• 作成日 : 2024年12月27日

財産管理委任契約とは?委任できる内容や手続きの流れ、費用を解説

財産管理委任(任意代理)契約とは、財産の一部あるいは全部を自分が選定した代理人に管理を委任する契約のことです。この記事では財産管理委任契約の概要、委任できる内容、手続きのやり方、費用などについてご説明します。

財産管理委任契約とは

財産管理委任契約は民法上の委任契約に基づき、ご自身の財産の管理や運用、療養看護を自分が選んだ代理人に委任する契約です。財産を保有している本人が判断能力を保っている間に締結でき、契約締結後直ちに効力が生じるのが特徴です。

任意後見契約や家族信託などと混同されることも多いのですが、それらよりも柔軟な契約ができるので家族間などでの財産管理に利用されることが一般的です。 ただし、「財産を所有する本人(委任者)に判断能力がある」ことを前提としているため、認知症などで意思確認ができない状態になると受任者であっても財産の処分などができなくなります。

任意後見契約との違い

財産管理委任契約任意後見契約
効力が発生するタイミング契約締結時から判断能力が低下してから
公正証書原則不要必要

任意後見契約は将来病気などで判断能力が低下した際に備えて、財産管理や療養看護の後見人を事前に指定しておく契約です。判断能力が低下した後、家庭裁判所で専任申し立てを行ってから効力を発揮するため、契約締結時点では効力を持ちません。

一方、財産管理委任契約は契約締結後すぐに効力を発揮し、委任者が判断能力を保っている期間も財産管理や療養看護を行う対象となります。

任意後見契約は家庭裁判所の監督下で運用されるのに対し、財産管理委任契約は監督機関が特にありません。自由度が高い反面、契約の内容が公的に保証されるわけではないので、信頼できる受任者を選ぶ必要があります。

家族信託との違い

財産管理委任契約家族信託
効力が発生するタイミング契約締結時から契約締結時から
財産の名義本人(委任者)受託者

家族信託は委任者と受託者が信託契約を結び、財産の所有権を信託受託者の名義に変更し、指定された目的に沿って管理・運用を行う仕組みです。

財産管理委任契約では所有権は委任者に残り、受任者が委任内容に従って財産を管理します。そのため、家族信託は相続対策として利用されることも多く、遺産分割のトラブルを防ぐために用いられることもあります。

一方、財産管理委任契約はあくまで財産の管理を目的としており、相続人間の関係調整などは委任の対象外となります。

「移行型任意後見契約」なら財産管理委任契約と任意後見契約を併用できる

移行型任意後見契約とは、財産管理委任契約と任意後見契約を同時に締結する方法です。

契約締結後委任者の判断能力がある間は財産管理委任契約として運用し、判断能力が低下した場合には任意後見契約が発動します。

移行型任意後見契約であれば判断能力の有無に関わらず、同一の受任者が一貫して財産管理を行えます。令和元年12月に法務局が発表した調査では、任意後見制度利用者の3/4が移行型を選択しています。

参考:法務省における制度の周知,不正防止の取組の現状等 令和元年12月

財産管理委任契約の活用がおすすめのケース

財産管理委任契約は、判断能力はあるものの加齢や病気が原因で身体の自由が制限される可能性がある方に特に適しています。具体的な例について、以下で詳しくご紹介します。

寝たきりになり外出が難しい

寝たきり状態になると、銀行での取引や公共料金の支払い手続きなど日常生活に必要な財産管理どころか、外出自体が難しくなってしまいます。寝たきりや外出が難しい状態になっても、財産管理委任契約を締結すれば受任者がこれらの業務を代行できます。

ただし、金融機関によっては財産管理委任契約による代行に対応していないこともあるので、あらかじめ確認しておきましょう。対応してくれない場合は移行型任意後見契約で事前に公正証書で契約内容を明確にしておけば、金融機関にも公的な代理人として認められるかもしれません。

病気やけがにより金融機関や福祉関係の手続きが自力でできない

病気やけがで一時的に動けない場合でも、財産管理に関する手続きが必要な場面は多々あります。例えば年金や保険金の手続き、福祉サービスの利用契約などが挙げられます。財産管理委任契約を締結すれば、受任者がこれらの手続きに対応できるため委任者の負担も軽減できます。

また事前に契約内容を公正証書にしておくと、金融機関からの信頼性が高まりスムーズに手続き代行が行えます。体調を崩してからではなく元気なうちに契約を整えておくと万が一の時も安心です。

