• 作成日 : 2024年11月26日

取引基本契約書はどちらが作成する?構成案やチェックポイントも解説

企業間取引における取引基本契約書は、一般的に売主側が原案を作成しますが、互いの立場や関係性に応じて慎重に判断すべきです。この記事では、売買契約書との違いや基本的な構成要素、作成する際のチェックポイントを詳しく解説していきます。また、印紙税の対応方法や契約におけるリスク管理の重要性も取り上げ、実務で役立つ情報を紹介します。

取引基本契約書とは

取引基本契約書とは、企業同士が継続的に取引を行う上での基本的な条件を一括して定めた契約書です。取引ごとに詳細な条件を確認する必要がなくなるため、長期にわたるビジネス関係を効率的に進める上で重要な役割を担っています。

取引基本契約を締結することで、支払条件や品質基準、秘密保持、リスク分担といった基本的な条件が事前に合意されるため、スムーズでリスクを抑えた取引が実現します。特に、長期的な取引関係を築きたい場合、個別の契約を結ぶよりも取引基本契約書を活用するほうが効果的です。両者の合意事項を明確にすることで、予期せぬトラブルを防ぎ、持続可能なパートナーシップが構築できます。

なお、基本契約書の概要や書き方、個別契約書との違いについては、以下の記事をご参照ください。

売買契約書・業務委託契約書との違い

取引基本契約書は、単発の売買契約書や業務委託契約書と異なり、長期的な取引関係における基本的な条件を包括的に定めるものであり、各取引の具体的な条件を都度確認する必要がありません。

また売買契約書・業務委託契約書との比較は、以下の通りです。

契約書種類対象期間範囲
取引基本契約書長期的な取引関係継続的包括的
売買契約書特定の商品・サービス単発個別具体的
業務委託契約書特定の業務限定的個別業務

このように、取引基本契約書は企業間の長期的な信頼関係を基盤に、効率的で安定した取引を実現するための契約書で、単発での売買契約書や業務委託契約書とは異なる独自の役割を持っています。

取引基本契約書は買主と売主のどちらが作成する?

取引基本契約書をどちらが作成するかに決まったルールはありませんが、できる限り自社(買い手)が主導して作成することが望ましいとされています。自社で契約書を作成することで、取引条件を管理し、リスク軽減や業務効率の面で多くのメリットを得やすくなるためです。

自社で契約書を作成するべき理由

契約書を自社で作成したほうがよい理由は、以下の3点です。

  • 取引条件を最適化できる
  • 交渉での主導権を確保できる
  • 業務効率が向上する

1.取引条件を最適化できる

自社の視点で納期、品質基準、支払条件を定義できるため、納品遅延や品質リスクを事前に抑え、条件を統一して管理しやすくなります。

2.交渉での主導権を確保できる

自社に有利な条件(価格、支払スケジュール、違約金など)を設定し、取引先の行動を契約内容に沿って管理できます。損失リスクを軽減し、より良い条件で取引を進めやすくなります。

3.業務効率が向上する

複数の取引先と同じ条件で契約することで、確認作業の手間が減り、契約管理の効率が向上します。

代理店契約では売り手が契約書を作成する場合もある

代理店契約や継続的な販売契約では、売り手(メーカー側)が契約書を用意することが多いです。これは、メーカーが取引条件を標準化し、代理店の活動を一貫した基準で管理しやすくするためです。

ここまで説明してきたように、取引基本契約書は、できる限り自社が主導して作成し、内容を慎重に確認するべきです。メーカーが契約書を作成する場合でも、自社の利益とリスクを守るために内容を精査し、必要であれば交渉することを心がけましょう。

取引基本契約書の一般的な構成・条項

取引基本契約書は、個別取引の基本的な枠組みを定めるもので、企業間での取引条件や役割分担を明確にし、リスク管理が主な目的です。

この契約書は、契約の有効性を保つための「基本構成」、契約の枠組みを形成する「基本的な一般条項」、および取引条件を具体化する「主要な取引条項」を中心に構成されます。

以下で、それぞれの内容を確認しておきましょう。

基本構成

基本構成とは、契約書として法的に有効であるために必要不可欠な内容です。主な内容は以下のようなものが挙げられます。

条項主な内容
目的契約の基本的な目的と取引の基本方針
定義契約で使用する用語の定義
適用範囲契約が適用される取引の範囲
契約の変更合意による契約内容の変更手続きと条件

基本的な一般条項

基本的な一般項目とは、契約全体の目的や定義、適用範囲など、契約の枠組みや基盤を形成する条項などです。

条項主な内容
目的契約の基本的な目的と取引の基本方針
定義契約で使用する用語の定義
適用範囲契約が適用される取引の範囲
契約の変更合意による契約内容の変更手続きと条件

