- 作成日 : 2024年2月9日
企業結合規制とは?独占禁止法における定義や審査や届出基準、事例をわかりやすく解説
独占禁止法における企業結合規制とは、企業結合により、企業同士が事業活動を共同して行う関係になり、業界内の競争が制限されることを避けるためのものです。M&A(吸収&合併)の際に、適用される場合があります。本記事では、企業結合ガイドラインを参考にしながら、企業結合規則の概要や種類、企業結合審査、事前届出制について解説します。
目次
独占禁止法が定める企業結合規制とは?
企業結合規制とは、複数の企業が合併やカルテル(企業連合)、トラスト(企業合同)などにより一体化し、市場内の競争が実質的に制限されることを防ぐために規制するものです。
企業間の結合関係が形成されると市場の構造が変化して競争が減少し、価格の高騰や品質の劣化などを招き、消費者が不利益を被る可能性があるため、規制されます。
企業結合規制は独占禁止法第4章で規定されており、競争を実質的に制限する企業結合は禁止されています。具体的な内容は以下のとおりです。
独占禁止法 | 対象 |
---|---|
10条 | 株式の取得 |
13条 | 役員の兼任 |
15条 | 合併 |
15条の2 | 会社分割 |
15条の3 | 株式移転 |
16条 | 事業譲渡 |
例えば、独占禁止法10条1項では、競争を実質的に制限するような株式取得を禁じています。また、合併や会社分割、事業譲渡など、M&Aのスキームごとに規制の内容が異なります。
参考:e-Gov法令検索 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
企業結合規制の種類
企業結合規制には、一般集中規制と市場集中規制という2種類の規制があります。
一般集中規制とは、企業間の結合により、過度な集中が起こることを防ぐための法律です。一方、市場集中規制とは一定の取引分野(企業結合により競争が制限されるかの有無を判断するための範囲)において、競争に影響をもたらす企業結合を規制する法律です。
本項では、企業結合規制の2つの種類を解説します。
一般集中規制
独占禁止法における一般集中規制は、特定の企業グループへの経済力の集中等を防止するための法律です。企業が合併・株式取得することによる事業支配力の過度な集中の抑制を目的としています。これにより、公正かつ自由な競争市場の維持が可能です。
また、以下2種類の内容があります。
規制 | 内容 |
---|---|
事業支配力過度集中の規制 | 事業支配力が過度に集中する会社の設立や転化の規制 |
銀行業・保険業を営む会社による議決権の取得等の規制 | 銀行や保険会社が他の国内の会社の議決権を5%を超えて保有する規制 |
独占禁止法9条は「事業支配力過度集中の規制」として、事業支配力が過度に集中する会社の設立・転化を禁止しています。他の事業者に与える影響が大きくなり、市場の健全な競争が阻害される恐れがあるためです。
また「銀行業・保険業を営む会社による議決権の取得等の規制」も行われており、銀行や保険会社は、他社の議決権の一定割合以上の保有が制限されています。具体的には、銀行は5%、保険会社は10%を超える保有が禁じられています。
市場集中規制
市場集中規制は、一定の取引分野において、競争の実質的な制限を与えることを防ぐために、企業結合を制限する法律です。
企業結合によって生じる市場支配の強化を未然に防ぎ、消費者や他の事業者の利益を保護するために規制されています。市場での過度な集中は、価格の不当な高騰を招く可能性があるためです。
具体的には、株式保有や合併などの結合を規制対象としています。
参考:公正取引委員会 法第9条に基づく事業に関する報告制度
参考:公正取引委員会 独占禁止法第11条の規定による銀行又は保険会社の議決権の保有等の認可についての考え方
企業結合規制の対象となる結合の種類
企業結合規制には、対象となる結合が3種類あります。
結合の種類 | 内容 |
---|---|
水平型企業結合 | 一定の取引分野において競争関係にある会社同士の企業結合 |
垂直型企業結合 | 取引段階が異なる会社間の企業結合 |
混合型企業結合 | 異業種間の会社同士の合併 |
本項では、それぞれの結合の特徴について解説します。
水平型企業結合
水平型企業結合は、同一市場において競争関係にある会社間の企業結合を指します。市場における競争に直接的な影響を及ぼすため、実質的に制限されます。
規制の対象となる理由は、結合によって消費者の選択肢が減少し、価格の不当な高騰につながるリスクがあるためです。
水平型企業結合には以下のような判断要素があります。
単独行動による競争の実質的制限 | 協調的行動による競争の実質的制限 |
---|---|
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|
水平型企業結合として独占禁止法により制限されるのか否かは、上記のような要素をもとに総合的に判断します。
ただし、HHI(ハーヒンダール・ハーシュマン指数、業界の市場における企業間の競争状態を測る指標)が企業結合ガイドライン(企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針)で定める指数を下回る場合には、上記の判断を要せずに実質的に制限されないとされることになります。
垂直型企業結合
垂直型企業結合は、製造業者と販売業者など、異なる取引段階にある企業間で行われる結合です。市場の閉鎖性や排他性を生じさせ、競争に実質的な制限を及ぼす可能性があります。
例えば、電子機器メーカーが、自社製品の主要な販売代理店を買収すると、他の販売業者が市場に参入しにくくなります。また、他のメーカーの製品が消費者に届きにくくなる恐れもあるでしょう。
また、垂直型企業結合も以下2種類の観点から検討します。
単独行動による競争の実質的制限 | 協調的行動による競争の実質的制限 |
---|---|
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ただし、特定の条件下では垂直型結合も許容されます。具体的には、結合後の企業グループの市場シェアが10%以下、またはHHIが2,500以下で、市場シェアが25%以下の場合です。
