• 更新日 : 2026年7月13日

民法110条(権限外の行為の表見代理)とは?要件や類推適用をわかりやすく解説

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Point民法110条の表見代理はどんな場合に成立する?

代理権の範囲を超えた行為でも、相手方に正当な理由があれば本人に法律的効果が帰属します。

  • 権限外の代理行為は原則として無権代理となる
  • 善意・無過失を基準として相手方の正当事由の有無を判断する
  • 類推適用により法人代表の越権行為にも効果が及ぶことがある

立証責任は相手方にあるため、代理人と取引する前に権限の範囲を書面で確認しておくことが望ましいです。

民法110条は、代理人が与えられた権限の範囲を超えて代理行為をした場合の取り扱いを定めた規定です。権限外の行為は原則として無権代理ですが、相手方が正当な理由をもとに代理権の存在を信じていた場合は、例外的に本人への効果帰属が認められます。

本記事では、民法110条が定める表見代理の適用要件と判断基準、類推適用の内容、関連判例についてわかりやすく解説します。

民法110条(権限外の行為の表見代理)とは?

民法110条は、代理権の範囲外の行為であっても相手方の正当な理由が認められる場合に、本人への効果帰属を認めることを定めています。表見代理の一類型として民法に定められており、代理権を過信した取引相手を保護し、取引の安全を守ることを目的としています。

条文は以下のとおりです。

前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

参考:民法|e-GOV法令検索

代理権の範囲外の行為は無権代理のため、原則として無効で本人への効果は及びません。しかし、相手方が「代理人に権限があると信ずべき正当な理由がある」場合に限り、その行為の効果は本人に帰属すると定めています。

正当な理由があることの立証責任は相手方にあります。立証できなければ代理権を与えた者に責任は生じません。なお、表見代理が認められない場合、相手方は無権代理人に対して損害賠償を請求できます(民法117条)。

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民法110条における「正当な理由」とは?

民法110条の「正当な理由」があるかどうかは、相手方が「善意・無過失(知らない・知らないことに過失がなかった)」であったかどうかを基準に判断します。

ただし、代理権の存在を疑わせる事情(不審事由)があった場合、代理権の有無を適切に調査しなかった相手方には過失があるとされる裁判例があります。依頼人がすべき行為を代理人が行っている、依頼人の利益のためではなく代理人の利益になる行為が行われているといったケースです。

「正当な理由」の判断は、相手方の状況だけでなく、代理権を与えた者側の状況も含めて総合的に判断されます。取引の内容や規模、代理権の外見的な根拠の有無なども考慮されるため、同じような状況でもケースによって結果が異なることがあります。

参考:裁判所ウェブサイト|裁判所

民法110条が適用される要件は?

民法110条が適用されるには、本人による代理権授与、代理人の権限外行為、そして相手方に正当な事由が存在するという要件をすべて満たさなければなりません。

各要件の内容は以下のとおりです。

  • 要件1:本人が代理人に代理権(基本代理権)を授与したこと
  • 要件2:代理人が基本代理権の範囲を超えて代理行為をしたこと
  • 要件3:相手方が代理人に代理権があると信じたことに正当事由があること

正式に代理権を与えられた代理人が授与された範囲外の代理行為を行い、かつ相手方が代理権の存在を正当な理由をもとに信じていたと認められた場合、相手方は表見代理として法律上の保護を受けられます。

参考:民法|e-GOV法令検索

表見代理の種類と民法110条の位置づけ

民法では、外見上は代理権があるようにみえる行為を行った相手方を保護するため、表見代理として3つのケースを規定しています。

  • 代理権授与の表示による表見代理(民法109条)代理権がないにもかかわらず、対外的に代理権を与えたように表示して行う代理行為
  • 権限外の行為の表見代理(民法110条)与えられた代理権の範囲を超えて行う代理行為
  • 代理権消滅後の表見代理(民法112条)代理権が消滅した後に行う代理行為

民法110条はこのうち「権限外の行為の表見代理」を規定するものです。いずれのケースも本来は無権代理として無効ですが、一定の要件を満たせば代理権を与えた者(または表示した者)に責任を負わせています。

なお、表見代理は無権代理の一種ですが、外見上は代理権があるようにみえる点が特徴です。無権代理は原則として本人が追認しなければ無効で本人への効果は及びませんが、表見代理と認められれば有効となり、本人に効果が帰属します。

民法110条が適用される具体的な事例は?

