- 更新日 : 2024年10月29日
秘密保持契約書のチェックポイントは?知的財産権についても解説
秘密保持契約書(NDA)は、企業間での契約や業務提携の際に、秘密事項の漏えいを防ぎ自社の利益を守るために発行される書類です。
秘密保持契約書は、情報を開示するか受領するかで、記載内容が異なります。この記事では、秘密保持契約書を作成する際のチェック事項を、情報の開示側と受領側の観点からそれぞれ解説します。
目次
秘密保持契約書とは
秘密保持契約書(NDA)は、契約や業務提携の際、機密事項を漏えいさせないために発行する書面です。「NDA」は「Non-Disclosure Agreement」の頭文字で、機密情報を本来の目的以外で利用することや、第三者への情報開示を制限するために使用されます。
以下、秘密保持契約書の発行目的や契約締結のタイミング、秘密保持誓約書との違いに焦点を当てて解説します。
目的
秘密保持契約書の利用目的は、機密情報や知的財産の漏えいや不正利用を防ぐことです。
業務提携にあたっては、自社の技術や事業内容といった「秘密情報」を相手方に開示することが想定されます。秘密保持契約は、業務に関係ない第三者に秘密情報が漏えいしないよう適切に管理し、情報を開示した企業の利益を守るために締結されます。
しかし、受け取った秘密情報はすべてにおいて第三者に伝えてはいけないなど、必要以上に相手方が不利となる契約にしてはいけません。双方が納得できるよう、内容を調整する必要があります。
秘密保持契約を締結するタイミング
秘密保持契約は、以下のタイミングで締結します。
- 相手方と商談や打ち合わせを開始する際
- 資本提携や業務提携の検討前
- 技術情報を開示する前
契約より前に締結するのは、プロジェクトや商談に際して秘密情報を開示する必要があるからです。秘密保持契約を締結していなければ、自社の技術情報が外部に漏えいし、重大な損失を招くかもしれません。自社の重要な技術や利益を保護するために、秘密保持契約は締結されます。
秘密保持誓約書との違い
秘密保持契約書と秘密保持誓約書は、当事者が異なります。
秘密保持契約書の当事者は、秘密情報の開示者と受領者の双方です。企業対企業、もしくは企業対個人事業主の取引で、双方が秘密を保持し、適切に管理するために契約を締結します。
一方、秘密保持誓約書は会社と従業員との間で取り交わす書類です。従業員が、業務上知り得た秘密情報を漏えいしないよう、入退社時に交わされます。秘密保持誓約書では、従業員だけが秘密保持の義務を負います。会社は秘密を保持することが当然であるため、誓約の対象外です。
秘密保持契約を締結する場面
秘密保持契約を締結するのは、主に以下の3つの場面です。
- 業務提携・業務委託を行う
- 業務提携や資本提携を実施する
- 新規に取引を検討する
各場面でどのように秘密保持契約書を使用するのか、見ていきましょう。
業務提携・業務委託を行う
業務提携の場合、必ず秘密保持契約の締結を行います。業務提携とは複数の企業がそれぞれ経営資源を出し合い、協力して事業成長や競争力の向上を図る形態です。
業務提携では、自社で開発途中の製品やプロジェクトについて機密事項を第三者に伝える必要があります。万が一機密事項が漏えいしてしまうと、自社の利益を逸失しかねません。機密事項の漏えいを防ぎ自社の利益を守るために、業務提携の際は秘密保持契約を締結します。同様の理由で、自社の業務を他社に委託する業務委託でも、秘密保持契約の締結が必須です。
共同制作や共同開発を行う
自社製品を他社と共同で製作したり開発したりする場合も、秘密保持契約を締結します。
共同制作や開発の際は、新たに販売する製品に関する機密情報を提携先に伝えなければなりません。ここで新製品の情報が発売前に外部に漏れてしまうと、情報をもとに他社に先を越されてしまい、自社が得るべき利益を失うおそれがあります。
特許を取得しようと考えている場合、情報が漏えいしてしまうと特許が取得できません。特許取得の条件となる「新規性」が守られていないとみなされるためです。上記のように共同制作や開発で得られる利益を守るために、秘密保持契約は必須となります。
新規に取引を検討する
新規に取引を検討する際も、秘密保持契約の締結が必須です。
取引を行う前に、双方の秘密事項をある程度共有する必要があります。秘密情報を共有することで、取引をすべきかの判断材料とするためです。
たとえ取引がはじまらなくても、秘密情報に関する守秘義務は遵守されなくてはなりません。秘密保持契約は、商談の段階から適切に情報を管理し、漏えいを防ぐために締結されます。