端的に言えば、結合によって競争が実質的に制限される可能性が少ない場合には、判断要素に関する検討が行われません。
混合型企業結合
混合型企業結合は、水平型や垂直型には該当せず、異業種間や地理的範囲が異なる企業間の結合です。
具体例として、国内の食品メーカーが海外の流通業者を合併する場合、直接的な競争関係になくても、市場へのアクセスに影響を及ぼす点が懸念されます。
判断要素は、水平型企業結合や垂直型企業結合と同様です。
単独行動による競争の実質的制限 | 協調的行動による競争の実質的制限 |
---|---|
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競争がどのような基準で制限されるのかを詳しく知りたい方は、企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針を参考にしてください。
参考:公正取引委員会 企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針
企業結合規制における事前届出制とは
日本市場に影響を与える可能性の高い企業統合計画には、会社に対して、事前届出が義務付けられています。
例を挙げると、独占禁止法第10条における株式取得において、一定の条件を満たす企業は、事前届出を行わなければなりません。
事前届出をする際には、書類の提出が求められます。また、届出前相談ができるため、必要であれば利用しましょう。
事前届出が必要になるケース
以下の条件を満たす会社が企業結合を行う場合、公正取引委員会への事前届出が義務付けられます。
出典:公正取引委員会 令和3年度における主要な企業結合事例について
株式譲渡を例に挙げると「合計売上額が200億円以上の会社が、50億円以上の売上を有する別の企業の株式を取得し、議決権保有割合が20%あるいは50%以上に達する場合」に事前届出を行わなければなりません。
具体例として、年間売上が300億円のA社が、年間売上が60億円のB社の株式を取得し、取得後にB社の株式の25%を保有することになった場合、A社は事前に届出を行う必要があります。
事前届出を行う手順
企業結合規制における事前届出は、以下の手順で行います。
- 書類の準備
- 届出前相談
- 届出書の提出
また、事前届出には、以下のような書類が必要です。
- 合併に関する計画届出書
- 届出会社の定款
- 合併契約書の写し
- 届出会社の最近一事業年度の事業報告・貸借対照表・損益計算書
- 届出会社の総株主の議決権の100分の1を超えて保有する株主の名簿
- 届出会社の属する企業結合集団の最終親会社の有価証券報告書
このなかでも合併に関する計画届出書は、吸収合併の内容や関連会社の情報、競合の情報などの記載が求められます。
書類が用意できたら、届出を行う前に、公正取引委員会に書類の記載方法を聞ける届出前相談が可能です。不明点がある場合は、届出書の提出前に利用しましょう。
注意点として、独占禁止法10条8項によると、公正取引委員会に届出書が受理されてから原則30日間は合併ができません。そのため届出書の提出は、余裕をもって合併の効力発生日の約40日以上前に行いましょう。
企業結合審査の内容
企業結合審査は、株式保有や役員兼任、合併、分割、共同株式移転、事業譲受けなどが対象です。具体的な審査の流れは、公正取引委員会のフローチャートを参考にしてください。
出典:公正取引委員会 企業結合審査の考え方について(参考資料)
審査プロセスは、第一次審査と第二次審査にわけられます。
第一次審査では、届出から30日以内に、独占禁止法上問題がなければ排除措置命令を行わない旨の通知が出されます。より詳細な審査が必要と判断された場合は、報告等の要請が行われる傾向です。
また、独占禁止法違反の疑いがある場合は、確約手続き(公正取引委員会と事業者との間の合意により自主的に解決する仕組み)の通知が行われます。
第二次審査では、届出受理後120日、または報告等が全て受理された後90日を経過するまでの期間内に、排除措置命令を行わない旨の通知がされるか、問題があれば確約手続通知や意見聴取の通知がされることになります。
企業結合規制の企業事例
企業結合規制の企業事例として、小麦粉の製造販売業を営む会社の株式取得の例を挙げて説明します。
本件では、A社がB社の株式に係る議決権の50%を超えて取得することを計画しました。検討として挙げられた点は、地域内で競争に与える影響が大きいと考えられた小麦粉の製造販売業における水平型企業結合です。
具体的には、以下のような点が検討されました。
検討された要素 | 判断内容 |
---|---|
当事会社グループの地位及び競争事業者の状況(当事会社グループの地位) | 株式取得後のHHIは約3,100、増分は700のため、セーフハーバー基準に該当しない |
市場シェア | 競争事業者は10社以上おり、当事会社 グループの株式取得後の市場シェアは約45% |
輸入 | 海外からの輸入は僅かであり、輸入圧力は認められない |
需要者からの競争圧力 | 需要者からの競争圧力が認められる |
本件では、競合業者が複数社いる点や需要者からの競争圧力が認められる点などを総合考慮し、一定の取引分野における競争を実質的に制限するとは認められないと判断されました。
このように、企業結合規制は、詳細な基準を設けて競合の制限にあたるか否かを判断します。
企業結合規制を知り、企業結合に関するルールを理解しよう
企業結合規制とは、M&Aや株式取得などにより、企業間に共同して事業を行う関係ができ、業界内の競争が制限されることを規制するための制度です。企業結合規制の種類として、一般集中規制や市場集中規制が挙げられます。
また、企業結合の規模が大きくなる場合には、事前届出が求められるため注意してください。より理解を深めたい方は、公正取引委員会のホームページを参考にして、最新の情報を確認しましょう。本記事で紹介した企業結合規制を理解して、法務業務に活かしてください。
参考:公正取引委員会 企業結合
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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