- 作成日 : 2023年12月29日
2022年施行のプロバイダ責任制限法改正とは?改正内容と求められる対応を紹介
2022年にプロバイダ責任制限法が改正され、「プロバイダ」に該当する事業者は新しいルールを正確に把握して対応する必要がありました。今回は2022年に行われた改正のポイントや事業者に求められる対応について、改めて詳しく解説していきます。
目次
2022年に施行されたプロバイダ責任制限法改正とは?
プロバイダ責任制限法は2001年に制定された法律で、正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」といいます。インターネット上の通信情報によって権利の侵害が発生した際にプロバイダが負う損害賠償責任の範囲や、当該情報の発信者を特定するための手続きに関して定められた法律です。
「プロバイダ」とは主にインターネットへの接続サービスを提供する事業者のことを指します。プロバイダ責任制限法ではこのプロバイダに加え、掲示板やSNSなどのプラットフォームを提供する事業者も対象です。前者は「アクセスプロバイダ」、後者は「コンテンツプロバイダ」と呼ばれます。
プロバイダ責任制限法改正の背景
プロバイダ責任制限法が改正された背景には、急増しているインターネット上の「誹謗中傷」があります。パソコンやスマートフォンなどの情報端末が普及し、掲示板やSNSなどのプラットフォームも次々に生まれ、人々は気軽に情報発信ができて他者と交流できるようになりました。
しかし、その一方で心無い発言に傷つく人も増加し、深刻な社会問題となりつつあります。
SNSでの誹謗中傷に関するアンケート調査
株式会社カケコムがSNS利用者100名を対象に実施したアンケート調査によると、44%の人がSNSで誹謗中傷を受けた経験があると回答しました。自分がSNS投稿した内容に対して誹謗中傷を受けたケース、友人や知人など周囲の人間関係のトラブルが誹謗中傷の原因となったケース、家族がいわゆる「炎上」して自分も誹謗中傷を受けたケースなど、人によってさまざまですが、SNSユーザーのおよそ半数は誹謗中傷の被害に遭っているのです。
また、過去に誹謗中傷を行った経験(誹謗中傷になる可能性がある投稿をしたケースも含む)を問う質問では、25%の人が「したことある」と答えました。
プロバイダ責任制限法の改正成立の背景
2020年にリアリティ番組に出演していた女性が誹謗中傷を受けて自ら命を絶ってしまいました。この事件をきっかけにインターネット上での誹謗中傷が大きな社会問題化し、今回の改正に至ったのです。
概して有名人は誹謗中傷のターゲットになりやすいですが、先ほどのアンケート結果からもわかる通り、一般の方でも誹謗中傷の被害者に遭うケースは十分にあります。また、逆に誹謗中傷を行う加害者になってしまうことも考えられます。
これ以上誹謗中傷によって傷つく人、誰かを傷つける人を増やさないためには法改正をする必要があったのです。
プロバイダ責任制限法の改正のポイント
今回のプロバイダ責任制限法の改正ポイントは以下の3点です。それぞれ詳しく見ていきましょう。
プロバイダ等の損害償責任の制限
これまで誹謗中傷を行った発信者の特定を行うためには裁判所からアクセスプロバイダとコンテンツプロバイダへそれぞれ開示請求を行う必要があったため、裁判手続きを2回行わなければなりませんでした。そのため非常に手間と時間、費用がかかることが課題でした。
そこで、今回の改正では1回で両方の事業者に開示請求が可能となる新たな裁判手続きが創設されました。
また、裁判所から開示命令が出されるまで対象となる投稿のログが残るよう、プロバイダに対して提供命令や禁止命令ができるようになりました。
発信者情報を開示請求できる範囲の拡大
発信者を特定するためには投稿者のIPアドレスなどのアクセス情報が必要となります。しかし近年では、投稿者のアクセス情報が残らないSNSプラットフォームも増えてきました。そこで発信者を特定するためには、プラットフォームへのログイン情報が重要な手がかりになります。一般的にSNSでは「アカウント作成→ログイン→投稿」というフローをユーザーがたどるためです。
今回の改正ではログイン時に記録されるIPアドレスやタイムスタンプなどの情報の開示請求も行えるようになりました。
発信者が開示に応じない場合は理由が必須
開示請求を受けた事業者は権利侵害をしたとされる投稿者に対して開示請求に応じるかどうかの意見聴取を行います。従来では投稿者が開示に応じない場合であっても事業者はその理由を説明する必要はありませんでした。
今回の改正によって開示に応じない理由についても聴取することが定められました。
プロバイダ責任制限法改正で事業者に求められる対応は?
今回のプロバイダ責任制限法改正によって事業者が対応しなければならないこともいくつかあります。「コンテンツプロバイダ」「アクセスプロバイダ」「一般企業」の3つのケースに分けて見ていきましょう。
コンテンツプロバイダへの影響
従来でもコンテンツプロバイダは投稿者のIPアドレスやタイムスタンプといったアクセス情報を開示しなければなりませんでした。今回の改正ではこうしたアクセス情報からアクセスプロバイダを特定し、情報開示する必要があります。
アクセスプロバイダの企業名や所在地を請求者に提供する、投稿者がログイン時に使っていたIPアドレスや投稿時IPアドレスをアクセスプロバイダに提供する必要が出てきます。
アクセスプロバイダへの影響
前述の通り、アクセスプロバイダは投稿者に対して情報開示に応じるか否か、意見聴取を行う必要があり、今回の改正では開示しない理由もヒアリングしなければならないようになりました。
また、投稿時にユーザーが使用したすべてのプロバイダ(いわゆる二次アクセスプロバイダ)を特定して情報を提供する必要があります。
一般企業への影響
一般企業においてはそれほどプロバイダ責任制限法の影響はありません。ただし、社員が加害者・被害者にならないよう、また勤務時間内外に社員が不適切な投稿をしないよう、コンプライアンス意識やインターネットリテラシーを高める教育を行うことが望ましいでしょう。
また、自社が誹謗中傷などの権利侵害を受けた際にはコンテンツプロバイダに対しても裁判所を通じて情報開示請求を行うことができます。
これ以上被害を生まないために、プロバイダ責任制限法改正の内容を把握しよう
今、インターネットを使った誹謗中傷が深刻な社会問題になっています。これまで多くの人が誹謗中傷に傷つき、今も尚悩んでいる方は大勢いらっしゃいます。
事業者、特にコンテンツプロバイダやアクセスプロバイダと呼ばれる事業者の方は、今回のプロバイダ責任制限法の改正内容についてもしっかりと把握し、適切に対応できるよう備えておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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