秘密保持契約書をチェックする前に確認する事項
秘密保持契約書は、自社が情報の開示側である場合と受領側である場合で、取るべきスタンスが異なります。秘密保持契約書をチェックする際は、自社が情報を開示する側か受領する側かでチェック箇所が異なります。
ここからは、秘密保持契約書をチェックする前に確認する事項について、自社が情報開示する場合と受領する場合に分けて解説します。
自社が情報を開示する場合
自社が情報を開示する側である場合、自社の秘密が漏えいされないよう、受領側に対する秘密保持義務が重く設定できているか確認しましょう。以下の点について、重点的に確認します。
- 定められた目的以外で秘密情報を利用したり開示したりしないよう義務づけられているか
- 将来、特許権を取得する可能性に備えられているか
- 受領側が秘密を保持しなかった際に、損害賠償や差止請求ができるか
自社が情報を受領する場合
自社が情報を受領する場合は、開示側の観点とは逆になります。できる限り秘密保持義務が軽くなっているかどうかがポイントです。以下の点を重点的にチェックしましょう。
- 「秘密情報」の内容が具体的に定義され、責任を負う範囲が限定されているか
- 通常の利用において、適切に第三者に秘密情報を共有できるようになっているか
- 想定内の利用方法であっても契約違反となる文言がないか
秘密保持契約書のチェックポイント
ここからは、秘密保持契約書の項目別にチェックポイントを解説します。特に秘密情報の定義や保持義務の範囲に関して、自社が開示側か受領側かでチェックすべき内容が変わります。
秘密情報の開示目的
秘密保持契約書においては、どのような目的で秘密情報を開示するのか明確に記載しなければなりません。下表のように具体的な目的を明記することで、相手方が情報を不適切に利用するリスクを低減できます。
締結目的 | 記載する文言 |
---|---|
新規取引の検討 | 新規取引の可能性を検討するにあたり |
共同開発 | 共同開発を検討するにあたり |
あわせて、目的外で秘密情報を使用することを禁止する規定も必要です。開示側であれば特に、受領者が目的外で秘密情報を使用してはならないことを明記しておきましょう。受領側である場合は、正式契約を締結した場合や開示側の承諾を得た場合は秘密情報を使用できる旨を記載しておきます。
秘密情報の定義
秘密保持契約書では、秘密情報の定義も必須です。文書や口頭、電子データによる秘密情報の伝達など、秘密情報に含まれる情報の形式や種類を、契約書内で具体的に定義します。
情報の開示側の場合
情報を開示する側は、提供する情報を確実に保護するために「渡したすべての情報について秘密を保持すべき」としておくと安全です。ただし、開示があった際にすでに知られていた(公知だった)情報については、例外としておきます。
以下が「公知の情報」の一例です。
- 情報の開示時に、すでに受領側が保有していた情報
- 開示後に、受領側の問題によらず公知となった情報
- 秘密保持義務を負うことなく、正当な権限を有する第三者から受領者が適切に取得した情報
情報の受領側の場合
情報を受領する側である場合、何が秘密情報なのか限定しておきます。開示側からの情報がすべて「秘密情報」とされると、管理が大変になるからです。
- 「秘」「秘密」などと情報の媒体に印を付す
- 秘密情報であることを口頭で明示する
- 開示の際または開示後○週間以内に、秘密である旨を文書で通知する
上記のように、秘密情報の具体例を示しておきましょう。
秘密保持義務の範囲
秘密保持契約書では、受領者が秘密情報を開示できる範囲が規定されているかも確認します。こちらも、自社が開示側か受領側かで規定が変わる点に注意が必要です。
情報の開示側の場合
自社が開示側である場合は、受領側が秘密情報を開示できる相手を限定し、開示された関係者にも秘密保持義務を負わせることを求められます。適切に秘密を守り情報漏えいを防ぐことが目的です。
特に、受領者のコンサルタントやアドバイザー、業務委託先などが開示対象者となっている場合、対象者が情報開示すべき相手となり得るのかをあわせて検討しましょう。
情報の受領側の場合
自社が受領側である場合は、秘密情報を開示したい相手にきちんと開示できることを規定されているかをチェックします。秘密情報を開示したい相手とは、以下のような関係者です。
- 親会社
- 子会社
- 系列会社
- 取引先
- 業務提携・委託先
必要に応じて、関係者に秘密情報を共有できる契約にしておきましょう。
秘密保持義務の存続期間
