- 作成日 : 2022年9月30日
建設工事紛争審査会とは?役割から申請方法まで解説
建設工事は請負契約をもとに行われますが、工事を巡って契約当事者間でトラブルが発生することがあります。
建設業法では、建設工事紛争審査会という組織についての規定があります。
今回は、建設工事紛争審査会という組織の概要や役割、費用、申請方法などについて解説します。
目次
建設工事紛争審査会とは?
建設工事紛争審査会は建設業法25条の規定に基づき1956年に設置された紛争解決のための機関です。
建設業法18条では、「建設工事の請負契約の当事者は、各々の対等な立場における合意に基づいて公正な契約を締結し、信義に従って誠実にこれを履行しなければならない」と定め、更に建設業法19条では「建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。」として書面の作成を義務付けています。
しかし、建設業者の大半は中小・零細企業であり、実際には法律で義務付けられている工事請負契約書を作成せずに注文書などによって工事に着手したり、契約書を作成しても細部について合意せずに工事が進められたりするケースは珍しくありません。
結果的に当事者間でトラブルが発生した場合、まずは双方で話し合って解決を図りますが、その見込みがなくなれば、最終的には裁判で解決することになります。訴訟になると、解決に長い時間がかかることもあります。
また、このような司法による解決ではなく、行政機関や民間期間による簡易・迅速な裁判外紛争解決手続として準司法的機関(ADR(裁判外紛争解決)機関)によって解決する方法もあります。
この建設工事紛争分野のADR機関が、建設工事紛争審査会になります。
建設工事紛争審査会の委員は?
建設工事紛争審査会は、建設工事の請負契約に関する紛争に特化した組織です。法律、建築、土木等の専門家の委員の専門的・技術的知見を活かして、非公開で早期にトラブルの解決を図るのが特徴です。弁護士を中心とする法律委員や、建築・土木・電気・設備などの技術分野の学識経験者、建設行政の経験者などの専門委員で構成されています。
事件ごとに建設工事紛争審査会が指名した委員が、専門的かつ公正・中立な立場で紛争の解決に当たります。
管轄はどうなっている?
建設工事審査会は、国土交通省と各都道府県の計48箇所に設置されています。国土交通省に設置されたものが中央建設工事紛争審査会、各都道府県に設置されたものが都道府県建設工事紛争審査会であり、それぞれ以下のような管轄区分があります。
1. 中央建設工事紛争審査会
- 当事者の双方が国土交通大臣の許可を受けた建設業者であるとき。
- 当事者の双方が建設業者であつて、許可をした行政庁を異にするとき。
- 当事者の一方のみが建設業者であつて、国土交通大臣の許可を受けたものであるとき。
2.都道府県建設工事紛争
- 当事者の双方が当該都道府県の知事の許可を受けた建設業者であるとき。
- 当事者の一方のみが建設業者であつて、当該都道府県の知事の許可を受けたものであるとき。
- 当事者の双方が許可を受けないで建設業を営む者である場合であつて、その紛争に係る建設工事の現場が当該都道府県の区域内にあるとき。
- 当事者の一方のみが許可を受けないで建設業を営む者である場合であつて、その紛争に係る建設工事の現場が当該都道府県の区域内にあるとき。
3.管轄合意
上記の1、2にかかわらず、当事者双方が合意すれば、いずれの審査会にも紛争処理を申請することができます。
建設工事紛争審査会の役割
建設工事の請負契約に関する紛争は技術的な事項を多く含み、請負契約に関するさまざまな慣行が存在するため、裁判になれば長期化することも珍しくありません。
建設工事紛争審査会に期待される大きな役割は、建設工事の請負契約に関する紛争に特化したADR機関として、紛争の簡易・迅速・妥当な解決を図ることです。
具体的な解決方法としては、当事者の申請に基づいてあっせん・調停・仲裁を行います。
建設工事紛争審査会はどのような紛争を扱う?
建設工事紛争審査会が扱うのは、建設工事の請負契約に関する紛争であり、かつ契約当事者間の紛争です。
具体的には、以下のような紛争が挙げられます。
1.工事の瑕疵に関する紛争
自社ビルの修繕工事を注文した者が、請け負った建設業者に対して工事完成後に剥離した外壁タイルの補修を求める紛争
2.契約の解除に関する紛争
住宅の新築を注文した注文者が、請け負った建設業者に対して新築工事の請負契約の解除を求める紛争
3.工事代金の支払いに関する紛争
建設工事を請け負った建設業者が、注文者に対して追加変更工事代金の支払いを求める紛争
4.下請代金の支払いに関する紛争
下請負人である建設業者が、元請負人である建設業者に対して下請代金の支払いを求める紛争
建設工事紛争審査会への申請方法
紛争処理の申請手続きは、以下のような手順で行います。
1.申請に必要な書類を用意する
具体的な書類は、申請書、添付書類(法人の場合は登記事項証明書、代理人を選任した場合は本人の委任状、仲裁の申請の場合は仲裁合意書、管轄合意の場合は管轄合意書)、証拠書類(工事請負契約書、注文書、請書など)です。
2.申請手数料を納付する
3.通信運搬費を予納する
申請費用は?
申請には前述の申請手数料や、通信運搬費などの費用がかかります。
申請手数料の額は、請求する事項の価額(あっせん、調停、仲裁を求める事項の価額)によって異なります。中央審査会の場合は収入印紙、各都道府県審査会の場合は収入証紙を申請書に貼付して納付します。各都道府県審査会によっては、現金納付が可能な審査会もあります。
通信運搬費は審査会事務局が書類などを送付する費用で、申請人が申請時に紛争解決方法によって定められた金額(あっせん:1万円、調停:3万円、仲裁:5万円)を現金で予納します。
その他、審査会に提出する準備書面や見積書、鑑定書などの書類や証拠の作成に要する費用については、それぞれの当事者が負担します。また、立入検査(現地調査)や鑑定、証人尋問等を実施する場合の費用は、当事者が合意して折半で負担するのが一般的です。
建設工事紛争審査会に申請するメリットとデメリット
建設工事紛争審査会に申請するメリットはADR機関であるため、裁判に比べて簡易・迅速な解決が期待できることです。
解決までの標準的な期間は、あっせんが4ヶ月程度、調停が6ヶ月程度、仲裁が1~2年程度とされています。
デメリットは裁判の判決と異なり、相手が合意の内容に従わない場合でも強制力がないことです。また、相手方が話し合いの場所に現れない場合は、手続が進まないこともあります。
建設工事紛争審査会の役割と申請方法を知っておこう!
建設工事紛争審査会という組織の概要や役割、費用、申請方法などについて解説しました。
建設工事で紛争が生じた場合の解決方法として思い浮かぶのは裁判ですが、専門的な建築関係の紛争であれば長期化することも考えられます。
ADR機関である建設工事紛争審査会を活用すると、簡易・迅速・妥当な解決を図れます。
よくある質問
建設工事紛争審査会とはどのような組織ですか?
建設工事の紛争に特化したADR(裁判外紛争解決手続)機関です。詳しくはこちらをご覧ください。
建設工事紛争審査会はどのような紛争を取り扱いますか?
建設工事の瑕疵に関する紛争や請負契約の解除に関する紛争などです。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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