- 作成日 : 2024年11月7日
契約書をペーパーレス化する方法と進め方を解説
契約書を電子化すれば職場のペーパーレスが進み、保管や管理がしやすくなります。ただ法整備が進んでいる段階で移行期にある企業も多いため「全部ペーパーレスにしてもよいのか」という不安を持つ方も少なくないでしょう。
今回は契約書のペーパーレス化の方法と、メリット、電子化する際に注意しておきたいポイントなどについて解説します。
目次
契約書の電子化は法的に認められている
契約書の電子化は法的に問題なく認められています。日本では電子契約書は電子署名法に基づき、電子署名やタイムスタンプを付与することで紙の契約書と同等の法的効力を持つとされています。
特に電子契約システムを活用すれば契約内容を確認できる状態にでき、当事者が改ざんされていないことを保証する仕組みが整っているため、法的な要件も満たしやすいです。電子化により契約書の保管や検索がしやすくなり、紙の書類のように保管場所の確保や探す時の手間といった業務上のコストを削減できるというメリットもあります。
2024年10月時点ではほとんどの契約書の電子化が認められていますが、一部の契約書では電子化が認められない場合もありますので注意が必要です。
電子化が認められない一部の契約書
一部の契約書は、電子化が法的に認められていない場合があります。例えば、任意後見契約書、事業用定期借地契約書、農地の賃貸借契約書などの契約書は公正証書の作成が必要であるなどの理由から契約書の電子化は認められません。
電子化が認められない契約書については、以下の記事でさらに詳しくご紹介します。
契約書をペーパーレス化する3つのメリット
契約書をペーパーレス化することには、業務効率の向上やコスト削減といった多くのメリットがあります。ここからは署名や押印のための出社が不要になる、紙の書類の保管スペースが不要になる、過去の契約書が見つけやすくなるといった3つのメリットについて解説します。
署名や押印のための出社が不要になる
契約書をペーパーレス化すると署名や押印のためにオフィスに出社する必要がなくなります。電子署名や電子押印の技術が発展し、契約書をオンラインで締結できる環境が整っているため、遠隔地の社員や取引先との契約締結も迅速に行えます。
リモートワークなど多様な働き方が一般化している現在、この利便性は大きなメリットといえます。
紙の書類を保管するスペースが不要になる
紙の契約書を保管するには広いスペースと厳重な管理が必要でした。以前の契約について確認したいときに、ラックや保管室にある大量の契約書を一枚一枚めくって苦労して探したという経験がある方も多いのではないでしょうか。
しかし、契約書をペーパーレス化することで物理的な保管スペースが不要になります。電子契約書はデジタル形式でクラウド上に保管できるため、膨大な紙書類を管理する手間がなくなり、オフィスのスペースを有効に活用できます。
また、契約書の保管に伴うセキュリティリスクも軽減でき、セキュリティ対策を簡単に強化することが可能です。
過去の契約書が発見しやすくなる
ペーパーレス化された契約書は、デジタル検索機能を活用して簡単に発見できます。紙の契約書は膨大なファイルの中から探し出すのに時間がかかりますが、デジタル化された契約書はキーワード検索や日付での絞り込みが可能です。
これにより、過去の契約内容を迅速に確認でき、契約の更新やトラブル対応においてもスムーズな対応ができるようになります。検索の効率化は、業務全体のスピード向上にも寄与するでしょう。
契約書をペーパーレス化するときの注意点
契約書のペーパーレス化には多くのメリットがありますが、法的効力をもたせるためには、あるいは社内の体制を変更する際には注意すべきポイントもあります。
電子データの保存要件を満たす必要がある
電子契約を行う場合、電子データの保存に関する要件を満たすことが電子帳簿保存法で義務付けられています。以下の要件を順守しないと、後に問題が発生する可能性があります。
- 真実性の確保
保存される電子データが改ざんされていないことを証明する仕組みが必要です。データの改ざん防止には、タイムスタンプや電子署名の導入、訂正や削除ができない、または訂正や削除を確認できるシステムの利用などが求められます。
- 検索機能の確保
電子データが容易に検索でき、閲覧が可能であることが求められます。取引年月日、取引先、取引金額の項目、範囲指定、複数項目の組み合わせで検索できるようにします。
- 関連書類の備え付け
電子契約に関連する書類も同時に保存しておくことが重要です。例えば、システム概要書、システム基本設計書などが該当します。
- 見読可能性の確保
データの保管場所にパソコンや電子契約システムの操作方法の説明を用意しておく必要があります。特に、契約内容を迅速に確認できるように、操作方法やシステムの使い方を説明するガイドラインを提供することが求められます 。
- 税務職員による電子データのダウンロード対応
税務調査の際に、税務職員が電子データをダウンロードできる環境を整備する必要があります。適切なダウンロード対応ができるように、システムや保存方法を見直しておくことが重要です 。
社内規定の見直しが必要になる
契約書を電子化する際には、社内規定の見直しも必須です。電子契約の導入に伴い、契約書の作成・保管・処理方法が従来の紙媒体と違ってくるため、新たな規定を設ける必要があります。
