• 作成日 : 2024年10月7日

ソフトウェア開発委託個別契約書とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説

ソフトウェア開発委託個別契約書とは、ソフトウェア開発において工程ごとの契約締結で使われる契約書です。個別契約は請負契約と準委任契約の2種類があり、それぞれ契約の目的や義務が異なります。

この記事では、ソフトウェア開発委託個別契約書に記載すべき内容や作成時、レビュー時のポイントについて具体例を用いて解説します。

ソフトウェア開発委託個別契約とは

ソフトウェア開発委託個別契約は、ソフトウェアやシステム、アプリの開発といった業務を外部業者に委託する際に交わされる契約です。受託者(システムの開発業者)は、締結された契約に従ってソフトウェアを開発し、委託者(委託元の企業)に納品します。

委託者は、検収により納品されたソフトウェアに問題がないことを確認し、受託者に報酬などを支払う契約です。

契約には基本契約と個別契約がある

ソフトウェア開発委託契約では、基本契約と個別契約が締結されます。基本契約とは、当該ソフトウェアの開発全体で適用される事項を定めた契約です。

一般的に次のような事項が規定されます。

  • 契約期間や解除の要件
  • 代金の支払方法
  • 損害賠償をしなければならないケース
  • 知的財産権の所属
  • 裁判になった場合の管轄裁判所

など

また、ソフトウェア開発では、業務が異なる工程が複数発生します。以下のように、業務が違う各工程における詳細な規定を、基本契約とは別途で定めているのが、個別契約です。

  • 要件定義
  • 仕様作成
  • ソフトウェア作成
  • 完成品のテスト
  • 完成後の保守管理

など

ソフトウェア開発委託個別契約では、ソフトウェア開発の工程ごとに、委託内容の詳細や委託料、支払方法などを記載します。

個別契約は工程ごとに契約を締結するため、工程ごとの見積もりをより正確に算出できます。工程ごとの契約であることから、納品物や業務などに不満があった場合に、次工程より受託者を変更しやすい点もメリットです。

ソフトウェア開発委託個別契約は、請負契約または準委任契約

ソフトウェア開発委託個別契約は、契約の内容により「請負契約」と「準委任契約」に分類されます。両者の違いは、契約不適合責任や善管注意義務の有無、再委託の可否などです。

ソフトウェアやシステムの完成に関して締結するのが請負契約です。一方の準委任契約は、依頼したソフトウェアの開発に付随し、かつ法律行為ではない事務作業について締結されます。

請負契約の目的は、依頼を受けた仕事を完成させることを意味します(民法632条)。ソフトウェア開発における請負契約の目的は、委託者の要望通りにソフトウェアやシステムを開発し完成させることです。

一方、準委任契約は、請負契約に該当しない事務の委託が目的となります(民法656条)。システムの計画から開発業者が担当するケースや、委託先企業へ常駐して運用テストや保守管理を行うケースでは、準委任契約を締結します。

ソフトウェア開発委託個別契約を締結するケース

個別契約が締結される代表的なケースは、業務管理システムの開発やスマホアプリの開発です。ソフトウェア開発においては、工程間で共通する条件はソフトウェア開発委託基本契約に記載し、工程ごとでソフトウェア開発委託個別契約を締結するのが一般的です。

ソフトウェアの開発では、まず各工程全体に共通する基本的な事項を定めた「ソフトウェア開発委託基本契約」を締結します。基本契約には、開発工程についての規定はありません。そこで、工程ごとに詳細が定められた「ソフトウェア開発委託個別契約」を締結します。

ソフトウェアやシステムには形がないことから、委託者と受託者が口頭で仕様をすり合わせても、認識がずれてくる場合があります。双方の認識を合わせるためには、口頭で打ち合わせた内容を明文化することが必須です。双方が共通認識をもつために、工程ごとの詳細を明文化したソフトウェア開発委託個別契約書を使用します。

ソフトウェア開発委託個別契約書のひな形

ソフトウェア開発委託個別契約書を作成する際は、経済産業省や情報処理推進機構(IPA)作成のモデル契約書を参考にするといいでしょう。

以下のリンクからも、ソフトウェア開発委託個別契約書のひな形をダウンロードできますので、ご活用ください。

ソフトウェア開発委託個別契約書に記載すべき内容

ソフトウェア開発委託個別契約書では、主に以下の内容を規定します。

  • 業務の内容
  • 業務委託料や支払方法
  • 成果物の納品方法
  • 契約に定めのない事項に関する規定

では、契約書に記載すべき内容を、本記事で紹介したひな形(テンプレート)の具体例を用いて詳しく見ていきましょう。

業務の内容

ソフトウェア開発委託個別契約書では、最初に「本契約書ではソフトウェア開発の中でどこの業務を委託するか」について記載します。業務内容の詳細は契約書内に列挙せず、下例のように別紙や別表を作成しても構いません。

