• 更新日 : 2024年8月29日

基本契約書とは?書き方や個別契約書との比較を解説

本記事では基本契約書の知識とともに、電子契約のメリットをご紹介します。契約書の中には、「基本契約書」と「個別契約書」に分けられるものがあります。事業者間の継続取引における基本事項を定めたものが「基本契約書」、個別取引における細目を定めるものが「個別契約書」で、セットで取引を行うのが一般的です。契約書には印紙税がかかりますが、電子契約には原則かかりません。

基本契約書とは

ビジネス上の取引では商品の売買や業務の委託などを反復継続的に行うケースが多く、その際に「基本契約書」が作成されることがあります。

基本契約書とはあらかじめ取引の継続を見越し、今後の個別取引に共通する事項を定めた契約書のことです。

同じ相手方と同じような取引を続ける場合、毎回一から契約書を作成すると手間がかかるため、共通事項を基本契約書にまとめておきます。
基本契約書としての性質を有している契約書であっても、表題に「基本契約書」と記載されているとは限らず、またその記載も義務ではありません。単に「○○契約書」と記載されていることもあります。

基本契約書になるかどうかの判断でポイントになるのは、形式的なことではなく実質的なことです。後述する印紙税の課税においても、契約の種類の判別が重要です。

取引基本契約書と基本契約書の違い

「取引基本契約書」と「基本契約書」の記載内容に差異はなく、同じ意味で使われるケースも少なくありません。契約内容を明確にするため、契約書の表題部分に契約形態を記載して区別するのが一般的です。

契約の種類は、典型契約と非典型契約に分けられます。典型契約は、民法で13類型に分けて規定され、委任契約や請負契約などが含まれます。非典型契約は、民法で13類型に定められていない契約形態です。民法では、契約が成立する要件を以下のように定めています。

第522条(契約の成立と方式)
契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

引用:民法|e-Gov法令検索

契約は原則として双方の意思表示の合致が成立要件なので、契約書を作成する必要はありません。ただし、契約によっては、特別法などによって契約書の作成が義務付けられている場合があるため、作成時に確認する必要があります。

取引基本契約書は、各種契約において基礎となる内容を定めた契約書といえます。

取引基本契約書と売買基本契約書の違い

一般的に、「取引基本契約書」と「売買基本契約書」は同じものとして扱われます。契約全般の取引について作成される契約書の総称を「取引基本契約書」、売買契約特有の項目を追加したものを「売買基本契約書」と呼びます。

民法では、売買契約が成立する要件を以下のとおり規定しています。

第555条(売買)
売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

引用:民法|e-Gov法令検索

売買基本契約書は民法555条の売買に準じているため、瑕疵担保責任や危険負担などの事項を定める場合があります。取り扱う品目によって必要となる事項は異なるため、契約内容に合わせて検討するとよいでしょう。

個別契約書との違い

基本契約書に基づいて繰り返される個別の受発注において、発注書や注文書などが交わされることがあります。本来、契約書は双方の意思の合致を証明する形で作成されますが、一方が作成する発注書なども実質的な契約書とみなされることがあります。
ここで想定している事業者間の取引においては、基本契約書が交わされ、「平常取引のある者から」申し込みを受けたといえる場合、遅滞なく拒絶の回答をしなければ申し込みを承諾したものとみなされます。よって、発注書なども基本契約書に対する「個別契約書」として機能します。

例として、ある企業がWebコンテンツの作成をフリーランスに依頼するケースを考えてみましょう。

受発注の繰り返しを前提として業務委託契約書が作成されている場合、これは基本契約書に相当します。「○○に関する業務を委託する」などと記載され、他に契約期間や報酬に関することなどを記載します。

しかし、この契約書に個々のWebコンテンツの内容や納期、単価を記載するのは難しいでしょう。その場合は、個別の事項に関して都度発注書を作成するほうが簡便です。

個別契約書の書き方は発行元によって変わりますが、一般的には具体的な仕事内容や契約金額、納期などを記載します。表題に「発注書」や「注文書」などと記載されていると契約書には見えませんが、これまでの継続的取引や商慣習に基づき、基本契約書との関係においては「個別契約書」にあたります。

基本契約と個別契約はどちらが優先される?

