• 作成日 : 2023年11月2日

著作者人格権とは?含まれる権利や契約時の注意点を紹介

著作者人格権とは、楽曲や絵画、プログラムなど、ある作品を作った方に認められる権利です。取引に際して、お金を払って譲り受けた成果物でも著作者人格権を無視できることにはなりません。

実務においても注視する必要があるこの著作者人格権とはいったいどんな権利なのか、著作権との違いや契約時の注意点とともに紹介します。

著作者人格権とは?

著作権法ではまず、「著作物」と「著作者」を次のように定義しています。

著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

著作者 著作物を創作する者をいう。

引用:e-Gov法令検索 著作権法第2条第1項第1号・第2号

例えば「小説」「楽曲」「ダンス」「絵画」「芸術的建築物」「図表」「アニメ」「写真」「コンピュータ・プログラム」などはすべて著作物に該当し、これらを作った方は同法のいう著作者にあたります。

そして同法では著作者に対し、他人が無断でする特定の行為を止める権利を認めています。

このうち、著作者の財産的利益ではなく人格的利益(精神的な利益)を守る趣旨で設けられているのが「著作者人格権」です。勝手に著作物を公表されないこと、著作者名の表示・非表示の権限を持つこと、勝手に改変をされないこと、などが著作者人格権にあたります。

なお、著作者については下記記事を参考ください。

著作人格権が発生するケース

著作者人格権は、著作物を作った時点で発生します。

他人との間で契約を交わすなどの必要はありませんし、特許権のように行政での手続・登録など、権利を得るための作業も必要ありません。そのため著作物と呼べるものを生み出した方は、その時点から著作者人格権を主張することが可能となります。

なお、法人も著作者となることができるため、法人にも著作者人格権は発生します。ただし、法人たる企業に属する従業員が著作物を生み出したとき、そのすべてが企業の著作物となるわけではありません。
著作物の作成について企画をしたのが企業であること、従事する者が職務上創作したこと、企業の名義で公表されるものであること、就業規則等に「従業員を著作者とする」といった定めがないこと、などを満たして作成されることで当該企業に著作者人格権が発生します。

従業員との間でもトラブルが起こらないように注意が必要です。

著作権との違い

著作者の持つ権利は著作者人格権のほか、財産権にあたる「著作権」もあります。

複製権、上映権、演奏権、展示権、譲渡権、貸与権、二次的著作物の創作権・利用権などが著作権に該当します。

著作者人格権との違いとして大きく次の2点を挙げることができます。

  • 著作権は、著作者の財産的利益を守るためのもの
    ⇔ 著作者人格権は、著作者の人格的利益を守るためのもの
  • 著作権は、譲渡や相続の対象になる
    ⇔ 著作者人格権は、譲渡できない

著作者人格権の種類

著作者人格権は①公表権、②氏名表示権、③同一性保持権の3種類から構成されます。それぞれ権利の内容を説明していきます。

公表権

著作者人格権の1種である「公表権」は、著作権法で次のように規定されています。

著作者は、その著作物でまだ公表されていないもの(その同意を得ないで公表された著作物を含む。以下この条において同じ。)を公衆に提供し、又は提示する権利を有する。当該著作物を原著作物とする二次的著作物についても、同様とする。

引用:e-Gov法令検索 著作権法第18条第1項

つまり、自分で作った著作物に関して、それを公表する・公表しないを決定できる権利が公表権です。

ただし続く同条第2項では、未公表の著作物であっても、次のケースには著作物の公表に同意したものと推定される旨が規定されています。

  • 著作権を譲渡したケース
  • 美術・写真の著作物の原作品を譲渡したケース など

氏名表示権

著作者人格権の1種である「氏名表示権」は、著作権法で次のように規定されています。

著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする。

引用:e-Gov法令検索 著作権法第19条第1項

つまり、自分が作った著作物を公表するとき、①著作者名を表示するのかどうか、と②(表示する場合は)本名での表示なのかペンネーム等での表示なのか、を決定する権利を合わせたものが氏名表示権です。

ただし、著作者を害するおそれがなく公正な慣行にも反しないのであれば、著作者名の表示を省略することも認められています。そのためBGMを流す場合、そのたびに作曲者名をアナウンスする義務が課されるわけではないのです。

同一性保持権

著作者人格権の1種である「同一性保持権」は、著作権法で次のように規定されています。

著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。

引用:e-Gov法令検索 著作権法第20条第1項

つまり、自分が作った著作物のタイトルや内容について、勝手に変更されたり切り取られたりしない権利が同一性保持権です。

ただし同一性保持権についても例外がいくつかあります。例えば教材として掲載するケースや建築物の増改築をするケース、コンピュータ・プログラムにおけるバグを修正するケース、その他著作物の性質・利用目的・態様に照らしてやむを得ないケースなどです。

著作人格権の侵害にあたる行為

著作者人格権の侵害にあたる行為は多岐にわたります。その例を以下に示しますので、著作物の取り扱いに際しては著作権のみならず著作者人格権にも十分留意しましょう。

  • 作曲家の作った未発表の音楽を勝手に演奏する行為(公表権の侵害)
  • 小説が作った未公表の小説を勝手に発行する行為(公表権の侵害)
  • 写真家が撮影した写真を氏名の表示なくSNSに投稿する行為(氏名表示権の侵害)
  • 著作物について、ペンネームでの表示を望んでいたにも関わらず本名を表示した行為(氏名表示権の侵害)
  • イラストレーターの作成したイラストを勝手に改変する行為(同一性保持権の侵害)
  • 企業の作ったゲームのストーリーを勝手に変える行為(同一性保持権の侵害)

これら著作者人格権を侵害した場合、著作権法の規定に従い、「最大5年の懲役刑」もしくは「最大500万円の罰金」、またはこれらの併科に処されるおそれがあります。

また、刑罰に処されなくても不法行為があったことを理由に著作者から損害賠償請求を受けることもあります。

契約書における著作者人格権不行使条項の書き方

企業活動に際して著作物が発生したり著作物をやり取りしたりすることも珍しくありません。そのとき現物をもらい受けたとしても、著作権等が相手方に残っていると様々な制約がかかって、できることも限られてしまいます。

そこで「著作権を譲渡する」旨の契約を交わすことが多いです。

しかしながら、著作者人格権については著作権と同様に取り扱うことができません。上述の通り、著作者人格権は譲渡ができないからです。そこで実務上、「著作者人格権不行使条項」を契約書に盛り込む対応が取られています。

次のように、行使しないことを約束する旨を記しましょう。

第○条 著作者乙は、本著作物に係る著作者人格権を行使しない。

ただし「本著作物」の内容が不明瞭だといけませんので、同条文内あるいは契約書内のどこかで明示しておくことも大事です。

また、次のように不行使の範囲を明確にしておくのも良いでしょう。

第○条 著作者乙は、甲および甲の指定する第三者に対し、本著作物に係る著作者人格権を行使しない。

なお、著作者人格権不行使条項は絶対的に有効になるわけではありません。特約を交わしたとしても著作者の名声を害するような方法で著作物を利用してはいけません。

著作者人格権に注意して著作物は取り扱う

個人も企業のも、意図せず著作者人格権を侵害してしまう可能性を秘めています。他人の作った作品などは、契約に基づいて受け取ったとしても、自由な方法で取り扱って良いわけではありません。

著作権法に規定されている著作権および著作者人格権の内容に配慮し、必要に応じて「著作権の譲渡」や「著作者人格権の不行使」を求める条項を契約書に記載しましょう。


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