- 作成日 : 2023年11月17日
公益通報者保護法とは?対象者や保護の内容、罰則について解説
公益通報者保護法とは、企業による不正行為などを通報した従業員を保護するために制定されている法律です。企業による不祥事は社会に広く悪影響を及ぼす恐れがあったり、不正行為を従業員が通報したりすることで未然に防げるケースもありますが、通報を行った者が不利益な取り扱いを受ける場合もあるため、公益通報者保護法が定められています。
誰がどのように保護されるのか、同法の内容をここで解説します。
目次
公益通報者保護法とは?わかりやすく解説
「公益通報者保護法」は、企業が不正行為・違法行為をしていることについて通報を行った従業員を保護するためのルールを取りまとめています。
勤務先で不正を発見した場面を考えてみましょう。その不正行為がきっかけで取引先や消費者など、さまざまな関係者に損害が生じる恐れがあります。そこで「この不正について通報して問題を解決しないと」と考える方も出てくるかもしれません。一方で、「通報すると解雇されたり減給されたり、何か自分が不利益を被ることになるかも」と不安を抱くことも多いと思われます。
勤務先からの不利益を心配して通報ができないという状況は、健全な社会経済発展の妨げです。そこで通報を行った者の保護を図り、国民生活の安定および社会経済の健全な発展に資するため、公益通報者保護法が設けられているのです。
そもそも公益通報とは?
同法では、あらゆる通報や連絡を法的に保護するわけではありません。いわゆる「告発」行為について、同法所定の定義に当てはまるときは「公益通報」と呼んでいます。
そして公益通報と呼べるのは、次のすべての要件を満たすときです。
- 労働者などによる通報である
- 通報が不正の目的ではない
- 役務提供先(勤務先・元勤務先など)に関する通報である
- 一定の違法行為が行われている・行われようとしている
- 企業内部の通報窓口や処分権限のある行政機関、報道機関など所定の場所に通報している
仮に、企業と関係のない赤の他人が当該企業の評判を落とそうという目的で通報をしても、同法の「公益通報」には該当しません。
公益通報と内部告発との違い
「公益通報」と似た言葉に「内部告発」があります。これらは、法律によって厳格に定義がなされているかどうか、という違いがあります。
公益用法は法律上の要件があるため、一般用語としての「内部告発」とは区別する必要があります。内部告発には、企業内部の不正を第三者に通報するという広い意味が含まれると考えられるので、一般的な認識に基づく内部告発が公益通報を重なることもあれば、重ならないこともあります。
そのため「内部告発をしても公益通報者保護法で保護される」という表現は必ずしも正しいとはいえません。公益通報に該当しない内部告発もあるからです。
公益通報者保護法の対象者と通報先は?
法の適用を受けるかどうかを判断する場合、通報したのが同法上の保護対象者かどうか、保護要件を満たす通報先であるかどうかも確認する必要があります。
公益通報の対象者
同法では、公益通報をされる側について限定をしていません。
通報対象になる事業者には、法人である民間企業や個人事業主、法人格を持たない団体、さらには国や地方公共団体などの公法人も含みます。営利法人である必要もないため、協同組合、NPO法人なども広く対象となります。企業の規模も関係ありません。
通報を行う、保護対象になる労働者などについても広義の範囲であり、正社員だけでなく、契約社員や派遣社員、アルバイト、役員、そして公務員も対象です。退職から1年以内であれば退職者も含みます。
公益通報の通報先
同法では、通報先とそれぞれに対応する保護要件が次のように定められています。
通報先 | 要件 |
---|---|
事業者内部 (法律事務所など企業が事前に定めておいた者も含む) | 「一定の違法行為が行われている・行われようとしている」と考えられること。 |
行政機関 (処分や勧告の権限を持つ行政機関など) | 次のいずれかに該当すること。
|
その他 (報道機関や消費者団体など) | 次のいずれにも該当すること。
|
その他、細かく要件が含まれているので、要確認です。
公益通報の具体例
ここまでの説明の通り、労働者などが特定の要件を満たし、特定の通報先に通報を行うことが「公益通報」となります。
そして肝心の通報内容(通報対象事実)については、あらゆる違法行為が対象になるわけではありません。生命・身体に関わる「刑法」「食品衛生法」「建築基準法」や消費者の利益に関わる「金融商品取引法」「食品表示法」「割賦(かっぷ)販売法」など、特定の法律に関わる違反行為が通報の対象です。
そこで次のような行為を通報することが公益通報の例として挙げられます。
- 同僚による会社財産の横領があった
- 消費者に虚偽の説明をして勧誘・契約をしていた
- 有害物質を含む食品を販売している
- 産業廃棄物を無許可で処分している など
公益通報者保護法による公益通報者の保護の内容
公益通報者保護法では、公益通報を行った者は次のような保護が受けられると規定しています。
- 解雇無効
- 不利益な取り扱いの禁止
- 派遣先企業からの保護
それぞれ詳しく見ていきましょう。
公益通報を理由にした解雇の無効
同法では、「公益通報を理由に従業員を解雇しても無効になる」と規定しています。
ただし、取締役や監査役などの役員については取り扱いが異なります。役員の場合これを理由に解任されても無効にはなりません。ただ、通報を行った役員は解任に基づく損害について、企業に損害賠償請求ができます。
公益通報者への不利益な取り扱いの禁止