財産管理委任契約で委任できる内容

財産管理委任契約で委任できる手続きなどは、大きく「財産管理」と「療養介護」の2つに分けられます。ここからは財産管理と療養介護の具体的な内容についてご紹介します。

財産管理

財産管理委任契約で委任できる財産管理の内容としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 振り込みや引き出しなどの手続き
  • 光熱費や固定費、税金の支払い代行
  • 地代家賃などの収入管理
  • 日用品、消耗品の買い物
  • 生命保険契約の締結
  • 行政書類取得
  • 税金の申告
  • 医療費の支払い

療養看護

財産管理委任契約では、以下のような財産の管理以外にも医療や介護に関わる手続きも代行できます。

  • 要介護認定申請の代行
  • 病院や介護施設への入所手続き
  • 介護サービスの選定、契約、支払いなどの代行

なお、財産管理、療養看護いずれの場合であっても基本的には財産の処分は行いません。土地や物件などの売却をしたい場合は別途委任状を作成しましょう。

財産管理委任契約の手続きの流れ

財産管理委任契約を進める際の流れを手順ごとにご紹介していきます。

1. 金融機関への確認と受任者の選定

まず、普段財産管理に使用している金融機関が財産管理委任契約に対応しているか確認しましょう。大手銀行だと対応していることが多いようですが、利用している金融機関によっては委任状の提出や代理人登録が別途必要となるケースもあります。

金融機関への確認が終わったら受任者を選定しましょう。一般的には子どもをはじめ身近な家族を選ぶことが多いようです。財産管理委任契約は1人だけではなく、複数人を受任者として選定することも可能です。管理すべき財産が多い時などは、複数人選定して事務を分担することもあります。

2. 契約書の作成

次に希望内容を基に契約書を作成します。契約書には以下のような内容を盛り込みます。

  • 契約目的
  • 受任者の義務
  • 管理を委任する財産一覧
  • 委任する事務の内容
  • 委任内容履行時に必要となる費用の負担
  • 受任者に対する報酬
  • 受任者への報酬の支払い方法

受任者が家族の場合は無報酬にすることもあります。作成後は必要に応じて専門家が法的な観点から内容を確認して修正します。

3. 公正証書の作成

契約を公的に証明する、または移行型任意後見契約を締結する場合は公証役場で公正証書を作成します。契約当事者が公証役場に出向き、契約内容を確認したうえ、公証人の承認を得ます。

公正証書を作成する際には、以下のものが必要となります。

  • 財産管理委任契約書
  • 本人確認書類(運転免許証、印鑑証明書、マイナンバーカード等)
  • 公正役場が提出を求めた書類(登記簿謄本や固定資産評価証明書、通帳、車検証等)
  • 委任状(委任者本人が行けない場合)

4. 契約の保管と運用開始

契約が完了したら財産管理委任契約が有効になります。書類を適切に保管し、契約内容に基づいて受任者が財産管理を開始しましょう。財産管理の開始後は依頼者への定期報告や記録の保存が求められます。

財産管理委任契約の費用の相場

財産管理委任契約を締結する際には、どの程度の費用が必要なのでしょうか。ここからは費用の相場について見ていきましょう。

専門家に相談や依頼をした場合の報酬

専門家に財産管理委任契約の作成や手続きのサポートを依頼した場合、報酬は契約内容や地域によって異なります。司法書士や弁護士に依頼した場合、相談料は1回当たり5,000円程度、財産管理委任契約書作成費用は50,000円程度かかります。

また、専門家を受任者に選んだ場合は管理業務に対する報酬を支払います。報酬額は業務内容等によって差がありますが、月額10,000~50,000円程度が相場のようです。

契約書を公正証書にした場合の手数料

公正証書化の手数料は、契約内容や受任者への報酬金額により異なります。一般的には任意後見契約と合わせて約30,000~50,000円ほどかかることが多いようです。

この費用には、証書作成費用や印紙税、公証役場での手続きにかかる諸経費が含まれます。もしも大きな金額を取り扱う場合はより高額な手数料が発生します。

目的に合わせて財産管理委任契約を活用しよう

財産管理委任契約は判断能力があるものの身体的な理由などで自力での財産管理が困難な時に、財産管理や療養看護を第三者に委任するための契約です。原則公正証書が不要で契約締結できるので、その時々の状況に合わせて柔軟に利用できることから多くの人が利用しています。

ただ、財産管理委任契約に対応していない金融機関があるので事前に確認しておくことと、判断能力低下後には任意後見契約に切り替えることも考慮して準備することをおすすめします。


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