• 作成日 : 2024年12月3日

商法526条とは?民法改正による変更点や売買契約書の注意点などを解説

商法526条は、売買契約において買主による目的物の検査と通知の義務を定めた条文です。事業者間の売買契約において、売主と買主の双方にとって重要なルールとなります。

今回は、商法526条の解説をしたうえで、民法改正による変更点、売買契約書を作成する際の注意点や、適用除外となるケースについて説明をしていきます。

商法526条とは?

商法第526条は、売買契約の際に、買主が受領したものを検査する義務を定めたものです。

この条文は、従来は売主が責任を逃れやすく、買主に負担が大きいという意見が挙げられていました。

しかし、民法改正で売主側の「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」と変更されたことで、売主が負う責任の範囲が広がり、買主の救済手段も増えています。

円滑な売買契約のためには、契約当事者の双方がこの商法第526条を理解することが重要です。

商法第526条の内容

商法第526条では、売買契約をした際に買主に対して受け取ったものが契約内容と合致していることを検査する義務があることを示しています。さらに、同条2項により、目的物に不適合があった場合には直ちに売主側に通知をする必要があります。6カ月以内の検査通知を怠った場合には、後から契約内容に適合していないことがわかった場合でも目的物を契約内容と合致するように求めたり、代金の減額などの請求をしたりすることができません。

これを商法526条による買主の検査通知義務と呼びます。

商法526条1項及び2項により、買主は売買契約後に早急に受領物の検査を実施して、不適合を見つけたら直ちに行動する必要があります。

民法改正により瑕疵担保責任から契約不適合責任に変更

商法第526条は、2020年の民法改正を受けて売主側に課される「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」に変更されました。

下記に瑕疵担保責任と契約不適合責任で異なる点を3点紹介します。

瑕疵担保責任(改正前)契約不適合責任(改正後)
(1)責任の範囲隠れた瑕疵のみが対象契約内容との不適合が対象

※買主が不注意で気付いていない場合でも責任は発生することに

(2)買主の救済手段
(売主に対して発生する権利)
契約解除、損害賠償請求のみ追完請求、代金減額請求

契約解除、損害賠償請求

(3)取引対象特定物の瑕疵が中心

※特定物:それ自体に個性があって代えのきかないものであるもの

特定物・不特定物問わず対象

※不特定物:数量・品質・種類によって取引されるもので代替可能なもの

売買契約をする際は、この変更についてしっかりと意識をして契約を締結することが重要です。

契約不適合責任は債務不履行責任の1つ

民法改正前の瑕疵担保責任が債務不履行責任とは異なる性質であるとされていたのに対して、改正後の契約不適合責任は、債務不履行責任の1つと捉えられています。

つまり、売主は売買契約において商品を引き渡す際に、契約内容に適合した商品を引き渡す義務を負っており、この義務が果たされない場合、責任を果たせていないことになります。

契約内容に適合した商品の引き渡しができていない場合、民法の債務不履行責任違反により商品の修理や交換、価格の減額、契約解除、さらに損害賠償請求を受ける可能性があります。

瑕疵担保責任と考えられていたときは買主が取りうる手段が契約解除か損害賠償請求だけでしたが、民法改正によりその手段の幅が広がりました。

商法526条にもとづく売買契約書の書き方

売買契約書を作成する際は、まずは法に基づいたデフォルトのルールを知ることが重要です。

のちほど説明をするように、商法526条は任意規定であるため、法律と異なった契約をした場合に、契約内容が法律よりも優先されます。

お互いにとって柔軟な契約ができる点がメリットである一方で、法律上の規定を知らずに契約をすると法律による保護を受けられなくなるおそれがあるため注意が必要です。

売買契約書の基本条項

売買契約をするうえで、必要となる基本的な条項は下記の内容です。

  • 基本合意(買主・売主が誰であるか)
  • 売買の目的物
  • 代金
  • 引き渡し(場所や期日など)
  • 所有権移転時期
  • 検査(買主の検品義務について)
  • 遅延損害金
  • 危険負担
  • 契約不適合責任
  • 契約解除
  • 損害賠償
  • 協議事項(トラブルが起きた際に話し合いにより解決をする旨)

