• 作成日 : 2022年2月4日

具体例を示しながら強行規定と任意規定を比較!判別方法も紹介

具体例を示しながら強行規定と任意規定を比較!判別方法も紹介

法律には強い拘束力を持った規定もあれば、訓示的な規定もあります。特に民法などでは「強行規定」と「任意規定」の区別が重要です。そこで今回は、「強行規定」と「任意規定」の概要やそれらの違い、強行規定に違反した場合の処分などについて解説します。

強行規定とは?

強行規定とは、当事者間の特約によってその法律の条文内容の変更が許されない規定のことです。強行規定に違反する特約や個別契約などは、無効となります。このような強力な効果が認められている理由は、強行規定が「公の秩序」に関するものだからです。

公の秩序とは、社会一般の利益のことです。強行規定は社会の秩序を維持するために「これだけは守りましょう」という最低限のルールを定めたものなので、個人の意思で自由に変えられては困るわけです。そのため、当事者が特約などで勝手に変更することが認められていません。

公の秩序に関するルールという性質から公法上の規定は強行規定が多く、私法上の規定は任意規定が多いといえます。

さらに理解を深めるために、強行規定と任意規定の違いを見てみましょう。また、契約自由の原則との関係についても解説します。

強行規定と任意規定の違いとは?

強行規定と任意規定は、何が違うのでしょうか。

任意規定は法律の規定があっても、それと異なる特約や個別契約などをした場合は、その特約や個別契約が優先されるというものです。任意規定は補助規定あるいは解釈規定とも呼ばれ、当事者の合理的意思解釈を助けるものとして規定されています。民法では、契約に関する条文の多くは「任意規定」です。

それに対し、民法の物権に関する規定は物権法定主義とされているため「強行規定」が多いです。物権は法律で定められているものに限って認められ、私人が自由に物権を作ることはできません。例えば所有権は物を使用・収益・処分する権利ですが、この内容を私人が変更できるとなると権利関係が複雑になり、誰がどのような権利を持っているかわからなくなります。そのため、物権は強行規定として変更できないようになっているのです。

強行規定は公の秩序に関する規定であるため、当事者が自由に内容を変更することはできません。一方で任意規定は公の秩序に関係しない規定であるため、当事者の意思によって自由に内容を変更することができます。

表にまとめると以下のようになります。

公の秩序に関する規定か?
特約で変更が許されるか?
強行規定
×
任意規定
×

契約自由の原則(民法91条)との関わり

契約には「契約自由の原則」があります。文字どおり、契約を締結するかどうかは自由であり、誰とどのような契約内容にするのも自由という意味です。契約自由の原則の根拠条文は民法91条、521条、522条などです。

例えば、民法91条は「法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。」と規定しています。つまり「公の秩序に関しない規定(任意規定)」と異なる意思表示をした場合は、その意思が優先されるということです。

参考:民法|e-Gov法令検索

契約は両当事者が合意することによって成立するものなので、当事者が納得して決めたことについて、国が介入する必要はないということです。ただし契約自由の原則は、当事者の立場が対等であることを前提としています。対等の立場にある当事者が話し合って決めた場合は、当事者の意思を尊重しても問題ないからです。

一方で当事者が対等でない場合は、一方当事者に有利な内容が決められるおそれがあります。例えばお金を借りる場合、貸主の立場が圧倒的に優位です。貸主が高金利で貸付を行うと決めた場合、借主は拒否できないでしょう。すると、借主が大きな借金を負担することになるので、強行規定による規制が必要になるわけです。

強行規定の具体例

強行規定の具体例はたくさんありますが、先ほど貸主が借主に高金利でお金を貸すことを規制する必要性について説明したので、その具体例を紹介します。

利息制限法第1条は、「金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。」と規定しています。

参考:利息制限法|e-Gov法令検索

これは、国が利息について一定額を定め、それを超える利息について当事者が合意したとしても、それは無効になるという意味です。借主が不当に高い金利を課されないよう、国が保護しているのです。

また、民法146条は「時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。」と規定しています。これは、契約する際に貸主が借主に対して時効をあらかじめ放棄するよう強要した場合でも無効になるということです。これも、借主などの弱者を保護するための規定です。

参考:民法|e-Gov法令検索

借地借家法32条は「建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。」と規定しています。この条文も「契約の条件にかかわらず」と規定しているので強行規定です。弱い立場である借主が大家に賃料の変更を求める権利を認めています。

参考:借地借家法|e-Gov法令検索

任意規定の具体例

任意規定の例として民法404条1項が挙げられます。民法404条1項は「利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。」と規定しています。

参考:民法|e-Gov法令検索

「別段の意思表示がないときは」とあるように、当事者間で利息の定めをした場合はその意思が尊重されるということなので、任意規定です。つまり民法では、金利は当事者が自由に定められるのが原則であるということです。しかし「強行規定の具体例」のところで説明したとおり、貸付金の場合は利息制限法という別の法律によって規制されています。

