- 作成日 : 2024年9月3日
仮登記担保設定契約書とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説
仮登記担保設定契約書とは、債権を担保することを目的として、主に代物弁済によって仮登記担保権を設定する際に締結する契約書です。本記事では、仮登記担保設定契約書の書き方やレビュー時のポイントを、条文の具体例を示しながら解説します。
■代物弁済予約による仮登記担保設定契約書のテンプレート/ひな形はこちら
■仮登記担保設定契約書(停止条件付)のテンプレート/ひな形はこちら
目次
仮登記担保設定契約とは?
仮登記担保設定契約とは、担保権の一種である「仮登記担保」を設定する際に締結する契約です。
仮登記担保とは
「仮登記担保(かりとうきたんぽ)」とは、債務者が債務を弁済しない場合に、債権者に対して担保物の所有権を移転することをあらかじめ契約し、その旨の仮登記をすることによって設定される担保権です。
抵当権などとは異なり、仮登記担保は法律上定められた担保権(=典型担保)ではありませんが、実務上認められている担保権(=非典型担保)に当たります。
仮登記と本登記との違い
不動産について物権(所有権など)の取得を第三者に対抗するためには、その事実について「本登記」を経由する必要があります。
これに対して「仮登記」は、本登記の順位を確保するためのものです。仮登記だけでは物権取得の事実を第三者に対抗できませんが、本登記手続を行うと、仮登記の時点の順位で本登記を受けることができます。
仮登記担保設定契約を締結するケース
仮登記担保設定契約は、何らかの債務の担保として不動産を提供する(または提供を受ける)際に締結されることがあります。
例えば、事業の運転資金を借り入れている債権者から、借入債務を担保するため、自社が所有する不動産への仮登記担保の設定を求められるケースがあります。
また、継続的に業務を受注している取引先に対する売掛金債権について担保の提供を受けたい場合には、取引先が所有する不動産に仮登記担保を設定することが考えられます。
不動産を担保にとる場合は抵当権を設定する例が多いですが、仮登記担保は競売を必要としないため、抵当権よりも簡易的に実行できるメリットがあります。仮登記担保と抵当権のどちらを選択するかは、債権者と債務者の協議によって、具体的な状況に即して適切に判断しましょう。
仮登記担保設定契約書のひな形
仮登記担保設定契約書のひな形は、以下のページから無料でダウンロードできます。実際に仮登記担保設定契約書を作成する際の参考としてください。
※ひな形の文例と本記事で紹介する文例は、異なる場合があります。
代物弁済予約による仮登記担保設定契約書
代物弁済の予約によって仮登記担保を設定する際の契約書のひな形です。債務不履行の発生後、債権者が代物弁済予約完結の意思表示を行い、その後に所定の事項を債務者へ通知すると、通知の2か月後に債務者から債権者へ物権の所有権が移転します。
仮登記担保設定契約書(停止条件付)
停止条件付代物弁済によって仮登記担保を設定する際の契約書のひな形です。債務不履行の発生後、債権者が所定の事項を債務者へ通知すると、通知の2ヵ月後に債務者から債権者へ物権の所有権が移転します。代物弁済予約による場合とは異なり、代物弁済予約完結の意思表示は不要です。
仮登記担保設定契約書に記載すべき内容
仮登記担保設定契約書には、主に以下の事項を定めます。
①被担保債務
②代物弁済の予約または停止条件付代物弁済
③仮登記の手続
④仮登記担保権の及ぶ範囲
⑤禁止事項
⑥通知事項
⑦担保提供義務
⑧担保権の実行・受戻権・目的物の引渡し
⑨その他
被担保債務
第○条 甲及び乙は、甲乙間で締結した〇〇年〇月〇日付け金銭消費貸借契約に基づいて、乙が甲に対し以下の債務(以下「本件債務」という。)を負担していることを相互に確認する。
① 元本 〇〇円
② 利息 年〇分
③ 遅延損害金 年〇分
④ 弁済期 〇〇年〇月〇日
仮登記担保によって担保される債務(債権)を、発生原因(契約など)や元本などの情報によって特定します。
代物弁済の予約または停止条件付代物弁済
第○条 乙が甲に対し本件債務を弁済期に弁済しないときは、乙は、代物弁済として乙所有の以下の土地(以下「本件土地」という。)の所有権を甲に移転することを予約した。