(定めるべき事項の例)

  1. 乙は、本件業務を別紙システム仕様書に基づいて完成させる。
  2. 作業場所、作業期間及び作業スケジュールは、別表○記載のとおりとする。
  3. 作業範囲の明細及び甲乙の役割分担については、別表○記載のとおりとする。
  4. 乙は、本件業務の実施に際し、甲に必要な協力を要請できるものとし、甲は乙から協力を要請された場合には、適宜これに応ずるものとする。

業務委託料や支払方法

委託料の金額や支払方法の記載も必須です。あわせて、振込手数料を誰が負担するかについても定めておきましょう。

(定めるべき事項の例)

  1. 本件業務の委託料は、金○○円とする。
  2. 甲は、前項の金額を、本件業務完了日の翌月〇日までに、乙の指定する金融機関の指定口座に振り込む方法で支払う。振込手数料は、甲の負担とする。

成果物の納品方法

成果物(完成したソフトウェア)の納品期日や方法についても、規定しておかなければいけません。あわせて、納品後の検収方法や時期についても規定しましょう。特に、成果物の検収はトラブルになりがちなので、例のように日数や期限を詳細に規定します。

(定めるべき事項の例)

  1. 乙は、令和〇年〇月〇日までに、本件業務の成果物を甲の本社に納品する。
  2. 甲は、当該成果物を、納品後〇日以内に検査し、結果を直ちに乙に報告する。
  3. 乙は、検査の結果、不合格とされた場合、甲の指定する期限までに、当該成果物に必要な修正を行い、再度納品しなければならない。
  4. 乙は、甲による検査の結果に疑義または異議のあるときは、結果報告後○日以内に、書面により甲にその旨及び甲乙間での協議を申し出ることができる。

契約に定めのない事項に関する規定

契約に定めがない場合の取り決め方法も、規定しておきましょう。以下のように、話し合いで定める旨を記載することがおすすめです。

(定めるべき事項の例)

この契約に定めのない事項を定める必要があるときは、甲乙協議の上、定めるものとする。

ソフトウェア開発委託個別契約書を作成する際の注意点

ソフトウェア開発委託個別契約書を作成する際の注意点として、契約内容を明確にすることや自社に不利益となる条項を作らないことが挙げられます。

契約内容を明確にする

ソフトウェアは形がなく目に見えない製品であることから、個別契約書で契約内容を明確にして委託者・受託者双方の合意を得ることや、共通認識をもつことが必須です。

特に食い違いが起こりやすいポイントを以下に記載しました。

  • 成果物の仕様
  • 納品期日(納期)
  • 検収方法や時期
  • 報酬の支払条件(検収に合格したら支払う、など)
  • 報酬の振込日

これらのポイントについては、日付や期限、条件をより詳細に記載しましょう。

自社に不利益となる条項を作らない

ソフトウェア開発委託個別契約書では、自社に不利益となる条項を作ってはいけません。以下のような内容が、不利益となる条項に該当します。

  • 製品の著作権は受託者側にある
  • 委託者側が契約不適合責任を多く負う
  • 報酬の支払いは検収を待たずに納品後に行う
  • 追加の仕様変更に際して回数を決められている

特に、受託者側が契約書のひな形を持ってきた場合、受託者側に有利=自社に不利益となる条項が並んでいる可能性があるため、レビュー時に内容を精査します。

ソフトウェア開発委託個別契約では、委託者と受託者双方に平等な契約書を作成することが必須です。規定の期間を超過した場合は一切の報酬を支払わないといった、自社だけが有利になる条項も設置してはいけません。

ソフトウェア開発委託個別契約書は業務内容の明確な記載が大切

ソフトウェア開発委託個別契約書は、工程ごとに詳細な内容を定め、双方が合意を得るために使用される書面です。個別契約には請負契約と準委任契約の2種類があり、それぞれ目的や内容が異なります。

ソフトウェア開発委託個別契約書には、業務内容や納品方法、報酬の支払方法などを記載します。特に、納品後の検収や報酬の支払いは、認識の食い違いからトラブルの元となりがちです。契約段階で双方が共通認識をもてるよう、細かく具体的に記載しましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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