- 作成日 : 2023年12月15日
みどりの食料システム法とは?法律の概要や事業者への影響は?
みどりの食料システム法とは、環境と調和のとれた食料システムを確立し、産業の持続的な発展を目指すための法律です。2022年7月1日に施行されました。環境負荷の低減を実現する事業計画を作成し、都道府県知事の認定を受けることで、優遇税制の適用や補助金などを受けられます。本記事では、具体的な取り組みや認定制度について解説します。
目次
みどりの食料システム法とは?
「みどりの食料システム法(環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律)」は、2022年7月1日に施行された法律です。
農林水産省によると、農林水産業や食品産業の持続的な発展と、環境負荷の小さい健全な経済発展を図るために制定されました。
この法律では、環境と調和のとれた食料システムの確立に関する基本理念等が定められています。また、農林水産業が環境に与える負荷を軽減するために実施される、事業活動等に関する計画の認定制度についても定められているのが特徴です。
「みどりの食料システム法」ができた背景
みどりの食料システム法ができた背景としては、以下のような理由が挙げられます。
- 気候変動や生物多様性の低下など、食料システムを取り巻く環境が変化したため
- 農林水産業や食品産業の持続的発展のため
近年では、地球環境をめぐる問題が深刻化しています。そして、SDGsが注目されているように、産業には持続可能性が求められているのが現状です。
こうした背景を踏まえ、農林水産業や食品産業では、環境と調和のとれた食料システムを確立する必要性が生じています。そのためには、関係者の行動変容や技術開発・普及が欠かせません。
みどりの食料システム法は、このような問題意識のもと制定されました。
参考:農林水産省 環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律の概要
「みどりの食料システム戦略」とは?
「みどりの食料システム戦略」とは、2021年5月に農林水産省が策定した、食料生産に関する方針です。
持続可能な食料システムの構築に向け、食料の調達から消費までの各段階で取り組みを行い、環境負荷軽減のイノベーションを推進するために策定されました。2050年までに目指す姿として、取り組みごとに数値目標が定められています。
みどりの食料システム戦略を進める環境を整えるために制定されたのがみどりの食料システム法、と考えるとわかりやすいでしょう。
「みどりの食料システム戦略」の具体的な取り組み
みどりの食料システム戦略では、農林水産業による環境負荷を低減できるよう、以下のような取り組みがまとめられています。
カテゴリー | 目指す姿と取組方向 |
---|---|
温室効果ガス削減 | 2050年までに農林水産業のCO2ゼロエミッション化を実現する |
2040年までに、農林業機械や漁船の電化・水素化等に関する技術を確立する | |
2050年までに化石燃料を使用しない施設に完全移行する | |
2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、農山漁村において再生可能エネルギーを導入する | |
環境保全 | 2050年までに、化学農薬使用量(リスク換算)を50%低減する |
2050年までに、輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%低減する | |
2040年までに、次世代有機農業に関する技術を確立し、2050年までに耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を25%(100万ヘクタール)に拡大する | |
食品産業 |
|
| |
| |
2030年までに、食品企業における持続可能性に配慮した輸入原材料調達を実現する | |
林野・水産 |
|
2030年までに漁獲量を2010年と同程度(444万トン)まで回復させる | |
|
みどりの食料システム法の認定制度
農林水産業の生産者および事業者は、みどりの食料システム法に基づいて環境負荷の低減に向けた5年間の事業計画を作成することで、都道府県知事の認定を受けられます。
生産者の計画は、都道府県・市町村が作成する基本計画に照らして認定される仕組みです。一方、事業者の計画は国が定める基本方針に照らして認定されます。
個人だけでなく、グループ申請も可能です。まずはお住まいの都道府県庁に相談してみましょう。
みどりの食料システム法の認定を受けるメリット
みどりの食料システム法の認定、通称「みどり認定」を受けることで、事業者には以下のようなメリットがあります。
- 資金調達ができる
- 設備投資の初期負担が軽減される
- 国庫補助金の採択で優遇される
- 行政の手続きが簡単になる
それぞれについて見ていきましょう。
参考:農林水産省 ひとりでも、グループでも、環境にやさしい農業に取り組んでみどり認定を受けましょう!!
