• 作成日 : 2024年11月26日

契約書の作成は義務?作成義務がある事例や作成の重要性を解説

ビジネスを行ううえでは、契約書を作成したり、署名捺印したりする機会がしばしばあります。多くの場合、契約書は作成しなくても契約そのものは有効に成立します。ただし、一部の契約は法律の定めなどにより、契約書の作成が不可欠です。本記事では、契約書の作成が必要な場合とそうでない場合、作成の必要性などについて解説しています。

契約書の作成は義務?

契約とは何でしょうか。民法522条には、「契約の内容を示して、その締結を申し入れる意思表示に対して相手方が承諾をしたときに成立する」ものが「契約」だと記されています。

契約とは、片方の意思表示に対して、もう一方が承諾したときに成立するものです。原則として、契約書が作成されていなくても成立します。民法522条2項には、法令に特別の定めがある場合を除き、「書面の作成その他の方式を具備することを要しない」とあります。

当事者の双方が合意していれば、口約束でも契約は成り立つ、ということです。ただし、一部の契約については、契約書の作成が義務付けられているため、注意が必要です。

参考:民法|e-Gov法令検索

契約自由の原則により作成の有無は当事者間で決められる

契約をするかどうかや、内容をどのようにするかは、当事者が自由に決めることが可能です。これを「契約自由の原則」と呼び、民法521条と522条で以下のように定められています。

  • 何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる
  • 契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる
  • 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない

この原則により、契約書がない場合でも、合意がなされていれば契約は有効です。原則として「書面の作成その他の方式を具備することを要しない」(民法522条2項)とされているため、契約書を作成するかどうかも当事者間で決められます。

一部の契約は契約書の作成が義務

一部の契約については、法律の定めにより、契約書が必要です。法律によっては、書面の作成が契約の成立要件になっている場合があります。このようなタイプを要式契約と呼びます。逆に、書面の作成を必要としないものが非要式契約です。

法律によっては、作成することだけでなく、記載すべき事項や書式の指定がある場合があります。建設工事請負契約書はその一例です。建設業法19条で「契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付しなければならない」として、「工事内容」「請負代金の額」「工事着手の時期および工事完成の時期」など16項目の記載が義務付けられています。

記載するだけでなく、署名などをして交付しなくてはならない点にも注意が必要です。他の法律でも、書面の交付や明示が義務付けられている場合があります。

書式指定があるのは、金融商品の取引契約書や貸金業者による金銭消費貸借契約書などです。貸金業法を例に取ると、同法17条は、貸金業者が貸付けにかかる契約を締結した際には、「契約年月日」「貸付けの金額」「貸付けの利率」など「その契約の内容を明らかにする書面をその相手方に交付しなければならない」としています。

それに加えて貸金業法施行規則13条15項で、「日本産業規格Z8305に規定する8ポイント以上の大きさの文字および数字を用いて明瞭かつ正確に記載しなければならない」と、文字サイズまで義務付けています。

契約書の作成や書式などについて義務付けが行われているのは、主として消費者や弱い立場の業者などを保護するためです。

参考:
建設業法|e-Gov法令検索
貸金業法|e-Gov法令検索
貸金業法施行規則|e-Gov法令検索

契約書の作成が義務付けられている具体例

契約書の作成が法律で義務付けられている契約には、以下のようなものがあります。

  • 建設工事請負契約書
  • 保証契約
  • 労働条件通知書
  • 保険契約書(契約締結時の書面交付)
  • 産業廃棄物処理契約書
  • 任意後見契約

このうち企業が従業員やパート・アルバイトなどを雇う際に作成する「労働条件通知書」は、厳密には雇用契約書とは別のものです。雇用契約書と労働条件通知書をそれぞれ作成している会社も多いです。労働基準法で「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と義務付けられています。対して、雇用契約書そのものは法律上、作成義務はありません。

なお、労働条件通知書は、作成するだけでなく、明示すべき事項も細かく決められています。14項目ある明示事項のうち、書面で交付しなくてはならない6項目は以下のとおりです。

  • 労働契約の期間
  • 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準
  • 就業の場所及び業務
  • 始業及び終業の時刻、時間外労働の有無、休憩時間、休日、休暇など
  • 賃金の決定、計算及び支払いの方法など
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

参考:
採用時に労働条件を明示しなければならないと聞きました。具体的には何を明示すればよいのでしょうか。|厚生労働省
労働基準法|e-Gov法令検索

義務付けられた契約書を作成しない場合は無効になる?