主要な取引条項

納品や支払い、品質基準など、実際の取引条件や手続きを定める条項です。

条項主な内容
個別契約の成立注文書・請書による個別取引の手続き
納品納品方法、期日、場所の詳細
受入検査納品後の検査方法と基準
代金の支払支払条件、方法、期日
所有権の移転商品の所有権移転のタイミング
危険負担所有権移転時点に合わせた商品損傷リスクの分担
品質管理製品の品質基準と管理方法
契約不適合責任商品の不適合に対する責任と対応

その他の重要条項

ここまでに紹介した以外にも、以下のような重要条項もあります。契約書の種類によって、適宜追加しましょう。

  • 秘密保持:取引に関する機密情報の保護
  • 知的財産権:知的財産の権利と使用条件
  • 再委託:業務再委託の条件
  • 契約解除:契約終了の条件と手続き
  • 損害賠償:損害発生時の賠償条件
  • 反社会的勢力の排除:取引相手の適格性
  • 合意管轄:紛争時の管轄裁判所

個別契約との関係

取引基本契約書は、個別の注文書や請書と密接に関連します。

  • 基本契約書:基本的な取引条件を規定
  • 注文書・請書:具体的な取引の詳細を定める

これらの条項は、取引リスクの管理と紛争予防の観点から慎重に検討し、必要に応じて専門家に相談してください。

取引基本契約書を作成する際のチェックポイント

取引基本契約書を作成・レビューする際には、契約内容の適切さやリスク管理の観点から、いくつかの重要なチェックポイントを確認します。特に、個別契約との関係性や実務上の運用を考慮した確認が重要です。以下が、主なチェック項目と注意点です。

契約の目的・適用範囲の明確化

契約の目的が「継続的な取引関係の構築」である場合、適用範囲を「全製品」や「特定の製品・サービス」のように明確に定義することで、取引対象の範囲について誤解を防ぎます。また、基本契約と個別契約がある場合は、両者の優先順位も記載することで、内容が重複する際の取り扱いが明確になります。

例:「本契約は、甲が乙に対して継続的に製品Aを供給することを目的とし、個別の取引条件は別途個別契約で定める」

取引条件の具体的な規定

取引がスムーズに行われるように、価格、支払条件、納品方法などを具体的に設定します。

1. 価格に関する規定

  • 価格の決定方法と変更条件(例:一定条件での価格改定が可能か)
  • 値上げ・値下げに関する協議ルール

2. 支払条件

  • 支払期日と支払方法(例:「納品後30営業日以内に振込」)
  • 遅延利息や手数料負担の明記

3. 納品条件

  • 納期や納品場所の設定方法
  • 遅延時のペナルティや追加費用の負担

これらの項目を明確に記載することで、取引条件が一貫し、誤解やトラブルを防止できます。

品質基準と契約不適合責任の明確化

製品やサービスの品質基準を具体的に定め、納品後の検査方法と契約不適合が発生した場合の責任範囲や対応手順を明記します。品質基準は数値などで示し、検査期間や基準に達しない場合の対応方法も記載することで、品質問題に備えてください。

また、契約不適合に関しては以下を明確にします。

  • 責任範囲:修補や代替品提供の条件
  • 損害賠償:範囲と上限
  • 免責事由:不適合に対する免責条件
  • 対応手順:不適合発見時の通知方法や解決までの時間的制限

これらによって、品質不適合時の対応がスムーズになり、トラブルのリスクが軽減されます。

リスク分担と責任範囲

契約におけるリスク分担と責任範囲を具体的に定義し、予測できるトラブルや損害に備えます。主な項目は以下の通りです。

  • 製品の瑕疵に関する責任:不具合時の対応や修理の分担
  • 損害賠償:直接損害と間接損害の区分、賠償額の上限設定、免責事由の明確化
  • 不可抗力:具体的な事由(自然災害や戦争など)の列挙、発生時の通知義務、契約の継続や解除に関する基準

これらの項目を明確にすることで、予期せぬ事態が生じた際でもリスクが適切に分担され、取引がスムーズに行われます。

知的財産権と秘密保持

情報管理や知的財産権の取り扱いは、リスク管理の観点から慎重に規定する必要があります。以下の要点を明確にすることで、情報漏洩や権利の不明確さによるトラブルを防ぎます。