基本契約書と個別契約書において、一部の条項が異なることがあります
例えば、基本契約書に「単価10,000円」と記載されているにもかかわらず、個別契約書に「単価15,000円」と記載されていると、どちらが適用されるのかがわかりません。

この場合は、まず「優先条項」の有無を確認します。
基本契約書または個別契約書に優先条項が設けられていれば、どちらの内容に従うべきかを判断できます。例えば「個別契約書の内容と矛盾が生じたときは、個別契約書で定めた内容を優先する」との記載があれば、それに従います。

優先条項が設けられていない場合は、個別の事情に合わせてどちらを優先すべきかを判断しなければなりません。そのため発注や受注の場面では、基本契約と個別契約の内容に矛盾がないか確認する必要があります。矛盾がある場合は契約の履行前に確認し、トラブルの防止に努めるべきです。

基本契約と個別契約の内容のどちらを優先するかは、十分検討する必要があります。
基本契約を優先すれば統一的に処理しやすくなるため、混乱が起こりにくくなるでしょう。個別契約を優先すれば柔軟に対応できるため、お互いのニーズに合った個別契約を締結しやすくなります。

なぜ基本契約書を作成する必要があるの?

「なぜ、わざわざ契約書を2つも作成するのか」「混乱を招くだけではないのか」と思うかもしれませんが、基本契約書を作成しておくことには以下のメリットがあります

  1. 取引内容の明確化
  2. 取引の円滑化

もちろん、どちらも契約書が適切に作成されていることが前提です。それぞれについて、詳しく見ていきましょう。

取引内容の明確化するため

共通事項を基本契約書で取りまとめ、個別の発注内容等を個別契約書として伝えることで、取引内容が明確になります。

優先条項がなく矛盾する条項が多いと、取引内容が明確にならないだけでなく、かえって不明瞭になるおそれがあります。
事前にこの問題を認識し、適切に両契約書を作成できれば、お互いに明文化された共通認識を持つことができます。事細かく基本契約書にまとめても明文化を図れますが、基本的事項まですべて個別契約書に書き込むと長くなり、明確さを欠いてしまいます。
個別の依頼における必要事項のみを個別契約書に記載すれば、依頼された仕事を遂行する側も、何をどのように行うべきかを容易に把握でき、確認作業などの無駄なコミュニケーションも減ります。

取引を円滑に遂行するため

両契約書が適切に作成されていると、取引が円滑になります。

基本契約書は、継続的取引が始まる前に作成する必要があります。手間はかかりますが、毎回一から契約書を作成するほうがずっと大変です。毎回契約書の条項をチェックしなければなりませんし、ミスも発生しやすくなります。ビジネス上の取引は、迅速に進めることが大切です。個々のやり取りに多くの時間を費やしていては、収益機会の逸失につながるでしょう。

基本契約書の書き方

基本契約書の書き方で重要なのは、同種の契約書でよく盛り込まれている条項の必要性を正しく把握した上で、個別の事情に応じて自社(自己)と相手方との取引にマッチした内容にすることです。

インターネット上で探せば、契約の類型別に基本契約書の雛形を見つけることができますが、そのまま流用するのは危険です。とはいえ、完全にオリジナルの条項を一から考えるは非効率ですし、盛り込むべき基本的条項が抜けてしまうおそれもあります。
あくまで雛形契約書は参考にとどめて、個々の契約内容に合わせて作成するようにしましょう。

費用がかかりますが、契約書の作成は弁護士や行政書士などに依頼することもできます。取引金額が大きい場合や紛争リスクが大きい場合は、専門家に依頼することをおすすめします。

基本契約書に必要な項目

基本契約書の記載事項に決まりはありませんが、一般的には以下の条項を設けます。

  • 契約の目的
  • 契約期間
  • 報酬の定め方
  • 報酬の支払方法
  • 報酬の支払時期
  • 契約解除事由
  • 損害賠償に関する取扱い
  • 専属的合意管轄裁判所
  • 優先条項

その他、契約の内容に応じて「商品等の引渡し方法」「商品等引渡し後の検査方法」「所有権の移転時期」「知的財産権の取扱い」「秘密保持義務規定」「危険負担」「契約不適合責任」についても定める場合があります。

契約の当事者を「甲」「乙」として、それぞれの名称や氏名、住所等も明確にしておきましょう。

基本契約書(取引基本契約書)のテンプレート

ここでは「基本契約書」の作成において、一般的に基本となる記載事項を解説します。
テンプレートは下記からダウンロードできます。締結する契約内容に合わせて、追加・削除してください。

