- 更新日 : 2024年9月3日
委任契約とは?業務委託との関係や請負契約の比較も解説
ひと口に「契約」といっても、その形式や内容により種類はさまざまです。ひと目見て違いがないように見えても、「何」契約と位置付けるかで解釈が変わったり、責任の所在が変わったりすることもあります。
ここでは典型契約(民法に定めのある契約)の種類の一つである「委任契約」を取り上げ、委任契約とはどのようなものかをわかりやすく説明します。また「業務委託」との関係性、委任契約と準委任契約や請負契約との違いについても述べることで、さらに委任に関する理解を深めていただければ幸いです。
目次
委任契約とは?
民法では委任契約について「当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる」と定義しています(民法643条、以下の条文番号も全て民法)。
「法律行為」とは、当事者の意思表示により何らかの法的な効果を生み出す行為のことです。身近な例をあげると、物の売り買いは「売買契約」という法律行為に該当します。
例えばあなたが「うちに来る前に○○というお店でケーキを買ってきて」と友人に頼み、友人がそれを引き受ければ「当事者(あなた)が法律行為(売買契約)の遂行を相手方(友人)に委託し、相手方が承諾している」ので委任契約が成立するのです。
なお、委任契約は本来無償契約であり、報酬が発生する場合には別途定めなければなりません(648条1項)。
業務委託とは
委任契約と混同しやすい「業務委託」は、実は法律用語ではなく、企業が自社の業務の一部を外部に委託することを意味する実務上の用語です。全ての業務を自社で賄うよりも、一部を外部の専門家に任せることで人員やコストを削減でき、メイン事業に力を入れられるというメリットがあります。
もちろん実際に業務委託を行う際には企業(委託者)と外部受託者間で合意のうえ、業務委託契約を交わすことになります。業務委託契約では委任や請負など、さまざまな典型契約の要素が複合的に含まれる場合もあります。
業務委託についての詳細は、こちらの記事をご参照ください。
委任契約の具体例
一般的な委任契約の例としてイメージしやすいのは、報酬が発生する「有償契約」が多いでしょう。
例えば
- 自身の訴訟行為代理を弁護士に依頼する
- 親から相続した土地の名義変更登記を司法書士に依頼する
- 所得税の確定申告を税理士に依頼する
などがあげられます。
委任契約と混同されやすい契約
さまざまな契約の中には、委任契約と混同されやすいものがいくつかあります。それぞれの相違点をしっかり確認しておきましょう。
委任契約 | 法律行為の遂行 または遂行による成果 | 法律行為事務処理 | 労務の提供 または労務提供の成果 | あり |
準委任契約 | 非法律行為の業務遂行 または遂行による成果 | 非法律行為の処理 | 労務の提供 または労務提供の成果 | あり |
請負契約 | 仕事の完成 | 成果物作成業務 | 成果物 | あり |
雇用契約 | 労務の提供 | 依頼者に指示された業務 | 提供された労務 | なし |
「委任契約」と「準委任契約」の違い
準委任契約は「法律行為でない事務」を委託する契約です(656条)。委任契約との違いは委託する内容が法律行為か否かという部分のみです。
例として、経営者がコンサルタントに経営のアドバイスを求める行為や、医師に診療を求める行為などがあげられます。法律行為と違い、委託した事務に法的効果は求められません。
業務委託契約の中には、正確には準委任契約であるものも少なくありません。
「委任契約」と「請負契約」の違い
請負契約は、一方が他方に「ある仕事の完成」を注文し、仕事の完成後に注文者が報酬を支払うという内容の契約です(632条)。
機械の製造、家の建築などの完成物を引き渡す仕事だけでなく、ピアニストの演奏や俳優の舞台出演などの「仕事」の依頼も請負契約になります。
委任契約との違いは、請負契約が依頼された仕事を「完成」させなければ報酬を受け取れないということです。
弁護士に訴訟行為を依頼する委任契約では、敗訴した場合にも一定の報酬は発生します。これは訴訟行為という法律行為の提供に対し支払われるためです。一方請負契約ではどれだけ労務を提供しても、家が完成しない限り報酬は発生しないのが原則です。
請負契約についての詳細はこちらをご覧ください。
「委任契約」と「雇用契約」の違い
雇用契約は、一方が他方に対し労働に従事することで報酬を受け取ることを約束する契約です(623条)。
