• 作成日 : 2023年10月6日

標準必須特許とは?概要や具体例、判定制度などを紹介

標準必須特許とは?概要や具体例、判定制度などを紹介

標準必須特許は、特定の技術標準を実装するためには欠かせない特許のことで、「Standard Essential Patent」の頭文字を取って「SEP」とも呼ばれます。本記事では標準必須特許の概要や判定制度についてわかりやすく解説するほか、ライセンス交渉の指針をご紹介します。

標準必須特許(SEP)とは

標準必須特許とは、特定の技術標準を実装するために不可欠な特許のことです。英語で標準必須特許を指す「Standard Essential Patent」の頭文字を取って「SEP」とも呼ばれます。

そもそも技術標準とは、ある特定の技術に関して、ユーザーを含めた開発者・生産者などが利便性を得られるように取り決めを適用したものです。

例えば、各社がそれぞれ異なる技術で携帯電話を作る場合、取り決めやルールがないと、メーカーが違う携帯電話同士では通話やメールができない可能性が高いです。そのため、各社の製品間の互換性や接続性を実現するために技術を共通化することがあり、これが標準となります。

モバイル通信の分野における4Gや5Gなどの標準は、数百もの標準必須特許によって支えられており、これらの特許はNokiaやHUAWEI、Qualcommなどによって保有されています。

なお、技術標準には特定の規格の普及により結果的に標準となるデファクト標準と、特許権を有している団体等が協議して設定するフォーラム標準があることを、おさえておきましょう。

代表的なSSOと標準必須特許

技術標準を設定する団体を「Standard Setting Organization(SSO)」といいます。代表的なSSOとして、欧州電気通信標準化機構(ETSI)、日本の一般社団法人電波産業会(ARIB)などが存在します。

欧州電気通信標準化機構(ETSI)とは、マルチベンダー・マルチネットワーク・マルチサービス環境における、相互運用性を確保するための技術的フレームワークを開発する、標準化団体です。

また、一般社団法人電波産業会(ARIB)とは、通信・放送分野における新たな電波利用システムの研究開発や、技術基準の国際統一化などを推進する一般社団法人です。国際化の進展や通信と放送の融合化、電波を用いたビジネスの振興などに、迅速かつ的確に対応できる体制の確立を目指して設立されました。

ビジネスにおいて標準必須特許が障壁となるケース

SEPを巡る、SEP保有者とSEPを利用する事業者間の紛争としては、「ホールドアップ」と「ホールドアウト」が挙げられます。

ホールドアップ

ホールドアップとは、SEPを保有している企業がSEPを利用する事業者に対して、高いライセンス料を要求した場合に、それに応じざるを得ない現象のことです。技術標準を使う事業への投資をした後に、必須特許の存在が判明したケースなどにみられる傾向があります。

SEP保有者から特許侵害として事業が差し止めされた場合、事業投資が無駄になってしまうことから、SEPを利用する事業者が不利なライセンス条件を強いられる点が問題とされます。

ホールドアウト

標準必須特許の利用企業が支払い契約の締結に応じないために、SEP保有者が収入を得られない状況に陥ることを、ホールドアウトといいます。

利用者側が、保有者によるSEPの差止めは認められないだろうと見込み、ライセンス交渉を断るなど、誠実に対応しようとしないことを指します。

日本における標準必須性にかかる判断のための判定

特許法第71条の規定を根拠法令とする「判定制度」とは、特許庁が特許発明の技術的範囲について、中立な立場から公的な見解を示す制度のことです。

判定を依頼されると、3名の審判官が、その技術が特許発明の範囲のものかどうかを判定します。判定結果はすべて公開され、判定に関する書類は閲覧の対象となります。

特許庁は、2018年4月より、標準必須性に係る判断のための判定の運用を開始しました。この運用では、特許発明がある標準規格に必須の発明であるかどうかなどを判断するために、当該特許発明の技術的範囲について、一般的な判定におけるイ号に代えて、標準規格文書から特定された仮想対象物品などを特定して判定を請求するものです。

判定結果は、特許発明の技術的範囲についての特許庁の公的な見解であって、鑑定的性質はあるものの、法的拘束力はありません。しかし、社会的に尊重される価値のある、権威性のある判断の1つであることをおさえておきましょう。

参考:e-Gov法令検索(特許法)|デジタル庁

ライセンス交渉のガイドライン

「標準必須特許のライセンス交渉に関する手引き」は、標準必須特許のライセンス交渉における、ガイドラインに該当します。SEP保有者と実施者との交渉を円滑にし、紛争を未然に防止すること、また早期に解決することを目的として、特許庁が2018年6月に公表し2022年に改訂されています。

標準必須特許のライセンス交渉の経験が少ない企業が、ライセンス交渉を安心して行なえるように、交渉に関するポイントを客観的に整理した内容です。

経済産業省も、2021年に「標準必須特許のライセンスを巡る取引環境の在り方に関する研究会」を設置し、2022年には「標準必須特許のライセンスに関する誠実交渉指針」を公表しています。

この指針は、適正なライセンス交渉を可能にするため、SEP保有者と実施者を対象とした規範を示しています。法的な拘束力は持たないものの、紛争となった際に参照される可能性があるため、当該指針に沿った対応を取ることが望ましいでしょう。

参考:標準必須特許のライセンス交渉に関する手引き|特許庁
標準必須特許のライセンスに関する誠実交渉指針 |経済産業省

標準必須特許は特定の技術標準を実装するために不可欠な特許

標準必須特許は、特定の技術標準を実装するためには欠かせない特許のことで、「Standard Essential Patent」の頭文字を取って「SEP」とも呼ばれます。

SEP保有者とSEPを利用する事業者間の紛争としては、「ホールドアップ」と「ホールドアウト」が挙げられます。基本的に、SEPを保有している企業が不当に高いライセンス料を要求するのがホールドアップ、SEPの利用企業が支払い契約の締結に応じないのがホールドアウトです。

標準必須特許に関するライセンス交渉において、SEP保有者と利用する事業者の間でトラブルが生じた場合、訴訟に発展するリスクがあります。特許庁の手引きや経済産業省の指針などを参考にして、トラブルを未然に防ぎましょう。


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