• 作成日 : 2024年9月26日

買戻特約付売買契約書とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説

買戻特約付売買契約書とは、売主が代金と契約費用を買主に返還すれば売買契約を解除できるという特約をつけた売買契約書のことです。不動産の売買契約において作成されることがあります。買戻特約付売買契約書の具体例や書き方のポイントをまとめました。また、契約時の注意点についても解説します。

買戻特約付売買契約とは

買戻特約付売買契約とは、「一定期間なら、売主が代金と契約にかかった費用を買主に返還すれば売買契約を解除できる」という特約をつけた売買契約です。この際に作成される契約書を買戻特約付売買契約書と呼びます。

特約が実行されると売買契約の解除が可能で、対象となる不動産を取り戻せます。また、買戻特約付売買契約は、不動産に対してのみ締結される点にも注意が必要です。

買戻特約付売買契約を締結するケース

買戻特約付売買契約は、主に次のケースで締結されます。

  • 転売目的の購入を防ぐとき
  • 対象不動産を担保とするとき

バブル期には、住宅供給公社や日本住宅公団(現在のUR都市機構)の物件は民間物件よりも安価な傾向にありました。転売目的での購入を防ぐため、「一定期間は売らずに定住することを条件とする。破った場合は買戻しを実施する」といった特約をつけて売買契約を締結することもあったようです。

また、融資をする側が不動産を購入する形式をとり、売却代金を融資金と見立てるときにも、買戻特約付売買契約を締結することがあります。債務者(売主)が一定期間内に返済すれば不動産の所有権を取り戻せますが、返済できないときは債権者(買主)が不動産を取得します。

買戻特約付売買契約書のひな形

買戻特約付売買契約書を作成するときは、特約が適用される条件について抜け漏れなく記載することが必要です。また、売買契約の対象となる不動産を特定する情報についても、抜け漏れがあってはいけません。

法的に有効な契約書を作成するためにも、ひな形を使うことをおすすめします。ぜひ以下から買戻特約付売買契約書のひな形をダウンロードして、ご利用ください。なお、ダウンロードは無料です。

買戻特約付売買契約書に記載すべき内容

買戻特約付売買契約書には決まったフォームはありませんが、トラブルを回避するためにも、契約内容と特約の条件、損害賠償などについて明記しておくことが必要です。買戻特約付売買契約書の一般的な内容と書き方を紹介します。

契約者

まずは契約当事者についての情報を記載します。

〇〇(以下、甲とする)と△△(以下、乙とする)は、甲が乙に対し買戻特約付きで土地を譲渡することに関し、次の通り買戻特約付売買契約(以下、本契約とする)を締結する。

売買契約

メインの内容は売買契約です。契約当事者を特定した後に記載します。

甲は、乙に対し、別紙物件目録記載の不動産(以下、本不動産とする)を譲渡し、乙はこれを譲り受ける。

譲渡代金

譲渡代金と支払い方法、支払いが遅延した場合のペナルティについて記載します。

本不動産の譲渡代金は金〇円(以下、譲渡代金とする)とする。乙は甲に対し、前項の譲渡代金のうち、手付として金〇〇円を、本契約締結の日から〇日以内に、甲が定める以下の金融機関の口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は、乙の負担とする。

銀行名 :〇銀行 〇支店
口座番号:普通 〇〇〇〇〇〇〇
口座名義:〇〇

乙は甲に対し、譲渡代金から手付金を差し引いた残額を、本契約締結の日から〇日以内に、前項の金融機関の口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は乙の負担とする。

乙が手付金および譲渡代金を支払い期日までに支払わなかった場合、当該期日の翌日から支払い完了に至るまで年〇%による遅延損害金を支払う。

所有権の移転、所有権移転登記

対象不動産の所有権について記載します。

本不動産の所有権は、譲渡代金全額の支払い完了をもって、甲から乙に移転する。

所有権移転後は登記が必要です。登記手続きについても記載します。

甲は乙に対し、譲渡代金全額の支払い完了後ただちに、本不動産の所有権移転登記手続きを行う。甲は所有権移転登記手続きを行うに際し、必要な一切の書類を乙に交付するとともに、乙に協力する。

引渡し

不動産の引渡し時期についても定めます。

甲は乙に対し、譲渡代金全額の支払い完了後ただちに、本不動産を引き渡す。

危険負担

不動産を譲渡できない場合に備え、危険負担について明記します。

甲乙双方の責めに帰することができない事由により、甲が乙に対し本不動産を引き渡すことができなくなったときは、乙は譲渡代金の支払いを拒むことができる。甲が乙に本不動産を引き渡した場合において、その引渡しがあったとき以後に本不動産が甲乙双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、または損傷したときは、乙は、その滅失または損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求および契約の解除はできない。この場合において、乙は代金の支払いを拒むことができない。

契約不適合

引渡し実施後のトラブルに備え、契約不適合の条件と対応を定めておきます。

甲から乙に引き渡された本不動産が種類、品質または数量に関して本契約の内容に適合しないものであるときは、乙は甲に対し、本不動産の修補、代替物の引渡しまたは不足分の引渡しによる履行の追完を請求できる。

不適合が乙の責めに帰すべき事由によるものであるときは、乙は同項の規定による履行の追完の請求できない。

費用負担

譲渡時に発生する費用について、どちらが負担するのか明記します。

本不動産の譲渡についての諸経費(所有権移転登記費用、対抗要件具備に必要な費用、管理にかかる費用その他の本契約に基づく取引に関し発生する一切の費用)は、乙が負担する。

