- 作成日 : 2024年9月27日
特許権侵害に基づく警告書とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説
特許権侵害に基づく警告書とは、自社の特許権を侵害している者に対して、侵害行為の差止めなどを求めて送付する警告書です。警告書には、特許権侵害の内容を明確かつ具体的に記載しましょう。本記事では、特許権侵害に基づく警告書の書き方やレビュー時のポイントなどを、文言の具体例を示しながら解説します。
目次
特許権侵害に基づく警告書とは
特許権侵害に基づく警告書とは、特許権の侵害行為の差止めなどを請求する警告書です。
特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有します(特許法68条)。特許権者以外の者は、特許権者の許諾を得なければ、原則として特許発明を実施することができません。
特許権を侵害し、または侵害するおそれがある者に対し、特許権者は侵害の停止または予防を請求することができます(=差止請求、特許法100条)。特許権侵害の差止請求を行う際に送付するのが、特許権侵害に基づく警告書です。
特許権侵害に基づく警告書を作成・送付するケース
特許権侵害に基づく警告書を作成・送付するのは、自社の特許権を他人(他社)に侵害されているか、または侵害されるおそれがある場合です。
具体的には、以下のようなケースが挙げられます。
- 自社が特許権を有している発明を組み込んだ商品を、他社が無断で販売している。
- 自社が特許権を有しているシステムの手順を、他社が無断で盗用してプログラムを開発したうえで、そのプログラムを無断で販売している。
など
特許権侵害に基づく警告書のひな形
特許権侵害に基づく警告書のひな形は、以下のページからダウンロードできます。実際に特許権侵害に基づく警告書を作成する際の参考としてください。
※ひな形の文例と本記事で紹介する文例は、異なる場合があります。
特許権侵害に基づく警告書に記載すべき内容
特許権侵害に基づく警告書には、主に以下の事項を記載します。
- 特許権に関する情報
- 特許権侵害の内容
- 特許権侵害の差止めや損害賠償を請求する旨
- 訴訟提起の警告
特許権に関する情報
例)
当社は、特許番号「特許第○〇○○○〇〇」の特許を所有し、かかる特許を使用した「○○」という商品を製造・販売しております。
侵害を主張する特許を特定するため、特許番号を記載します。また、特許を使用して製造・販売している商品があれば、その情報も補足的に記載するとよいでしょう。
特許権侵害の内容
貴社の製品「●●」は、前述の当社特許権の発明の技術的範囲に属するものであるため、「●●」の製造および販売は、当社の特許権を侵害するものです。
相手方のどのような行為が特許権侵害に該当するのか、その内容を具体的に明記しましょう。特許権侵害の要件については、後述します。
特許権侵害の差止めや損害賠償を請求する旨
したがって、特許法第100条の規定に基づき、貴社に対し直ちに上記製品の製造と販売を停止し、また完成品の廃棄と既に小売店等に卸した上記製品の回収を行ったうえで、損害賠償として金○円を当社へ支払うよう請求いたします。
特許権の侵害行為を直ちにやめるべき旨、および請求する具体的な行為の内容(製品の廃棄・回収など)を明記します。
また、特許権侵害は不法行為に該当し、損害賠償の対象となります(民法709条)。損害賠償を請求する場合は、その金額も警告書に記載しましょう。
訴訟提起の警告
(例)
なお、本書面到達後○日以内に貴社がかかる差止請求および損害賠償請求に対し何らの対応も行わない場合には、当社は貴社に対し、侵害差止めおよび損害賠償を請求する訴訟を提起する所存であることをご承知おきください。
警告書に対する回答期限と、適切な対応がなされない場合は訴訟を提起する旨の警告を記載します。あくまでも任意の対応を促す目的の警告であって、実際に訴訟を提起するかどうかは、相手方の対応を踏まえつつ状況に応じて検討すべきです。
特許権侵害に基づく警告書を作成する際の注意点
特許権侵害に基づく警告書を作成する際には、特許権侵害の内容を明確に記載することが大切です。
特許権侵害に当たるのは、以下の①~③の要件をすべて満たす行為です。特許権侵害の要件に該当することがわかるように、必要な情報を漏れなく警告書に記載しましょう。
①以下のいずれか(=実施)に当たること
(a)物の発明の場合
生産・使用・譲渡等・輸出・輸入・譲渡等の申し出
(b)方法の発明の場合
使用
(c)物を生産する方法の発明の場合
その方法により生産した物の使用・譲渡等(=譲渡と貸渡し)・輸出・輸入・譲渡等の申し出
②業として行われたこと
→事業の一環として特許発明が実施されたこと
③特許発明の技術的範囲に属すること(=以下のいずれかに該当すること)
(a)直接侵害
→特許発明に係る請求項をすべて満たすこと
(b)均等侵害
→特許発明に係る請求項の一部が満たされていないが、以下の要件をすべて満たすこと
- 請求項との相違点が、特許発明の本質的部分でない
- 請求項との相違点を置換しても、特許発明の目的を達成でき、同一の作用効果を奏する
- 請求項との相違点の置換が容易である
- 公知の技術と同一でなく、当業者が公知の技術から容易に遂行できたものでもない
- 請求項から意識的に除外されたなどの特段の事情がない
(c)間接侵害
→以下のいずれかに該当すること
