- 作成日 : 2024年10月3日
スタートアップ法務とは?仕事内容や課題、業務効率化のコツを解説
スタートアップ法務は業務スピードが早く、法務担当者の業務範囲が大企業の法務と比べて幅広いことが特徴です。会社の全体像を把握し、経営者の視点も持ちながら対応していく必要があります。直面しやすい課題も少なくありません。
本記事では、スタートアップ法務の仕事内容や求められるスキル、効率化する方法などを解説します。
目次
スタートアップ法務とは?
スタートアップとは、革新的なビジネスで短期的な成長を目指す企業を指します。イノベーションや社会貢献に目を向け、斬新なビジネスモデルで事業を進めるのが特徴です。
スタートアップ企業が特に多い業界は「情報通信業」や「学術研究、専門・技術サービス業」で、AIや医療、EC(Electronic Commerce・電子商取引)の分野で活躍するスタートアップも増えています。今後、スタートアップ企業が市場をリードする可能性もあるでしょう。
このような成長スピードの速いスタートアップでは、法務の果たす役割も大企業とは大きく異なります。詳しくみていきましょう。
大企業の法務部門との違い
スタートアップ法務と大企業の法務部門との大きな違いは、スピード感です。大企業は企画からプロジェクトを進めるまでにいくつもの意思決定が必要であり、時間がかかります。そのため、関連する法務にも余裕が生まれるのが特徴です。
これに対し、短期間で急成長を目指すスタートアップは意思決定スピードも速いため、法務にも同じようなスピード感が求められるでしょう。
また、スタートアップ法務と大企業の法務部門は担当者の業務範囲も異なります。法務に多くの人材が在籍し、手がける事業も多い大企業の場合、担当者の業務は業務内容や法務機能によって細かく分業化されています。一方、スタートアップは人的リソースが限られているため、1人が携わる業務範囲は広くなりがちです。
スタートアップ法務の重要性
スタートアップは革新的な事業に取り組むという特徴があり、最先端技術を扱う事業の領域では、法律のルールが十分に整備されていない部分も少なくありません。
現行の法律では商品・サービスの開発やビジネスモデルがNGになることもあり、法的リスクが発生する可能性が高くなります。
革新的な事業は、他社に先駆けてスピーディに市場展開することが欠かせません。リーガルリスクを乗り越えて迅速に事業を遂行するためには、素早くリスクを見極めて対処する法務の役割が重要です。
スタートアップ法務の攻めと守り
スタートアップは革新的なイノベーションで社会の課題解決を目指す組織であり、新しい技術や商品・サービス、ビジネスモデルを生み出すために挑戦を続けるという特徴があります。そのようなスタートアップの法務には、「攻め」の体制が必要です。
攻めの法務では、新しい市場やビジネス機会の探求・創出に焦点を当て、市場への新規参入や新商品・サービスの開発などの際に法的支援を行います。法的リスクを見極めながら、ビジネスの成長をサポートします。
一方で、「守り」の法務も重要です。競合他社からの訴訟や知的財産権の侵害、契約違反などのリスクを予測し、事前に対策を立てて企業を守ります。
スタートアップが直面する多くの法規制に適合していかなければなりません。そのために法務は企業を取り巻く規制をしっかり把握し、適切な手続きを行いながらリーガルリスクを抑える必要があります。
スタートアップ法務の仕事内容、専門領域
スタートアップ法務の行う内容・専門領域は、次の4つに分類できます。
- 企業法務
- 資金調達とファイナンス法務
- 契約管理
- M&AやIPOへの法務対応
それぞれ、詳しく解説します。
企業法務
スタートアップの企業法務では、企業活動に関わる法律の遵守が大切です。スタートアップは新たな地域や国への市場参入、新商品・サービスの開発を速いスピードで進めていくため、情報収集や分析によりどのような法規制があるかを把握していなくてはなりません。
企業の利益や信頼関係、社会的信用を守るため、常に法令を遵守して法的リスクを抑えることが求められます。
資金調達とファイナンス法務
スピーディな事業展開で急速な成長を目指すスタートアップにとって、どれだけ資金調達できるかが事業を成功させるカギとなります。
資金調達方法は、主に株式を発行して資金を調達するエクイティファイナンス(出資)や、金融機関からの借入れにより資金を調達するデットファイナンス(融資)があります。
このうち、創業間もないスタートアップが多額の資金を調達できる方法は、ベンチャーキャピタルや投資家からの出資を集めるエクイティファイナンスです。
資金調達に際しては投資契約の締結や事業計画書の作成、株式や債券の発行など法務上の手続きが必要であり、ファイナンス法務が重要な役割を果たします。
特にエクイティファイナンスでは、今後の事業を安定化させるため、株主間契約や投資契約をしっかり締結しておかなければなりません。
契約管理
契約管理も、スタートアップ法務の重要な仕事です。契約管理とは、取引や契約など、あらゆる契約活動の管理を指します。
事業を進めるスピードの速いスタートアップは、幅広い契約・取引が発生する可能性があり、スタートアップ法務の果たす役割は重要です。
契約書の適切な作成と管理を行うほか、取引先との交渉や契約におけるトラブルの防止・解決に向けてのアドバイスを行います。
M&AやIPOへの法務対応
スタートアップのEXIT戦略(出口戦略)にはIPOかM&Aかの選択肢があり、どちらも法務対応が重要です。
IPOとは「Initial Public Offering」の略で、新規株式公開のことです。証券取引所に上場し、誰でも株取引ができるようにします。一方、M&Aは合併や買収のことです。主に自社に不足する経営資源を補い、事業を拡大することを目的に行われます。
