- 作成日 : 2024年12月3日
申込書は電子化できる?電子契約のメリットや保存手順・期間を解説
申込書を電子化するには、受領した紙の申込書をスキャンする方法と、最初から電子データで申込書を作成してもらう方法があります。いずれの場合でも、申込書データの保存にあたっては、電子帳簿保存法を遵守することが大切です。本記事では、申込書を電子化する方法や手順、申込書データの保存にあたって遵守すべきルールなどを解説します。
目次
申込書は電子化できる?
事業者が顧客に提出してもらう申込書は、2種類の方法で電子化することができます。
申込書とは
「申込書」とは、契約締結を申込む顧客が、事業者に対して提出する文書です。例えば、以下のような場面で申込書が作成されます。
(例)
- スポーツクラブに入会しようとする場合
- 学習塾に入塾しようとする場合
- オンラインサービスの利用を申込む場合
など
顧客が申込書を作成し、事業者に提出することで契約締結を申込むという流れです。事業者がその申込みを承諾すれば、顧客と事業者の間で契約が成立します。
申込書と混同しがちなのが「契約書」ですが、契約書は当事者双方が共同で作成(締結)する書面です。そのため、契約書が作成された時点で、双方の合意によって契約が成立したと見なされます。
申込書を電子化する2種類の方法
申込書は、以下の2種類の方法で電子化することができます。
- スキャナ保存
紙で作成してもらった申込書を、スキャンして電子データで保存します。 - 電子取引
最初から電子データで申込書を作成してもらいます。
申込書を電子化するメリット
申込書を電子化することには、以下のようなメリットがあります。
- 紙の申込書を保管するスペースが不要となる
- 検索機能などにより、申込書の管理がしやすくなる
- パスワードやアクセス権を適切に設定すれば、個人情報保護のセキュリティを強化できる
申込書を電子化する場合の注意点
申込書を電子化する際には、個人情報保護を徹底することが大切です。パスワードやアクセス権を適切に設定して、申込書データの流出を防ぎましょう。
また、申込書データを保存するにあたっては、電子帳簿保存法の規程を遵守する必要があります。後述するように、スキャナ保存と電子取引では保存方法が異なる点にご注意ください。
申込書を電子データで保存する手順
申込書を電子データで保存する手順を、以下の2つの場合に分けて解説します。
- 紙の申込書をスキャナ保存する場合
- 電子データで申込書を作成してもらう場合
紙の申込書をスキャナ保存する手順
紙の申込書をスキャナ保存する場合は、受領した申込書をスキャナにかけてPDFなどの形式で保存します。保存したデータファイルについては、個人情報が含まれていることを踏まえて安全管理措置を講じましょう。
紙の申込書をスキャンする際には、後述するように、電子帳簿保存法の要件を満たす必要がある点にご注意ください。
電子データで申込書を作成してもらう手順
電子データで申込書を作成してもらう場合は、以下のような方法が考えられます。
- 店舗に備え付けてある端末を用いて、申込書に必要事項を入力してもらう
- 顧客に対して申込書の様式をデータで送付し、顧客が自分の端末で必要事項を入力したうえで、メールなどで返送する
申込書の有効性を確保するうえで望ましいのは、申込書に顧客の電子署名を付してもらうことです。顧客に電子署名を行わせるには、電子契約サービスを利用する方法などが考えられます。
顧客から受領した申込書のデータは、後述する電子帳簿保存法の要件を満たす形で保存しましょう。
電子化した申込書には、電子帳簿保存法が適用される
スキャナ保存をした申込書や、当初から電子取引で提出を受けた申込書のデータは、電子帳簿保存法の要件を満たす形で保存する必要があります。
電子帳簿保存法の詳細については、以下の記事をご参照ください。
紙の申込書をスキャナ保存する場合と、申込書の電子取引データを保存する場合につき、それぞれの満たすべき要件を解説します。
紙の申込書をスキャナ保存する際の要件
紙の申込書をスキャナ保存する際には、以下の要件を満たす必要があります。
①入力期間
以下のいずれかの期間内に、申込書をスキャナ保存する必要があります。
- 申込書を受領してから、おおむね7営業日以内に保存する
- スキャナ保存に関する事務処理規程を定めたうえで、業務処理サイクルの期間(最長2ヵ月)を経過した後、おおむね7営業日以内に保存する