- 業として行う、特許発明の専用品の生産、譲渡等、輸入、譲渡等の申し出
- 特許発明であることおよび特許発明の実施に用いられることを知りながら業として行う、特許発明による課題の解決に不可欠な物の生産、譲渡等、輸入、譲渡等の申し出
- 実施行為が特許権侵害に該当する物を、譲渡等または輸出のために所持する行為
特許権侵害に基づく警告書の法的効力
法的な観点からは、相手方に対して特許権侵害に基づく警告書を送付することにより、主に以下の3つの効力が生じます。
- 損害賠償請求権の消滅時効の完成が猶予される
- 補償金請求権行使の要件の一つが充足される
- 相手に特許権侵害を知らせることにより、知情間接侵害に該当する可能性が生じる
損害賠償請求権の消滅時効の完成が猶予される
特許権侵害は不法行為に当たるところ、不法行為に基づく損害賠償請求権は、以下のいずれかの期間が経過すると時効により消滅します(民法724条)。
- 損害および加害者を知ったときから3年
- 不法行為のときから20年
内容証明郵便などで相手方に特許権侵害に基づく警告書を送付すると、損害賠償請求権の消滅時効の完成が6ヵ月間猶予されます(民法150条1項)。猶予期間中に訴訟提起の準備をするなど、時間を稼ぐことができます。
補償金請求権行使の要件の一つが充足される
特許出願から1年6ヵ月が経過すると、審査の進捗状況にかかわらず、出願の内容が公開されます(=出願公開、特許法64条)。
出願公開がなされた後に、特許出願に係る発明の内容を記載した書面を提示して警告をしたときは、特許出願人は、警告後特許権の設定登録前にその発明を実施した者に対して、特許発明の実施料相当額の補償金の支払いを請求できます(特許法65条1項前段)。補償金請求は、特許権の設定登録を受けた後に行うことができるようになります(同条2項)。
特許権侵害に基づく警告書を送付すると、上記の補償金請求の要件の一つが満たされることになります。
なお、出願公開がされた特許出願に係る発明であることを知りながら、特許権の設定の登録前に業としてその発明を実施した者に対しては、警告書を送付していなくても、特許権の設定登録を受けた後で補償金を請求することが可能です(同条1項後段)
相手に特許権侵害を知らせることにより、知情間接侵害に該当する可能性が生じる
特許権侵害には「直接侵害」「均等侵害」「間接侵害」の3種類があります。
そのうちの一つである「間接侵害」は、直接的には特許発明の実施に当たらないものの、特許権侵害を誘発する可能性が高いことを踏まえて、特許権侵害とみなされる行為です(特許法101条)。
間接侵害に当たる行為の一種として、特許発明による課題の解決に不可欠な物の生産・譲渡等・輸入・譲渡等の申し出が挙げられています。
当該行為が間接侵害に当たるためには、特許発明であること、およびその物が特許発明の実施に用いられることを、行為者が知りながら業として行ったことが要件とされています(=知情間接侵害)。特許権侵害に基づく警告書を送付すると、相手方は受領日以降、これらの事項を知ったものとして扱われるため、知情間接侵害の要件を満たす可能性が生じます。
特許権侵害に基づく警告書の送付方法
特許権侵害に基づく警告書は、消滅時効の完成猶予・出願公開後の補償金請求・知情間接侵害などとの関係で、記録が残る形で送付することが望ましいです。
配達証明付き内容証明郵便を利用すれば、警告書の差出人・宛先・日付・内容と、警告書が相手方に配達された事実を郵便局に証明してもらえます。
特許権侵害に基づく警告後の手続きの流れ
特許権侵害に基づく警告書を送付した後、特許権侵害の差止めや損害賠償を求める手続きは、以下の流れで進行します。
- 和解交渉
- 訴訟
- 強制執行
和解交渉
相手方から返答があれば、和解交渉を行います。
特許権侵害の状態を完全に解消するため、どのような対応が必要かを話し合ったうえで、相手方に対して漏れのない対応を求めましょう。
損害賠償についても、金額を提示し合って合意を目指します。侵害行為によって自社が被った損害をリストアップし、その根拠を示したうえで損害賠償を請求しましょう。
合意が得られた場合には、その内容をまとめた合意書を締結します。公正証書によって合意書を作成すれば、相手方が合意内容を適切に履行しなかった場合に、直ちに強制執行を申し立てることができます。
訴訟
侵害行為の差止めや損害賠償に相手方が応じないときは、裁判所に訴訟を提起しましょう。
特許権侵害の要件に該当する事実を立証すれば、裁判所は相手方に対して、侵害行為の差止めや損害賠償を命ずる判決を言い渡します。また、訴訟の途中で和解が成立するケースもあります。
強制執行
公正証書や訴訟の判決などで確定した差止めや損害賠償を、相手方が任意に履行しない場合には、裁判所に強制執行を申し立てましょう。相手方の財産を差し押さえるなどして、強制的に義務を履行させることができます。
特許権侵害の内容を明確化して、内容証明郵便等で警告書を送付しましょう
自社の特許権が侵害されていることが判明したら、侵害者に対して速やかに警告書を送付しましょう。
警告書においては、特許権侵害の内容を明確かつ具体的に記載することが大切です。また、記録が残る形で送付するため、配達証明付き内容証明郵便を利用しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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