• 作成日 : 2025年1月17日

電子契約と紙の契約の違いは?メリット・デメリットや電子帳簿保存法対応も解説

紙の書類で行う契約と電子契約とは、形式が異なります。紙の契約は書面で締結するのに対し、電子契約は電子データを使用し、オンライン上で完結させる仕組みです。さらに、法的効力や送付・保管方法など、さまざまな違いがあります。

本記事では、紙の契約と電子契約の違いや、電子化するメリット・デメリット、電子化のやり方などを解説します。

電子契約と紙の契約の違い

電子契約と紙の契約書は契約を締結するという目的は同じですが、次のような違いがあります。

電子契約紙の契約
形式電子データ
押印・署名電子署名印鑑
本人性の確保電子証明書印鑑証明書
改ざん防止方法タイムスタンプ契印・割印
送付方法インターネット郵送、手渡し
保管方法サーバー倉庫・棚など
収入印紙不要必要

電子契約とは、インターネット上で締結する契約のことです。紙の契約は紙の書類に印鑑を押して契約を締結するのに対し、電子契約は電子データの契約書に電子署名を行って契約を締結するという点が異なります。電子契約は、条件を満たせば紙の契約と同じ証拠力を有します。

電子契約はインターネット上で締結できるため、紙の契約と比較して締結期間を短縮でき、作業の手間も省ける点がメリットです。

電子契約の法的効力

電子契約が法的効力を有するための条件は、電子署名法に定められています。電子契約書に付与した電子署名について誰が作成したかわかり(本人性)、改変されていないことを確認できる場合に法的効力が認められ、紙の契約と同じ文書として扱われます。

ここでは、電子契約に法的効力を与える仕組みについて解説します。

電子署名とは

電子署名とは、紙の契約における署名・捺印に相当するものです。電子契約に電子署名を行うことで、電子文書を作成したとされる名義人が、本人の意思で作成したものであるという「本人性」とともに、改ざんされていないことが証明されます。

さらに、電子署名の「本人性」を担保するため、認証局と呼ばれる第三者機関が発行する電子証明書が必要です。電子署名と電子証明書は、紙の契約における印鑑と印鑑証明書に相当します。電子証明書には所有者を証明する情報などが記録され、電子署名に添付することで、本人のなりすましやデータの改ざんを防止できます。

タイムスタンプとは

タイムスタンプとは、電子データが特定の時刻に存在していたこと、およびそれ以降改ざんされていないことを証明する技術です。

電子契約の法的効力を確保するためには、「誰が」「いつ」「なにを」作成・契約したかの証明が必要です。このうち、電子署名では「誰が」と「なにを」を証明し、タイムスタンプでは「いつ」「なにを」を証明します。これらの組み合わせにより、電子契約の法的効力が証明されるという仕組みです。

紙の契約を電子化するメリット

紙の契約を電子契約に変えることで、コスト削減や業務の効率化などさまざまなメリットがあります。

ここでは、紙の契約を電子化するメリットを紹介します。

収入印紙が不要になる

電子契約では、紙の契約では必要な収入印紙が不要というメリットがあります。収入印紙とは、印紙税を納めるための証票です。印紙税法における課税文書に該当する契約書を作成する場合、契約書の記載の金額に応じて課される印紙税額の収入印紙を添付しなければなりません。

印紙税法における課税文書は、紙の契約における契約書のみです。課税文書に該当する場合には収入印紙による印紙税の納税義務が発生します。しかし、電子契約は課税文書の作成にあたらないため、印紙税がかかりません。

参考:国税庁 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで

郵送費などのコストを削減できる

電子契約は紙の契約に比べ、コストを削減できるのもメリットです。紙の契約では印刷代や郵送費が必要ですが、インターネット上で完結する電子契約ではそれらのコストがかかりません。

ただし、電子契約書の作成・保管にシステムを利用する場合、利用料が発生する点に注意が必要です。料金は利用するシステムにより異なりますが、一般的に年間利用料と契約ごとの料金がかかります。

契約件数が少ない場合には割高になる可能性がありますが、契約書の締結が多く、納めている印紙税も高額である場合は、電子契約にするコスト削減のメリットは大きくなるでしょう。

