- 作成日 : 2022年11月4日
印鑑の偽造は罪に問われる可能性が!偽造にあたる行為は?
印鑑を偽造する行為は、罪に問われる可能性があります。この記事では、印鑑の偽造にまつわるどのような行為が犯罪とみなされるのかを示し、避けるべき行為について解説します。
また、印鑑を偽造されないようにすることも大切ですので、偽造を防ぐために注意すべきことも押さえておきましょう。
目次
印鑑の偽造は罪に問われる可能性がある
印鑑を偽造すると、「私印偽造及び不正使用等罪」「私文書偽造等罪」「公印偽造及び不正使用等罪」「公文書偽造等罪」等が成立する可能性があります。
以下で、それぞれの罪の内容を簡単に説明します。
私印偽造及び不正使用等罪
私印偽造及び不正使用等罪は、刑法で以下のように規定されています。
第百六十七条 行使の目的で、他人の印章又は署名を偽造した者は、三年以下の懲役に処する。
2 他人の印章若しくは署名を不正に使用し、又は偽造した印章若しくは署名を使用した者も、前項と同様とする。
第1項が私印偽造を、第2項がその不正使用を禁じています。どちらが成立するケースでも3年以下の懲役という刑罰が予定されており、罰金刑は法定されていません。
私印偽造罪の成立に関してポイントとなるのは、“行使の目的の有無”です。
偽造した印鑑を使うつもりでなければ本罪は成立しないことになりますが、使う目的で偽造をしたのなら行使者が自分以外の予定であっても成立します。
そのため、「自分は偽造して第三者に渡しただけであって、自ら使うつもりはなかった」と主張しても、本罪の成立を避けられません。
なお、私印偽造・不正使用のいずれも、条文にある“他人の印章”は公務員や公務所などを除く私人の印章に限られます。公務員等の印鑑を偽造する場合は、後述の「公印偽造及び不正使用等罪」が成立するからです。
私文書偽造等罪
偽造した印鑑の使用方法によっては、「私文書偽造等罪」が成立する可能性もあります。
第百五十九条 行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
印鑑を偽造する行為そのものを処罰する規定ではありませんが、他人の印鑑を使ったり偽造した他人の印鑑を使ったりして一定の文書を作成した場合は本罪が成立します。ここでも“行使の目的”が要件とされていますが、本罪においては私文書を行使する目的である点に注意が必要です。
なお、公務員等が作成する文書については後述の「公文書偽造等罪」が成立します。
公印偽造及び不正使用等罪
偽造した印鑑が私人のものではなく公務所又は公務員の印鑑である場合は、「公印偽造及び不正使用等罪」が成立する可能性があります。
第百六十五条 行使の目的で、公務所又は公務員の印章又は署名を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
2 公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を不正に使用し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用した者も、前項と同様とする。
私印偽造やその不正使用では刑罰が“3年以下の懲役”と設定されていたのに対し、本罪では3ヶ月以上5年以下とより重く設定されています。
公文書偽造等罪
偽造した公務員等の印鑑を使って文書を作成すると、「公文書偽造等罪」が成立する可能性があります。
第百五十五条 行使の目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
“行使の目的”が求められる点は私文書偽造等罪と同じですが、やはり刑罰が比較的重く設定されており、最長で10年もの懲役刑を科されるおそれがあります。運転免許証やパスポートなども公文書ですので、これらを偽造すると刑務所に収容されるおそれがあるということです。
なお印鑑の種類に限定はなく、公務員の認印などであってもこれを偽造して公文書を作成すると本罪が成立し得ます。
印鑑の偽造にあたるのはどのような行為?
上に挙げた条文では、いずれも“印鑑”ではなく“印章”という表現が使われています。
印章とは人の同一性を示すために使われる文字や符号のことで、印鑑もこれに該当します。
つまり、私印偽造及び不正使用等罪などの罪で禁止されている“偽造”とは、人の同一性を偽ることを意味しているのです。
偽造の具体的な方法については限定されていませんので、以下のような行為は広く偽造に該当し得ます。
- コピー機・スキャナーを使用して転写する
- 筆記具で直接書く
- 3Dプリンタを使って他人の印鑑を作成する
なお、必ずしも一般的な印鑑のように氏名や名称が表示されている必要はなく、拇印なども印章にあたります。
また①印鑑それ自体、②印鑑で押印したときの印影、の両方が印章にあたると考えられています。その考えに従えば、他人の印影を押印できる印鑑自体(①)を偽造していなかったとしても、他人の印影(②)を真似て文書等に表示する行為が偽造にあたり、罪に問われる可能性があるのです。
実印登録した印鑑を紛失した際も複製すべきではない
偽造はいけませんが、自身が所有する印鑑を複製する行為が罪になるわけではありません。しかしながら、たとえ印鑑を紛失した場合でも、それを複製すべきではありません。実印登録している印鑑であれば、なおさらです。
同じ実印が複数あるのは犯罪防止の観点で望ましくありませんし、そもそもハンコ屋では通常は複製の依頼を受け付けてくれません。お店側は、偽造の依頼であるリスクも考えなくてはならないからです。
実印登録した印鑑を紛失した場合は実印の廃止届を提出し、再登録の手続きを行いましょう。印鑑登録証と登録する印鑑、本人確認資料を持って役所の窓口に行けば、両方の手続きを同時に済ませられます。
偽造されづらい印鑑とは?
印鑑を偽造されることによる被害を受けないためには、偽造されにくい印鑑を作成することが大切です。
プリンタ等の機器の精度が高くなっているため、簡単には複製できないように工夫すべきです。
ポイントは手彫りで作成することと、可読性の低い書体を使うことです。
偽造防止には「篆書体(てんしょたい)」や「印相体(いんそうたい)」と呼ばれる書体が向いているとされ、実際に実印にもよく使われています。
印鑑は偽造しない・偽造されないようにしよう
他人の印鑑を偽造しないことはもちろん、実印を紛失したとしても複製するのではなく、再度作成するなどの対応を講じるようにしましょう。また、紛失すると不正使用や偽造されるリスクが高まるので、偽造されづらい印鑑を作ることも大切です。
よくある質問
印鑑の偽造はどのような罪に問われますか?
印鑑の偽造やその使用により「私印偽造及び不正使用等罪」や「公印偽造及び不正使用等罪」、さらに「私文書偽造等罪」「公文書偽造等罪」が成立することもあります。詳しくはこちらをご覧ください。
印鑑の偽造にあたるのは、どのような行為ですか?
プリンタや手書きでの印影の転写、印鑑の複製など、さまざまな行為が偽造にあたります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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