• 更新日 : 2024年8月30日

遺留分減殺請求とは?遺留分の定義や請求方法を解説【ひな型つき】

遺留分減殺請求とは、一定範囲の相続人に認められた「最低限取得できる相続分」を確保するための請求です。改正された現在の民法では「遺留分侵害額請求」といい、特定の人に有利な相続がなされた場合でも、保障された取り分を取り戻せます。

本記事では、遺留分減殺請求書のひな形とあわせて、請求を進めるための基礎知識を解説します。

遺留分減殺請求とは?

遺留分減殺請求とは、最低限度の遺産を相続できる権利が侵害された場合に、不足分に相当する財産を取り戻す請求のことです。

遺産相続においては、法定相続人の順位と範囲が定められています。なかでも一定範囲の法定相続人には、「最低限保障される遺産の取り分=遺留分」が設定されています。

被相続人が所有する財産を本人の希望どおりに相続してもらうには、遺言書や生前贈与が有効です。

その一方で、遺言書によって特定の人にだけ多額の財産を相続させてしまうと、遺産を頼りにしていた他の相続人は生活に支障をきたす可能性もあります。そのため、残された家族の相続に対する期待権や生活を保護することを目的に、遺留分減殺請求が認められています。

また遺留分減殺請求は、2019年7月の民法改正において、遺留分侵害額請求へと改変されました。この改変によって、取り戻せる財産が「侵害された遺産そのもの」から「金銭」へと変わった点が、2つの大きな相違点です。

たとえば、これまでの遺留分減殺請求では、侵害された遺留分が土地であれば土地そのものを取り戻す請求が認められていました。一方、現在の遺留分侵害額請求では、取り戻すべき財産に相当する金銭の請求が可能です。

遺留分の定義

相続できる財産の最低限の取り分である遺留分は、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人に認められている権利です。

遺留分は相続財産に対する割合で示され、相続人の内訳によって異なります。基本的には「法定相続分の2分の1」です。したがって、故人(被相続人)の親や祖父母にあたる直系尊属以外に相続人がいない場合のみ「法定相続分の3分の1」となります。

相続する人法定相続分遺留分
配偶者のみ100%1/2
配偶者と子配偶者1/21/4
1/2÷人数1/4÷人数
子のみ100%÷人数1/2÷人数
配偶者と
直系尊属
配偶者2/31/3
直系尊属1/3÷人数1/6÷人数
直系尊属のみ100%÷人数1/3÷人数
配偶者と兄弟姉妹配偶者3/41/2
兄弟姉妹1/4÷人数なし
兄弟姉妹のみ100%なし

長男・次男のみで父親の遺産を相続する場合、子ども1人あたりの遺留分割合は4分の1です。

たとえば、父の遺言書に「1億円の遺産すべてを長男に相続させる」とされていたために、次男は1円も相続できなかったとします。その場合でも、次男の遺留分は「1億円×1/4」であり、次男は長男に対して2,500万円の遺留分侵害額請求することが可能です。

遺留分減殺請求を行う方法

遺留分侵害額請求は、以下の手順で進めていきます。

  1. 請求金額を確認する
  2. 請求相手を確認する
  3. 請求書を作成する
  4. 請求書を送付する

遺留分侵害額請求をするには、請求金額となる侵害された遺留分を正確に算出しなければなりません。また、被相続人から財産を受け取った人物が複数いる場合は、請求相手の特定も必要です。

遺留分侵害額請求書を送付するまでの手順を確認しましょう。

請求金額を確認する

請求するべき遺留分の侵害額を算出するには、基となる相続財産(=基礎財産)を確定させなければなりません。

基礎財産は以下の金額を合計して求められます。

 

      • 被相続人が相続開始時に所有していた財産
      • 相続開始前1年以内の生前贈与
      • 相続人に対する相続開始前10年以内の特別受益

 

特別受益とは、生前贈与のなかでも一部の相続人だけが特別に受け取った利益のことです。相続財産のなかに債務がある場合は、債務の全額を差し引きます。

これらを合わせた基礎財産を基に遺留分の侵害額を算出しましょう。

 

