• 作成日 : 2025年2月6日

新リース会計基準の遡及適用について解説

2027年4月から強制適用される新リース会計基準では、改正以前の取引に対する遡及適用が義務付けられます。その場合、過去の取引に対し新基準を適用することで財務諸表の比較可能性が向上する一方、情報の再収集や修正のため、多大な労力が必要です。

過去におけるすべての期間に遡って適用することが実務上難しい場合、遡及適用による累積的な影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に反映させる方法も認められています。

本記事では、新リース会計基準の適用開始時に求められる、遡及適用について詳しく解説します。

新リース会計基準とは?

新リース会計基準とは、企業会計基準委員会(ASBJ)が2024年9月に公表した「リースに関する会計基準」と「リースに関する会計基準の適用指針」の総称です。

新リース会計基準は、2016年に改正されたIFRS(国際財務報告基準)第16号に基づき、国際会計基準と日本基準の足並みをそろえることを目的として改正されました。新基準により、日本国内のみならず海外の投資者や利害関係者に対しても、信頼性の高い企業の経営状況や財務状況を提供できます。

新リース会計基準におけるおもな改正点は、以下の3点です。

  • 借り手におけるリース取引区分(ファイナンス・リース、オペレーティング・リース)の廃止
  • 原則として「使用資産権」と「リース負債」をオンバランス処理
  • 財務諸表における「使用資産権」「リース負債」「利息費用」の開示と注記

遡及適用とは?

新リース会計基準における遡及適用とは、企業が新基準を適用する際に、過去の会計期間に遡って財務諸表を修正する手続きを指します。

新リース会計基準では、すべてのリース契約を「使用権資産」および「リース負債」として貸借対照表に計上(オンバランス)する必要があります。これにともない、従来のオペレーティング・リースにおけるオフバランス処理を見直し、新基準に準拠した処理への修正が必要です。

新基準の適用により、国際基準に準じた処理を通じて財務諸表の透明性が高まります。くわえて遡及適用により、期間比較可能性を維持しながら投資家やステークホルダーに対する信頼性強化につながります。

適用初年度は2つの方法で遡及適用が認められている

適用初年度に行う新リース会計基準の遡及適用は、完全遡及適用と修正遡及適用のいずれかの方法を選択できます。それぞれの手続き方法を正しく理解し、企業の状況に合った方法を選択しましょう。2つの方法について以下で詳しく解説します。

①新しい会計基準を過去の期間すべてに遡及適用する

リースに関する会計基準の適用指針では、会計方針の変更として、新リース会計基準の適用初年度において、過去の全会計期間に対し新しい会計方針を適用することを原則としています(完全遡及適用)。

完全遡及適用は、過去のすべての会計期間について新基準を適用することで、財務諸表の一貫性を維持し、投資家や利害関係者にとって財務諸表の透明性や比較可能性が向上する点がメリットです。

一方、過去の財務諸表を新基準に基づいて再作成する作業には、大きな負担が生じます。過去のリース契約データをすべて洗い出し、新基準に基づく再計算を行う必要があるためです。したがって、この方法を選択する際には、十分な準備期間を設け、リソースを確保することが欠かせません。

②適用初年度以降の残存リース期間を対象として新会計基準を適用する

リースに関する会計基準の適用指針では、上述した原則対応以外にも、新リース会計基準の適用初年度以降の残存リース期間に限定して、新基準を適用する方法も容認されています(修正遡及適用)。

修正遡及適用では、過年度の財務諸表を再作成せずに、遡及適用した場合の累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減するなど、新基準適用時点の帳簿残高を調整するだけで済むため、作業負担を軽減できる点がメリットです。とくに、リース契約数が多い企業や過去データの整備が困難な場合には有効な選択肢といえます。

一方、過去の財務諸表が旧基準に基づいて作成されたままとなるため、期間比較可能性が低下するリスクは否定できません。

新リース会計基準の適用においては、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースそれぞれにおいて、経過措置が以下のように規定されています。