基本的な記載事項

  • 契約の目的・期間
    契約の種類、内容、契約期間を記載します。更新の有無、その方法なども併せて記載するとよいでしょう。
  • 報酬に関する定め
    報酬を定める方法、報酬や必要費の振込口座、支払時期などを記載します。
  • 契約解除事由
    解約の申し出や、反社会勢力の排除条項などに関わる事項です。民法に準じて作成するとよいのですが、一方が不利な内容になっていないか確認する必要があります。契約の具体的な事案を考慮すべきです。
  • 損害賠償の定め
    損害賠償の範囲を明確にする必要があります。民法では、「通常生ずべき損害」に加え「予見すべき特段の事情によって生じた損害」と定めています(民法第416条)。実際に与えた損害に限定することで、賠償責任を負う場合にリスクを軽減することができます。
    参考:民法|e-Gov法令検索
  • 裁判管轄
    原則、相手方の住所地が管轄になります(民事訴訟法第4条1項)。訴訟になった場合、合意管轄として定めておくことで手続きを円滑に進めることができます。
  • 優先事項
    基本契約書と個別契約書のどちらが優先するかを定めます。業務内容によりますが、契約書を作成する目的から、個別契約を優先するのが一般的です。

その他記載があると望ましい事項

記載すべき内容は契約内容によって変わるため、作成時に検討する必要があります。ここでは、上記の記載事項の他に、よく定められる事項を解説します。

  • 所有権の移転
    民法の規定に従う場合の他、移転時期の特約にも注意が必要です(民法176条)。所有権の移転時期は検品、引渡しの時期にも関連します。
  • 期限の利益喪失
    民法137条の規定に準じ、追加して定めることで債権回収不能のリスクを軽減できます。
  • 通知に関する事項
    会社の代表者や住所等を変更する場合に通知する旨を記載します。書面による通知を要する旨の他、変更が生ずることがわかっている場合は○ヶ月前と期限を定めるとよいでしょう。
  • 契約不適合責任(瑕疵担保責任)
    特に売買契約において重要な項目です。主に目的物の種類や数量、品質などに対しての責任負担を定めるものです。
  • 秘密保持契約
    秘密情報を明確に定義する必要があります。契約終了後も適用されるケースが多く、期限が定められている場合もいつまでになるのか、注意が必要です。
  • 反社会勢力の排除条項
    どのような場合が反社会勢力にあたるかなどを明確に記載します。契約書とは別に、誓約書などで取り交わされる場合も多い、重要な事項です。
  • 協議
    契約書に記載していない予期せぬ事態などを補填するために記載します。

民法改正による基本契約書への影響は?

近年は民法が大きく改正されており、基本契約書の作成にも影響を与えています。
その中で、特に重要な「危険負担」と「瑕疵担保責任(契約不適合責任)」について解説します

危険負担について

危険負担とは「売買等の契約が締結されてからその目的物の引渡しまでに、当事者の責めに帰することができない事由により目的物が滅失・損傷した場合、どちらがそのリスクを負うのか」という問題のことです。

危険負担に対して、民法改正前は原則として「債務者主義」と呼ばれる考え方が採用されていました。これは、「履行不能になった債務の債権者」が負担している債務(反対債務)が消滅し、債務者が危険を負担するという考え方です。

例えば、講演の依頼をしたものの自然災害により履行が不能になった場合は、その反対債務である金銭の支払債務が消滅し、履行不能になった債務の債務者がその負担を負います。

着目する債務によって債務者が変わるため混乱するかもしれませんが、「履行不能になった債務」を基準に債務者を判断し、そのリスクを債務者が負う考え方(債務者主義)と捉えるとよいでしょう。

民法改正前は、特定物の売買契約においては例外的に「債権者主義」が採られていました。どちらにも責任がなく特定物が滅失した(引渡し債務が履行不能になった)としても代金の支払債務は残り、履行不能になった債務に係る債権者(買主)がその負担を負うとされていたのです。

改正民法では危険負担について特定物かどうかを区別せず、「債務者主義」に従うのです。

上記の特定物の売買の例では、天災等によって滅失した場合、債権者は代金の支払債務の履行を拒むことができるようになったのです。

民法が改正されたとはいえ、当該ルールは任意規定です。基本契約書に危険負担に関する条項を設けて、これとは異なる定めを置くこともできます。
「これまでは民法のルールに依拠して別途条項を設けなかった」という場合はもちろん、トラブル防止の観点からも、危険負担について契約書に定めておくことをおすすめします。

買主側・発注側は、債務者主義を採用する形で危険負担の条項を設けたほうが有利ですが、一方的な内容に同意が得られないことも考えられるため、民法の原則に沿って「引渡しにより危険が移転する」旨を明記するといった運用が考えられます。これにより、納品前の滅失等については支払義務が生じず、納品後は支払義務が生じることが明確になります。