どちらのプロセスでも法的手続きや規制への適合など、法務部門が大きな役割を担います。
スタートアップ法務が直面しやすい課題
人的リソースが限られているスタートアップは1人が担当する業務範囲が広く、さまざまな課題があります。
詳しくみていきましょう。
法務以外の業務を兼務する必要がある
分業化されて役割分担が明確である大手企業と異なり、スタートアップは1人もしくは少人数ですべての法務業務を処理しなければなりません。それだけでなく、経理や労務など法務以外の業務を兼務しているケースもあります。
経営全体の法務を1人で処理する場合、従業員としての立場ではなく、経営者側の視点で全体を見る意思決定が必要になります。担当する法務が経理や財務・労務などにも影響を与えることを考え、常に全体を見据えて意思決定を行うことが求められるでしょう。
自身の知識のみで解決しようとする
スタートアップで法務担当が1人の場合、頼れるのは自分だけです。すべての法領域を担当しなければならず、わからないことや困ったことがあっても気軽に相談できる社員がいません。
スピーディな意思決定を求められる場面も多く、自身の知識のみで解決しようとすることもあるでしょう。
しかし、未知の領域に事業を進めるスタートアップの法務では、判断を誤るリスクが伴います。正確な判断をするためには自身の知識のみに頼らず、書物などで調べたり、専門家に相談したりするなどの対応が必要になるでしょう。
他部署の理解が得られず衝突してしまう
法務は他部署の業務にも影響を与えるため、コミュニケーションをとりながら情報共有することが大切です。情報共有がうまくできないと、理解が得られず衝突してしまう可能性もあります。
他部署に法律に関する問題があれば、相談にも対応していかなければなりません。信頼関係を築いて情報を共有しながら、法的リスクがあれば速やかに伝えることが必要です。
スタートアップ法務に求められるスキル
スタートアップ法務に携わるためは法律知識も大切ですが、少人数で幅広い業務を担当するため、特に知的好奇心や関係構築力、コミュニケーション力などのビジネススキルが求められます。
ここでは、スタートアップ法務に必要なスキルについて解説します。
知的好奇心
スタートアップで必要なスキルは、知的好奇心です。スタートアップ法務は既存のルールがない環境で、自ら決断していくことが求められます。そのような手探りの状況も楽しめるような マインドが必要になるでしょう。
また、幅広い業務に携わり、人事や財務など法務以外の業務への対応が必要になることもあります。それらにも知的好奇心を持ちながら柔軟に取り組める資質が求められるでしょう。
関係構築力
スピーディに新しい事業展開を進めるスタートアップの法務には、関係構築力が求められます。関係構築力とは、人とのつながりや信頼関係を構築するスキルのことです。
新しい取引先との関係性を速やかに築くことで、契約や取引の交渉もスムーズに進むでしょう。
多くの人と信頼関係を築くことで、法務についてアドバイスを受ける機会も増え、法的リスクを回避することができます。
コミュニケーション力
スタートアップ法務にとって、コミュニケーション力も重要なスキルです。人的リソースの限られたスタートアップ法務では他部署や取引先など多くの人々と関わり、連携して仕事を進めなければなりません。取引先との契約交渉やトラブル対応にも、コミュニケーション力が求められます。
経営者や役員には、法的な問題・リスクをわかりやすく伝えていく必要があり、その際もコミュニケーション力が重要になるでしょう。
スタートアップ法務を効率的に行うには?
限られた人的リソースで行うスタートアップ法務は、業務の効率化が求められます。効率化として、顧問弁護士や外部の専門家に相談する、契約管理システムを導入するといった方法が考えられます。
それぞれ、詳しくみていきましょう。
顧問弁護士の先生に積極的に相談する
顧問弁護士がいる場合は、積極的に相談することで業務を効率化できます。迷ったときや問題が起きたとき、実務に精通した弁護士に相談してアドバイスを受ければ、速やかに問題を解決できるでしょう。
法規制の適合性やコンプライアンスについても、こまめにチェックを受けることをおすすめします。的確な助言により、法的リスクの回避やトラブルの防止につながるでしょう。
契約管理システムを導入して手作業を減らす
スタートアップ法務の効率化には、契約管理システムの導入も効果的です。契約管理システムとは、契約書の管理台帳作成や検索など、締結後の契約書を適切に管理する機能を備えたシステムのことです。
契約書の一元管理や検索機能、電子化など、さまざまな機能が搭載されています。
社内の複数の担当者が関わる契約書を一元管理することで契約管理を徹底でき、いつでも内容を参照できるのもメリットです。契約書の更新期限が通知される機能もあり、契約書管理業務の負担を軽減できるでしょう。
スタートアップ法務の効率化を考えよう
成長スピードの速いスタートアップにとって、法務は重要な役割があります。法的規制の遵守や契約管理、ファイナンス法務など、幅広い業務を少ない人材で対応しなければなりません。
業務内容や専門領域を把握し、課題を克服しながら適切に進める必要があります。顧問弁護士への相談や契約管理システムの導入など、業務の効率化も検討していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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