契約締結までの時間を短縮できる

電子契約は、契約までの時間を短縮し、業務を効率化できます。紙の契約では契約書を作成したあと印刷、製本して押印、発送という一連の作業があります。契約書を受け取った相手方は、内容を確認したあと押印して送り返すという作業が必要です。

電子契約であれば、インターネット上ですべての手続きが完結し、このような手間や時間はかかりません。契約締結の頻度が高い企業にとっては、大幅な業務効率化ができるでしょう。

契約書を効率的に管理できる

電子契約は、契約書の保管を効率化できるのもメリットです。紙で作成した契約書は保管のためにファイリングなどが必要になり、保管スペースも確保しなければなりません。一方、電子契約は電子データとして保存されるため、手間なく保管・管理できます。

また、紙の場合は過去の契約書を参照したい場合、多くの書類の中から探し出す必要がありますが、電子契約は保存しているデータの中から簡単に検索できるのもメリットです。

コンプライアンスを強化できる

電子契約は、コンプライアンスの強化にも役立ちます。紙の契約の場合、偽造や改ざんといったリスクが伴いますが、電子契約は電子署名とタイムスタンプでリスクの回避が可能です。

また、IPアドレスによるアクセス制限や承認権限の付与もでき、実際に契約を締結した日よりも過去の日付を締結日にするバックデート等の不正も防止できます。

紙の契約を電子化するデメリット

電子契約をするメリットは大きくても、導入する際にはいくつかの注意点があります。

ここでは、電子化によるデメリット・注意点を解説します。

取引先から電子化の同意を得る必要がある

紙の契約の電子化は自社だけで対応できるものではなく、取引先の同意が必要です。取引先の電子化が進んでいない場合、電子契約の締結に消極的な反応をされる可能性があります。その場合は、電子契約のメリットについて説明し、協力してもらわなければなりません。

また、同意を得た場合でも、電子契約が初めての取引先に対しては、扱い方の説明や操作のサポートが必要になるでしょう。

電子化できない契約書もある

近年、企業が取り交わすほとんどの契約書は電子化が可能です。しかし、すべての契約が電子化できるわけではなく、法令により紙による締結が必要とされている契約もあります。

2025年1月現在、書面化が必須とされ、電子契約を利用できない契約書は次のとおりです。

  • 事業用定期借地契約(借地借家法23条)
  • 企業担保権の設定又は変更を目的とする契約(企業担保法3条)
  • 任意後見契約書(任意後見契約に関する法律3条)

これらの契約書は、公正証書(公務員である公証人がその権限に基づいて作成する公文書)によって契約を締結すべきことが法律で定められているために、書面での契約締結が必要とされています。

参考:e-GOV法令検索 借地借家法

参考:e-GOV法令検索 企業担保法

参考:e-GOV法令検索 任意後見契約に関する法律

紙の契約書と電子契約書が混在する可能性がある

電子化に切り替える場合も、取引先によっては紙の契約を継続する場合もあり、そもそも電子化ができない契約もあります。そのため、しばらくは紙の契約書と電子契約書を併用した運用が必要になるでしょう。

従来の紙の契約書に関する業務フローや管理に加え、電子契約書の業務・管理が必要になり、これまでよりも作業が煩雑になる可能性があります。

紙の契約書を電子化するやり方

紙の契約書を電子化するためには、まず現状を洗い出し、どのような準備が必要かを明確にする必要があります。

電子化の手順は、次のとおりです。

  1. 既存の契約業務を洗い出す
  2. 電子契約導入計画を立てる
  3. 自社に合う電子契約システムを選定する
  4. 社内に周知する

それぞれのプロセスを詳しくみていきましょう。

1.既存の契約業務を洗い出す

まず、現在自社で行っている契約業務の内容や契約件数、管理体制などを洗い出します。取引先が電子契約を行っているか、行っていない場合は電子契約に同意してもらえるかの確認も必要です。

現状の把握ができたら、電子化に際してどのような機能が必要かを検討しましょう。必要な機能を検討するときには、実際に契約書を作成・管理している現場の声を汲み取ることが大切です。

2.電子契約導入計画を立てる

電子化にあたっては、電子契約導入計画を立て、計画に沿って進めていくようにしましょう。はじめからすべての契約業務を電子化すると混乱を招く可能性があるため、一部の契約に絞ってスモールスタートするのもおすすめです。

