- 作成日 : 2025年3月25日
民法110条とは?要件や類推適用についてわかりやすく解説
民法110条は、代理人がその権限を越えて代理行為を行った場合の取り扱いを定めた法律です。代理権がないため原則代理行為は無効で本人には効果が帰属しませんが、一定要件を満たした場合は有効です。
本記事では、民法110条で定める表見代理について解説します。民法110条が適用される要件や具体例、同条が定める「正当な理由」、関連判例も紹介します。
目次
民法110条とは
民法110条の条文は次の通りです。
- 前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。
参照:民法|e-GOV
最初に、民法110条の概要と目的について解説します。
民法110条の概要
民法110条は、代理人が与えられた代理権の範囲を超えて代理行為をした場合の取り扱いを定めています。代理権の範囲外の行為は無権代理のため、原則無効で本人には効果が及ばないとするべきです。しかし、相手方が「代理人に権限があると信ずべき正当な理由がある」ケースに限定して、その行為の効果は本人に帰属するものと定めています。
例えば、代理人が権限のない土地取引をしたケースで、正当な理由を持つ相手方が土地取引の履行を求めた場合、代理権を与えた者に取引に応じる法律的な義務が発生するのです。ただし、正当な理由があることの立証責任は相手方にあります。立証できなければ、代理権を与えた者に責任は生じません。
なお、表見代理が認められない場合、相手方は無権代理人に対して損害賠償を請求できます(民法117条)。
権限外の行為の表見代理を規定する
相手に代理権が与えられていると信じて法律行為をした人を保護するために、民法では次の3つのケースを表見代理として規定しています。
- 代理権授与の表示による表見代理:代理権がないのに代理権を与えたように対外的に表示して行う代理行為(民法109条)
- 権限外の行為の表見代理:与えられた代理権の範囲を超えて行う代理行為(民法110条)
- 代理権消滅後の表見代理等:代理権が消滅した後に行う代理行為(民法112条)
民法110条は、「権限外の行為の表見代理」を規定するために設けられたものです。いずれの場合も本来は表見代理で無効とされるものですが、一定要件を満たす場合、代理権を与えた者(または表示した者)に責任を負わせています。
なお、表見代理は無権代理の1種ですが、外見上は代理権があるようにみえる点が特徴です。無権代理は原則として代理権を与えた本人が追認しなければ無効で本人には効果が及びませんが、表見代理と認められれば有効となり、本人に効果が帰属します。
この記事をお読みの方におすすめのガイド5選
最後に、この記事をお読みの方によく活用いただいている人気の資料・ガイドを紹介します。すべて無料ですので、ぜひお気軽にご活用ください。
※記事の内容は、この後のセクションでも続きますのでぜひ併せてご覧ください。
電子契約にも使える!契約書ひな形まとめ30選
業務委託契約書など各種契約書や、誓約書、念書・覚書、承諾書・通知書…など使用頻度の高い30個のテンプレートをまとめた、無料で使えるひな形パックです。
導入で失敗したくない人必見!電子契約はじめ方ガイド
電子契約のキホンからサービス導入の流れまで、図解やシミュレーションを使いながらわかりやすく解説しています。
社内向けに導入効果を説明する方法や、取引先向けの案内文など、実務で参考になる情報もギュッと詰まった1冊です。
紙も!電子も!契約書の一元管理マニュアル
本ガイドでは、契約書を一元管理する方法を、①紙の契約書のみ、②電子契約のみ、③紙・電子の両方の3つのパターンに分けて解説しています。
これから契約書管理の体制を構築する方だけでなく、既存の管理体制の整備を考えている方にもおすすめの資料です。
自社の利益を守るための16項目!契約書レビューのチェックポイント
法務担当者や経営者が契約書レビューでチェックするべきポイントをまとめた資料を無料で提供しています。
弁護士監修で安心してご利用いただけます。
法務担当者向け!Chat GPTの活用アイデア・プロンプトまとめ
法務担当者がchat GPTで使えるプロンプトのアイデアをまとめた資料を無料で提供しています。
chat GPT以外の生成AIでも活用できるので、普段利用する生成AIに入力してご活用ください。
民法110条が適用される要件と具体例
民法110条が適用される要件は次の3つです。
- 要件1:本人が代理人に代理権(基本代理権)を授与したこと
- 要件2:代理人が基本代理権の範囲を超えて代理行為をしたこと
- 要件3:相手方がその代理人に代理権があると信じたことに正当事由があること
つまり、正式に代理権を与えられた代理人が与えられた範囲外の代理行為を行ったという事実と、相手方が代理権があると信じた正当な事由の存在が認められた場合、相手方は表見代理として法律上の保護を受けられます。
(具体例)不動産業者を代理人とした土地の売買契約
不動産業者を代理人とした次の土地の売買契約を例に、適用要件を確認しましょう。
- 地主Aが不動産業者Bに所有する土地を3,000万円以上で売却するように依頼する
- 不動産業者Bは自宅用の土地を探しているCと売買交渉を行う
- 成果を急ぐ不動産業者Bは、地主Aに断りなく2,800万円で売買契約を結ぶ
- 土地の売買手続きは不動産会社が行うとの説明を受けていたCは、不動産会社Bが価格交渉権を持っていると信じていた。