契約書の作成が義務付けられている場合、多くのケースでは契約書を作成しなくても、契約そのものは有効に成立します。法律による義務付けと、契約の成立とは無関係の場合が多いのです。ただし、保証契約や任意後見契約などの一部の契約では、契約書を作成しなかった場合には無効になります。

前述した労働条件通知書の場合、休日を与えないなど法令違反の内容などを記載してあったとしても、その部分は無効です。

契約書の作成義務を怠ると罰則はある?

法律で義務付けられている契約書の作成を怠ったとしても、前述のとおり契約自体は、多くの場合有効に成立します。しかし、作成を義務付けた法律に違反しているため、罰則の適用を受ける可能性はあります。

建設工事請負契約書の場合、作成しないまま工事を着工すると建設業法違反です。当事者である建設業者は、行政機関から営業停止処分や行政指導を受ける可能性が高くなります。違反がたび重なると、建設業の許可取り消しなど、重大な結果につながりかねません。

行政処分を受けたことは、公表されます。業界において信用を失うことにつながるため、契約書の作成は確実に行うことが重要です。

契約書を作成していても、記載すべき内容に漏れがある場合には、罰則を受けることがあります。労働条件通知書には前述のように、記載しなければならない項目が多数あり、それらの項目を記載しなかった場合は労働基準法の明示義務違反となります。30万円以下の罰金を科されることになるため、注意が必要です。

義務はなくても契約書を作成すべき理由

多くの一般的な売買契約などの事例では、契約書を作成する義務はありません。しかし多くの場合、実務上は契約書を作成します。契約書があることで、多くのメリットがあるためです。この項では、義務はなくても契約書を作成すべき理由について解説します。

合意内容が明確化する

契約書を作成することで、両当事者の合意した内容が明確になることが、義務はなくても契約書を作成した方よい理由の一つです。文書にした契約を読み返し、チェックを重ねることで、内容の理解が深まり、疑問を解消することもできます。

口約束だけでは、両当事者の記憶している合意内容が異なってしまう危険性もあります。トラブルが発生した場合、「言った」「言わない」の水掛け論になりかねません。

契約書には通常、リスクや責任範囲などが記載されます。文書化することでリスクを事前に認識でき、対応策を検討できる点は契約書を作成するメリットです。

紛争時の証拠になる

不幸にして契約の相手方に訴訟を起こされるなど、紛争となった場合に、契約書があると両者の合意内容を示す証拠となります。口約束の内容を証明しようとするのはハードルが高く、簡単ではありません。

契約書には署名や押印をするのが一般的であり、これも作成の利点です。署名や押印のある私文書は「真正に成立したもの」と推定されるためです。

民事訴訟法224条4項では、「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する」としています。契約書が作成されていれば、紛争の早期解決が期待できるでしょう。

参考:民事訴訟法|e-Gov法令検索

取引を円滑に実行できる

業務委託契約などの場合、契約書を作成することで、取引の当事者間に信頼関係が生じ、取引の実行が円滑に進む効果も期待できます。契約書の作成は通常、両者間でやり取りをしながら修正を重ね、完成版に落とし込んでいきます。

一般的に契約書の作成は、両当事者の共同作業です。こうした作成過程で取引の流れが確立し、お互いに安心して業務の遂行にあたれます。

契約書のひな形・テンプレート

契約書を一から作成しようとすると、担当者の負担が大きく、時間もかかってしまいがちです。契約書によっては、記載すべき事項や文字の大きさなどが厳密に定められていることもあり、入念なチェックも欠かせません。

電子契約書管理サービス「マネーフォワード クラウド契約」が提供する契約書のひな形・テンプレートを使えば、手間やストレスから担当者を解放し、より生産性の高い業務に振り向けることも可能です。

以下のリンクから弁護士監修の多種多様なテンプレートが、無料でダウンロードできます。ぜひご活用ください。

契約書を作って取引を安全、円滑に進めよう

民法における契約自由の原則から、多くの場合、契約書がなくても契約は成立します。一部には、契約書の作成が法律で定められているものがあるため、注意が必要です。

法律などで義務付けられていない場合でも、契約書の作成をおすすめします。契約書には、「合意内容の明確化」「紛争時の証拠」「取引の円滑な実行」といったメリットがあるためです。

契約書を作る際には、テンプレート・ひな形を利用すると、便利で時間節約や業務効率向上にもつながります。契約書を作成して、安全確実な取引を円滑に進めましょう。


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