- 更新日 : 2024年8月30日
不可抗力条項とは?法律の意味や契約書の例文を紹介
不可抗力条項とは、契約当事者自身では対処できない事情により、債務の履行ができない場合に、債務の責任を負わないことを定めた条項のことです。できるだけ具体的にかつ網羅して記載することがポイントです。本記事では、不可抗力条項の概要や規定する目的、例示する具体的な事由などを解説します。
目次
不可抗力条項とは?
不可抗力条項とは、契約当事者自身ではどうしようもない事情によって、債務の履行ができなくなった場合に、債務不履行に対する責任を負わないことを定めた条項のことです。
不可抗力事象に含まれるもの
不可抗力事象には、「地震、津波、暴風雨、洪水、戦争、暴動、内乱、反乱、革命、テロ、大規模火災、ストライキ、ロックアウト、法令の制定・改廃」などが含まれます。さらに、「その他の当事者の合理的支配を超えた偶発的事象」といった、それ以外の事象を網羅した文言を加えるのが一般的です。
不可抗力事象がどのような規模や範囲で発生し、誰にどのように影響を与えるかを事前に予測することは困難だと考えられます。従って、細かく規定することはせず、抽象的かつ一般的な条項として定めざるを得ません。
金銭債務は不可抗力に含まれない
金銭債務については、外部からの借り入れなどで調達できます。そのため、通常は履行不能になることが想定されません。金銭債務については、民法419条3項で「債務者は不可抗力をもって抗弁することができない。」と定められています。
不可抗力により、支払い遅延などの債務不履行が生じたとしても、免責されないことを押さえておきましょう。なお、特約をもって、金銭債務でも不可抗力の際には免責される旨を定めることも可能ですが、あまり一般的ではありません。
なお、契約で「支払いが遅れた場合に利息を払う」と定めていた場合は、契約通りに支払う必要があります。
不可抗力条項を規定する目的
不可抗力条項を規定する目的は、主に以下の2つです。
- 債務不履行が発生した場合の責任関係を明確にしておく
- 債務不履行が不可抗力に該当する紛争を予防する
不可抗力によって免責となるのはどのような場合かを、あらかじめ明記しておくことで、債務不履行が発生した際の責任関係について明らかにします。また、なんらかの事情によって債務不履行が発生した場合、それが不可抗力に当たるのか否かという論点で紛争が生じることを防ぐために、不可抗力条項を定めます。
不可抗力条項の例文
ここからは、以下の2つのケースにおける不可抗力条項の例文をご紹介します。
- 契約当事者の双方が債務を負う
- 契約当事者のどちらか一方のみが債務を負う
実際に不可抗力条項を作成する際に、参考にしてください。
契約当事者の双方が債務を負う
契約当事者の双方が債務を負う場合の例文は、以下のとおりです。
第●条(不可抗力)戦争やテロ、内乱、暴動
1.甲および乙は、地震、津波、洪水、暴風雨、台風、疫病、感染症その他の天変地異、戦争、テロ、暴動、内乱、争議行為、ストライキ、法令の制定・改廃、公権力による命令・処分、甲および乙の責めによらない火災、その他の不可抗力により、本契約の全部または一部の履行が遅滞または履行が不能になった場合は、相手方に対してその責任を負わない。なお、支払債務の遅滞および不能は不可抗力により免責されない。
2.甲および乙は、前項に定める事由が生じた場合は、迅速に相手方に通知を行い、不可抗力による影響を軽減し回復させるために、合理的なあらゆる努力を尽くさなければならない。
3.第1項に定める事由が生じ、本契約の全部または一部の履行遅滞または履行不能が90日を超えて継続し、目的を達することが困難である場合協議を行い、相手方に対する書面での通知によって本契約を解除することができる。
契約当事者の双方が債務を負う場合、条文の主語は「甲および乙は」とします。甲と乙、いずれの債務も不可抗力による免責の可能性があるためです。
また、第1項のように具体的な不可抗力事由を挙げた上で、「その他の不可抗力」として、それ以外の事由も網羅できるような条項を置くことが一般的です。
契約当事者のどちらか一方のみが債務を負う
契約当事者のどちらか一方のみが債務を負う場合の例文は、以下をご参照ください。
第●条(不可抗力)戦争やテロ、内乱、暴動
1.甲(売主)は、地震、津波、洪水、暴風雨、台風、疫病、感染症その他の天変地異、戦争、テロ、暴動、内乱、争議行為、ストライキ、法令の制定・改廃、公権力による命令・処分、甲および乙の責めによらない火災、その他の不可抗力により、本契約の全部または一部の履行が遅滞または履行が不能になった場合は、相手方に対してその責任を負わない。なお、支払債務の遅滞および不能は不可抗力により免責されない。
2.甲および乙は、前項に定める事由が生じた場合は、迅速に相手方に通知を行い、不可抗力による影響を軽減し回復させるために、合理的なあらゆる努力を尽くさなければならない。
3.第1項に定める事由が生じ、本契約の全部または一部の履行遅滞または履行不能が90日を超えて継続し、目的を達することが困難である場合は協議を行い、相手方に対する書面での通知によって本契約を解除することができる。
契約当事者のどちらか一方が債務を負う場合は、主語は甲(売主)のみとなるのがポイントです。