買戻特約

買戻特約の条件と費用負担について記載します。

甲は乙に対し、令和〇年〇月〇日までに、譲渡代金および本契約に関し乙が負担したすべての費用(以下、買戻代金とする)を乙に支払うことにより、本不動産を買い戻すことができる。乙は本不動産の所有権移転登記を受けるのと同時に、買戻特約の登記をする。

買戻特約の登記費用は、甲の負担とする。

買戻権行使後の手続きについても明記します。

甲が買戻権を行使し、乙に買戻代金を支払ったときは、本不動産の所有権は甲に移転する。乙は、本不動産の所有権が甲に移転したときは、甲に対して本不動産の所有権移転登記手続きをし、所有権移転登記に必要な書類を甲に交付する。

登記費用は、甲の負担とする。

公租公課

不動産にかかる税金の負担者を明記します。

本不動産の公租公課は、本不動産の所有権者が負担する。

表明保証

誠実な対応を前提とすることを明記します。

甲は乙に対し、本契約締結の日において、以下の事実が真実かつ正確であることを表明し、保証する。甲は、本契約に定められている規定を遵守・履行するのに必要な法律上の完全な意思能力および行為能力を有している。

甲は、本不動産について、何らの制限のない所有権を有している。

万が一、表明保証に違反した場合についても定めておきます。

甲および乙は、表明および保証のうち、いずれかが真実または正確でないことが判明したときは、甲による本契約に定める条項の違反となることを確認する。表明および保証のうち、いずれかが真実または正確でないことが判明したときは、乙は甲に対し、それにより乙に生じた損失、経費その他一切の損害についての補償を求めることができる。

契約解除

契約解除の条件と損害賠償について定めます。

乙が期日までに甲に対して譲渡代金の手付金または譲渡代金の残額を支払わない場合において、甲が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、甲は、本契約を解除できる。甲が期日までに乙に対し本不動産の所有権移転登記をせず、または引き渡さない場合において、乙が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、乙は、本契約を解除できる。

表明および保証のうち、いずれかが真実または正確でないことが判明したときは、乙は、本契約を解除できる。

本条による解除は、解除の相手方に対する損害賠償の請求を妨げない。

損害賠償、合意管轄、協議

トラブルが発生した場合に備え、損害賠償責任について定めます。

甲および乙は、本契約の規定に違反し相手方に損害を与えた場合は、相手方に対しその一切の損害の賠償を行うものとする。

訴訟に発展した場合に備え、合意管轄を定めておきます。

本契約に関して訴訟の必要が生じた場合には、〇〇地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

協議によってトラブルを解決する場合に備え、信義誠実の原則を明記します。

本契約に関して、疑義が生じた場合または定めのない事由が生じた場合には、両当事者は、信義誠実の原則に従い協議を行う。

最後に、契約書の保管についても定めます。

本契約の締結を証するため、本書の電磁的記録を作成し、甲乙が合意の後電子署名を施し、各自その電磁的記録を保管する。

当該不動産を特定する情報を別紙に記載し、添付することが一般的です。所在地や地番、地積などの情報を明確に記載しておきましょう。

買戻特約付売買契約書を作成する際の注意点

買戻特約付売買契約書を作成するときは、以下のポイントに注意が必要です。

  • 買戻権を行使できるのは最長10年
  • 買戻特約は売買契約と同時に締結する

買戻特約付売買契約書において買戻権を行使できるのは、最長10年です。また、契約書に買戻権の期間について明記しない場合は、最長5年となります。

なお、買戻特約は、売買契約締結後に付加できません。買戻特約を締結するときは、売買契約と同時に締結してください。

買戻特約付売買契約のメリット・デメリット

買戻特約付売買契約のメリットとデメリットについては、以下をご覧ください。デメリットが多いと思われるときは、買戻特約のない通常の売買契約や、他の条件付加を検討してみましょう。

売主買主
メリット
  • 不動産を手放さずに済む可能性がある
  • 譲渡代金を受け取れる
  • 不動産を相場よりも安価に購入できる可能性がある
  • 地価が下落しても、契約当初の代金が返還される
デメリット
  • 買い手がつきにくくなる
  • 物価が上昇すると、相場よりも低い価格で売却する必要が生じる
  • 所有権を失う可能性がある

買戻特約の売主は不動産登記をしておく

買戻特約をつけて不動産の売買契約をするときは、当該不動産の所有権移転登記に加え、買戻特約の登記をしておくことが必要です。登記が必要な理由や登記内容について解説します。

買主が転売や抵当入れをした場合に備える

買戻特約を登記することで、買戻特約が成立する事項が生じたときに速やかに買戻しを実行できます。買主による転売や抵当入れを防ぎたいときは、忘れずに当該不動産の登記を実施しておきましょう。

登記する内容

買戻特約の登記は、売買契約による所有権移転登記と同日に実施します。次の内容を登記事項に含めてください。

  • 買主が支払った金額
  • 契約費用

また、買戻期間を定める場合は、期間も登記事項に含めます。定めない場合は5年となります。

買戻権の抹消

買戻期間が満了した後、買戻権の抹消を行います。なお、買戻権の抹消登記は、売主・買主の双方が実施することが必要です。

重要な特約・契約は登記しておこう

買戻特約をつけて不動産を売買するときは、不動産移転登記に加え、買戻特約の登記もしておくと安心です。特約・契約が正しく履行されるためにも、必要に応じて登記手続きをしておきましょう。

なお、登記手続きには登録免許税の納付が必要です。以下から税額を確認し、正確に納付するようにしてください。

参考:No.7191 登録免許税の税額表|国税庁


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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