- 更新日 : 2024年11月7日
管理委託契約書に印紙は必要?金額や貼り方、どちらが負担するかを解説
企業の担当者にとって、管理委託契約書の作成は重要な業務の一つです。しかし、その際に印紙が必要かどうか、金額はいくらか、どちらが負担するのかなど、疑問点も多いのではないでしょうか。
本記事では、管理委託契約書に関する印紙税の基本的な知識から具体的な対応方法まで、担当者が知っておくべき情報を分かりやすく解説します。
目次
管理委託契約書に印紙は必要?不要?
管理委託契約書は、企業が特定の業務や業務の一部の管理などを外部の専門業者に委託する際に作成される重要な書類です。この契約書に印紙が必要かどうかは、契約内容によって異なります。契約書に印紙を貼付するか否かは、印紙税法に基づいて判断されるため、契約の種類や契約金額、さらに契約書の作成枚数に注意が必要です。
まずは、そもそも管理委託契約書に印紙が必要なのか確認していきましょう。
印紙が必要・不要になる理由
管理委託契約書に印紙が必要かどうかは、印紙税法に基づいて判断されます。印紙税法別表第一には、課税文書として「請負に関する契約書」が記載されており、管理委託契約書も、業務の「請負」契約と見なされる場合は印紙が必要です(印紙税法第2条)。請負契約では、作業の完了や成果物の納品が契約の目的となるため、具体的な成果物がある場合、印紙の貼付が義務付けられます。
一方、単に労働力や業務の提供を行う契約(例えばコンサルティング契約など)で、成果物の納品が契約の目的とはならない場合は「請負契約」に該当しないため、印紙は不要とされる場合があります。また、契約書が電子契約書の場合、現行の法律では印紙税が適用されません(電子帳簿保存法)。従って、契約内容や作成方法に応じて、印紙が必要かどうかが決まります。
※印紙が必要な契約書の詳細については、こちらの記事をご覧ください。
そもそも管理委託契約書とは?
まず、管理委託契約書の前提となる管理委託契約とは、どのような契約なのでしょうか。
管理委託契約とは、企業が特定の業務や業務の一部を外部の専門業者に委託する際に作成される契約です。例えば、ビルの清掃、保守管理、ITシステムの運用など、特定の業務の遂行を外部の業者や専門家に任せるときに締結されます。管理委託契約は、多くの場合、準委任契約に該当すると考えられます。準委任契約は、当事者の一方(委任者)が法律行為でない事務の処理を相手方(受任者)に委託し、相手方がこれを承諾することによって成立する契約です(民法第643条)。
契約の特徴は、成果物の引き渡しが契約の終了条件となっている請負契約に近いケースと成果物の引き渡しそのものではなく業務を行うこと自体を目的とする委任契約に近いケースとに分かれる点があります。例えば、ビル管理では、建物の維持や清掃といった日常的な作業が管理業務として提供されますが、具体的な「成果物」が存在するわけではありません。また、委託者は仕事の成果を直接確認することは少なく、受託者が自主的に業務を遂行する点で異なります。
これにより、管理委託契約は、継続的な業務提供を行う委任契約に近い性質を持ちます。管理委託契約では委託業務が継続的に提供されることも多く、契約期間内で定期的な報酬が支払われることが一般的です。
管理委託契約書とは
管理委託契約書は、管理委託契約を締結する際に作成される契約書です。この契約書には、委託業務の詳細、契約の期間、報酬の額、業務遂行における責任の範囲、守秘義務などの条項が含まれます。また、契約不履行やトラブル発生時の対応についても明記されることが一般的です。
管理委託契約書は特定の修繕工事の実施など、「仕事の完成」を目的とする業務が含まれることもあります。このような場合、請負契約に近い契約として扱われる場合が多く、業務の完了や成果物の納品が契約の前提条件となることが少なくありません。
これにより、契約内容が具体的かつ明確になり、双方が納得した上で業務を進行させることができます。特に、業務の遂行に関して成果物や具体的な結果が求められる場合には、契約書作成時に、これらの法的性質を意識し、当事者の意図する権利義務関係を明確に規定することが重要です。
管理委託契約書に貼る印紙の金額
管理委託契約書に貼る印紙の金額は、契約の内容によって異なります。印紙税法上、管理委託契約書は主に「請負に関する契約書」(第2号文書)または「継続的取引の基本となる契約書」(第7号文書)に該当します。契約の実質的な内容によって判断され、単純に「管理委託契約書だから○○号文書」とは決められません。2022年4月1日施行の改正印紙税法により、一部の契約書が非課税となりましたが、多くの管理委託契約書は依然として課税対象です。
契約内容を精査し、適切な印紙税額を判断することが重要です。
「請負」契約と見なされる場合の印紙の金額