委任との違いは当事者の関係です。雇用される側は専ら他方から指図を受けて働く必要があり、行う労務に対する裁量は認められません。雇用者に従属する関係です。一方委任は、受任者が依頼された内容に対して広い裁量権を有します。当事者はそれぞれ対等の立場です。
委任契約を結ぶ際の注意点
法律行為を依頼する委任契約を結ぶ際、双方とも注意が必要なのは業務内容や報酬の取り決めです。どのような法律行為を処理するか、期限をどうするか、受任者が提供する労務のどの部分にどれだけの報酬が発生するかなどを決めておきます。
特に報酬に関しては、先述のように委任契約は法律行為の提供に対して発生するものですから、委任者が望む結果が得られなくとも支払い義務が生じる場合が多々あります(648条3項参照)。しっかり取り決めておきましょう。
法律行為以外を依頼する準委任契約にも、委任契約の規定が準用されます(656条)。準委任契約の場合は、どのような「行為」を委任するかをかなり明確にしておかないと、後々トラブルになる怖れがあるので注意が必要です。
また、損害賠償責任についても取り決めておきましょう。賠償責任は受任者だけでなく委任者側に生じることもあり(650条3項参照)、委任契約において重要な条項といえるからです。
委任契約書の無料テンプレート・ひな形
委任契約書の雛形と照らし合わせて、契約書作成に必要な項目を説明します。
第1条
甲は、乙に対し、□□業務を委任し、乙はこれを受任する。
第2条
本契約において、乙は下記の業務を行う。
1.
2.
3.
第3条
甲は乙に対し、本契約の報酬として、金〇〇円を支払う。支払方法は着手時に半額を、業務終了時に残額を、それぞれ乙が指定する金融機関口座に振込む形で行う。
第4条
乙は、甲の求めがある時は、速やかに委託業務に関する情報を報告しなければならない。
第5条
乙は、業務上知り得た情報を甲以外に他言してはならない。
第6条
当事者の一方が本契約の条項に違反した場合、他方は直ちに本契約を解除し、被った損害の賠償ができるものとする。
令和〇年〇月〇日
甲
住所
氏名 印
乙
住所
氏名 印
委任契約書のテンプレートは下記のページからダウンロードできます。
①第1条…二当事者を確定し、一方の法律行為業務の委任意思、他方の受任意思を明らかにします。
②第2条…委任された法律行為を遂行するため乙が行う業務を記載します。
③第3条…報酬が発生する場合はそれに関する取り決めが必要です。履行割合型、成果報酬型などで報酬の支払い方が変わるので、当事者できちんと確認して記載します。
④第4条…受任者は報告義務があること(645条)を明記します。
⑤第5条…いわゆる守秘義務に関する条項です。士業などは法律上守秘義務が課せられていますが、念のため書き添える場合もあります。
⑥第6条…契約解除、賠償請求に関する条項です。契約内容に応じて条件を設定しましょう。賠償金の計算方法や予定額を定めることも可能です。
契約日を記載し、二当事者が署名捺印します。
契約書は同じものを2通作成し、それぞれが持っておきます。
委任契約書には印紙は必要ない?
委任契約書を作成して取り交わす際に収入印紙はどうするかは気になる点ですが、結論として一般的な委任契約書であれば収入印紙は貼付する必要はありません。
国税庁の印紙税額一覧表に「委任契約」は含まれていないからです。
ただし、委任行為が継続的に行われる場合は一覧表中の「7号」文書にあたるので、報酬額の多寡にかかわらず4000円の印紙が必要になります。引用:印紙税額一覧表(国税庁)
委任契約についての理解を深め、業務委託を行いましょう
「業務委託」は法律用語ではありませんが、委任契約の要素が含まれるケースが多々あります。委任契約について理解しておくことで正しい業務委託を行うことができます。雇用や請負との違いをしっかり頭に入れ、法的に矛盾しないよう、また自身が一方的に不利益を被らないよう注意して契約に臨むようにしましょう。
よくある質問
委任契約とは?
法律行為をすることを依頼し、相手がそれに対し労務の提供を約束することですが、実務上は法律行為でない事務を依頼する準委任契約も委任行為に含められています。詳しくはこちらをご覧ください。
委任契約と請負契約の違いは?
請負契約は依頼された仕事の完成に対して報酬が発生しますが、委任契約は依頼に対し労務を提供することで報酬が発生します。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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