所在 ○○県○○市○町○丁目
地番 ○○番
地目 宅地
地積 ○○○.○○平方メートル
第○条 乙は、甲に対し、本件債務を前条記載の弁済期に弁済できなかったことを停止条件として、代物弁済として乙所有の以下の土地(以下「本件土地」という。)の所有権を甲に移転することを約した。
仮登記担保は代物弁済の形をとるのが一般的ですが、主に「代物弁済の予約」と「停止条件付代物弁済」の2パターンがあります。
「代物弁済の予約」の場合は、債務不履行の発生後に予約完結の意思表示が必要となります。これに対して「停止条件付代物弁済」の場合には、予約完結の意思表示は不要です。
担保実行の手続が若干異なることを理解したうえで、いずれかを選択し、対応する条文を仮登記担保設定契約書に定めましょう。
仮登記の手続
第○条
【代物弁済予約の場合】乙は、本契約締結後、直ちに甲のために前条の代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記手続をする。
【停止条件付代物弁済の場合】乙は、本契約締結後、直ちに甲のために前条の代物弁済を原因とする条件付所有権移転仮登記手続をする。
2 前項の登記にかかる一切の費用は、乙の負担とする。
3 乙は、甲に対し、本契約に基づく仮登記以外に、本件土地に関し、抵当権、賃借権その他いかなる負担もないことを表明し、保証する。
代物弁済の予約権または停止条件付代物弁済によって所有権を得る権利を保全するため、契約締結後直ちに仮登記手続を行うべき旨を定めます。
仮登記手続の費用は、債務者負担とするのが一般的です。また、仮登記以外に債権者が把握していない負担が不動産上に存在しないことを明記しておくのがよいでしょう。
仮登記担保権の及ぶ範囲
第○条
【代物弁済予約の場合】第○条の代物弁済予約の効力は、本件土地について、本契約締結時に存するすべての附合物、従物及び増改築部分のほか、本契約締結後に付加されたすべての附合物、従物及び増改築部分に及ぶ。
【停止条件付代物弁済の場合】第○条の代物弁済の効力は、本件土地について、本契約締結時に存するすべての附合物、従物及び増改築部分のほか、本契約締結後に付加されたすべての附合物、従物及び増改築部分に及ぶ。
仮登記担保権のおよぶ範囲を確認的に記載します。不動産本体のみならず、附合物・従物・増改築部分にも仮登記担保権がおよぶ旨を明記しましょう。
禁止事項
第○条 乙は、本件土地を善良なる管理者の注意をもって管理し、甲の事前の書面(電磁的記録による方法を含む。)による同意なくして、次の行為をしてはならない。
(1) 本件土地を第三者に譲渡し、又は本件土地に抵当権、賃借権、地上権その他の第三者の権利を設定する一切の行為
(2) 本件土地の全部又は一部を、第三者に使用又は占有させる一切の行為
(3) 前各号の他、本件土地の価値を毀損するおそれのある一切の行為
仮登記担保の対象となっている不動産の価値を毀損するような行為を、債務者が行ってはならない旨を明記しましょう。
通知事項
第○条 乙は、本件土地について次のいずれかの事由が生じたとき又は生ずるおそれがあるときは、直ちにその旨を甲に通知しなければならない。
(1) 差押え、仮差押え、仮処分若しくは競売の申立て、又は公租公課の滞納処分を受けたとき
(2) 本件土地の現状が変更されたとき
(3) その他本件土地の価値の減少を生じさせる一切の事由
仮登記担保の対象となっている不動産の価値が損なわれ得る事態が生じた際には、債務者が債権者に対して直ちに通知すべき旨を定めましょう。
担保提供義務
(担保提供義務)
第○条
本件土地の滅失、毀損、価値下落その他の事由により、担保価値が不十分となった場合には、甲は、乙に対し、相当な価値を有する担保を追加で提供することを請求できるものとする。
対象不動産の担保価値が被担保債権の額に不足した場合には、債権者が債務者に対し、追加担保の差し入れを請求できる旨を定めましょう。
担保権の実行・受戻権・目的物の引渡し
【代物弁済予約の場合】
第○条 乙が本件債務を弁済期に弁済しないときは、甲は、乙に対し、代物弁済予約完結の意思表示をすることができる。