民法110条の適用を理解するには、権限の「量的越権」と「質的越権」という2種類の場面を対比して確認するとわかりやすいでしょう。

不動産業者を代理人とした土地売買の場合

不動産業者が委任された価格を下回る売買契約を無断で締結した場合でも、不動産業者の仲介が一般的な業務範囲として認識されていれば、相手方の正当事由が認められる可能性があります。

次の事例で3つの適用要件を確認しましょう。

  • 地主Aが不動産業者Bに、所有する土地を3,000万円以上で売却するよう依頼しました
  • 不動産業者Bは、自宅用の土地を探しているCと売買交渉を行いました
  • 成果を急いだ不動産業者Bは、地主Aに無断で2,800万円の売買契約を締結しました
  • Cは「土地の売買手続きは不動産会社が行う」との説明を受けており、不動産業者Bに価格交渉権があると信じていました

地主Aが下限価格を設定して不動産業者Bに代理権を与えたこと(要件1)、不動産業者Bが権限外の値引き販売を行ったこと(要件2)が確認できます。土地の売買では不動産業者が仲介して契約することが一般的ですが、代理権まで与えている場合には、通常、Bに代理権があると信じたことに正当事由があると考えられます(要件3)。この例では3つの要件を満たし、民法110条が適用される可能性があるでしょう。

不動産の管理を任された代理人が売却した場合

本人から不動産の「管理」を任されていた代理人が、無断でその不動産を「売却」した場合は、権限の種類そのものが異なる質的越権にあたり、相手方の正当事由は認められにくくなります。

管理行為と処分行為(売却)は法的な性質が大きく異なります。管理を任された代理人には、賃貸借契約の締結や修繕の手配などを行う権限はあっても、売却する権限は与えられていないのが通常です。

売却価格の交渉権限を超えた前述の量的越権と比べると、管理から売却への越権は権限の範囲が質的に異なるため、相手方が「代理権がある」と信じたことへの正当事由はより厳しく審査される傾向があります。不動産の売却は重大な財産処分であり、代理権の有無を調査せずに契約を進めた場合は無過失が否定されやすいでしょう。

なお、管理を任された代理人が締結した賃貸借契約については、管理行為の一環として権限の範囲内と判断されるケースもあります。代理権の範囲の解釈は事案ごとに異なるため、疑わしい場合は必ず委任者本人に直接確認することが大切です。

参考:民法|e-GOV法令検索

民法110条の類推適用とは?

民法110条の類推適用とは、「代理人の権限外行為」と類似した行為に対して民法110条の規定を適用することをいいます。

代表的な例として、法人代表が法人から与えられた権限の範囲を超えて行動したケースが挙げられます。相手方に「法人代表に権限があると信ずべき正当な理由」があれば、民法110条を類推適用して法人に責任を問える可能性があります。

法人代表にはさまざまな権限が付与されているため、社外の相手方が権限の有無を判断するのは難しいでしょう。例えば不動産売買において、法人の定款で理事会の決議が必要と定められているにもかかわらず、社長が相手方に対して理事会の決議を得たと信じさせたケースでは、民法110条の類推適用により法人に売買契約の効果が及ぶことがあります。

参考:民法|e-GOV法令検索

民法110条の類推適用が認められた判例は?

最高裁判所判決(昭和44年12月19日・民集第23巻12号2539頁)では、代理人が本人の名で直接権限外の行為をした場合に民法110条を類推適用できるかどうかが争われました。事案の概要は以下のとおりです。

  • AとBの売買契約において、Aの代理人CがAの実印と印鑑証明を持参し、AとBに誤信させるような行為を行いました
  • BはCをA本人だと信じて売買契約を締結しました

Cは「Aの代理人」ではなく「A本人」として誤信されたケースですが、判決では「第三者に本人の行為だと信ずべき正当な理由がある」場合に民法110条を類推適用できるとしました。相手を信用して取引した第三者を保護するという立法趣旨を明確にした判決といえるでしょう。

ただし、印鑑証明の内容確認を十分に行っていないなど、Bには信ずべき正当な理由があるとは認められず、結果的にBの請求は退けられました。立証責任が相手方にあることを改めて示した判決でもあります。

参考:裁判所ウェブサイト|裁判所

代理人と取引する前に代理権の範囲を確認するには?

代理人との取引でトラブルを防ぐには、委任状や代理権限を示す書面の内容を取引前に確認しておくことが有効です。

代理権は一般的に委任状によって付与されます。委任状には委任事項・権限の範囲・委任期間が記載されていることを確認し、委任者本人の実印と印鑑証明が一致しているかも照合するとよいでしょう。

書面の確認だけでは不安が残る場合は、委任者本人に直接連絡して代理権の範囲を確かめることも選択肢の一つです。代理権の範囲が曖昧なまま取引を進めると、後から「権限外だった」と主張されても相手方の正当な理由が否定されるリスクがあります。

代理人が委任者の利益のためではなく自分の利益を優先しているように見える場合も注意が必要です。弁護士に相談することで、代理権の範囲に不審な点がないかを事前に確認でき、万一の場合の対処法もあわせて確認できます。

参考:法テラス(日本司法支援センター)|法テラス

民法110条の表見代理を理解して代理人との取引に備えよう

民法110条は、代理人が権限の範囲を超えた代理行為をした場合でも、相手方に正当な理由があれば本人に法律的効果が帰属するとした規定です。適用には代理権の授与・権限逸脱・相手方の正当事由という3つの要件を満たす必要があり、正当な理由の立証責任は相手方にあります。

法人代表の越権行為にも類推適用される場合があるため、取引相手が代理人のときは委任状と印鑑証明を確認し、疑わしい点があれば委任者本人に直接確認することが望ましいでしょう。表見代理の仕組みを理解しておくことで、代理人をめぐるトラブルに冷静に対応できるようになるでしょう。

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