• 更新日 : 2024年10月21日

契約審査は属人化しやすい?リスクや防止策を解説

企業で法務を担当される方の共通の悩みとして挙げられるのが契約審査の属人化ではないでしょうか。大企業であればともかく、中小企業で法務担当者の数も少ないような場合は特に俗人化が発生しやすく、契約審査を初めとする法務分野におけるトラブルやミスが不必要に拡大してしまう可能性があります。

この記事では、契約の属人化が発生する原因を説明し、それに対する対応策を説明していきます。

契約審査で属人化が発生する理由

企業における契約審査は属人化しやすい傾向にあります。

その理由としては大きく3つの理由が挙げられます。

以下、何故、企業の契約審査において属人化が発生しやすいのか理由ごとに見ていきます。

高度な法的知識が必要なため対応できる人が限定される

そもそも、契約審査には高度な法的知識が要求されます。特に中小企業であれば、顧問弁護士を雇い、費用をかけてそこに契約審査を一任しているところも少なくありません。弁護士レベルとまではいかなくとも一定レベルの高度な法的知識が必要です。

これがなければそもそも、契約審査を適正に行うことができず、かえって会社に損害を与えることになりかねません。

そのため、契約審査を行うことができる人は知識・経験を必要とされ、限られた人が対応することになってしまうのです。

担当者間のナレッジ共有体制が無い

契約審査におけるナレッジ共有とは、契約審査の「可視化」を意味します。契約書修正履歴や取引先とのやり取りの履歴等を共有できる体制(仕組み)を作成できればいいのですが、担当者同士がほかの担当者をCCに入れずにメールを行ってしまうことや電話でのやり取りに終始してしまったり、契約書の変更履歴を残していない、といった問題が発生しやすく、ナレッジの共有体制がない場合が多いといえます。

これも契約審査の属人化の大きな要因といえます。

業務マニュアルが整備されていない

企業における契約審査において、契約書のひな型集であったり、弁護士等が執筆した契約審査に関する書式を参照することはできても、それをそのまま使用することは難しいと言わざるを得ません。

契約審査にかかる契約書が千差万別で、契約書ごとにカスタマイズして作成する必要性が高く、そもそも契約審査に関する業務マニュアルを整備しにくいという側面も、契約審査の属人化に拍車をかけてしまう要因の1つです。

契約審査が属人化するリスク

上記の理由から企業における契約審査の属人化は発生しやすい状況にあります。では、企業における契約審査の属人化が発生すると、その企業にはどのようなリスクが発生してしまうのか見ていきましょう。

休職・退職により業務が停滞・長期化する

契約審査が属人化する結果、その方に契約審査が依存してしまうことになります。

そうすると、その担当者のみしか把握していない情報・ノウハウが存在することになります。

その場合、その担当者が心身の不調を来たして休職したり、退職してしまうと、新たな担当者がゼロベースで契約審査を行う必要があります。

契約審査は会社の規模が大きければ大きいほど、連日行わなければならない状況が発生します。

そうすると契約審査業務が雪だるま式に膨れ上がることになってしまい、結果として業務が停滞したり、契約審査に長期の時間を要してしまうリスクが高くなってしまいます。

契約書業務でミスが発生しても放置される

また、契約審査が属人化していると、その担当者の経験・ノウハウが生じます。その場合、その担当者のやり方でミスが生じた場合に、担当者が気づくことができないリスクが発生します。

また、契約審査の進捗管理も属人化してしまうとなると、極端な話ですが、担当者が契約審査を忘れてしまうこともありえます。

このように、契約審査におけるミスが生じてもそれが漫然と放置される結果、当該契約によって会社に損害が生じるリスクが発生してしまいます。

効率化に向けた業務フローの改善ができない

業務マニュアルが整備されておらず、契約審査の属人化が発生してしまっている場合、業務フローが担当者の裁量に委ねられてしまう、という問題が発生します。

そうすると、担当者が行っている業務フローについて、改善点を指摘することが第三者からは難しくなってしまいます。

本来であれば、会社において適切な業務フローの中でノウハウとして蓄積され、効率的なマニュアル等に集約されるべきです。

しかし契約審査が属人化する結果、会社としてのマニュアルの作成ができず、結果として、これを適切に評価したり、アドバイスすることもできなくなります。業務フローを改善することも難しくなる点は契約審査の属人化が発生した場合のリスクといえます。

