- 作成日 : 2024年11月27日
不動産売買契約書はどちらが作成する?記載事項や注意点も解説
不動産取引に関する具体的な取り決めを記載した不動産売買契約書は、不動産仲介業者が雛形を提供するのが一般的です。売主側と買主側の不動産仲介会社が異なる場合や、個人間で取引する場合は、売主側と買主側のどちらから提供しても問題ありません。
今回は、不動産売買契約書を作成する際の記載事項や注意点、電子化について解説します。
目次
不動産売買契約書とは
不動産売買契約書とは、不動産取引における売主と買主の合意事項を明示した文書です。
不動産を売買取引する際には、売主と買主が取引合意の意思表示をしたあと契約内容を明記した不動産売買契約書を作成し、合意した証として署名・捺印を行います。
不動産売買を仲介する宅地建物取引業者には、建物の売買や交換の際に契約の内容を示した「37条書面」の交付が義務付けられています。
そのため実務上では、37条書面に必要な記載事項を不動産売買契約書に盛り込み、契約書の交付をもって37条書面の交付義務も果たしていることがほとんどです。
不動産売買契約書を作成する目的
不動産売買契約書を作成する目的は、契約での合意事項を明示して、当事者間の意見の相違を防ぐことです。
口頭での合意だけでは「言った」「言わない」の行き違いを招きやすく、とくに高額なお金をやり取りする不動産取引では、大きなトラブルへと発展する可能性があります。契約書に売買代金や支払い方法、物件の詳細などを記載することで、安全で透明性の高い取引が可能になります。
土地売買契約書との違い
不動産売買契約書と土地売買契約書は、取引対象の範囲に違いがあります。
不動産売買契約書での取引対象は、土地と建物の両方です。土地と建物をセットで取引する中古物件やマンションなどの契約に用いられます。一方の土地売買契約書は、土地のみの取引の場合に限られます。取引対象は異なりますが、書面の記載項目などに大きな違いはありません。
売買する対象に土地と建物が含まれる場合には不動産売買契約書、土地のみの取引であれば土地売買契約書を作成するのが一般的です。
重要事項説明書との違い
不動産売買契約書が取引上の取り決めを明記するための書面であるのに対し、重要事項説明書は取引するうえで重要となる情報を買主へ提供することが目的です。
宅地建物取引業法により、不動産会社が売買取引を仲介する際には、買主に対する重要事項の説明が義務付けられています。重要事項説明書には、売買する不動産の登記簿情報や法律上の制限、水道や電気などライフラインの整備状況など、契約書より細かな情報が記載されます。
不動産売買契約書は売主と買主のどちらが作成する?
不動産売買契約書は仲介する不動産会社が提供しますが、法的には売主側と買主側のどちらの不動産会社が提供しても問題ありません。
売主側と買主側の不動産仲介会社が異なる場合、対象不動産の詳細を把握している売主側の不動産会社が、不動産売買契約書を提供するのが一般的といわれています。ただし実務上は、取引の状況に応じて双方の不動産会社が話し合って担当を決めることも多いようです。契約書の内容は、相手側の不動産会社にも確認してもらって完成させます。
不動産会社をはさまずに個人間で売買取引を行う場合も、売主と買主が話し合い、どちらかが不動産売買契約書を作成します。契約自体は口約束でも成立しますが、のちのトラブルを防ぐために必ず不動産契約書を作成して契約を結びましょう。
不動産売買契約書の作成は専門家に依頼したほうがよい?