管理委託契約が「請負に関する契約書」(第2号文書)と見なされる場合、契約金額に応じて印紙税額が決まります。国税庁の解釈によれば、「請負」とは、当事者の一方が仕事の完成を約し、相手方がその結果に対して報酬を支払うことを内容とする契約を指します(民法第632条参照)。
例えば、建物の維持管理や修繕などの具体的な作業を委託する内容であれば、請負契約として扱われる可能性が高くなります。この場合、契約金額に応じて200円から60万円の範囲で印紙税が課されます。
ただし、2022年4月1日施行の改正印紙税法により、「金融機関が作成する契約書」の一部が非課税となりました。また、「不動産譲渡契約書」および「建設工事請負契約書」については、2024年4月1日から2027年3月31日までに作成されるものについても、印紙税の軽減措置が適用されます。
契約金額・条件と印紙の金額の対照表
以下に管理委託契約が「請負に関する契約書」(第2号文書)と見なされる場合と「継続的取引の基本となる契約書」(第7号文書)の印紙の金額の対照表を示しておきます。
請負に関する契約書(第2号文書) ※請負には、職業野球の選手、映画(演劇)の俳優(監督・演出家・プロデューサー)、プロボクサー、プロレスラー、音楽家、舞踊家、テレビジョン放送の演技者(演出家、プロデューサー)が、その者としての役務の提供を約することを内容とする契約を含みます。 (例) 工事請負契約書、工事注文請書、物品加工注文請書、広告契約書、映画俳優専属契約書、請負金額変更契約書など | 記載された契約金額が100万円以下のもの ⇒200円 100万円を超え 200万円以下のもの ⇒400円 200万円を超え 300万円以下のもの ⇒1千円 300万円を超え 500万円以下のもの ⇒2千円 500万円を超え1千万円以下のもの 1千万円を超え5千万円以下のもの 5千万円を超え1億円以下のもの 1億円を超え5億円以下のもの 5億円を超え10億円以下のもの 10億円を超え50億円以下のもの 50億円を超えるもの 契約金額の記載のないもの |
上記の「請負に関する契約書」のうち、建設業法第2条第1項に規定する建設工事の請負に関わる契約に基づき作成されるもので、2014年4月1日から2027年3月31日までの間に作成されるものは、記載された契約金額に応じ、右欄のように印紙税額が軽減されています。 ※契約金額の記載のないものの印紙税額は、本則通り200円となります。 | 記載された契約金額が200万円以下のもの ⇒200円 200万円を超え 300万円以下のもの ⇒500円 300万円を超え 500万円以下のもの 500万円を超え1千万円以下のもの ⇒5千円 1千万円を超え5千万円以下のもの ⇒1万円 5千万円を超え 1億円以下のもの 1億円を超え5億円以下のもの 5億円を超え 10億円以下のもの 10億円を超え 50億円以下のもの 50億円を超えるもの |
継続的取引の基本となる契約書(第7号文書) ※契約期間が3ヵ月以内で、かつ、更新の定めのないものは除きます。 (例) 売買取引基本契約書、特約店契約書、代理店契約書、業務委託契約書、銀行取引約定書など | 4千円 |
管理委託契約書に貼る印紙税はどちらが負担する?
管理委託契約書に貼る印紙税の負担については、印紙税法に基づいて判断する必要があります。印紙税法第3条第1項によれば、「課税文書の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある」と規定されています。
ただし、管理委託契約書のような双務契約の場合、同条第2項で「一の課税文書を二以上の者が共同して作成した場合には、当該二以上の者は、その作成した課税文書につき、連帯して印紙税を納める義務がある」と定められています。
これは、契約当事者双方が共同で文書を作成したと見なされるため、両者が連帯して納税義務を負うことを意味します。実務上は、契約書を2通作成し、それぞれが1通ずつ保管する場合、各自が保管する契約書に対して印紙を貼付するのが一般的です。
管理委託契約書の印紙の貼り方
管理委託契約書に印紙を貼る際は、適切な金額と正しい貼り方が重要です。印紙税法に基づき、契約内容や金額に応じて印紙を選び、正しく貼付することで、法的要件を満たすことができます。
印紙の貼り方
管理委託契約書への印紙の貼り方は以下の手順で行います。
- 適切な金額の印紙を準備
契約内容に応じて、印紙税法別表第一に定められた金額の印紙を用意します。管理委託契約書は通常、第2号文書(請負に関する契約書)または第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に該当します。 - 貼付位置の選定
印紙税法上、貼付位置に関する明確な規定はありませんが、一般的には契約書の表紙または1ページ目の左上部分に貼ります(印紙税法基本通達別表第一の2号文書の取り扱いについて)。
- 印紙の貼付
印紙をのり付けして貼り付けます。複数枚の印紙を使用する場合は、重ならないように並べて貼ります。
管理委託契約書に印紙がないとどうなる?