たとえば契約書の保存期限、管理方法、権限者の定義などを明確化し、従業員がルールに従って業務を進められるようにします。また、セキュリティ対策として、電子署名の使用方法やアクセス権限の管理も重要なポイントです 。
取引先の合意を得る必要がある
電子契約に移行する際には、取引先との合意を得ることも重要です。電子契約システムを導入するにあたって、取引先が同様のシステムを利用しているか、またはそれに対応できるかを確認しなければなりません。
場合によっては取引先との話し合いを通じて、電子契約の使用についての同意を得ることが必要です。
特に取引先がペーパーベースの契約書に慣れていない場合、電子契約に対する不安や疑問を解消するための説明が求められます 。
契約書をペーパーレス化する方法
契約書をペーパーレス化する方法として、契約書のPDF化、電子契約システムの導入のいずれかが一般的です。これらの方法について詳しくご説明します。
契約書をすべてPDF化する
契約書をペーパーレス化する手軽な方法は、紙の契約書をスキャンしてPDF化することです。PDF化することで既存の紙ベースの契約書をデジタルファイルとして保存でき、スピーディーにペーパーレス化を進められます。
ただし、PDF化しただけでは法的には「電子契約書」ではなく、「電子化された紙の契約書」として扱われる点に注意が必要です。電子契約書にするためには電子署名やタイムスタンプを追加しましょう。
電子契約システムを導入する
電子契約システムの導入は安全かつ効率的にペーパーレスを推進したい場合におすすめの方法です。経理や法務の担当者にとっては、作業効率の向上とリスクの軽減といった大きなメリットがあります。
電子契約システムは、契約書の作成から署名・保管までのプロセスをすべてデジタルで完結でき、法的に有効な契約を締結できます。また、契約管理が自動化され、検索や履歴管理も簡単になるので、業務の属人化も防げます。
契約書のペーパーレス化の進め方
電子契約システムを導入することを前提に契約書をペーパーレス化する具体的な進め方を解説します。優先順位や社内整備などのステップを踏み、スムーズなペーパーレスへの移行を目指しましょう。
契約書の使用頻度と重要度で優先順位をつける
契約書のペーパーレス化を進める際には、まずどの契約書からデジタル化を進めるべきか優先順位をつけることが重要です。使用頻度の高い契約書や、法的な重要性が高いものを優先することで、ペーパーレス化のメリットを早期に享受できます。
また、ペーパーレス化の初期段階では、重要度の低い書類から試験的に導入することで、社内の理解を深め、運用上の課題を発見しやすくなります。
社内規定を整備する
ペーパーレス化を成功させるためには、電子契約に関する方針や手続きについての社内規定の整備が欠かせません。電子署名の運用ルール、契約書の保管方法、電子契約の証拠保全に関する基準などが挙げられます。
最初はやることが多くなってしまいますが、安全な運用のために細部までルールを規定しましょう。
こうしたルール整備は、社内での混乱を避けるための重要なステップであり、ペーパーレス化で全社的にスムーズに進行する基盤を築くことができます。
取引先の同意を得る
契約書のペーパーレス化を進める際、社内だけでなく取引先の同意を得なければなりません。デジタル改革関連法の施行や法改正により、現在では多くの契約書が電子化されていますが、電子化を希望しない事業者や、立場の弱い下請け業者や消費者を保護するために、一部の契約においては電子契約利用時には同意または承諾を得ることが義務付けられています。
電子契約に対応していない取引先が存在する場合、事前に説明を行い、電子契約の利便性や法的効力について理解してもらうことが大切です。
サービス・ツールの選定
ペーパーレス化を進めるためには、信頼性の高い電子契約システムや管理しやすいツールを選定することが重要です。現在、多様な電子契約サービスが提供されていますが、それぞれに異なる機能や料金体系があるため、自社のニーズに合ったツールを選ぶ必要があります。
電子署名機能や契約書の保管方法、セキュリティ対策に注目し、導入するサービスを慎重に選定しましょう。
段階的に導入・運用する
これからペーパーレス化を検討している場合は、一気に進めるのではなく、段階的に導入し、運用方法を見直しながら進めてもよいでしょう。最初は特定の部署や契約書の種類から導入を開始し、その後、全社的な運用へ拡大することで、ペーパーレス化の課題や運用上の問題点を早期に把握でき、必要な改善を施しやすくなります。そのためにも各電子契約サービスではトライアルという制度を設けています。こうしたサービスも活用して使い勝手を確認したり、電子契約に移行するうえでの課題点や問題点を洗い出したりしましょう。
また、導入後も定期的に運用状況を確認し、社内のフィードバックを反映していくことで、最適なペーパーレス環境を構築できます。
契約書を電子化してペーパーレスを進めよう
業務で行われるほとんどの契約書が電子化できるようになり、業務効率化のためにペーパーレスを選ぶ事業者も急増しています。ペーパーレス化は紙の書類と比べて格段にデータの管理しやすくなるという利点があるものの、法的効力のある電子契約書と認められるためには法律で定められた要件を満たさなければなりません。
これから契約書の電子化を進める場合、今回ご紹介した注意点やポイントをぜひご活用ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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