2 前項の代物弁済予約完結の意思表示をした後、甲は、乙に対し、本件土地の評価額、本件債務の残債務額及び清算金額を通知するものとする。
【停止条件付代物弁済の場合】
第○条 乙が本件債務を弁済期に弁済しないときは、甲は、乙に対し、本件土地の評価額、本件債務の残債務額及び清算金額を通知するものとする。
(受戻権)
第○条 前条の通知が乙に到達した日から起算して2か月(以下「清算期間」という。)が経過し、甲から前条の清算金の支払いを受けるまでの間に、乙が本件債務の全額を弁済したときは、甲は、本件土地の仮登記の抹消登記手続をするものとする。ただし、清算期間が経過した時から5年が経過したとき、または第三者が本件土地の所有権を取得したときは、この限りでない。
(本件土地の引渡し)
第○条 清算期間内に乙が本件債務の全額を弁済しなかったときは、乙は、甲に対し、第○条2項の清算金の支払いを受けるのと引換えに、直ちに本件土地を引き渡し、かつ、自己の負担において第○条の仮登記に基づく所有権移転本登記手続をするものとする。
被担保債務が不履行となった場合、債権者は仮登記担保権を実行できます。
代物弁済予約の場合は予約完結の意思表示が必要ですが、停止条件付代物弁済の場合は不要です。
代物弁済予約・停止条件付代物弁済のどちらでも、債権者が仮登記担保権を実行する際には、債務者に対して対象不動産の評価額・残債務額・清算金額などを通知しなければなりません。(仮登記担保契約に関する法律2条)。
「清算金」とは、担保物の価値が被担保債権の額を超える場合の超過額に相当する金銭です。仮登記担保はあくまでも担保権なので、被担保債権の回収に必要な額を超える価値については、清算金として債務者に支払うことが義務付けられています(同法3条)。
上記の事項の通知が債務者に到達してから2か月が経過した後、債権者から清算金の支払いを受けるまでの間は、債務者は債権者に対して被担保債権を弁済することにより、担保物の受戻しを請求できます(同法11条本文)。ただし、清算期間が経過したときから5年が経過したとき、または第三者が対象不動産の所有権を取得したときは、受戻権を行使できません。
通知到達の2か月後以降に、債権者が債務者に対して清算金を支払った場合は、代物弁済により、担保物の所有権が債務者から債権者へ確定的に移転します。この場合、債務者は債権者に対して担保物を引き渡すとともに、債権者のために本登記の手続を行わなければなりません。
その他
上記のほか、仮登記担保設定契約書には損害賠償条項、合意管轄条項、誠実協議条項などを定めることがあります。
仮登記担保設定契約書を作成する際の注意点
仮登記担保設定契約書を作成する際には、特に担保権の実行・受戻権・目的物の引渡しなどに関して「仮登記担保契約に関する法律(略称:仮登記担保法)」が適用される点に注意しましょう。
担保権の実行手続などについては、仮登記担保契約に関する法律の規定に沿った条文を定めなければなりません。特に債務者に対して通知すべき事項(対象不動産の評価額・残債務額・清算金額など)、2ヵ月間の清算期間、清算金の支払いなどについては、仮登記担保に特有のルールが設けられている点に十分ご注意ください。
また、債権者・債務者間のトラブルを避けるためには、被担保債務や仮登記担保の設定・実行などに関して、明確な文言で条文を定めることが大切です。曖昧な部分を残さないように、締結前に契約書全体をきちんと確認しましょう。
仮登記担保設定契約書は、仮登記担保法を踏まえて作成しましょう
仮登記担保は、実務上認められている非典型担保(=法律に明文の定めがない担保権)です。主に代物弁済の予約または停止条件付代物弁済の形で、不動産に仮登記担保が設定されることがあります。抵当権に比べて簡易に実行できる点が、仮登記担保の大きな特徴です。
仮登記担保設定契約書を作成する際には、仮登記担保法の規定を踏まえて条文を調整することが重要です。特に債務者に対する通知、清算期間、清算金の支払いなどについて、仮登記担保に特有のルールが設けられていることに留意しつつ、適切な内容の仮登記担保設定契約書を作成しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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