管理委託契約書に印紙を貼らなければならない場合に貼り付けを怠ると、法的に定められたペナルティが課されるリスクがあります。これにより、追加的な税負担や法的トラブルが発生する可能性があります。
なぜペナルティが発生するのか
ペナルティが発生する理由は、印紙税法が課税対象文書に対して印紙を貼付することを義務付けているためです。印紙税は、国の税収確保のために取引や契約に対して課される税金です。文書に印紙を貼らないことは、税法に違反する行為となり、税収を逃れる行為と見なされるため、これを防ぐために過怠税が設けられています。過怠税は、意図的に印紙を貼付しなかった場合だけでなく、過失や誤りであっても適用されます。これにより、税収の公平性が保たれる仕組みです。
契約内容は無効にならない
印紙税が貼られていない管理委託契約書でも、契約そのものが無効になるわけではありません。印紙税法に基づく印紙の貼付は、契約の法的有効性とは別の問題です。印紙がない場合でも、契約当事者間の合意が適切に成立している限り、その契約は有効です。従って、業務の履行や報酬の支払いに影響が出ることはありません。ただし、契約書を作成する者は、印紙税を正しく納付する法的義務があり、これを怠ると後述するペナルティが課される可能性があります。
過怠税が徴収される
印紙税法に基づき、印紙を貼らなかった場合には過怠税が課されます(印紙税法第20条)。過怠税は、本来納付すべき印紙税額の3倍に相当する額が課される可能性があります。例えば、2,000円の印紙を貼るべき場合に貼らなかったときは、6,000円の過怠税が請求されます。このようなペナルティは、納税義務を怠ることで税収の欠損を防ぐために設けられています。また、税務調査で発覚した場合、過去の契約書についてもさかのぼって課税される可能性があるため、注意が必要です。
※こちらの記事も是非、ご覧ください。
管理委託契約書の割印のやり方
管理委託契約書の割印は、複数の契約書の同一性を証明し、改ざんを防ぐ重要な役割を果たします。ここでは、割印の目的や正しいやり方、法的な観点から見た注意点について解説します。
割印を押す目的とは
割印の主な目的は、複数の契約書が同時に作成され、同一の内容であることを証明することです。管理委託契約書は通常、委託者と受託者がそれぞれ保管するため、2部作成されます。割印を押すことで、これらの契約書が同一であることを示し、一方的な改ざんや不正なコピーを防ぐ効果があります。
しかしながら、割印自体に法的な効力はありません。印紙税法や民法においても、割印の押印を義務付ける規定はありません。実務上は契約の証拠能力を高め、紛争予防の観点から重要視されています。
割印を押す位置とやり方
割印は、通常、契約書の上部または左側の余白に押印します。2部の契約書を重ね、少しずらした状態で印鑑を押すことで、両方の契約書に印影の一部が残るようにします。
割印は、契約当事者の一方が押せば十分です。印紙税法施行令第5条では、印紙の消印について「文書の作成者又は代理人、使用人その他の従業者の印章又は署名」と規定していますが、これは割印にも準用されると解釈されています。
ただし、実務上は双方が押印することが多く、より確実性を高める観点から推奨されます。また、3部以上の契約書がある場合は、全ての組み合わせで割印を押す必要があります。
割印として認められる方法
割印として認められる方法は以下の通りです。
- 印鑑による押印:契約書に押印した印鑑と同じものを使用するのが一般的ですが、異なる印鑑でも構いません。
- 署名:印鑑の代わりに自筆の署名でも割印として認められます。
- ゴム印:会社名や個人名が入ったゴム印も使用可能です。
- 電子署名:電子契約の場合、電子署名法に基づく電子署名も割印の代替として認められます。
割印として認められない方法
以下の方法は、割印として認められません。
- 斜線や「×」印のみ:単なる線や記号では、誰が押印したか特定できないため無効です。
- 「印」という文字のみ:同様に、押印者が特定できないため認められません。
- 鉛筆による署名:容易に消せるため、割印としての効力がありません。
- 機械的な印字のみ:プリンターなどで印刷されただけの印影は、割印として認められません。
これらの方法は、印紙税法基本通達第64条および第65条の解釈に基づいて、割印として適切でないと判断されます。割印の目的である文書の同一性証明と改ざん防止の観点から、容易に消去や変更ができない方法を選択することが重要です。
電子契約なら管理委託契約書の印紙は不要に
電子契約が普及する中、管理委託契約書も電子化することで、印紙税が不要となるメリットがあります。これにより、企業は印紙税を回避し、コスト削減を図ることが可能です。では、なぜ電子契約では印紙税が課されないのでしょうか。
これは、印紙税法が課税対象としているのは、あくまで「紙の契約書」であり、電子的に作成された文書には印紙税が適用されないためです。印紙税法では、紙で作成された「課税文書」のみに印紙税が課せられると定められており(印紙税法第2条)、電子契約書は「紙の文書」には該当しないため、課税対象から除外されています。
また、近年の電子帳簿保存法の改正により、電子文書の保存が法的に認められ、紙の契約書と同等の効力があることが明確化されました。これにより、企業は電子契約を採用することで、印紙税を節約し、契約書の保管や管理の手間を減らすことができます。
※あわせて、こちらの記事もご覧ください。
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