  • 秘密情報の管理:対象となる情報の具体的な定義、保持期間、漏洩時の対応手順
  • 知的財産権の帰属:既存の権利の確認、共同開発物の成果の帰属、使用許諾の範囲

これらを規定することで、情報管理や知的財産に関するリスクが適切に管理され、双方の権利と責任が明確になります。

契約の変更・解除

契約の変更や解除に関する条件と手続きを明確に定め、双方の責任範囲を把握しやすくします。

  • 契約変更:変更手続きの方法、書面による合意の必要性、変更が個別契約に与える影響
  • 契約解除:解除事由の具体的な定義、通知方法や手続き、解除後の処理(損害賠償や引き継ぎ条件など)

これらによって、契約内容の見直しや解除が必要になった際にも対応がスムーズかつ透明性のあるものとなります。

このようなチェックポイントを押さえることで、取引基本契約書を通じたリスク管理が徹底され、トラブル予防に効果的です。

契約書を作成する際には、業界の特性や取引内容に応じて法的・実務的な視点から内容を精査し、以下の点に注意することが重要です。

  • 個別契約との関係性の明確化
  • 具体的な数値や基準の設定
  • 実務上の運用手順の明確化

また、定期的な見直しと更新を行うことで、リスク管理の効果が高まり、契約の実効性が保たれます。ただし、複雑な契約や重要な取引では、専門家への相談をおすすめします。

取引基本契約書のテンプレート

取引基本契約書を作成する際には、テンプレートを活用することで、基本的な構成や必要な条項を網羅できます。契約内容に合わせて必要な項目を追加・削除し、効率的に作成を進めましょう。

以下で弁護士が監修した取引基本契約書のテンプレートをダウンロードできます。ぜひ、ご活用ください。

取引基本契約書に印紙は添付する?

取引基本契約書は、原則として印紙税法における「7号文書」に該当し、印紙の貼付が必要です。7号文書に該当する契約書には、契約金額に応じて印紙税がかかりますが、契約書の作成方法や契約期間の工夫によって、合法的に印紙税を節約することも可能です。

7号文書に該当する要件

7号文書とは、売買、売買の委託、運送、運送取扱い、請負に関する契約書で、以下の条件をすべて満たすものを指します。

1. 基本的な要件

  • 営業者間での契約であること
  • 契約期間が3ヶ月を超えること
  • 2以上の取引を継続して行うための契約であること

2. 取引条件の規定(以下のいずれかの事項を定めていること)

  • 目的物の種類
  • 取扱数量
  • 単価
  • 対価の支払方法
  • 債務不履行の損害賠償方法
  • 再販売価格

これらの要件をすべて満たす契約書は、7号文書として印紙税の対象です。

参照:
令第26条第1号に該当する文書の要件|国税庁
印紙税法施行令|e-Gov 法令検索
第7号文書と他の号に該当する文書の所属の決定|国税庁

印紙税を節約する方法

印紙税を合法的に節約するためには、以下のような方法があります。

1. 契約書のデジタル化

  • 電子契約システムを活用し、契約書をPDF形式で作成し、電子署名を利用する場合、印紙税は不要
  • 例:クラウドサインなどの電子契約サービスを使った契約で締結

2. 契約期間の工夫

  • 契約期間を短く設定し、短期間で契約を更新することで、印紙税がかからない場合もある。
  • 例:年間契約ではなく四半期ごとに契約を更新

3. 契約書の作成方法の見直し

  • 基本契約書には金額を記載せずに、個別の注文書に具体的な金額を記載する
  • 例:製品供給に関する基本契約書を金額未記載で作成し、実際の注文ごとに金額を記載した注文書を発行

これらの方法を採用する際には、個々の取引実態を十分に考慮した上で行う必要があります。トラブルを未然に防ぐため、税理士や弁護士などの専門家に事前に確認することをお勧めします。

取引基本契約書で安心・円滑な取引を実現するためのポイント

取引基本契約書は、企業間の継続的な取引を安心かつ円滑に進めるための基盤となる重要な契約書です。取引基本契約書の重要な要素として、基本的な契約構成に加え、印紙税の取り扱い、リスク分担の方法、秘密保持義務などが含まれます。これらの内容を適切に作成・レビューすることが、円滑な取引関係の構築には欠かせません。

また、契約書を作成する際には、以下の点に注意してください。

  • 業界特性を考慮した条項の設定
  • 取引内容に即した具体的な規定
  • リスク分担の明確化
  • 秘密保持条項の適切な設定

これらのチェックポイントを押さえることで、将来的なトラブルの予防や取引リスクの軽減が期待できます。

取引基本契約書は企業活動の要となる重要書類です。この記事で解説したポイントを参考に、自社の取引基本契約書作成の実務にご活用ください。


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