地主Aは下限価格を設定し不動産業者Bに代理権を与え(要件1)、不動産業者Bは権限外の値引き販売を行っています(要件2)。また、土地の売買は不動産業者が仲介して契約することが一般的であり、不動産業者Bに代理権があると信じたことに正当な事由があると考えられます(要件3)。上記の例では、3つの要件を満たし民法110条が適用される可能性が高いでしょう。
民法110条における「正当な理由」とは
第三者に「正当な理由」があるかどうかは、基本的には「善意・無過失(知らない・知らないことに過失がなかった)」であるかどうかで判断します。
ただし、代理権の存在を疑わせる事情(不審事由)があった場合、代理権があるかどうかについて適切な調査が必要であるという裁判例もあります。依頼人がすべき行為を代理人が行った、依頼人の利益のためではなく代理人の利益になる行為が行われている、などのケースです。
「正当な理由」の判断基準は第三者の状況だけでなく、代理権を与えた者も状況も含めて
総合的に判断されると考えたほうがよいでしょう。
民法第110条の類推適用
民法第110条の類推適用とは、「代理人の権限外の行為」と類似した行為に対して民法第110条を適用することです。
例えば、法人代表が法人から与えられた権限外の行為を行ったケースなどが該当します。相手方に「法人代表に権限があると信ずべき正当な理由」があれば、民法第110条を類推適用して法人に責任を問うことも可能です。
法人代表にはさまざまな権限が与えられているため、社外から権限の有無を判断するのは難しいでしょう。例えば不動産売買に関して、法人内では理事会の決議が必要であると定款で定められている場合に、真実は理事会決議がされていないのに、社長が相手方に対して理事会の決議を得たと信じさせたケースなどでは、民法110条の類推適用により、法人に売買契約の効果が及ぶことが考えられます。
民法110条に関連する判例
民法第110条の類推適用に関する判例を紹介します。最高裁判所判決(1969年12月19日・民事判例集第23巻12号2539頁)では、代理人が直接依頼人の名で権限外の行為をした場合、民法110条が類推適用されるかどうかが争われました。概要は以下の通りです。
- AとBの売買契約において、Aの代理人CがAの実印と印鑑証明を持参しAと誤信させるような発言を行う
- Bは代理人CをAだと信じ売買契約を行う
Cのことを「Aの代理人」ではなく「A本人」と誤信したわけですが、判決では第三者に「本人の行為だと信ずべき正当な理由」があれば、民法第110条を類推適用できるとしました。立法趣旨に基づいて、相手を信用して取引した第三者を保護することを明確にした判決といえるでしょう。
なお、印鑑証明の内容確認を十分行っていないなど、原告であるBには信ずべき正当な理由があるとは認められませんでした。
代理人との取引時は代理人の権限をきちんと確認しよう
民法110条では、代理人が与えられた代理権の範囲を超えて代理行為をした場合、相手を信用して取引した第三者を保護するための規定です。代理人に権限があると信すべき正当な理由の有無によって、表見代理と認められるかどうかを判断します。
代理権の範囲を見極めることが難しいケースもありますが、代理人と取引するときは代理人の権限をきちんと確認することがトラブル防止につながります。また、表見代理の概要を理解して、被害にあったときに慌てず対応できるようにしましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
労働者派遣法とは?個別契約と基本契約の違いや法改正についても紹介
企業に人材を派遣する派遣会社と派遣社員を受け入れる派遣先企業は「労働者派遣法」に則って契約を締結し、それに従って派遣社員に業務を任せなければなりません。契約を結ばずに派遣社員を受け入れたり、契約内容を無視して仕事をさせたりすると、派遣会社や…
詳しくみる時効とは?刑事と民事における定義や完成猶予などを解説
時効とは、ある出来事が一定期間継続しているとき、その状態に即した権利関係を確定させることです。時効というと、刑事上の時効を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし実は民事上の時効も存在し、時効によって権利の取得や消滅が起きます。今回は、時効の概…
詳しくみる心裡留保とは?民法上の定義や契約における有効性などを解説
「心裡留保」とは、真意とは異なる意思表示を自覚的に行うことです。心裡留保による意思表示は原則有効ですが、条件を満たせば無効となる場合もあります。 また、民法では心裡留保以外にも意思表示のルールが定められていますので、その内容も理解しておきま…
詳しくみる担保権とは?物的担保と人的担保それぞれを解説
担保権とは、物などの売却代金から不払いが生じた債権を回収できる権利です。担保権には抵当権や質権などがあり、これらは「物的担保」と呼ばれることもあります。また、担保の機能を果たすものとしては「人的担保」も挙げられます。連帯保証が人的担保の典型…
詳しくみる業法とは?定義について種類とともに解説
「業法」や「業法違反」という言葉を目にすることがありますが、「業法」とは何を意味し、業法にはどのような種類があるのでしょうか。本記事では業法の定義を紹介し、業法の種類について具体的な法令名を挙げて説明します。また、2020年以降に改正された…
詳しくみる法制執務とは?国や地方公共団体における実務を紹介
法制執務とは、法令の立案・審査に関する事務のことです。国や地方公共団体では法制執務のプロセスに従い、毎年多数の法令が制定・改正されています。本記事では、法制執務の手続きや実務、参考となる本書籍などを紹介します。 法制執務とは 法制執務とは、…
詳しくみる


