• 作成日 : 2024年12月2日

雇用契約書は飲食店にも必要?労働条件通知書との違いや記載事項を解説

飲食店で従業員を雇う時は雇用契約書および労働条件通知書を作成しましょう。雇用契約書に関しては作成義務がないものの、トラブル予防のため必要となります。一方で労働条件通知書については交付義務があるため、働いてもらうのが知人であっても省略はできません。

これら雇用契約のルール、契約書のひな形も併せて紹介していますので、ぜひご一読ください。

▼飲食店向け雇用契約書のテンプレートは以下よりダウンロードいただけます。

雇用契約書とは

雇用契約書とは、会社などの使用者と従業員となる労働者との間で合意した労働条件に関して、その内容を明確にするための文書のことです。

具体的には、従業員がどのような仕事をし、どれだけの時間を働くのか、給料はどのように支払われるのか、休日や休暇はどうなるのかといった、仕事に関する基本的なルールなどが記されます。

口約束だけだと曖昧になりがちな労働条件を文書化することで明瞭にし、後々のトラブルを防止する役割を果たします。

飲食店の採用に雇用契約書は必要?

さまざまな業種がありそれぞれに働き方も異なりますが、飲食店において従業員の採用を行う場合、雇用契約書は必要なのでしょうか。この点について言及していきます。

雇用契約書を交付する法的義務は無い

飲食店に限った話ではありませんが、アルバイト・パート・正社員などを雇い入れる時、法律上、雇用契約書の作成と交付は義務付けられていません。

そのため口頭での約束でも雇用契約は成立します。実際、小規模な飲食店だと雇用契約書を交わさずに従業員を雇用しているケースも珍しくはないでしょう。

しかしながら、雇用契約書を作成しないことでトラブルが起こるリスクが上がるため、極力作成しておくことが推奨されます。

労働条件通知書の交付は義務付けられている

「雇用契約書」に関して会社側に交付義務はありませんが、労働基準法所定の「労働条件通知書」に関しては交付義務があります。

(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

引用:e-Gov法令検索 労働基準法第15条第1項

使用者である会社は、これから自社で働こうとする個人に対して必ず労働条件を通知しないといけません。

※使用者側が法人かどうかは問われず、すべての事業者に適用されるルールです。

※通知しないといけない労働条件については後述します。

なお、雇用契約書・労働条件通知書の区別は、書面に記載する表題(タイトル)で判断するのではなく、中身で判断します。

そのため「雇用契約書」と表題が定められていても、労働基準法に定められている労働条件通知書の条件を満たしていれば「雇用契約書”兼”労働条件通知書」として機能することになり、別途労働条件通知書を作成する必要はなくなります。

雇用契約書を作成することの重要性

上記のように、雇用契約書の作成は法的に義務付けられていませんが、雇用契約書が作成されていないことに起因してトラブルが起こってしまったり長期化してしまったりする恐れがありますので、できるだけ作成しておくべきです。

雇用契約書作成の具体的メリットとしては、次の事柄が挙げられます。

  • トラブルの防止
    → 労働条件を明確に書面化することで、後々の「言った」「言わない」の揉め事を防ぎやすくなる。
  • 労働条件等の確認
    → 会社側も労働者側も、自分の労働条件をきちんと理解し、安心して働くことができる。
  • 労務管理の効率化
    → 労働条件が明確かつ整然とすることで、労務管理もしやすくなる。
  • 会社の信頼性向上
    → 雇用契約書の作成・交付はコンプライアンスの観点からも重要であり、こういった事務も徹底していることが事業者としての信頼性向上にもつながる。

法律で義務付けられているわけではありませんが、飲食店においても雇用契約書を作成し、健全な雇用関係を築くことが重要といえます。

雇用契約書 兼 労働条件通知書とするときの記載事項

雇用契約書に関しては作成自体が任意ですし、記載すべき事項についても特に決まりはありません。基本的には以下のポイントを押さえて記載しておけばよいでしょう。

  • 雇用に関する文書であることを表題に明記する
  • 合意したい内容(労働条件)をまとめる
  • 労働に関して合意したことを示す文言を記載する
  • 契約締結日を記載する
  • 双方の署名捺印

ただし、交付義務のある労働条件通知書も兼ねた雇用契約書とするのなら一定の事項については必ず盛り込まないといけません。これを「絶対的明示事項」と呼びます。

また、一定のルールに関してその効力を生じさせるのなら労働条件通知書に記載しないといけない「相対的明示事項」もあります。

絶対的明示事項

労働条件通知書としての役割を兼ねる雇用契約書には、次の事項を必ず記載するようにしてください。規模の小さな飲食店も例外ではありません。

基本的な絶対的明示事項各事項の詳細
契約期間
  • 期間の定めの有無を明確化する。
  • 無期雇用(いわゆる正社員)ではなく有期雇用とする時は要注意。
有期労働契約の更新基準経営状況、業務進捗、勤務成績など具体的に列挙していく。
就業場所と業務内容、その変更の範囲
  • 雇用直後の勤務場所や業務内容を記載。
  • 2024年4月1日からは、今後の勤務場所や業務内容に関する変更の有無、範囲についても示す。
就業時間や休日・休暇などについて
  • 始業・終業の時刻や所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間などについて時刻を明示する。
  • シフト制を採用する時はその旨も記載する。
賃金について
※退職金や賞与は除く
  • 月給や日給、時給などの計算方法を明示。
  • 支払方法や支払の時期、昇給の有無も記載する。
退職について
  • どのような場合に退職となるのかを記載する。
  • 特に解雇事由の列挙は重要。