②解像度
スキャナ保存の解像度は、200dpi以上とする必要があります。
③カラー画像
赤・緑・青それぞれ256階調(24ビットカラー)以上で読み取る必要があります。
④タイムスタンプの付与
原則として入力期間内に、スキャナデータにタイムスタンプを付す必要があります。
ただし、データの訂正・削除を行った事実や内容を確認できるクラウド等、または訂正・削除を行うことができないクラウド等において、入力期間内にスキャナ保存をしたことを確認できる場合は、タイムスタンプの付与は不要です。
⑤ヴァージョン管理
データの訂正・削除を行った事実や内容を確認できるクラウド等、または訂正・削除を行うことができないクラウド等を使用する必要があります。
⑥帳簿との相互関連性の確保
申込書のスキャナデータと、そのデータに関連する帳簿の記録事項の間で、相互にその関連性を確認することができるようにしておく必要があります。
⑦見読可能装置の備付け
14インチ(映像面の最大径が35cm)以上のカラーディスプレイおよびカラープリンタ、ならびに操作説明書を備え付ける必要があります。
⑧速やかな出力
申込書のスキャナデータを、以下の4つを満たす状態で速やかに出力できるようにする必要があります。
- 整然とした形式
- 書類と同程度に明瞭
- 拡大または縮小して出力することができる
- 4ポイントの大きさの文字を認識できる
⑨システム関係書類等の備付け
スキャナ保存するシステム等につき、以下の書類を備え付ける必要があります。
- システム概要書
- システム仕様書
- 操作説明書
- スキャナ保存する手順や担当部署などを明らかにした書類
⑩検索機能の確保
原則として、申込書のスキャナデータにつき、次の要件での検索ができるようにしておく必要があります。
- 取引年月日その他の日付、取引金額および取引先での検索
- 日付または金額に係る記録項目について範囲を指定しての検索
- 2つ以上の任意の記録項目を組み合わせての検索
ただし、税務職員の求めに応じて、スキャナデータをダウンロードできるようにしていれば、(b)と(c)の要件は不要です。
申込書の電子取引データを保存する際の要件
当初から電子データで提出を受けた申込書を保存する場合は、「真実性」と「可視性」の要件を満たす必要があります。
①真実性の要件
保存した申込書のデータが改ざんされないように、以下のいずれかの措置を講じる必要があります。
- 事前にタイムスタンプを付与する
- 申込書を受領した後で速やかにタイムスタンプを付与し、保存者または監督者の情報を確認できるようにする
- 訂正・削除の履歴を確認できるシステム、または訂正・削除ができないシステムを利用する
- 不正な訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定め、運用する
②可視性の要件
税務調査官の求めに応じて、申込書のデータをスムーズに出力できるように、以下の措置をすべて講じる必要があります。
- モニターと操作説明書を備え付ける
- 一定の要件を満たす検索機能を確保する(前々事業年度の売上高が5,000万円以下の方、電子取引データをプリントアウトして日付および取引先ごとに整理している方は不要)
- 自作プログラムを用いる場合は、システムの概要書を備え付ける
電子化した申込書の保存期間
電子データによって保存する申込書の保存期間は、下表の通りです。
法人 | 7年 ※以下の事業年度においては10年(2018年4月1日より前に開始した事業年度は9年) |
---|---|
個人事業主 | 5年 |
申込書を電子化するなら、電子帳簿保存法のルールに注意しましょう
申込書を電子化すると、紙の保管スペースが不要になる、検索機能によって管理がしやすくなる、セキュリティを強化できるなどのメリットがあります。
申込書を電子化する際には、受領した紙の申込書をスキャナ保存するか、はじめから電子データで申込書を提出してもらいましょう。
電子化の方法によって、申込書データを保存する際に満たすべき電子帳簿保存法上の要件が異なります。電子帳簿保存法のルールを正しく理解したうえで、適切な方法で申込書データを保存しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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