民法633条は「報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。」と規定していますが、実務においては、契約書で、前払いや分割払いなどを規定して、支払時期を調整しているのが一般的です。

参考:民法|e-Gov法令検索

強行規定と任意規定どっち?判断の仕方

強行規定と任意規定の具体例を見てきましたが、どのように区別すればよいのでしょうか。判断の方法は以下の3つです。

  1. 法令の趣旨から判断する
  2. 条文記載の文言から判断する
  3. 先行する判例や学説で判断する

それぞれについて見ていきましょう。

法令の趣旨から判断する

法律には、必ず立法目的があります。民法であれば私人間に関する取り決めなど、労働基準法であれば労働者の保護などです。法律の目的が公共性の高いもの(労働基準法、利息制限法等)は、強行規定が多くなります。それに対して公共性が低いもの(民法等)は、任意規定が多くなります。ただし、民法の中でも債権法は任意規定が多く、物権法は強行規定が多いなど、同じ法律でも公共性の違いによって強行規定と任意規定の多寡が異なるので注意が必要です。

条文に記載の文言から判断する

これまで紹介した条文を見てもらうとわかるように、任意規定は条文に「〜することができる」や「別段の意思表示がない場合は」という文言が入っています。それに対して強行規定は、条文に「〜しなければならない」「〜することはできない」「〜に反するものは無効とする」などと書かれています。

ただし、すべての条文が上記のようにわかりやすく記載されているわけではありません。条文を見ただけでは、「強行規定」なのか「任意規定」なのかわからないものもたくさんあります。その場合は、条文の趣旨から判断することになります。

先行する判例や学説で判断する

同じ条文でも、強行規定とする見解もあれば任意規定とする見解もあります。学説上の見解が分かれている場合は自分で判断するしかありませんが、判例がある場合は判例を参考にするのが無難であると思います。ただし下級審の裁判例しかない場合は、見解が分かれる可能性があります。その場合は自分で調べて判断する必要があります。

強行規定に反した条項を発見した場合

強行規定に反した条項は無効となります。契約書の内容を確認して強行規定に反する条項があることがわかった場合、どのように対処すればよいのでしょうか。契約書を作成する段階で発見した場合と、契約締結後に発見した場合に分けて解説します。

契約書作成段階で発見した場合

契約書を作成する段階で強行規定に反する条項を発見した場合、その条項は無効になるため削除あるいは修正する必要があります。「放置しても無効なので問題ない」と思う人もいるかもしれませんが、無効と知らずに条項の内容を相手に強要するおそれがあります。

強行規定に反する条項を契約書に残しておくと、立場の弱い相手に不利な内容の契約とみなされ、契約書の信用性が低下します。契約書の内容について争いが生じて裁判になった場合、裁判所の心証が悪くなる可能性があります。場合によっては公序良俗違反となり、契約全体が無効になることもあります。

契約締結後に発見した場合

契約締結後に発見した場合、対応方法は2つあります。1つ目は契約書を作り直すという方法です。無効な条項を残しておくことは信用性の低下を招くので、契約締結後であっても作り直せるなら作り直すべきです。

2つ目は契約書をそのままにしておく方法です。契約書を新たに作り直すのは手間がかかりますし、契約を締結した事実を残しておいたほうが事実関係が明確になるからです。ただし無効の条項の存在を明らかにするために、覚書を交わしておくことをおすすめします。

強行規定と任意規定の違いを正しく理解しよう!

ここまで、強行規定と任意規定の違いについて具体例を挙げながら解説しました。条文の文言が「〜することができる」であれば「任意規定」で、「〜しなければならない」であれば「強行規定」というようにわかりやすいものだけならよいのですが、実際には学説で見解が分かれるほどわかりにくい条文もあります。

そのような場合は、その条文が「公の秩序に関する内容かどうか」という視点で判断してください。弱者保護の必要性や権利を制限する必要性がある場合は、強行規定である可能性が高いです。

強行規定に反する契約条項は無効となるので、契約書を作る際は強行規定に反していないか慎重に調べて正しく判断する必要があります。判断を誤るとリスクやトラブルの原因となるため、法律の専門家に相談することをおすすめします。

よくある質問

強行規定とは何ですか?

強行規定とは、当事者が特約などによってその規定の変更が許されない規定のことで、公の秩序に関する規定です。 詳しくはこちらをご覧ください。

強行規定と任意規定の違いは何ですか?

当事者の意思で法律の規定を変更できるかどうかが異なります。強行規定の内容は変更できませんが、任意規定の内容は公序良俗に反しない限り、当事者が自由に変更することができます。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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