- 更新日 : 2025年6月24日
稟議規程とは?目的や記載項目、決裁との違いを解説
多くの日本企業で採用されている意思決定プロセスの一つに「稟議(りんぎ)」があります。特に、一定の規模以上の組織では、物品の購入、契約の締結、新しいプロジェクトの開始など、様々な場面で稟議書が回覧され、承認が進められます。この一連の稟議プロセスを円滑かつ適正に進めるためのルールブックが「稟議規程」です。
「稟議規程って、具体的にどんなことが書いてあるの?」 「稟議と決裁って、何が違うのだろう?」 「うちの会社の稟議ルール、これでいいのかな?」
この記事では、稟議規程の基本的な役割から、規程に盛り込まれるべき主要な項目、そしてしばしば混同される「決裁」との違いまで、分かりやすく解説します。
目次
稟議規程とは?
まず、稟議規程そのものについて理解を深めましょう。
稟議制度の基本
稟議制度とは、担当者が作成した提案書(稟議書)を、関係する部署や役職者に順番に回覧し、承認を得ていく意思決定プロセスです。一般的にはボトムアップ型の意思決定方式とされ、複数の関係者の承認を経ることで、多角的な視点からの検討や、組織としての合意形成を図ることを目的としています。
稟議規程の目的
稟議規程は、この稟議制度を組織内で正式なルールとして定め、その運用方法を具体的に記したものです。稟議規程を設ける主な目的と必要性は以下の通りです。
- 意思決定プロセスの標準化と透明化: 誰が、どのような場合に稟議を起案し、どのようなルートで承認を得るのかを明確にすることで、属人的な判断や恣意的な運用を防ぎ、プロセスを標準化・透明化します。
- 責任と権限の明確化: 稟議の起案者、承認者、そして最終的な意思決定者(決裁者)の責任と権限の範囲を明確にします。
- 内部統制の強化: 適切な承認プロセスを経ることを義務付けることで、不正行為や無駄な支出、コンプライアンス違反のリスクを低減し、組織の内部統制を強化します。
- 効率的な意思決定の促進: ルールが明確であれば、申請者も承認者も迷うことなく手続きを進められ、結果として意思決定のスピードアップにつながります(ただし、ルールが複雑すぎると逆効果になることもあります)。
- 組織としての意思決定の証跡確保: 誰が、いつ、何を承認したのかを記録として残すことで、後日の検証や説明責任を果たすことが可能になります。
稟議規程は、組織が健全かつ効率的に運営されるための重要な基盤となるのです。
関連規程
稟議規程は、単独で存在するものではなく、多くの場合、他の社内規程と連携して機能します。特に重要なのが「職務権限規程」や「決裁権限規程」といった、役職や職務に応じてどのような権限(特に最終的な意思決定権=決裁権)が付与されているかを定めた規程です。稟議規程で定められた承認ルートの最終段階にいる「決裁者」は、通常、この職務権限規程に基づいて決定されます。
稟議規程のテンプレート
マネーフォワード クラウドでは、稟議規定のWordテンプレートを提供しています。下記リンクから無料でダウンロードできるので、ぜひご活用ください。
稟議規程の主な項目
稟議規程には、具体的にどのような内容を盛り込むべきでしょうか。会社の方針や規模によって詳細は異なりますが、一般的に以下のような項目が定められます。
総則(目的、適用範囲、用語の定義)
- 目的: なぜこの稟議規程を定めるのか、その基本的な考え方を示します。(例:「本規程は、稟議に関する手続きを定め、適正かつ効率的な業務執行を図ることを目的とする」)
- 適用範囲: どの部署の、どの役職・職位の従業員に適用されるのかを明確にします。
- 用語の定義: 規程内で使われる重要な用語(「稟議」「起案」「回付」「承認」「決裁」「差戻し」など)の意味を定義し、解釈の齟齬を防ぎます。
稟議の対象となる事項
- どのような場合に稟議が必要となるのかを具体的に定めます。金額の大小、契約の種類、人事に関する事項、新規事業の開始など、稟議にかけるべき基準を明確にします。(例:「〇〇円以上の物品購入」「〇〇に関する契約締結」「正社員の採用」など)
- 逆に、稟議が不要な事項(軽微な消耗品の購入など)も明記すると、現場の判断が容易になります。
稟議書の書式・記載事項
- 使用すべき稟議書のフォーマット(様式)を指定します。
- 稟議書に記載すべき必須項目を定めます。(例:申請日、起案部署・起案者名、件名、稟議の内容・理由、予算・費用、添付資料、希望納期、承認欄など)
申請・承認(回付)ルート
- 起案された稟議書を、どの部署・役職者に、どのような順番で回覧(回付)し、承認を得るのか、具体的なフローを定めます。
- 案件の種類や金額によって承認ルートが異なる場合は、その条件も明記します。
決裁権者