社内稟議や経費請求など社内向けの文書に限定すれば、万が一ミスやトラブルが起きても対処しやすいでしょう。

3.自社に合う電子契約システムを選定する

電子契約の締結には電子契約システムの導入が必要であり、自社の契約業務に合う機能が搭載されたシステムを選定します。

システムは各社からさまざまな種類が提供されているため、選ぶのに迷ったときは無料プランの利用がおすすめです。無料プランで電子契約の操作に慣れてから本格導入を進めれば、スムーズな移行ができるでしょう。

4.社内に周知する

導入するシステムを決定したら、電子契約での業務フローやルールを策定します。システムの管理者を決め、閲覧権限の設定や保管・管理ルールの取り決めも必要です。

システム導入に伴う業務フロー・ルールの変更点や操作方法などを周知徹底させるため、社内講習会の実施も欠かせません。社内に十分浸透させるためには、導入支援やアフターサポートが充実したシステムを選ぶことも大切です。

紙の契約書をPDF化する場合の電子契約の有効性

紙の契約書は保管・管理に手間やコストがかかりますが、スキャンするなどしてPDF化してデータ保存することも可能です。PDF化された契約書も、当事者が合意し、権利・義務関係が発生している限り、契約書としての有効性には問題ありません。

ただし、PDF化した契約書については、相手方とその内容について争いになった場合、スキャンなどのPDF化の過程で誤りがないことを証明しなければならないことや(真実性の確保)、PDFファイルの文字が判読しにくく、契約内容が分からなくなるといったリスクもあり(可視化の確保)、そういった場合には十分な法的効力を持たせられないおそれもあります。

また、納税義務との関係では、電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。電子帳簿保存法の正式名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」で、国税関係の帳簿や書類について、電子データで保存するときの取り扱いについて定めた法律です。要件は「真実性の確保」と「可視性の確保」の2つで、具体的には、「タイムスタンプの付与」や「一定以上の解像度」などがあげられます。

参考:e-GOV法令検索 電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律

紙の契約書を電子化すると電子帳簿保存法の対象に

紙の契約書を電子化した場合、電子帳簿保存法の対象になります。

ここでは、紙の契約書を電子化したときの電子帳簿保存法との関係を解説します。

電帳法改正で電子取引データの電子保存が義務化

電子帳簿保存法では、「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引データ保存」の3つの保存要件を規定しています。

「電子帳簿等保存」とは、会計ソフトやパソコンで作成した帳簿書類の電子データ保存を認める制度です。

「スキャナ保存」とは、紙の書類をスキャン機能がある機器で読み取り、電子データとして保存する制度です。

「電子取引データ保存」とは、電子契約のデータを電子で保存する制度です。「電子帳簿等保存」と「スキャナ保存」の対応は任意ですが、2021年度の法改正により、「電子取引データ保存」は完全義務化されています。

電子取引データは紙で保存できない

電子帳簿保存法の改正により、電子取引によって発行・受領した契約書は、すべて電子データでの保存が義務付けられ、紙で保存することはできません。

そのため、電子取引によって発行・受領した契約書を紙に出力して保存するという方法は原則としてできないことになっています。

電子取引情報をデータ保存する際は、タイムスタンプの付与や操作マニュアルの備え付け、検索機能の確保などの保存要件を満たさなければなりません。

電子帳簿保存法の対象外となる書類

電子帳簿保存法の対象となる書類は、「国税関係帳簿」「国税関係書類」「電子取引」の3種類です。このうち「国税関係帳簿」「国税関係書類」は「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」の対象になり、「電子取引」は「電子取引データ保存」の対象になります。

一方、仕訳帳総勘定元帳など「手書きで作成した国税関係帳簿」は電子帳簿保存法の対象外です。電子帳簿保存法において電子データ保存が認められる国税関係帳簿は、「最初から一貫してコンピュータを使用して作成するもの」と定められているためです。

紙の契約を電子化して業務を効率化しよう

紙の契約を電子契約にすることで、収入印紙代や郵送代などのコストを削減でき、契約締結までの時間を短縮して業務効率化を図れます。また、契約書を効率的に管理できるのもメリットです。

ただし、紙の契約を電子化するにあたって取引先の同意が必要であり、紙の契約と混在して業務が煩雑になる可能性があります。

電子化におけるデメリットも把握しながら、手順に沿って契約の電子化を進めましょう。


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