その中で、商法526条が関係してくる項目として「検査」「契約不適合責任」「契約解除」などが該当します。

商法526条に関連する売買契約書の記載事項

商法526条に関連する条項について、1つずつ簡単に説明をしていきます。

①検品に関する事項

売買契約後に買主が受け取ったものを検品する期限や、売主に対する修正要求のルールなどを定めるものです。

商法526条によって検品通知のルールが定められていますが、売買契約の条項で異なる内容とすることで、526条の適用がされなくなります。

②契約不適合責任

契約不適合責任の内容や、買主が売主に対して契約不適合に対する責任を追及し、修正や減額などを請求できる期間などを決めて記載します。

商法526条2項とは異なる内容とする場合には、検品をした後で契約不適合責任に関する請求をすること、追及は認められないとする条項などが考えられます。

③契約の解除

どのような場合に、契約の解除を請求できるのかを記載するための条項です。

商法526条2項では契約不適合責任が認められた場合、原則として買主が契約を解除することを請求できますが、売買契約の条項で異なる内容とすることも可能です。

商法526条にもとづく売買契約書を作成するときの注意点

商法526条にもとづく売買契約書を作成する際は、以下の重要なポイントを理解したうえで、当事者間の合意内容を明確に記載する必要があります。

商法526条は強制規定ではなく任意規定

商法526条は任意規定であるため、守らなければ違法となる強制規定と違い、当事者間で合意をすることにより異なる内容を定めることが可能です。

つまり、売買契約書で「買主による検査の義務」や「検査で欠陥や不具合が見つかった場合の売主の責任」について商法第526条とは異なる内容が記載されていれば、契約書の条項が優先して適用されます。

例えば、法定では売主に対して受け渡しから6カ月間の期間において責任を負うことになっていますが、その期間を延長させたりなくしたりすることも可能です。ただし、契約を行う際には必ず双方の同意が必要です。

契約書作成時には、買主が目的物を検査しなければいけない期間や不適合があった場合の通知方法、売主に対して請求できることなどについて具体的に明記し、当事者双方の権利義務を明確にすることが望ましいとされています。

商法526条の適用除外となる場合がある

商法526条は、一定の条件を満たす場合には適用が除外されます。

まず、売主が悪意の場合です。売主が目的物の瑕疵を知りながら買主に伝えることなく引き渡しを完了させた場合、買主の検査・通知義務は免除されます。

さらに、取引が消費者契約となる場合も適用除外となります。具体的には、取引の一方が事業者ではなく個人である場合が該当します。

商法は商品間の取引において適用されるものであるため、商人と消費者の取引である消費者取引では、商人である売主に対して消費者(個人)である買主に厳格な義務を課すことは適切でないとの考えによるものです。

適用除外となった場合、買主の早急な検査・通知義務は免れることになるため、6カ月を経過しても、契約内容との不適合が発覚したときは契約の解除や損害賠償の請求を受ける可能性があります。

不動産売買契約書の契約不適合責任に注意する

不動産売買契約における契約不適合責任とは、引き渡された物件が契約内容と適合しない場合に、売主側が負う責任のことを指します。

契約不適合責任がかかる期間内に、買主が物件に対する不適合を確認した場合、売主に対して下記の権利が発生します。

  • 追完請求権(目的物を完全な状態にするように請求する権利)
  • 代金減額請求権(不適合の度合いに応じて契約金額を減額させる権利)
  • 損害賠償請求権(買主に損害が発生した場合に損害額の請求ができる権利)
  • 契約解除権(売買契約を一方的に解消する権利)

この責任により、例えば物件に雨漏りが確認された場合に修理義務が生じたり、契約書と実際で物件面積が異なっていた際に契約の解除や減額が求められたりする可能性があります。

契約不適合責任の期間

売主側が契約不適合責任を負う期間は、買主が事業者であるか個人であるかによって異なります。

①買主が事業者である場合

事業者間の取引であるため、商法526条が適用されます。このとき、原則として引き渡しから6カ月の間に買主から不適合があることを通知しなければ、買主が売主に対して不適合について何らかの請求をする権利が失効します。