秘密保持契約は、存続期間を定めておかなければなりません。例えば、業務委託契約を締結する場合に、業務委託契約と秘密保持契約を同じ期間にしてしまうと、契約終了と同時に秘密情報の保持義務も終了してしまいます。結果、秘密の漏えいも考えられることから、業務委託契約が終了してからすぐではなく、数年先まで秘密保持契約を有効にしておくと安全です。
開示側であれば、秘密保持契約は長いほうが有利です。受領側の場合、自社が問題なく管理できる期間を設定します。存続期間が必要以上に長いと、情報の管理コストが増えるからです。
秘密情報の複製
秘密保持契約書には、秘密情報の複製禁止についても記載があるか確認しましょう。複製に含まれるのは、主に以下の行為です。
- 書類のコピー
- パソコンへのデータ保存
- メール送信
秘密情報は原則的に複製禁止とはいえ、すべて禁止にすべきではありません。業務上のメール送信やコピーなどまで禁止してしまうと、開示することで目指している目的を達成できなくなります。
本来の目的を遂行するために、業務上必要であれば複製を許可するなど、必要に応じて許可する規定を含めておきましょう。あわせて、複製によりできた複製物も秘密情報に含まれることも明記しておきます。
秘密保持契約書における知的財産権の取り扱い
秘密保持契約書においては、知的財産権の帰属が問題となりがちです。締結する段階ですでに保持していた知的財産権と、共同開発の成果物に関する知的財産権で、問題が異なります。
締結する段階ですでに保持していた知的財産権
秘密保持契約を締結する段階では、発明や考案といった知的財産権の帰属には影響を及ぼしません。知的財産権を機密事項として共有したとしても、知的財産権の使用権やライセンスについては開示者が保持するままとなります。開示者である自社が保持せず、知的財産権の所有者が移転して受領者が保持するような契約になっていてはいけません。
共同研究の成果物に関する知的財産権
共同研究で何らかの成果物を生み出した場合、成果物の知的財産権は誰が所有するか定めておく必要があります。中小企業庁のホームページでは、次のように秘密保持契約書におけるひな形のポイントが定められています。
- 一方当事者のみが秘密保持義務を負うのではなく、両当事者が公平に秘密保持義務を負う
- 当事者が知的財産に対する意識を高めるためにも、相互に守るべき秘密を指定する
- 相手方に情報提供をしたことをもって、権利や利益についてまで、相手方に譲渡することにはならない
- 技術・ノウハウに関して意に反した情報提供義務を負わない
秘密保持契約書の内容に違反するとどうなる?
秘密保持契約に違反すると、一般的には損害賠償請求が行われます。秘密情報の受領者は、自らが行った情報漏えいや不正使用によって、情報開示者が被った損害に対して賠償金を支払わなければなりません。開示者が受領者に対して、秘密情報をこれ以上利用しないよう求める差止請求を行う場合もあります。
秘密情報が不正競争防止法に基づく保護対象となる場合は、差止請求や損害賠償請求のほか、侵害行為を行った物の廃棄や除却を要求する「廃棄除却請求」もなされます。
秘密保持契約に違反するとさまざまな法的措置が取られますが、秘密保持契約自体は解除とはなりません。秘密保持契約に違反した場合、契約を解除してしまうと守秘義務が消失、情報漏えいのリスクが高まります。秘密保持契約書では、秘密保持契約に違反した場合でも契約はすぐ解除されない旨が記載されているケースがほとんどです。
秘密保持契約の違反は、将来的な関係の構築にも影響を及ぼします。秘密保持契約の違反により、契約相手はおろか、将来ビジネスを一緒に行うかもしれない企業からの信頼もなくしかねません。
自社の利益を守るため適切な秘密保持契約書の作成を
秘密保持契約書は、業務提携や業務委託、共同制作などを行う前に、企業がもつ秘密事項の漏えいを防ぎ、円滑に経営活動を営むために使用される書類です。秘密保持契約書は、自社が情報の開示者側か受領者側かで、記載内容やチェック内容が変わります。
秘密保持契約書では、知的財産権の取り扱いについても触れなければなりません。知的財産権は移転しない旨の記載や、必要に応じて双方で協議する旨の取り決めも必須です。
本記事を参考に、情報漏えいを防ぎ自社の利益を守るために、適切な秘密保持契約書を作成しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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