売主側・受注側は、債務者主義となるような条項が記載されていないかチェックしましょう。より有利にしたい場合は、引渡しによる危険の移転ではなく「検査合格後に危険が移転する」と定めるとよいでしょう。

瑕疵担保責任について

瑕疵担保責任とは特定物売買などの目的物に欠陥があった場合における責任のことで、改正前の民法において規定が置かれていた概念です。

改正民法では「瑕疵」ではなく、「契約不適合」という表現に代わっています。
これは、特定物に隠れた瑕疵があった場合の責任について、瑕疵担保責任として別途規定を設けるのではなく、特定物も不特定物も含めて債務不履行一般と同様に扱えるようにしたことに由来します。
そのため、今後作成する契約書でも「瑕疵」ではなく「契約の内容に適合しない」といった表現を使用したほうが、法律に沿った内容になります。

改正前は、隠れた瑕疵がある物を売った場合に、買主は売主に損害賠償請求ができることになり、契約の目的を達することができないなら契約解除ができる旨が規定されていました。

改正後は、代替品提供による追完や代金減額の請求の他、債務不履行一般で債権者に認められる損害賠償請求や契約解除などが可能になります。
契約不適合の責任が問題になることが多いのは売買契約ですが、他の有償契約に関してもその性質に反しなければ、このルールが準用される可能性があります(請負契約など)。

基本契約書においては、売主側・請負人側は契約不適合責任の免除や期間制限の条項を置いたほうが有利です。しかし、相手方に拒まれる可能性があるため「追完と代金減額の選択ができる」や「追完の方法を指定できる」といったことを設けられないか検討するとよいでしょう。また、買主・発注者の代金減額請求について制限規定を設けるのも有効です。

買主側・発注側は契約不適合責任を重くしたいと考えますが、相手方との交渉で代金や報酬額が上がる可能性や、同意を得られない可能性があります。そのため、やはり追完請求と代金減額の請求の選択ができることや追完方法の指定ができること、代金減額の計算方法等によって調整できないか検討するとよいでしょう。また、民法で定められているケース以外でも、催告なしに代金減額が請求できるようにするのも有効です。

一般的に基本契約書には印紙代が必要

契約書を始め、経済取引で発生する一定の文書には「印紙税」が課税されます。
印紙税が課税されるかどうかは印紙税法で規定されており、これを「課税文書」と呼びます。課税文書かどうかは、文書に記載されている内容に基づいて実質的な判断が行われるため、表題に「契約書」と記していなかったとしても課税される場合があります。

基本契約書を取り交わした場合、「契約書」と記載していなかったとしても課税対象になるケースがほとんどです。

印紙税額は文書の種類によって異なります。例えば基本契約書は性質上「7号文書」に該当するため、1通または1冊につき4,000円が課税されます。

「7号文書」とは「継続的取引の基本となる契約書」のことで、売買取引基本契約書や下請基本契約書などが該当します。具体的には売買等を継続的に行うために、その後の複数の取引に共通する基本的条件として「目的物の種類」「取扱数量」「単価」「対価の支払方法」などの事項を1つ以上定めている契約書は、7号文書に該当します。

ただし、この要件を満たす基本契約書であっても、3ヵ月以内の契約期間が契約書に記載されており、かつ更新の定めがない契約書は7号文書に該当しません。

電子契約では基本契約書の印紙が不要になる

印紙が必要になるのは、書面で契約書を交わした場合です。
電磁的記録により契約を締結する「電子契約」では書面の交付がないため、印紙税はかかりません

そのため、契約書の作成を電磁的記録として行うことでコストを削減できます。

マネーフォワード クラウド契約を活用すると基本契約書の印紙代は不要になる!

マネーフォワード クラウド契約」を使えば、効率的に電子契約を締結することができます。画面上で取引先情報や契約日などの契約情報を入力し、電子印鑑の押印位置等を設定。入力項目を確認し、取引先に押印申請を送信すれば電子契約が完了します。
電子契約であれば印紙税だけでなく郵送代もかからないため、作業の効率化に加えてコストカットも期待できます。
他にも電子契約に必要な機能が搭載されていますので、導入を検討してはいかがでしょうか。

よくある質問

基本契約書とは何ですか?

基本契約書とは反復継続的な取引を見越して、今後の個別取引に共通する事項を定めた契約書のことです。詳しくはこちらをご覧ください。

基本契約と個別契約の違いは何ですか?

基本契約は継続的取引における共通ルールを定めるもので、個別契約は納期など個々の契約条件を定めるものです。詳しくはこちらをご覧ください。


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