ファイナンス・リースオペレーティング・リース
新リース会計基準適用初年度の期首時点の「使用権資産」および「リース負債」の帳簿価額を、現行基準のファイナンス・リースの規定に基づいて処理された「リース資産」および「リース債務」の前期末帳簿価額とすることができる。「リース負債」の期首帳簿価額を適用初年度の期首時点における残存リース料を、追加借入利子率で割り引いた現在価値とすることができる。

「使用権資産」の期首帳簿価額を、新リース会計基準が当初のリース開始日から適用されていたかのような帳簿価額で計上するか、または「リース負債」と同額を期首帳簿価額とすることができる。

どちらの方法で対応しても過去の契約内容の洗い出しが必要

上述したように、新リース会計基準では、2つの遡及適用の方法が認められています。ただし、いずれの方法を選択した場合でも、過去のリース契約内容の詳細な洗い出しが必要となる点に変わりはありません。なぜなら、新リース会計基準では、以下の手続きが必要となるためです。遡及適用に必要な手続きを詳しくみていきましょう。

リース取引の判定

新リース会計基準では、各契約がリース取引に該当するか否かを識別する必要があります。新基準では、契約締結時に以下の3要件を満たすものがリースと定義されます。

  • 資産が特定されている
  • 借り手が特定資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有している
  • 借り手が特定資産の使用を指図する権利を有している

上記の要件を満たす場合、従来リースと認識されていなかった契約であってもリース取引の対象となります。この識別を誤ると、財務諸表へ大きな影響を与えるおそれがあるため、契約内容の精査は重要なプロセスです。

なお、修正遡及適用においては、リースの識別における以下のような経過措置が設けられている点も押さえておきましょう。

  • すでに前基準を適用していたリース契約は、新リース会計基準におけるリースの識別を行わずに新リース会計基準を適用できる。
  • 前基準でリースとして処理していなかった契約を、新リース会計基準適用初年度の期首時点における事実・状況に基づいてリースの識別を判断できる。

残存リース期間およびリース料の確認

新基準の適用開始にあたり、各契約の残存リース期間と支払予定のリース料を確認します。完全遡及適用を選択する場合は過去の全契約期間の情報が必要ですが、修正遡及適用で経過措置を用いる場合は適用初年度以降の残存期間のみが対象です。

残存リース期間やリース料の確認には、契約書に記載された契約内容を洗い出し、正確な情報を収集する必要があります。とくに、延長オプションや解約オプションが契約に含まれている場合、リース期間やリース負債の金額に大きな影響を及ぼす可能性があるため注意が必要です。

たとえば、延長オプションが行使される見込みの高い場合にはリース期間を延長したり、解約オプションがある場合には、そのオプションの行使可能性を慎重に評価したりといった追加の手続きが求められます。

リース契約の条件変更やオプション変更にともなう会計処理の見直し

新リース会計基準では、既存のリース契約に条件変更が生じた場合、以下の手続きが必要となる旨が新たに定められました。

  • 契約変更前のリースとは別の独立したリース取引として会計処理を行う
  • 従来計上していたリース負債を再計算する

そのため、過去に締結済みの契約内容の洗い出しは、欠かせない作業といえます。

さらに、契約内容自体の変更がともなわない場合であっても、上述したような延長オプションに係る借り手のリース期間の変更やリース料が変更される場合には、リース負債の再計算が必要です。

負担の大きい新リース会計基準の遡及適用には早めの準備が不可欠

新リース会計基準の遡及適用は、企業の財務諸表における透明性や信頼性の向上に欠かせない手続きです。過去のリース契約にも新基準を考慮することで、財務諸表の一貫性を保てます。

一方、過去のデータを遡って再計算し、修正後の財務諸表を作成する作業には多くの労力が必要です。とくに、契約内容や残存期間、オプション条項などの詳細な確認が求められるため、全社単位での取り組みが不可欠といえます。

新リース会計基準の遡及適用では、十分な準備期間を確保し、適用方法の選択や財務諸表への影響の評価、作業内容の洗い出しを慎重に行うことが重要です。正確かつ効率的な準備のために、システム導入や専門家のサポートも有効な手段といえます。

新リース会計基準に適切に対応することが、企業の信頼性に直結することを全社レベルで理解しながら、早期に準備を進めることをおすすめします。


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