• 作成日 : 2023年10月27日

プロバイダ責任制限法とは?情報開示請求の概要や法律改正など解説

プロバイダ責任制限法とは?情報開示請求の概要や法律改正など解説

プロバイダ責任制限法とは、インターネット上での権利侵害についての損害賠償責任や、投稿者情報の開示などを規律した法律です。

企業も誹謗中傷の被害に遭うことがあるので、同法に基づく裁判手続など制度の概要を理解しておくことが望ましいでしょう。この記事では、プロバイダ責任制限法の概要や直近の改正内容などを紹介します。

プロバイダ責任制限法とは?

プロバイダ責任制限法(正式名称:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)とは、電子掲示板などインターネット上での書き込みによる被害が増えたことを受けて設けられた法律です。

同法が制定される以前、インターネット上で権利侵害が起こったとき、プロバイダなど(インターネット接続のサービスを提供する者やWebサーバの管理者、電子掲示板などのWebサービスの管理者など)は、その対応次第で「有害情報を放置していたことの責任」「権利を侵害していない情報を勝手に削除した責任」を追及される恐れがありました。

そこでプロバイダなどが、被害者の救済や投稿者の権利利益とのバランスを考慮した対応が取れるよう、同法で規律を設けたのです。

プロバイダ責任制限法は3つの規律で構成されている

プロバイダ責任制限法で規律されている内容は大きく下記の3つに分類することができます。

  1. 権利侵害を生むことになった場を提供・管理していたプロバイダの損害賠償責任を制限する規律
  2. 権利侵害を行った投稿者の情報に関して開示請求権を被害者に認める規律
  3. 投稿者の情報の開示を求める裁判手続についての規律

なお、同法は被害者に情報削除の請求権を認める法律ではありません。上記3つの規律について以下で説明していきます。

損害賠償責任の制限について

プロバイダ責任制限法という名称の通り、同法ではまずプロバイダなどの損害賠償責任を特定の条件下で制限する規程を置いています。

具体的には、以下の2つが規程となります。

  1. 権利を侵害された者から「情報を削除せずに放置していたサイト管理者にも責任がある、慰謝料を支払え」と主張されたときでも賠償しなくても良いとする規程
  2. 情報を削除したときに発信者から「私にも表現の自由がある。重要な権利を侵害したから賠償金を支払え」と主張されたときでも賠償しなくても良いとする規程

被害者に対する責任が免責されるケース(①)は、次のいずれにも該当しないケースです。

  • 権利侵害の事実を知っていた
  • 権利侵害の事実を知ることができたと認められた

そして発信者に対する責任が免責されるケース(②)は、次のいずれかに該当するケースです。

  • 権利侵害があると信じるだけの相当の理由があった
  • 削除の申し出を発信者にしたが7日以内に連絡がなかった

発信者情報の開示請求について

プロバイダ責任制限法では、発信者の情報についての「開示請求権」を被害者に認めています。

なお、開示請求ができるものは「特定発信者情報」といわれる情報であり、発信者の住所氏名やメールアドレス、権利侵害をしている情報にかかるIPアドレスなどとなります。

発信者情報の開示請求権の要件(次の2つを満たす必要がある)

  1. 投稿による権利侵害が明らか
  2. 情報の開示を受ける正当な理由がある

特定発信者情報の開示請求権の要件(上の2つに加えて3つ目の要件を満たす必要がある)

  1. 権利侵害に関する発信者情報がない、あるいは発信者情報の開示では特定ができないなどの補充的要件を満たすこと

発信者情報開示命令事件に関する裁判手続について

プロバイダ責任制限法では、上記の発信者情報開示請求権を認めた上で、さらに簡易迅速に問題解決を図る裁判手続(非訟手続)を設けています。

通常の訴訟手続の場合、プロバイダなどから情報の開示を受けられないときは、コンテンツプロバイダ(サイト管理者など)に対して訴訟を提起し、その上でアクセスプロバイダ(インターネット回線管理者など)に対しても訴訟を提起する必要があります。2段階の訴訟を経て、ようやく投稿者を特定することができるのです。

これでは被害者側の負担が大きいため、一度の手続で投稿者が特定できる裁判手続を同法では用意しています。ただし、プロバイダなどとの対立が強い場合、非訟手続により開示命令が出されたとしても異議の訴えが提起されて結局訴訟に移行する可能性が高くなります。かえって紛争が長期化する恐れがあることから、状況に応じて裁判手続を選択する必要があるでしょう。

プロバイダ責任制限法改正のポイント

プロバイダ責任制限法は2021年に法改正がありました。改正のポイントは次の通りです。

  • 投稿者を特定する新たな手続(非訟手続)を作った
  • 開示請求ができる範囲を見直した

非訟手続は、前項で説明した簡易で、かつ迅速な手続のことです。また、開示請求ができる範囲が見直されて、新たに請求できるようになった情報が「特定発信者情報」です。このように、2021年における法改正では被害者側に寄り添った変更がいくつか加えられています。

プロバイダ責任制限法を遵守するために事業者に求められる対応は?

プロバイダ責任制限法の規程が設けられていることによって、インターネット回線やWebコンテンツを提供する企業は誹謗中傷の被害者と投稿者の板挟みに遭うリスクが低くなるでしょう。ただし、同法の規程に従って適切にサービスを提供することが求められます。

できるだけ権利侵害を生まれないような仕様とすることが必要であり、それが困難な場合でも誹謗中傷を知りつつ放置することのないようにしないといけません。

一方、企業も誹謗中傷の被害者となるケースがあります。この場合は、SNSの運営に直接情報の開示を求める、あるいは近年の法改正により創設された裁判手続の利用を進めると良いでしょう。

その上で当該加害者である投稿者との交渉を始めます。必ずしも訴訟を提起する必要はなく、示談で解決が図れる場合は相手方と話し合い、示談金の支払いや投稿の削除、今後誹謗中傷をしないことの約束などを交わし、和解を目指します。示談が難しいときは損害賠償請求の訴訟を提起して争うことになるでしょう。

なお、企業としてはここまでして賠償金を支払ってもらうべきかどうかを検討する必要もあるでしょう。自社の評判を大きく落とすような誹謗中傷であるときは費用や手間をかけて対応する必要性があるといえますが、特に大きな影響のない投稿であれば裁判手続までは行わず、注意喚起で十分なケースも考えられます。

企業もプロバイダ責任制限法の動向をチェックしておこう

SNSや掲示板機能のあるWebサービスを提供している企業、インターネット回線を提供している企業はもちろん、その他、さまざま企業に関してもプロバイダ責任制限法の内容はチェックしておきたいところです。

いつ誹謗中傷の被害を受けるかわからないので、その被害を広げないためにはできるだけ早く対応することが重要です。新たに請求できる投稿者情報は広がり、特定するための手続も創設されています。同法に基づく制度を活用し、被害を素早く食い止められるように備えましょう。


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