  • 遺留分の金額=基礎財産×遺留分割合
  • 遺留分侵害額=遺留分の金額-実際に相続した財産額

 

根拠のある金額を請求するために、正確な遺留分侵害額を導き出すことが大切です。

請求相手を確認する

つぎに、遺留分侵害額を誰に請求すればよいのかを確認しましょう。請求する相手は、遺言によって各自の遺留分を超えた財産を受け取った人物であり、財産の取得方法や時期によって請求する優先順位が変わります。

遺言によって財産を受け取る遺贈を受けた人のほうが、贈与を受けた人よりも請求相手として優先されます。遺贈を受けた人が複数いる場合、遺贈された財産の金額に応じて按分して請求が可能です。贈与を受けた人が複数いるのであれば、贈与された日付が新しい順に侵害額を負担する必要があります。

請求書を作成する

遺留分侵害額請求をするために、請求権の行使を伝える請求書を作成します。

遺留分侵害額請求は裁判所での手続きが必要なものではなく、遺留分を侵害した相手に直接請求するものです。口頭やメールなどでの請求も可能ですが、やり取りを文書で残しておくほうが安心でしょう。

請求権を行使する意思を明示するためには、自分の遺留分が侵害されていることや、遺留分侵害額請求をした日付などが明確に伝わる文面の請求書を作成しなければなりません。

遺留分損害額請求書のひな形・テンプレート

下記の遺留分損害額請求書テンプレートは、記載すべき内容や文言が揃った請求書を作成できるため、ぜひ活用してください。

請求書を送付する

遺留分侵害額の請求書は、内容証明郵便を使って相手方へ郵送しましょう。内容証明郵便は、差出人や受取人、送った日付、文書の内容を郵便局が証明してくれるサービスです。

協議が難航して裁判に発展した場合にも遺留分侵害額請求の権利を行使した証拠となり、相手にプレッシャーを与える効果もあります。

ただし、遺留分損害額請求には消滅時効があります。相続の開始もしくは遺留分を侵害する贈与などを知ったときから1年以内に請求しなければ、請求できる権利が失われてしまう点に注意が必要です。

請求に応じない場合の対応

相手方に遺留分侵害額の請求書を郵送し、双方で協議しても解決にいたらない場合は、以下の順に対応を進めます。

  • 請求調停の申立て
  • 訴訟を提起

はじめに取るべき対応は、遺留分侵害額調停の申立てです。

調停では、裁判所の調停委員会が当事者の間に入り、お互いの合意が得られる解決を目指して話し合いをサポートしてくれます。

【請求調停の申立て方法】

<申立て先>
相手方の所在地を管轄する家庭裁判所(当事者同士の合意があれば別の家庭裁判所でも可能)<申立て費用>
・収入印紙1,200円
・裁判所から関係者への連絡に使う郵便切手(必要な切手の金額は家庭裁判所によって異なる)

調停でも合意が得られない場合は、遺留分侵害額請求訴訟を起こし、裁判で解決を目指しましょう。

訴状の提出先は、被相続人の最後の住所地もしくは、被告や原告の住所地を管轄する地方裁判所です。請求額が140万円以下であれば簡易裁判所に訴訟を提起します。

裁判所では、双方の主張や証拠に基づき「請求が適切であるか」「請求できる金額」などの判決が下されます。訴訟を提起した原告は、自らの請求の正当性を立証するために、基礎財産や相続関係を証明する書類を準備しなければなりません。

そのため、弁護士に依頼してサポートを受けて進めていくのが一般的です。

遺留分減殺請求では権利の行使を明示しよう

遺留分減殺請求とは、最低限度の遺産を相続できる権利である遺留分を返してもらうための請求です。現行民法では遺留分侵害額請求として、侵害された遺留分を金銭として請求できる制度に改められています。

遺留分の金額は、「被相続人の基礎財産×遺留分割合」により算出可能です。遺留分割合は相続人の内訳によって定められています。

遺留分侵害額請求をするには、遺留分侵害額の請求権を行使することを示した請求書を作成しなければなりません。請求相手に向けて内容証明郵便を使って郵送しましょう。


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