参考:農林水産省 みどりの食料システム法のポイント
資金調達ができる
みどり認定を受けることで、日本政策金融公庫が実施する以下の融資を受けられます。
融資 | 利率(2023年11月時点) | 対象 |
---|---|---|
農業改良資金 | 無利子 | 温室効果ガスの排出削減や、化学農薬・化学肥料の使用削減に向けた設備投資 |
畜産経営環境調和推進資金 | 1.2% | 家畜排せつ物の処理・利用のための強制撹拌装置等を備えた堆肥舎のような施設・設備投資 |
食品流通改善資金 | 0.65~1.35% | 環境に配慮して生産された農林水産物を取り扱うために必要な加工・流通施設等の設備投資 |
新事業活動促進資金 | 2億7千万円まで: 特別利率22億7千万円超: 基準利率 | 環境負荷の低減に資する機械の製造ラインや、有機質肥料などの製造ライン等の設備投資 |
設備投資の初期負担が軽減される
化学農薬・化学肥料の低減や有機質肥料等の製造に必要な設備投資について、初期負担が軽減されるのもメリットです。
青色申告を行う場合は、認定を受けた計画に従って必要な設備を購入した場合、通常の減価償却額に以下の金額を上乗せして償却できます。
- 機械装置、器具備品:32%
- 建物、付属設備:16%
国庫補助金の採択で優遇される
みどり認定を受けることで、国庫補助金の採択審査においてポイントが加算され、採択されやすくなるというメリットがあります。
具体的には、以下のような補助金の採択で有利になります。
- みどりの食料システム戦略推進交付金
- 強い農業づくり総合支援交付金
- 農地利用効率化等支援交付金
- 畜産経営体生産性向上対策
行政の手続きが簡単になる
一部の行政手続きをワンストップ化できるというメリットもあります。
具体的には、地域ぐるみの取り組みに必要な施設整備等に関する農地転用許可や、補助金等交付財産の目的外使用の承認といった行政手続きのワンストップ化が可能です。
みどりの食料システム法で推奨されるスマート農業技術
みどりの食料システム戦略が目指す生産力向上や持続性を実現するために、スマート農業技術が注目されています。
ここでは、具体的な技術や取り組みを3つ紹介します。
- 自動走行技術
- ドローンによる農薬散布
- データを活用した堆肥
自動走行技術
スマート農業で注目されているのが、自動走行技術です。農機の自動運転が実現すれば、省力化を実現でき、人材不足に対応できます。
無人で自動走行・自動作業ができる農機のことを、ロボット農機と呼びます。ロボット農機を活用することで、熟練者でなくでも精度の高い作業が可能です。また、AIが収穫期の農作物や収穫経路などを自動で判別してくれるものもあり、農産物の品質向上も期待できます。
ドローンによる農薬散布
ドローンによる農薬散布も、スマート農業において注目されている取り組みです。
農薬の散布は体力が必要な作業です。農薬に触れたり、粉末や霧を吸い込んでしまうリスクもあります。
ドローンを活用することで、農薬散布にかかる労働負担を軽減でき、作業時間も大幅に短縮できるのがメリットです。また、散布者への健康上のリスクも抑えられます。
データを活用した施肥
データを活用した施肥技術も注目されています。
農作物に肥料を与える際は、生育状況に応じて適切な量やタイミングを見極めなければなりません。事業者の勘と経験が試される工程とも言えます。
こうした勘と経験を勘と経験を科学的に見える化し効率化できるのが、データを活用した施肥です。圃場の様子を撮影し、生育状況に関するデータを解析することで、生育状況に応じた適切な肥料の与え方がわかる、というものです。
データをもとに肥料の量を自動で調整し、ドローンや無人ヘリで散布できれば、施肥を効率化できます。圃場ごとの収穫量や品質の安定も実現するでしょう。
環境にも人にも優しいみどりの食料システム法に注目しよう
みどりの食料システム法は、環境と調和のとれた食料システムを確立し、農林水産業の持続的な発展を目指して制定された法律です。みどりの食料システム法に基づくみどりの食料システム戦略を実現できれば、農林水産業が与える環境負荷を大きく低減できます。
みどりの食料システム法には認定制度があり、認定を受けることで事業者はさまざまなメリットを享受できます。地球環境に貢献するためにも、事業を有利に進めるためにも、認定制度を活用してみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
下請法3条書面とは?記載事項、サンプル、書き方やメール交付、5条との違いを解説
「下請法3条書面」とは、下請法に基づいて親事業者に交付義務が課されている書面です。3条書面には、下請法および公正取引委員会規則に定められた事項を、漏れなく記載する必要がありますが、具体的な書き方がわからずに困っている方もいるでしょう。 そこ…
詳しくみる外国為替及び外国貿易法(外為法)とは?概要と業務への影響を解説
外国為替及び外国貿易法(外為法)は、対外取引について必要最小限の管理・調整を行うための規制を定めた法律です。輸出・輸入をはじめとする海外取引を行う企業は、外為法の規制を理解する必要があります。本記事では、外為法の概要や適用場面、違反の予防策…
詳しくみる【2023年施行】民事訴訟法改正を解説!業務への影響や今後の変更は?
2023年に民事訴訟法が改正され、新たな仕組みが順次適用されます。訴訟準備や口頭弁論期日の参加などにWeb会議システムが利用しやすくなるなど、全体としてIT化が進む内容となっています。 当記事で改正内容をまとめて紹介しますので、新しい訴訟の…
詳しくみるフリーランス新法で定めるハラスメントとは?具体例や相談先を解説
フリーランス新法とは、フリーランスの働く環境を整備するために制定された法律です。フリーランスに業務を発注する事業者によるハラスメント行為が行われないように、発注事業者にはハラスメント対策の実施が義務付けられています。 本記事では、フリーラン…
詳しくみる電波法とは?法律の内容や規制内容、事業者が気をつけるべき点を解説
電波法とは、電波の効率的・公共的利用を円滑に進めるための法律です。電波を利用する事業者は、法律に違反すると電波利用の停止命令が下る可能性があります。 電波法は一定期間で改正が行われるため、事業者はその変更内容を注視しておかなければなりません…
詳しくみる【2022年9月施行】商業登記規則の改正点を解説
2022年(令和4年)9月1日から、商業登記規則等の一部を改正する省令が施行されました。これにより、従来の商業登記と取り扱いが変更される点がいくつかあります。この記事では、商業登記規則の改正点のポイントと業務への影響を解説します。 改正が進…
詳しくみる