• 作成日 : 2025年3月3日

第三者委員会とは?設置するメリットや立ち上げ方、報告書、ガイドラインなどを解説

第三者委員会とは、企業や組織などで何らかの不祥事やコンプライアンス違反などが疑われる場合に、利害関係をもたない第三者が調査をするために立ち上げられる委員会のことです。

第三者委員会は、法律によって設置が求められているものではありませんが、一般的には日弁連(日本弁護士連合会)の制定するガイドラインに従って設置、運用されています。

この記事では、ニュースなどでも取り上げられる第三者委員会とは何なのか、設置するメリットやガイドラインなどについて解説します。

目次

第三者委員会とは

第三者委員会とは、企業などの組織で不祥事の発覚や何らかの不正が疑われる際などに、原因の究明や再発防止を目的として立ち上げられる委員会のことです。大手企業の不祥事などが報じられた際にはよく耳にする言葉ですが、必ずしも企業のみとは限りません。学校や官公庁などでも同じ事案が発生した際には、第三者委員会が立ち上げられることがあります。

第三者委員会は名前の通り、企業などと利害関係をもたない第三者的な立場の委員会で、外部の弁護士やコンサルタントなどの有識者で組織されます。

第三者委員会は、法律によって設置が求められているものではありませんが、一般的には日弁連(日本弁護士連合会)の制定するガイドラインに従って設置、運用されています。

第三者委員会が注目される背景

第三者委員会は日本特有の制度で、その始まりは1997年に大手金融機関が破綻した際に社内調査委員会が立ち上げられ、その中に外部の弁護士が加わったことが始まりとされています。

その後、2010年に日本弁護士連合会(日弁連)が「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」を設けたことなどから広く知れ渡るようになりました。これまでに企業をはじめ、官公署や学校、団体などで不祥事や法令違反、いじめやハラスメントが疑われる場合に設置されてきました。

第三者委員会と内部調査委員会の違い

企業内でトラブルや不祥事が発生した場合には内部調査委員会という委員会が設置されることがあります。

内部調査委員会は、社内で独自に調査を行う委員会で、自社の監査部門や経営陣のほか弁護士などを加えて組織する委員会です。一方で第三者委員会は名前の通り、企業や組織と利害関係をもたない外部の専門家などにより構成される委員会のことです。

どちらも不祥事などの調査をするという点では共通ですが、自社で独自に行うのか、利害関係をもたない第三者で組織するのかが大きな違いです。

第三者委員会の設置が必要となるケース

第三者委員会は、企業や組織で何らかの問題が発生した時に設置されます。具体的には次のような場面が例として挙げられます。

不祥事やコンプライアンス違反が発覚した場合

第三者委員会が設置される最も主だったケースは、不祥事やコンプライアンス違反が発覚した場合です。

組織や企業が大きく社会的信用を失うような事態が発覚した場合は、第三者委員会が立ち上げられることがあります。実際の事例としては、中古車販売の大手企業による保険金の不正請求や自動車メーカーが行う検査の不正行為などが挙げられます。

いずれの場合も消費者や顧客から大きく信頼を失う行為であり、不正の実態把握や再発防止策の策定のためなどに、第三者委員会が設置されます。

不正会計や粉飾決算が疑われる場合

企業内の会計処理に不正が疑われる場合や、利益の水増しなどの決算処理、いわゆる粉飾決算が疑われた場合も、第三者委員会が設置されることがあります。

粉飾決算とは、本来であれば赤字決算であるにもかかわらず利益を出しているように見せかけることです。粉飾決算は、取引先や金融機関に対しての信用を大きく失う行為であり、刑事罰や行政処分の対象となることもあります。

このように、不正会計や粉飾決算の疑いがある場合は第三者委員会が設置されることも珍しくありません。

社内トラブルやハラスメント問題が発生した場合

社内でハラスメント問題やその他のトラブルが発生した際にも、第三者委員会が設置されることがあります。

ハラスメントの代表例は、セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントでしょう。これらハラスメントは、企業だけではなく官公署や学校、プロスポーツ選手と指導者の間などでも発生しており、問題が発覚して第三者委員会が設置された事例があります。