- 稟議案件に対する最終的な意思決定を行う権限を持つ者(決裁権者)を明確にします。通常は、職務権限規程などと連動して、役職や案件の内容・金額に応じて定められます。
差戻し・否決の場合の処理
- 承認の過程で、内容の修正や再検討が必要と判断された場合(差戻し)や、承認が得られなかった場合(否決)に、どのような手続きを取るのかを定めます。差戻しの理由の明記義務なども含めることがあります。
稟議の有効期間・効力
- 承認された稟議がいつから効力を持ち、どのくらいの期間有効なのかを定める場合があります。(例:承認後〇ヶ月以内に実行に移す必要がある、など)
緊急稟議・例外処理
- 通常の稟議プロセスでは間に合わない緊急性の高い案件や、特殊な事情がある場合の例外的な手続きについて定めます。ただし、乱用を防ぐための条件設定が重要です。
規程の改廃
- この稟議規程自体を改定したり、廃止したりする場合の手続きについて定めます。
これらの項目を網羅することで、稟議プロセスに関する疑問や不明点を減らし、スムーズな運用を支援します。
稟議と決裁の違い
稟議と関連してよく使われる言葉に「決裁(けっさい)」があります。この二つの言葉は混同されやすいですが、意味は異なります。
稟議:承認プロセスとしての役割
稟議は、主に意思決定に至るまでのプロセスを指します。担当者が提案内容を起案し、それに関係する複数の部署や役職者が内容を確認し、承認を与えていく一連の流れです。稟議の過程では、提案内容の妥当性、リスク、影響などが多角的に検討され、組織内でのコンセンサス(合意)が形成されます。承認者は、それぞれの立場から内容をチェックし、同意の証として押印やサインを行います。
決裁:最終的な意思決定
決裁は、稟議プロセスを経て上がってきた提案に対して、最終的な「決定」を下す行為そのものを指します。決裁を行う権限を持つ者(決裁権者)が、提案内容を実行に移すことを最終的に許可する意思表示です。決裁が行われて初めて、その稟議案件は組織の正式な決定事項となります。
稟議規程における決裁権者の明記の重要性
稟議規程においては、承認ルートの最終段階に誰が決裁権者として位置づけられているかを明確にすることが極めて重要です。これにより、「誰の承認を得れば、その案件は正式に決定されるのか」が明確になり、プロセスのゴールがはっきりします。通常、決裁権限は職務権限規程で定められており、稟議規程はそれに準拠する形で運用されます。
簡単に言えば、稟議は「承認の連鎖(プロセス)」であり、決裁は「最終決定(ゴール)」と言えるでしょう。
稟議規程のポイント
せっかく稟議規程を定めても、形骸化してしまっては意味がありません。効果的に運用するためのポイントをいくつかご紹介します。
周知徹底と教育
- 規程の内容を全従業員に周知し、その目的や重要性を理解してもらうことが不可欠です。新入社員研修や定期的な説明会などを通じて、教育の機会を設けましょう。
- 規程は、従業員がいつでも容易にアクセスできる場所に保管・公開しておく必要があります(社内イントラネットなど)。
定期的な見直しと改定
- ビジネス環境の変化、組織変更、関連法規の改正などに対応するため、稟議規程は定期的に見直し、必要に応じて改定する必要があります。現場の運用実態とかけ離れていないか、非効率な部分はないかなどをチェックしましょう。
ワークフローシステムによる効率化
- 紙ベースの稟議は、回覧に時間がかかったり、進捗状況が分かりにくかったりするデメリットがあります。近年では、稟議申請から承認・決裁までを電子的に行えるワークフローシステムを導入する企業が増えています。
- システム化により、申請・承認のスピードアップ、進捗状況の可視化、ペーパーレス化、記録管理の容易化、内部統制の強化といったメリットが期待できます。
自身の会社に合った稟議規程を作成しよう
稟議規程は、日本企業特有の稟議制度を円滑かつ適正に運用するための基本的なルールブックです。その目的は、意思決定プロセスの標準化、責任と権限の明確化、内部統制の強化、そして効率的な業務執行の実現にあります。
規程には、稟議の対象、書式、承認ルート、決裁権者などを具体的に定める必要があり、特に「決裁」との違いを正しく理解しておくことが重要です。稟議は承認プロセスであり、決裁は最終的な意思決定です。
定められた稟議規程は、全従業員への周知徹底と教育、定期的な見直し、そしてワークフローシステムの活用などを通じて、実効性のあるものとして運用していくことが求められます。自社の稟議規程を正しく理解し、適切に運用することで、よりスムーズで健全な組織運営に貢献できるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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