②買主が個人である場合

一方が事業者ではないため、商法は適用外となります。下記の民法566条で定められている契約不適合責任が適用されます。

  • 買主が目的物の不適合を知ったときから1年以内に通知をしなければ、売主に請求できる権利が失効
  • 損害賠償等の請求ができることを知った時点から5年、もしくは損害賠償ができる時点から10年を経過したときに買主の権利が消滅

上記までの期間は、売主側は契約不適合責任を負っていることになります。

しかし、①②はどちらも任意規定であるため、契約をした際に合意のうえであれば一定の範囲内で別に定めることも可能です。

商法526条に関連する判例

これまで、商法526条が争点となり裁判となったケースも多く見られています。そのうち、今回説明した部分と関連する判例を3つ紹介します。

売主の悪意が認められ契約不適合の通知期間の制限が除外となったケース(令和4年12月8日東京高等裁判所判決)

アパレルメーカーのバーコードネームに関する訴訟の判例です。

アパレル企業X社が、バーコードネームの製造業者Y社から購入した商品に不備があったとして損害賠償を求めた事案です。

X社は従業員用ユニフォームに使用するバーコードネーム(布製の機械読取用ラベル)をY社から仕入れ、納品から約1年後に不具合が発覚しました。これを受けてX社は、修理費用等の賠償をY社に請求しました。

これに対しY社は、商法526条2項に基づき、納品後6カ月以内に不具合の通知がなかったため賠償責任を負わないと主張しました。

東京高裁による判決では、Y社が正確なバーコードを印刷していない商品を納品したことは重過失であり、この重過失が悪意と同視できるとして、商法526条3項により6カ月の検査通知期間の適用を除外しました。その結果、Y社の抗弁を退け、X社の請求を一部認める判決を下しています。

商法526条による検査通知義務違反によって売主が免責となったケース(平成18年9月5日東京地方裁判所判決)

機械販売会社Yから土地を購入した建設会社Ⅹが、当該土地の一部を転売するために実施した土壌調査で鉛とふっ素による汚染が発見されました。そのため、売買契約の錯誤無効による代金の返還と瑕疵担保責任にもとづく調査と浄化費用の賠償を求めた事案です。

争点のうち、商法526条が関連している瑕疵担保責任の部分についてのみ紹介します。

判決では、売主の瑕疵担保責任について、土壌汚染という瑕疵の存在自体は認めています。しかし、土地の売買において土壌汚染が問題となる場合にも商法526条が適用になるとして、土壌調査による検査と通知が引き渡し後6カ月を経過しているため、売主は瑕疵担保責任を免れるという結論に至っています。結果として、瑕疵担保責任にもとづく損害賠償請求は認められていません。

※民法改正前の判決であるため、契約不適合責任ではなく瑕疵担保責任を争う事例となっています。

契約書の記載内容によって商法526条が適用除外となったケース(平成23年1月20日東京地方裁判所判決)

土地の売買契約において、引き渡し後約11カ月で発見された土壌汚染の対応費用として、買主が売主に損害賠償を求めた事案です。

売主は商法第526条により引き渡し後6カ月以上経過した請求は認められないと主張していました。しかし、売買契約書には「土地引き渡し後の土壌汚染等の発見により30万円以上の損害が生じた場合は売主が対処する」「引き渡し後の隠れた瑕疵は民法に基づき売主が対処する」との条項があり、買主は契約条項により商法第526条は適用されないと反論しました。

結果として、裁判所は買主の主張を認め、契約条項により商法第526条は適用されないと判断して売主に約1,500万円の賠償を命じています。

商法526条が任意規定であり、契約書の記載内容によっては適用されなくなることを示した判決となっています。

売買契約における商法526条の重要性

商法526条は、売買契約における検査通知義務を定めたもので、売主と買主双方の義務と責任を示した条文です。

民法改正により、瑕疵担保責任の条文の内容が契約不適合責任に変わったことで売主が負う責任の範囲が広がりました。さらに買主の救済手段も増えたことで、買主にとっては従来よりも実用の幅が広がったと考えられます。

売買契約書を作成する際には、商法526条が任意規定であることに留意して、基本のルールを理解したうえで、双方の合意のもと、契約を締結することが重要です。


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