ハラスメントの問題が発生した時は、被害者側は精神的にも大きな負担や苦痛を強いられます。また、加害者本人や、加害者が所属する企業も社会的責任を問われ、企業イメージの低下につながることが考えられます。

このような場面で第三者委員会を設置し、原因究明や再発防止策を講じることは、企業の失われた信頼回復に向けて非常に重要です。

学校でいじめが発生した場合

学校でいじめ問題が発生した場合も、第三者委員会が設置されることがあります。

近年はSNSやインターネット上でのいじめの割合が増加傾向にあります。学校でのいじめは、子どもに大きな精神的苦痛を与え、自殺や不登校にもつながることなどから、文部科学省は「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」を定めています。

「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」によると、学校でのいじめが発生した場合には必要な調査を行う必要があるとされています。その際、学校や地方自治体による調査のほか、必要に応じて第三者委員会の設置を判断し、調査を行う場合は、被害者児童や保護者に説明や配慮をするようにとされています。

個人情報の流出があった場合

官公署や企業で個人情報の流出が発生し、第三者委員会が設置された事例もあります。

2022年に、ある企業が自社で運営する決済システムへの不正アクセスにより、個人情報の流出が発生しました。約288万件の顧客のクレジットカード情報などが流出し、第三者委員会が設置されました。

顧客の氏名や住所、クレジットカード情報などの個人情報は、個人情報保護法により適切な管理が求められています。しかし、サイバー攻撃などの不正アクセスにより個人情報が流出した場合は、原因究明や再発防止策が求められ、第三者委員会が設置されることがあります。

第三者委員会を設置するメリット

不祥事やハラスメントなどの問題発生で対策が求められた際、第三者委員会を設置することで次のようなメリットが得られます。

調査の公正性と透明性が担保される

第三者委員会は、企業と利害関係にない外部のメンバーで構成されます。これにより調査の公正性と透明性が担保され、不祥事に至った経緯や、コンプライアンス違反が発生した原因の解明などが期待できます。

社内で調査を行う内部調査委員会と違い、外部の第三者による調査を行うことにより、客観的な調査が行われ信ぴょう性も高まります。特に企業の経営陣やトップが不祥事に関与していることが疑われる場合は、社内の調査ではなく公正性や透明性の観点から、第三者委員会が設置されることもあります。

社会的信用の回復につながる

第三者委員会の設置は、企業や組織の信頼回復につながります。

第三者委員会による調査結果は日弁連のガイドラインにて「開示が必要」とされており、結果を公表することで不祥事やハラスメントなどが起こった経緯や原因が明らかになります。

これにより、企業や組織は問題に対し適切に対処していることを一般に認識され、不祥事やハラスメントなどの問題で失った信頼を回復する手助けになります。

再発防止策の提言を受けられる

第三者委員会のメンバーには、外部の弁護士や企業法務について詳しいコンサルタントが含まれるため、再発防止策についての提言を受けられます。同じような事案が発生した場合の対策として具体的な提言を得られる点は、第三者委員会の大きなメリットです。

また、報告書に記載された再発防止策が専門家によるものであれば、報告書の内容も信頼できるものとなります。

第三者委員会を設置するデメリット

調査の公正性や透明性などのメリットがある第三者委員会ですが、一方で設置するとなるとデメリットとなる面もあります。

調査費用がかかる

第三者委員会の設置は、調査に対する費用がかかります。企業の規模や調査する内容、範囲にもよりますが、大きな規模の調査になると費用が数億円単位になることもあります。

費用の内訳は、外部の弁護士や専門家に支払う報酬、提出された資料の分析などにかかる事務費や通信費、委員会を開催するための会議室の利用料などがあり、これらは公費の助成などがないため、すべて調査を行う企業側が負担することとなります。