不可抗力事由として例示する主な事由
不可抗力の事由としては、以下の項目が挙げられます。
- 天災地変(地震・津波・洪水・感染症など)
- 社会的事変(戦争・テロ・内乱・暴動など)
- 争議行為(ストライキ・ボイコット・ロックアウトなど)
- 法令の改廃・制定
- 公権力による命令・処分
- 火災
- その他の不可抗力
それぞれの内容を解説します。
天災地変(地震・津波・洪水・感染症など)
天変地異には、震、津波、洪水、台風、ハリケーン、火山噴火、感染症などが含まれます。天災地変は、当事者の努力では状況を変えられないものであるため、不可抗力事由として取り扱うことが一般的です。
社会的事変(戦争・テロ・内乱・暴動など)
戦争やテロ、内乱、暴動などの社会的事変は、当事者では状況を変えられないため、不可抗力事由に当たることが多いというのが、基本の考え方です。
争議行為(ストライキ・ボイコット・ロックアウトなど)
争議行為は、労働組合が労働条件の維持・改善を目的として行う集団行動のことを指します。ただし、争議行為は不可抗力に当たらないという考え方も存在し、当事者間で認識の相違が生じやすい点に注意が必要です。争議行為が不可抗力に当たらないとする考え方の根拠としては、争議行為を起こされるということは使用者である債務者に責められるべき理由がある場合も多く、また、代わりの手段を利用して契約義務を果たせる余地があることも多いという点が挙げられるでしょう。
そのため、争議行為を不可抗力事由として定めるかどうかは、当事者の認識や状況に照らして適宜検討するのが望ましいとされます。
いずれにしても不可抗力条項の主な目的は、契約義務を果たせない場合の責任関係について明確にしておくことであるため、紛争になる可能性が少しでもある場合は、あらかじめ明記しておくことが重要です。
法令の改廃・制定
契約を締結した後に、法令が改廃・制定などが行われたことにより債務の履行が困難になった場合についても、不可抗力事由とされるケースが多いことを押さえておきましょう。
公権力による命令・処分
公権力による命令・処分も、不可抗力事由として例示する主な事由に含まれます。裁判所からの差し押さえを受けたことにより、債務が履行できなくなった場合などが該当します。
火災
天災による火災や、債務者以外の第三者が関与して発生した火災は、契約当事者からすると不可抗力な事象に当たる場合が少なくありません。しかし、債務者の管理に問題があったようなケースでは、不可抗力に当たらないこともあります。
そのため、火災を不可抗力事由とする場合は、債務者が防ぎようのない火災に限定することが望ましいでしょう。
その他の不可抗力
不可抗力事由に含めていない事由が発生した場合、「あらかじめ定めていないから」という理由で債務を負うことになると、紛争に発展する可能性があります。
契約書に列挙していない事由を不可抗力事由に含める余地を残すために、「その他の不可抗力」としてそれ以外の事由を網羅できるような条項を置くことが一般的です。
不可抗力条項を設定する際のポイントや注意点
不可抗力条項を設定する際のポイントは、主に以下のとおりです。
- 具体的に記載する
- 想定されている事象は網羅的に記載する
あらかじめ不可抗力条項を定めておくのは、債務不履行が起きた際の責任関係を明らかにするためです。そのため、可能な限り具体的に記載しておくことがポイントです。また、不可抗力事由として設定していない事象が発生した場合に、「あらかじめ定められていない」ことを理由に債務を負うことになると、紛争に発展しかねません。そのため、想定されている事象は網羅して記載することも重要です。
不可抗力条項の設定においては、以下の点に注意しましょう。
- 不可抗力条項では金銭は免責されない
- 相手の主張次第では、たとえ不可抗力と定めてあった事象が起き、契約不履行となっても、不可抗力と認められない場合がある
不可抗力条項では金銭は免責されません。また、たとえば不可抗力事由に台風が定められていた中で、台風によって契約が履行されなかったケースがあるとします。台風が不可抗力事由に定められていたとしても、台風接近情報が事前に発表されていたのであれば、なんらかの対策ができたという考え方もできます。このようなケースでは、たとえ不可抗力と定めた事態が起き契約不履行となっても、不可抗力と認められないことがあることを押さえておきましょう。
そのため、万が一不可抗力と認められないような場合でも対応できるよう、事前準備をしておく必要があります。
不可抗力条項を設定する際のポイントを押さえよう
不可抗力条項を定める目的は、債務不履行が起きた際の責任関係を明らかにすることであるため、対象となる事象については、可能な限り具体的に記載しておくことが大切です。また、不可抗力条項に定めていないことを理由に債務を負うことになると、紛争に発展するリスクがあるため、想定される事象についてはできるだけ網羅することもポイントです。
不可抗力条項を設定する際のポイントを押さえ、トラブルを回避しましょう。実際に設定する際には、本記事の例文もぜひご活用ください。
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