契約審査の属人化を防止する方法

では、上記の企業における契約審査の属人化の理由を踏まえ、どうすれば企業における契約審査の属人化を実際に防ぐ、あるいは、少なくともその程度を下げることができるのか、現実的な対応方法についてみていきましょう。

業務プロセスをマニュアルで標準化する

可能であれば、契約審査の業務プロセスをマニュアル化しておき、契約審査の業務を標準化しておくことが望ましいといえます。

例えば、使用頻度の高い類型の契約について、雛形を作成してチェックポイントを可視化できるマニュアルを作成しておけば、担当者の人事異動や退職があったとしても、後任の担当者がこれを参考にして契約審査業務を実施することができます。

ただし、契約審査はあくまで個別の契約書ごとにそれぞれの事情を加味して行う必要があり、法律が改正されたりすることもあるため、随時アップデートしていく必要があります。

たとえ前任者がマニュアルを整備したからといって、後任の方がマニュアルを妄信してしまうと適切な契約審査を行えなくなってしまいます。

ナレッジ蓄積・共有のツールを活用する

ナレッジ蓄積・共有のツールとしてイメージしやすいのはチャットツールの導入(複数の担当者に対する可視化)や、メールでのやり取りについても全担当者をCCに入れる、あるいはグループメールアドレスをCCに入れる等して、ナレッジの共有する体制を整えることです。

もちろん、メールの件数が増える、チャットツールのノーティスの数が増える、といった問題はありますが、契約審査の属人化を防止する、少なくとも、その程度を下げる、という意味では効果的といえるでしょう。

リーガルテックサービスを導入する

業務プロセスのマニュアル化と通じる部分もありますが、リーガルテックサービスを導入し、AIによる契約審査を行うことも契約審査の属人化を防ぐ、程度を下げるという意味で効果的といえます。もちろん、費用は発生しますし、どのサービスを使用するかは十分に検討の上、判断していただく必要があります。

また、サービスによって想定されている契約書の種類が異なったり、当事者のどちらの立場で見るのかといった機能の有無があったりしますのでこの点においても注意が必要です。

リーガルテックサービスを導入することで、AIが担当し、契約審査を行える部分については、一定レベルの契約審査が可能になり、契約審査の属人化を防いだり、その程度を下げることが可能になります。

AIによるレビューも最終的にはチェックが必要

ただし、リーガルテックサービスに基づくAIによるレビューを過信してはいけません。

契約審査はマニュアル化するのが難しいとお伝えしたように、最終的には取引の内容、取引相手との関係性や、紛争発生のリスクといった契約書ごとに判断しなければいけない事項が少なくありません。確かにAIによるレビューは標準化された契約書との比較でコメントしてくれたり、修正してくれたりします。

しかし、先に述べた契約審査の特殊性を踏まえると、標準化すればいい、というものではないことは容易に想像ができるかと思います。仮に、これでいいのであれば、そもそも法務部員であったり顧問弁護士に契約審査を業務として依頼する意味がなくなってしまうように、AIによるレビューであってもこれを過信・妄信すると適切な契約審査とはいえなくなってしまうのです。

つまり、AIによるレビューを参考にすることはできたとしても、これをそのまま反映したり、過信してしまうと、結果的に会社に大きな損害をもたらす危険性を秘めています。

そのため、契約審査の効率化・ナレッジ共有の一部としてリーガルテックサービスを用いたとしても、それはあくまで参考程度のものであり、最終的には担当者によるチェックを経る必要があることは認識しておいた方が良いでしょう。

契約審査による会社の利益の最大化を目指そう

このように、契約審査については、属人化しやすい面がありますが、いくつか、これを防ぐ方法や、属人化の程度を下げる方法は存在します。一方、いくら対策を練ったとしても、一つ一つの契約審査の個別事情に向き合わなければ、会社にとって最善の契約審査ができない、という面があるのもまた事実です。契約審査の属人化を完全に防ぐのは会社の利益の最大化(契約晋さによる会社のリスクの軽減)という意味で難しいといえます。

企業の契約審査の担当者の方としては、属人化の程度を下げる努力はしつつも、個別事案に真摯に向き合うこと、そして、その経緯については、しっかりと記録に残して、後任の方の糧になるようにしておくことが重要といえるでしょう。


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