調査期間が長期化する可能性がある

第三者委員会の調査は平均的に2〜3カ月程度とされていますが、調査内容によっては6カ月ほどかかる場合もあります。

外部の専門家による公正性・信頼性の担保された調査である一方で、長期にわたる調査となれば、その分調査費用もかかります。

社内で独自に調査を行えば比較的短期間で調査が終了するという点を考えると、第三者委員会設置のコストはややデメリットといえるでしょう。

企業の経営陣などの協力が必要となる

第三者委員会の設置主体はあくまで企業側です。また、委員の中には内部の人間は含まれないため、企業の経営陣などが調査に協力することが不可欠です。

日弁連(日本弁護士連合会)のガイドラインでも企業側が積極的に調査に協力することが重要とされています。

経営陣の協力が十分でないと適切な調査が行えず、費用をかけて調査をしても「調査結果が徹底されていない」「再発防止策が十分でない」などの事態が起こり得ます。

これらの点から考えると、第三者委員会の設置や調査にあたり経営陣の協力が得られるかは重要なポイントとなりますが、経営陣の中に消極的な考えの人がいると、実施が難航する恐れがあります。

第三者委員会の立ち上げ方

第三者委委員会の立ち上げにはいくつかの手順があります。一般的には、委員会メンバーの選定から実際の調査、そして最終的な調査報告書の作成や公表といった流れで行われます。

以下、詳しい流れを解説します。

第三者委員会設置の必要性を判断する

自社において重大な問題が発生した際、まずは第三者委員会設置の必要性を判断します。問題が表面化していない場合や、企業の信頼を大きく失うような事態でない時は、社内の調査で原因の究明や再発防止策が十分取れることもあります。

一方で、不正会計や、企業ぐるみで行われた不祥事、企業経営陣などが不正に関与したことが疑われる場合などは、企業としての信頼を大きく失墜させる事態です。このような場合は、状況に応じて第三者委員会の設置を検討する必要があるでしょう。

第三者委員会設置のメンバーを選定する

第三者委員会の設置が決定した場合、次のステップとしてメンバーを選定する必要があります。

一般的には、外部の弁護士やコンサルタントなどの専門家のほか、外部の経営者などがメンバーに加わります。

ただし、弁護士やコンサルタントを標榜する有識者であっても、すべての分野に特化しているとは限りません。調査内容について十分な知識と見識をもつ人物の中から選定することが望ましいでしょう。

第三者委員会設置の調査体制を整える

第三者委員会による調査は、従業員に対するアンケート調査や資料の提出を求めるなどさまざまな方法があります。

実際に調査を実施するにあたっては、どのように調査を行うのか、どのような資料の提出を求めるのかなど、調査方法を明確にする必要があります。

調査方法の例としては、社内文書や不正会計が疑われる書類の提出、PCやスマートフォンなどの記録の解析、従業員へのヒアリングやアンケート調査などがあります。

特にヒアリングやアンケートを実施する場合は、アンケートの対象者や、記名式か無記名式かなど、実施方法を具体的に決める必要があります。

また、アンケートやヒアリングに対して回答をした従業員に対して、プライバシーの保護や不利益な取り扱いをしないことなどの配慮も重要です。

実際の調査・ヒアリングを開始する

第三者委員会のメンバーの選定や調査体制が確立すれば、その後は実際の調査やヒアリングを行います。調査にはおおむね2〜3カ月程度を要することが一般的ですが、調査内容によっては当初設定していた期間を延長して、さらに詳細な調査が必要なことがあります。

また、当初の予定通り調査が進まないという事態も起こり得ます。

このような場合は、第三者委員会から、調査期間を延長する必要があるとの報告や申出を受け、調査期間の延長を決定することになります。

調査報告書を作成・公表する

すべての調査が終了すると、調査報告書を作成し内容を公表します。

なお、報告書の公表前に内容を企業側に開示しないことが日弁連(日本弁護士連合会)のガイドラインにより求められています。

また、調査内容については企業にとって不利となる事項であっても、調査報告書に記載されます。

第三者委員会により提出された報告書は、日弁連のガイドラインにより企業側が遅滞なく、取引先などの利害関係者(ステークホルダー)に開示することが求められています。報告書の公表後、企業は第三者委員会からの提言をもとに具体的な再発防止策などを講じることにより、信頼回復へつなげていくことが望ましいでしょう。