期間を定めて雇用(有期雇用)する時は、更新上限の有無や無期転換申込機会のことなど、さらに明示しないといけない事項も出てきますので注意してください。

相対的明示事項

賞与や退職金の支給を行うケース、休職制度を設けるケースではこれらに関する条件も記載してください。

  1. 退職金について
  2. 賞与など臨時の賃金について
  3. 最低賃金について
  4. 従業員に負担させる物品・費用について
  5. 安全・衛生について
  6. 職業訓練について
  7. 災害補償や業務外の傷病扶助について
  8. 表彰や制裁について
  9. 休職制度について

なお、労働条件通知書に記載したからといって労働基準法を下回る水準のルールを強制することはできません。

飲食店向け雇用契約書のひな形・テンプレート

雇用契約書自体はシンプルでもかまいません。労働条件通知書と分けて作成し、詳細をそちらに渡すことで、一つ一つの条件については省略して「雇用契約に関して合意があった旨」をわかりやすく示すことができるでしょう。
また、「詳細は労働条件通知書に従う。」などと定めることで雇用契約書を汎用的なものとすることができます。

こちらに飲食店向けの雇用契約書のひな形を用意しておりますので、ぜひ参考にしていただければと思います。

パートやアルバイトの場合でも雇用契約書は必要?

飲食店でパートやアルバイトを雇うこともあるでしょう。この場合でも正社員と変わらず労働法の規定が適用されることにご注意ください。

つまり、雇用契約書の作成は必須ではありませんが、労働条件通知書の作成は義務であるということです。また、必須ではないとはいえ雇用契約書の作成はしておいた方がよいという点も共通しています。

さらに、飲食店におけるパートやアルバイトだと「賃金の決定方法」が“月給”ではなく“時給”となるケースも多いと思います。ほかにも労働時間や休日に関して正社員と異なるケースがあるかと思いますが、労働条件通知書に適切に反映させるよう留意しましょう。

そのほか、「昇給の有無」や「賞与の有無」、「相談窓口」についても注意してください。ここでの相談窓口とは、パートなど短時間労働者からの苦情や質問などに対応するために設けるもので、雇用環境の改善に向けて設置と明示が使用者に義務付けられています。相談担当となる方の氏名・役職・部署などを明示しましょう。

試用期間を設けたい場合はどうする?

いったん雇用をしてしまうと、簡単には解雇ができません。そこで適性を見極める期間として「試用期間」を設けるのも効果的です。

この試用期間に関しては労働条件通知書の絶対的明示事項でも相対的明示事項でもありませんので記載がなくても違法とはなりません。

ただし、極力雇用契約書や労働条件通知書に明記しておくべきで、とりわけ本採用前後で賃金が異なる場合は必ず記載をしないといけません。試用期間かどうかに関係なく、賃金の条件に関わる問題だからです。
また、試用期間を賞与の査定期間から除外する場合にもその旨明示しないといけません。

雇用契約書と労働条件通知書以外に作成が必要なものは?

従業員を雇う時は「雇用契約書」や「労働条件通知書」を作成することになりますが、ほかにも雇用に伴い作成が必要となる文書、必要な手続きがあります。

1つは「就業規則」の作成です。

これは“常時10人以上”の従業員を雇った時に作成が義務付けられるもので、職場でのルールを詳細にまとめた社内規程を指します。

また、就業規則の作成に伴い「就業規則(変更)届」の作成と労働基準監督署への提出が必要となります。10人以上を雇用する時は必ず作成し、遅滞なくこれを提出してください。

▼以下より就業規則のテンプレートをダウンロードいただけます。ご参考ください。

その他必要になるものとして、

各種社会保険に関わる届出

  • 「保険関係成立届」(労災保険に係る)
  • 「労働保険概算保険料申告書」
  • 雇用保険適用事業所設置届」(雇用保険に係る)
  • 「雇用保険被保険者資格取得届」

そして残業をさせる(法定労働時間を超えて働かせる)時は、
「36協定」

も必要です。

36協定とは時間外労働や休日労働に関する協定のことで、定めた事項を「36協定届」としてまとめ、これを労働基準監督署に提出しないといけません。残業が発生する可能性がある時はこの手続きに留意してください。

飲食店でパートを雇うときも雇用契約書を作ろう

飲食店であれば、シフトを組んで短時間だけ働いてもらうパートやアルバイトを雇うこともあるかと思います。「正社員とは違うし、雇用契約書までは作成しなくてもいいか。」と少し軽い気持ちになってしまうかもしれませんが、法律上はパートであろうと正社員であろうと同じ労働者です。

雇用契約書の作成義務はないものの、契約書作成の重要性や労働条件通知書の交付義務があることは正社員と変わりありません。

飲食店開業に伴い知人や友人をスタッフにする場合などであっても、万が一のトラブルに備え、雇用契約書を作るようにしてください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事