- 更新日 : 2024年10月25日
契約書の期限管理とは?課題や効率化の方法を解説
会社の業務で契約書を利用する際に、最も大切なポイントの1つが期限管理です。契約書の期限管理が適切に行われていない場合、契約の更新漏れや保存期間の誤りなどが発生するおそれがあります。
そこで以下では、契約書の期限管理を効果的に行うためのポイントをわかりやすく解説していきます。
目次
契約書の期限管理とは
契約書を適切に管理するためには、確実に押さえておくべきポイントが3つあります。
1つ目は、契約書を一元管理することです。社内に散在する契約書を1カ所に集約した上で、必要な契約書を効率的に見つけられるように管理します。
2つ目のポイントは、契約書に対するアクセス制御を適切に行うことです。契約書には機密情報が含まれる場合もあります。したがって、役職・部署などに応じて必要な契約書に限定してアクセスできるような仕組みが必要となります。
3つ目のポイントが期限管理です。契約書には通常、有効期限の定めがあり、把握しておかなければ、期せずして契約が失効してしまうおそれがあります。また、契約書の保存期間を誤ると、法令に違反することになりかねないため、特に注意が必要です。
期限管理は企業経営に与える影響が大きいため、最も重要なポイントであるといえます。
すべての契約書の期限を把握することは難しい
契約書の期限管理が重要であるとわかっていても、すべての契約書の期限を把握するのは困難であると感じるかもしれません。
なぜなら、一定規模の企業であれば契約書の数も膨大であり、次々と増加していくものだからです。このような状況下で、すべての契約書を管理するのは人員的にも時間的にも難しいでしょう。
さらに、契約内容に変更があれば、内容の把握をすることがますます難しくなってくると考えられます。
契約書の期限は2つ
契約書の期限を管理するためには、どのような点に気をつけると良いのか解説します。
まず、契約書の期限には有効期限と保存期限の2つあることを知っておくことが大切です。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
有効期限
契約書に、契約の満了日や終了日の記載があれば、記載された日が契約の有効期限となります。契約上の有効期限が定められることによって、サービス期間、賃貸期間、利用許諾期間などが明確化されることになります。
このように契約の有効期限を確定させておくことで、契約上の義務がいつまで存在しているのかを明らかにすることができます。契約期間を区切ることで、取引を管理しやすくする効果も期待できます。
一方で、有効期限を見落としてしまうと、期限の満了と共に契約が終了してしまうことになるため、注意が必要です。
保存期限
契約書の保存期限については、法令で定められているものがあるため、注意が必要です。
例えば、会社法では、会社の「事業に関する重要な資料」を10年間保存することが義務付けられています(会社法第432条)。契約書は「事業に関する重要な資料」と考えるのが一般的であるため、契約書の保存期限は10年となります。
また、法人税法および施行規則では、税務関係の帳簿や契約書の保管期間が7年と定められています。契約書の保管は、税務調査での提出に備えるためにも必要です。
また、法律で義務付けられているわけではありませんが、契約書の効力が持続している限りは、法律上の保存期間を問わずに保管する必要があることを認識しておきましょう。例えば契約書の効力が永続的である場合、効力がある限りの管理が必要となるため、永久保管が望ましいと考えられます。
契約書の期限管理を行う重要性
契約書における有効期限と保存期限を管理することで、具体的にどのように役立つのでしょうか。管理を怠った場合のリスクについても考えながら、期限管理の重要性を説明します。
有効期限を管理する重要性
契約書の期限を適切に管理することで、取引を安全に行うことができます。
例えば、契約の有効期限を見落としてしまった場合、契約更新のタイミングを逃して契約終了となり、ビジネス上、大切な契約が締結されていない状態となるおそれがあります。
特に、取引先に直接影響するような契約であった場合には、自社の信用を失う結果となるかもしれません。
また、有効期限は契約継続の要否を判断する重要なタイミングでもあります。自社にとって必要ない契約であれば、更新せずに解約する決断をすることも必要でしょう。
保存期限を管理する重要性
通常、契約書は新しい契約の締結や契約変更などによって件数が増加していきます。保存期限を適切に管理していなければ、法令により保存期限が定められている契約書を廃棄・紛失してしまい、法令に違反してしまうおそれがあります。
また、法令上の保存期限を満たしていても、何らかの効力が持続している契約書を誤って廃棄してしまう可能性も考えられます。このような場合、契約内容を確認することができず、取引でトラブルが生じた際の解決策が不透明になるリスクを抱えることになります。
契約書の期限管理における課題
契約書の期限を管理する上ではいくつかの課題があります。ここでは、発生することが多い典型的な課題例について見ていきましょう。
期限の確認や更新作業が煩雑
契約書の期限を確認する作業は、契約書の数に比例して増加していきます。一般的に、会社の設立年数が長いほど、取引先の増加や契約内容の変更などによって契約書は増加していくのが一般的です。そのため、期限の管理に要するコストは無視できないものとなっていきます。
また、契約の更新期限を適切に管理することができていたとしても、実際に更新するためには相手方との交渉や社内承認を得るなど、さまざまなプロセスを経る必要があります。このような更新作業を含めると、契約書の管理は非常に煩雑であるといえます。
属人化しやすい
契約業務は法律に関する知識やノウハウをはじめ、業務や事業に関する情報など、さまざまな情報を用いて行われます。このような業務は厳密にルール化することが難しく、担当者の経験をもとに業務を行っていることも多くあります。
すると、特定の人に契約業務が属するようになり、その人だけが経緯や現状を把握している状態になってしまいがちです。その結果、その人が不在の場合は業務が止まってしまう状況になるおそれがあります。
ヒューマンエラーが発生しやすい
手作業で期限の管理を行う場合、契約書の数が少ないうちは担当者だけでフォローすることが可能でしょう。しかし、契約書の数が増えてくると、次第に管理が難しくなります。その結果として、契約書の期限の見落としなどのヒューマンエラーが起こりがちです。
また、契約書の管理に複数の部署が関わっている場合、部署間のやりとりを続けるうちに、どちらが担当する局面にあるのかわからない状況になることもあります。契約更新の作業が滞留しないよう、注意が必要です。
契約書の期限管理で抜け漏れが発生するとどうなる?