解雇以外にも企業側から何か不当な処分を下される恐れがあります。そこで同法では、解雇以外にも不利益な取り扱いを行うことを禁じています。不利益な取り扱いについては次のような例が挙げられます。
- 減給
- 降格
- 訓告
- 自主退職の強要
- 雑務に従事させる
- 退職金の減額
- 謹慎処分 など
また、通報を受けた結果企業に損害が生じても、その分を通報者に対して賠償請求することは認められません。
公益通報者が派遣労働者の場合は派遣先からの保護
同法では派遣社員に対する保護の実効性も担保するため、別途保護規定を置いています。そのひとつは「派遣先による派遣契約の解除が無効になる」ということ、もうひとつは「派遣元に派遣社員の交代を求めたり、派遣社員に対して不利益な取り扱いをしたりすることの禁止」です。
派遣社員に対しては、派遣元からだけでなく派遣先からも不当な扱いを受ける危険があるため、このような規定が定められています。
公益通報者保護法により通報者が保護されない場合
ここまで説明してきた各種保護要件を満たさないときは、通報者が同法による保護を受けません。例えば次のようなケースです。
- 労働者などではない者による通報(例:たまたま企業の不正を見かけた一般消費者など)
- 通報内容が法令違反行為に該当しない(例:特定の法令違反に該当しない、マナー違反や倫理的な問題など)
- 他者に損害を与える目的による通報
- 所定の通報先に通報していない(例:家族や友人への相談など)
公益通報に対して事業者が行うべき対応
公益通報法は、常時300人を超える従業員がいる企業に対して、従事者を指定すること、公益通報に対応する体制を整えること、などの義務を課しています。
従業員数が300人以下であっても努力義務は課されているので、同法の内容に留意して対応を進めるようにしましょう。
公益通報に対応する業務の従事者を選任する
企業は、内部通報を受け付ける「従事者」を選任する必要があります。
この従事者とは、通報の受付窓口として機能し、通報への対応業務に対応する人物のことです。通報をした人物を特定する情報は容易に共有すべきではないので、当該情報を取り扱えるのはこの従事者に限定されます。選任された方以外が扱うことは許されず、選任された方は責任を持って情報管理しないといけません。
なお、従事者を置かない場合、法令違反となり、行政機関による助言・指導・勧告・公表の対象になるので、その点も知っておきましょう。
内部公益通報への対応する体制を整備する
「部門を横断する形で通報窓口を設ける」「上層部から影響を受けにくくする」など、企業内で広く通報を受け付けられるよう、企業は体制を整えないといけません。
必要な措置は企業によって異なります。事業規模、組織形態や業態、ステークホルダーの多寡など、個別の事情を踏まえて個別具体的な措置を検討しましょう。
通報窓口を設けてた終わりではなく、その後運用状況を調査して必要に応じて是正措置を取ることも大切です。窓口を設置してから一定期間ごとに調査を実施し、どのような点を改善すべきか、評価していきます。
その他、通報窓口があることについて社内に周知すること、アンケート調査を実施して運用実態を調べる、従事者間での意見交換、などを通して常に改善していく姿勢を持っておきましょう。
公益通報者を保護するための体制を整える
解雇や不利益な取り扱いが起こらないよう、単に同法の内容を知らせるだけでなく、仕組みとしてそのような事態が起こらないように体制を整備しましょう。
例えば、「不利益な処分はだめ」と伝えるだけでは十分な保護が受けられません。そこで違反行為があったときは特定の懲戒処分を課すとのルール作りを行う、通報者に対する救済措置を設けるなどといった、具体的な措置を進めていきます。
また、通報者から被害状況の報告を待つだけでなく、能動的に状況確認していくことも大切です。
公益通報者保護法に違反した場合の罰則
公益通報者保護法に違反した場合、行政処分や刑罰を受けることがあります。
例えば、上記の通報を受け付ける体制の整備義務に反した場合、指導や勧告などの対象になり、勧告にも従わないときは違反があった事実を公表されるという行政処分を受けてしまいます。
また、通報者の情報を漏らしたときには30万円以下の罰金刑が科されることもありますただし、従事者の過失により情報が流出してしまったときは刑事罰の対象外)。
公益通報者保護法の改正のポイント
公益通報者保護法は、より安心して通報ができる環境を整えるため、そしてより多くの通報者を保護するため、2022年6月1日から改正法が施行されています。
すでに解説した通りですが、2022年の法改正では旧法から次の点が変わっています。
- 企業による窓口設置などの体制整備を義務化した
- 内部通報の担当者に守秘義務が課された
- 役員や退職者も公益通報者に含まれるようになった
- 犯罪行為だけでなく過料対象の行為に対する通報でも保護されるようになった
公益通報者保護法に従い体制を整備しよう
企業の方は、まず「公益通報者保護法」という法律が存在していること、同法で通報を行った者を法的に保護していることを理解しましょう。
減給などの不利益な取り扱いをしてしまったり、その他同法に反する行為をしていたりすると、行政処分を受けることがあります。場合によっては刑罰を科されてしまいます。特に300人を超える従業員を抱える企業は、通報を受け付ける体制を整える法的義務があるので、要注意です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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