第三者委員会のメンバーを選ぶポイント

第三者委員会のメンバーは3人以上とされています。さまざまな分野の専門家などから選定されますが、メンバーの選定にはいくつかポイントがあります。

企業との利害関係がないか

調査対象となる企業の利害関係者は第三者委員会のメンバーとなることはできません。あくまで外部の人物による調査が目的なので、社内の人間はもちろん、顧問弁護士や顧問税理士などの企業と密接な関係をもつ人物は委員会メンバーにはふさわしくありません。

調査の公正性や透明性の確保の観点からも、メンバーは企業や組織と利害関係のない人から選定することが重要です。

調査対象への専門的知識があるか

調査対象となる事項について十分な専門的知識や見識をもつ人物であることも、メンバー選定において重要なポイントです。

例として、不正会計や粉飾決算に関する調査であれば、税理士や公認会計士などをメンバーに加えることが望ましいといえます。

選定したメンバーに専門的な知識や見識がないと、十分な調査結果が得られないこともあるため、調査事項に精通したメンバーを選定することが重要です。

社会的信用があるか

第三者委員会のメンバーには、社会的信用がある人物を選定するのが望ましいです。

有識者や専門家といっても、選定したメンバーが不祥事やトラブルなどで社会的責任を追及されているような場合は適切とはいえません。

調査の公正性の観点からも、委員会のメンバーには社会一般から見て信頼のおける人物を選ぶようにしましょう。

第三者委員会報告書格付け委員会とは

第三者委員会報告書格付け委員会とは、第三者委員会からの調査報告書をA~Dまでのランクに格付けし、調査に対する信用を高めることを目的として2014年4月に設置された委員会です。

委員会は弁護士などの有識者9名で構成され、格付け結果は公式ホームページで公表されています。

「第三者とは名ばかり」で、経営者の依頼を受けても、第三者委員会としての責任を回避・隠蔽するものが散見されるようになっている背景がありました。公益に資する「第三者委員会報告書」を公開するために、調査の公正性・信頼性の確保を目的として、第三者委員会報告書格付け委員会は設立されました。

第三者委員会設置するときの注意点

第三者委員会を設置するには、注意すべき点がいくつかあります。具体的な注意点として、以下のようなものがあります。

調査目的を明確にする

第三者委員会の調査にあたり、調査の目的を明確にすることは非常に重要です。

一般的には、企業や組織の不祥事やコンプライアンス違反、ハラスメント行為などの問題の全容解明や再発防止策を策定することが目的です。

調査目的を明確にすることで、円滑な調査や具体的な再発防止策についての提言につながり、企業の信頼回復にも役立ちます。

調査報告書に基づく対応を徹底する

第三者委員会による調査報告書が提出された後、適切な対応を行うことも重要です。

調査報告書には、事態に至った経緯や原因のほか、再発防止に向けた提言が示されます。

同じような事態を繰り返さないためにも、企業側はこの提言をもとに具体的な対策を講じる必要があります。

日本弁護士連合会の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」を参照する

日弁連(日本弁護士連合会)は第三者委員会の設置について「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」を定めています。ガイドラインには、委員会の活動内容や指針、具体的な調査方法などが定められていて、これらに沿った運営をすることが重要です。

具体的なガイドラインは下記の通りで、これらを参照して委員会を運営するようにしましょう

参考:「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」の策定にあたって|日本弁護士連合会

第三者委員会の設置・運営は適切な方法で行うことが重要

企業や組織で不祥事などの問題が発生した場合は、第三者委員会の設置が必要と判断されることがあります。実際の設置や運営には、メンバーの選定や調査方法などで、公正性・信頼性を担保するためにいくつか注意する点があります。また、調査報告書に基づいた再発防止策などの取り組みを行うことも重要です。

企業の信頼回復のためにも、問題が起きた際には第三者委員会の設置を選択肢の1つとして検討し、適切な対応を行いましょう。


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