不動産売買契約書を作るには、不動産や法律における専門知識や作成にかかる労力が必要です。そのため場合によっては、不動産売買契約書の作成代行を引き受けている専門家へ依頼するのも有効な方法です。
個人間で売買する場合と不動産会社が仲介する場合において、契約書作成を専門家に依頼すべき理由やメリットを説明します。
個人間で売買する場合
個人間で不動産売買を行うのであれば、不動産売買契約書の作成を専門家に依頼すると、より安心して取引を進められます。
不動産会社の仲介なしに個人間で取引をする際は、不動産や法律の知識不足によって、取引がスムーズに進まずトラブルになってしまうケースも珍しくありません。トラブルを避けるには、専門知識にもとづいた適切な契約書が有効です。
不動産売買契約書の作成代行を依頼するには、以下のような専門家を検討しましょう。
- 弁護士
- 行政書士
自分で契約書を作成する場合には、ダウンロードできる不動産売買契約書のテンプレートなどを参考に、記載すべき事項を盛り込みましょう。
不動産会社が仲介する場合
不動産会社が仲介する場合においても、不動産会社自身が不動産売買契約書を作成するよりも、作成を専門家や代行業者に依頼したほうがメリットは大きいケースもあります。
不動産会社が契約書を作成するには、専門知識やノウハウをもつ人材や、作成に費やす時間を確保しなければなりません。契約書の作成を外注することで従業員のリソースに余裕が生まれ、直接売上につながる営業活動に注力できます。
また、複雑な取引の契約書作成を弁護士や行政書士といった専門家に依頼すると、法的リスクをふまえた契約書を作ってもらえるため、取引の安全性が高まります。
不動産売買契約書の記載事項
適切な不動産売買契約書を作成するには、契約内容として明示しておくべき基本的な事項を記載しなければなりません。不動産売買契約書に記載すべき主な事項を説明します。
売買の当事者や物件、売買代金
売買契約における基本的な事項となる、売買の当事者、売買物件、売買代金などの詳細を明記します。
物件の情報は登記簿の内容を参照し、売買する面積や境界線なども明確にしておかなければなりません。売買代金に関しては、支払スケジュールや支払方法、手付金の取り扱いなどもきちんと定めて明記します。
融資特約
買主が物件の購入にローンを利用する場合、金融機関からの融資が受けられなかった場合に備えて融資特約を設定することがほとんどです。
融資特約を定めておくと、買主が融資審査に通らなかったときに違約金なしで契約を解除できます。すでに買主が支払った手付金も、そのまま返還される旨も記載します。
融資特約を定めるには、融資を申請する金融機関や融資予定金額、融資特約による契約解除が可能な期日などを明記しなければなりません。
所有権移転と引渡し、抵当権などの抹消
売主から買主への不動産の所有権移転登記や物件の引渡しは、売買代金の全額支払いと同時に行うことを明記するのが通常です。移転登記の手続きや登記費用負担の方法のほか、売買代金が支払われなかった場合、引渡し前に不動産が滅失・毀損した場合の取り扱いなども明確に定めておきます。
また、購入した不動産の自由な利用を妨げることになる抵当権などの負担を、所有権の移転までに売主が抹消しておく旨を明記する必要があります。
税金の分担、収益の帰属
不動産にかかる固定資産税など税金の精算方法についても定めておかなければなりません。「引渡し日の前日までは売主」「渡し日以降は買主」と負担する期間を区切って、1年分の税金を日割りで精算するのが一般的です。
売買する不動産が賃貸物件の場合、賃料収入や収益に対する負担金も、税金と同様に区切って分担することを明記します。
契約不適合責任
引渡しが完了した不動産に、契約時にはわからなかった不具合が発覚した場合に備えて、売主の責任範囲を定めておく必要があります。
契約不適合責任とは、取引した対象に契約内容に適合しない欠陥が発覚した際に、売主が買主に対して負う民法に定められた責任のことです。
たとえば、引渡し後一定期間内に発見された欠陥などの契約不適合が見つかった場合、買主は売主に対して不動産の修繕や損害賠償、契約解除などの請求が可能と規定します。個人が売主の場合、契約不適合責任を負う期間を引渡しから2~3ヶ月程度に定めるケースが一般的です。
契約解除と違約金
重大な契約違反があった場合の解除条件や違約金についても明記します。
売主および買主のどちらかが契約に違反した場合、相手方は契約の解除が可能となり、違反した側は違約金を支払う旨を定めます。違約金は、売買代金の10〜20%ほどを目安に設定されることが一般的です。