契約書の期限管理を怠ると、結果として契約更新の抜けや漏れが発生しかねません。不適切な期限管理をしていた場合、具体的にどのようなことが起こり得るでしょうか。
意図せず取引先との契約が終了してしまう
契約書の有効期限を適切に管理していない場合、継続していると思っていた契約が解除になってしまうおそれがあります。
特にその契約が自社にとって重要な契約である場合には、取引に影響が生じるおそれがあります。取引の停止により売上が減少することもあれば、最悪の場合、取引先に迷惑をかけた結果として損害賠償を請求されるなどの損失が生じるおそれもあります。
自動更新条項の記載があれば継続できる
自動更新条項は、継続的な契約を締結する場合に、再契約の手間を省くことによって契約の更新・管理にかかる負担をなくすための条項です。自動更新条項を設ければ、意図せず取引先との契約が終了してしまうような事態を避けることができます。
その一方で、惰性で契約が継続されてしまうことも考えられます。自動更新条項を設けるかどうかは、その契約を長期的に継続させる必要があるかを慎重に判断する必要があります。
契約書の期限管理を効率化する方法
会社が継続していくほど契約書の件数は増加していくため、期限管理は極力効率化していくことが求められます。
以下では、契約書の期限管理を効率化する方法について解説します。
エクセルによる契約書管理台帳での管理
契約書を効率的に管理する方法の1つが、エクセルによって契約管理台帳を作成して期限管理を行うものです。
主なメリットとデメリットは以下のとおりです。
メリット
- 契約書の名称などを一元管理することで、すべての契約書を網羅的に管理できる
- 契約書の有効期限や保存期限などの情報を一覧表示できる
- 主管となる部署を明確にすることで、契約書の責任の所在を明らかにできる
- 特別なシステムを導入する必要がないため、導入のハードルが低い
- フォーマットを自作することができるため、自社の管理状況に適した内容のものを制作できる
デメリット
- 管理台帳だけでは、契約書の基本的な情報しか記載できないため、契約書の全文までは確認できない
- 契約管理台帳自体は手作業での管理のため、担当者による更新時期の見落としや転記ミスといったヒューマンエラーが発生するリスクがある
- 電子データであるため、誤って削除してしまうおそれがあり、定期的なバックアップが必要
- 複数のユーザーが同時に入力・編集することができない
契約書管理システムの導入
エクセルによって契約書管理台帳を作成した場合、期限管理業務を部分的に効率化することが可能ですが、手作業による管理は依然として残ることになります。
そこで、契約書管理システムを導入することによって、さらなる効率化を図ることが可能です。
メリット
- 契約書の名称や種類だけでなく、補足情報や説明資料も保管できるため、より多くの情報を確認できる
- 契約書の期限が近くなると、担当者に通知してくれる機能がある
- ユーザーに応じて、権限をコントロールすることができる
- エクセルよりも、さまざまな検索機能が充実していて使いやすい
- AIによって契約書の台帳化・期限通知をサポートしてくれるものもある
デメリット
- システムの導入にあたって、マスターの設定などの手間がかかる
- 月額使用料などの金額的なコストがかかる
- 契約書は重要書類であるため、クラウドサービスを利用する場合は、セキュリティ対策が充実しているサービスを選ぶ必要がある
- システムに合わせて、現在の業務フローを変更する必要がある
- システムの管理項目が多すぎると、逆に業務が煩雑になる
契約書が多くなってきたらシステムを利用しよう
契約書を適切に管理することで、契約書の更新漏れや保存期間の誤りなどのリスクを回避することができます。
契約書の数や更新頻度が多い場合には、システムによって管理することが適切です。契約書の管理システムには、豊富な種類があり、システムによって特徴が異なるため、自社のニーズに合ったものを選択すると良いでしょう。
システムを導入するか迷っている場合には、自社にどれくらいの数の契約書があるのか、そして、更新の頻度がどれくらいなのかを把握することから始めてみることをおすすめします。
システムを上手に利用して、肥大化しがちな契約書を効率的に管理しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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