、移行型、即効型)と違い

任意後見契約は、「将来型」「移行型」「即効型」の3種類に分類されます。

①将来型

本人が現在は健康であるものの、将来的に判断能力が低下した際に支援してもらいたい場合に締結します。本人の判断能力が低下しない限り、任意後見受任者に対する事務の委任は行いません。

②移行型

すでに体力的な衰えや病気などが生じており、判断能力が低下する前から支援を受けたい場合に締結します。判断能力が低下してはじめて発効する任意後見契約とは別に、それ以前から発効する委任契約も締結し、任意後見受任者に対して一定の事務を委任します。

③即効型

契約を締結する能力は残っているものの、すでに判断能力が低下していて、すぐにでも支援を受けたい場合に締結します。任意後見契約を締結した後、直ちに任意後見監督人の選任を申し立てることが予定されます。

任意後見契約公正証書を締結するケース

任意後見契約公正証書は、本人の判断能力の低下に備えて、本人の意思で信頼できる人に財産の管理などを任せたい場合に作成します。

特に企業においては、オーナー経営者が高齢に差し掛かった際に、判断能力が低下しても適切に資産管理などを実行可能にするため、任意後見契約公正証書を作成するケースが多いです。

任意後見契約公正証書のひな形

任意後見契約公正証書のひな形は、以下のページからダウンロードできます。任意後見契約公正証書の案文を作成する際の参考にしてください。

※ひな形の文例と本記事で紹介する文例は、異なる場合があります。

※実際の任意後見契約公正証書は、公証人が作成します。

任意後見契約公正証書に記載すべき内容

任意後見契約公正証書には、主に以下の事項を記載します。

①契約の目的

②契約の発効

③後見事務の範囲

④証書等の保管等

⑤費用の負担・報酬

⑥任意後見監督人に対する報告

契約の目的

(契約の目的)

第1条 甲および乙は、〇〇年〇月〇日、任意後見契約に関する法律に基づき、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における甲の生活、療養監護および財産の管理に関する事務を委任し、乙がこれを受任する旨の任意後見契約(以下「本契約」という。)を締結する。

任意後見契約の目的として、委任事務の概要や、当該事務を委託者が委任し、受託者が受任する旨などを記載します。なお、任意後見契約には「任意後見契約に関する法律」が適用される点にご留意ください。

契約の発効

(契約の発効)

第2条 本契約は、任意後見監督人が選任されたときから効力を生じる。

2 甲が精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況となったときは、乙は、家庭裁判所に任意後見監督人選任の請求をするものとする。

任意後見契約には、任意後見監督人が選任されたときからその効力を生ずる旨を定めることが必須とされています(任意後見契約に関する法律2条1号)。任意後見監督人とは、任意後見契約に基づいて選任された任意後見人の職務を監督する者です。

任意後見監督人が選任されるのは、「精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるとき」とされています(同法4条1項)。そのような状況になったら、任意後見受任者が家庭裁判所に対して、任意後見監督人選任の請求をすべき旨を定めましょう。

後見事務の範囲

(後見事務の範囲)

第3条 甲は、乙に対し、以下の後見事務(以下「本後見事務」という。)を委任し、その事務処理のために代理権を付与する。

(1) 不動産、動産その他すべての財産の保存、管理および処分に関する事項

(2) 金融機関とのすべての取引に関する事項

(3) 甲の生活費の送金および生活に必要な財産の取得、物品の購入その他の日常生活関連取引並びに定期的な収入の受領および費用の支払いに関する事項

任意後見契約では、後見事務の範囲を自由に定めることができます。上記の条文例では、財産に関する行為について幅広く任意後見人の代理権を認めていますが、代理権の範囲を狭く限定することも可能です。本人の意思に沿う形で、代理権の範囲を明確に定めましょう。

なお、実際に公証人が作成する任意後見契約公正証書においては、「任意後見契約に関する法律第三条の規定による証書の様式に関する省令」に定められた「附録第一号様式」または「附録第二号様式」によって、任意後見人が代理権を行うべき事務の範囲を特定して記載されます。

参考:附録第一号様式
参考:附録第二号様式

証書等の保管等

(証書等の保管等)

第5条 乙は、甲から任意後見に必要な証書等(以下「証書等」という)を受け取り、預り証を交付する。

2 乙は、他の者が占有所持している証書等の引渡しを受けることができる。

3 乙は、任意後見に必要な場合は、証書等を使用するほか、郵便物その他の通信を受領し、必要に応じて開封することができる。

任意後見の事務に必要な証書などについては、任意後見人が本人から交付を受けられる旨、および他人がその証書などを保有している場合は、任意後見人が引渡しを受けられる旨を定めましょう。

また、任意後見人に郵便物などの受領・開封を認めておけば、重要な連絡を見落としにくくなります。ただし、本人がプライバシー保護を重視する場合には、任意後見人による郵便物の開封を認めないことも考えられます。

費用の負担・報酬

(費用の負担)

第6条 任意後見に必要な費用は、甲の負担とする。

(報酬)

第7条 乙の任意後見報酬は、月額金〇万円とする。

任意後見に必要な費用の負担者と、任意後見報酬を定めます。費用の負担者は本人とするのが一般的です。

任意後見報酬は、本人と任意後見受任者の交渉によって決まります。親族が任意後見受任者になる場合は無償とすることもありますが、弁護士などの専門家に依頼して任意後見受任者になってもらう場合は、月額数万円程度の報酬を定めるのが一般的です。

なお、任意後見人に対して支払う報酬とは別に、任意後見監督人に対する報酬(月額1万円から3万円程度)も発生する点にご注意ください。

任意後見監督人に対する報告

(報告)

第8条 乙は、任意後見監督人に対し、〇ヵ月ごとに任意後見人として行った事項を報告する。

2 前項の事項について、任意後見監督人の請求があるときは、乙は任意後見監督人に対し、当該事項を速やかに報告しなければならない。

任意後見監督人はいつでも、任意後見人に対して事務の報告を求めることができます(任意後見契約に関する法律7条2項)。

任意後見監督人に不信感を持たれないように、数ヵ月に1回程度の定期報告を行うのがよいでしょう。そのうえで、任意後見監督人に請求があるときには、任意後見人は随時報告に応じるべき旨を定めましょう。

任意後見契約公正証書を作成する際の注意点

任意後見契約公正証書については、任意後見契約に関する法律におけるルールを踏まえて案文を作成する必要があります。特に、任意後見契約の発効には任意後見監督人の選任が必須とされている点などに注意しましょう。

任意後見契約公正証書を作成する際に必要となる書類は、以下の通りです。作成当日には、これらの書類を公証役場へ忘れずに持参しましょう。

<本人に関する書類>

①印鑑登録証明書+実印(または運転免許証・マイナンバーカードなどの顔写真付き公的身分証明書+認印または実印)

②戸籍謄本または抄本

③住民票

<任意後見受任者に関する書類>

①印鑑登録証明書+実印(または運転免許証・マイナンバーカードなどの顔写真付き公的身分証明書+認印または実印)

②住民票

任意後見契約公正証書は、高齢経営者の認知症対策に効果的

任意後見契約公正証書を作成すれば、将来的に判断能力が低下した際に備えて、本人の意思で信頼できる人に財産の管理を任せられます。

特に、多額の資産を有するオーナー経営者が高齢に差し掛かったときは、認知症対策として任意後見契約公正証書の作成をご検討ください。


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