不動産売買契約書を作成する際の注意点
不動産売買契約書を作成する際は、以下の点に注意が必要です。
- 契約内容を詳細に記載する
- 情報に誤りがないか十分に確認する
- 契約不適合責任や契約違反時などの契約解除時の条件も記載する
不動産売買契約書には、売買代金の支払方法や不動産の権利関係など、契約内容を詳細に記載します。記載する情報には誤りがないように、双方が十分に確認することが大切です。
曖昧な記載内容や誤りがある状態で契約を結んでしまうと、当事者間に認識の違いが発生したり、不利益を被ったりする恐れがあります。
また取引が成立したあとに状況が変わり、契約を解除しなければならない場面も出てくるかもしれません。イレギュラーな事態やリスクに備えた条件なども、細かく記載するように注意しましょう。
不動産売買契約書のひな形・テンプレート
不動産売買契約書を作成するには、テンプレートを参考にするのがおすすめです。テンプレートには、不動産を安全に取引するために必要な項目が盛り込まれているため、専門的な知識がなくても適切な契約書を作成できます。
マネーフォワード クラウド契約では、弁護士監修の「土地売買契約書」「建物売買契約書」のテンプレートを用意しています。ダウンロードは無料でできるため、以下のページからぜひご確認ください。
不動産売買契約書にかかる印紙税
不動産売買契約書を作成した場合、定められた収入印紙を貼り付けて印紙税を支払わなければなりません。不動産売買契約書は印紙税法で規定された課税文書に該当するため、契約書に記載された売買価格に応じて印紙税が課税されます。
不動産の譲渡に関する契約書は、令和9年3月31日までに作成されるものであれば、印紙税の軽減措置が適用されます。契約書の記載金額に応じた印紙税の税率は以下のとおりです。
記載金額 | 印紙税率(軽減措置適用) |
---|---|
1万円以下 | 非課税 |
1万円を超え10万円以下 | 200円 |
10万円を超え50万円以下 | 200円 |
50万円を超え100万円以下 | 500円 |
100万円を超え500万円以下 | 1,000円 |
500万円を超え1,000万円以下 | 5,000円 |
1,000万円を超え5,000万円以下 | 10,000円 |
5,000万円を超え1億円以下 | 30,000円 |
1億円を超え5億円以下 | 60,000円 |
5億円を超え10億円以下 | 160,000円 |
10億円を超え50億円以下 | 320,000円 |
50億円を超える | 480,000円 |
参考:印紙税額|国税庁
なお契約書に貼り付けた収入印紙には、印紙の再使用を防ぐために印紙と下の文書にまたがって印を押す「消印」が必要です。消印がなければ印紙税を納付したと認められないため、注意しましょう。
不動産売買契約書は電子化できる?
不動産売買契約書は、電子化が可能です。2022年の宅建業法改正により、不動産取引の利便性向上と業務効率化を目的に、売買契約書や重要事項説明書の電子化が認められました。
不動産売買契約書を電子化すると、以下のようなさまざまなメリットが得られます。
- 契約書をネット上で送付できるためスピーディーに契約締結できる
- 書類を保管する物理的なスペースが不要になる
- 印紙税がかからないためコストが削減できる
印紙税は、課税文書に該当する「紙の文書」を作成したときに課税されるものであるため、電子契約書を取り交わした場合には非課税となります。大きな金額で取引される不動産売買では印紙税も高額になるため、契約書の電子化によって大幅なコストカットが期待できます。
不動産売買契約書は売主側・買主側どちらも内容を慎重に確認しよう
不動産取引のトラブルを防ぐために欠かせない不動産売買契約書は、売主側と買主側どちらの不動産仲介会社が作成しても構いません。作成を専門家に依頼することも可能で、取引の安全性が高まったり、従業員のリソースに余裕が生まれたりするメリットが得られます。
適切な契約書を作成するには、必要事項を漏れなく記載しなければならないため、テンプレートの活用が便利です。また契約書を電子化すると、印紙税のコストカットも実現できます。
不動産売買契約書は、売主側、買主側どちらにとっても重要な書面であるため、作成時やチェック時は記載内容に誤りやあいまいな点がないか慎重に確認しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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