• 作成日 : 2022年4月28日

契約上の地位の移転(民法第539条の2)を分かりやすく解説!

契約上の地位の移転(民法第539条の2)を分かりやすく解説!

「契約上の地位の移転」は、民法で「契約」について学ぶ際に出てくる概念ですが、実務においては長い間、判例による解釈と理論に委ねられている行為でした。しかし、2020年の民法改正によって、晴れて条文規定となったのです。
この機会に、事業譲渡や賃貸借契約に活用される「契約上の地位の移転」について理解を深めておきましょう。

契約上の地位の移転とは

契約上の地位の移転とは、ある契約の一方当事者が当該契約に無関係な第三者に自分の契約者としての地位をまるごと譲り渡すことです。

契約社会において行われ得る行為であり、解釈に頼るのではなく明文化が必要という判断から、改正民法にて第539条の2(以下「同条」)に条文が置かれることになりました。

債権債務の移転が可能

同条における「契約上の地位」とは、契約で定められた当事者の一切の権利義務のことです。一方当事者が他方に対して持つ債権、自身が負う債務のすべてを第三者に承継させることが「契約上の地位の移転」という行為で可能になります。
債権債務のみならず、取消権や解除権など、法律上行使できる権利や契約条項に記載された権利もすべて承継者に移転されます。
これが、契約の一方当事者が他方に対して有する債権のみを第三者に譲渡する「債権譲渡(第466条)」と大きく異なる点です。

本来契約は当事者の合意のもとに締結されるものであり、契約に至るには契約の相手方に対する信頼感(少なくとも「誰と」契約するかということ)がある程度重要であるケースも多いでしょう。
そのため、同条では契約上の地位の移転ができる要件を以下のように定めています。

承継が可能な相手

契約上の地位の移転は、当然ながら一方当事者の意思表示だけではできません。まずは「契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意」が必要です。
第三者にとっても契約内容のすべてを承継するというのは重大なことなので、契約上の地位の移転について、譲渡側と譲受側の合意を内容とする新たな契約の成立が必要になります。

相手側の承諾が必要

「相手方が誰であるか」が契約の成立を左右する場合も多いでしょう。「この人とであれば」と締結した契約なのに、ある日突然相手方が変わる可能性があるとすると、契約社会が成り立たなくなるおそれがあります。
民法改正前においても、原則相手方の承諾があって初めて契約上の地位が移転すると解釈され、実務もそれに沿う形で行われていました。
同条はこれらの解釈を規定化し、契約上の地位は「契約の相手方がその譲渡を承諾したとき」に移転するとしています。

契約上の地位の移転が関連するケース

社会生活において実際に契約上の地位の移転が関連するケースのうち、代表的な2つの契約を分かりやすく解説します。特に、不動産賃貸借契約については特則があるので、注意が必要です。

事業譲渡と契約上の地位の移転

「事業譲渡」とは自身の事業を第三者に譲渡する(一部譲渡も含む)ことですが、事業経営には取引先との売買契約や税理士との顧問契約、従業員との雇用契約、会社名義の不動産賃貸借契約など、さまざまな「契約」が存在します。事業譲渡においては、譲渡側が締結している契約のうち、その事業に関連する契約のすべてが、539条の2が示す契約上の地位の移転の要件を充たすことが求められます。

事業譲渡そのものに関しては、譲渡側と譲受側を当事者とした事業譲渡契約を結びますが、事業譲渡契約で承継される債権債務については、すべての契約の相手方から合意を得ておかなければなりません。
特に、従業員ごと譲渡する場合は、譲受側はもちろんのこと、各従業員から雇用契約上の地位の移転について個別に合意を得る必要があります。従業員にとって経営者が変わるのは重大なことなので、厚生労働省は別途指針を示し、従業員の権利の保護を図っています。
参考:事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針 | 厚生労働省

不動産賃貸借契約と契約上の地位の移転

不動産賃貸借契約において、賃借人が誰であるかは賃貸人にとって重要です。賃料を毎月支払う、用途に沿った使用を行うといった条項は、賃借人に対する信頼に依るところが大きいからです。そのため、賃借人としての地位を第三者に移転する場合は、賃貸人の承諾が必要です。とはいえ、実際は承諾後に第三者と新たな契約を締結するケースが多いでしょう。ただ、無断譲渡は契約解除事由になるため、注意が必要になります。

一方、賃貸不動産の所有者がその所有権を第三者に移転することで、契約上の賃貸人としての地位を移転する場合は、一方当事者である賃借人の承諾は原則不要です。この規定も、今回の改正で新たに設けられました(民法第605条の3)。
賃貸人が賃借人に対して負う主な債務は賃貸不動産を使用させることであり、賃貸人が誰であろうと賃借人が置かれる立場はそれほど変わらないというのがその理由です。この規定も、長く判例(最判昭和46年4月23日)で示されていた解釈を明文化したものです。

参考:最判昭和46年4月23日|裁判所

「契約上の地位の移転」は相手方の承諾が原則必要!

契約で取り決めたすべての権利義務を一方当事者が第三者に譲り渡す「契約上の地位の移転」は、他方当事者に影響を及ぼすことが多いため、一方当事者の独断では行えないという従来の判例や解釈が改正民法によって法の規定となりました。ただし、不動産賃貸借契約における賃貸人の地位の移転では、賃借人の承諾は不要といった例外もあります。
一方、事業譲渡では関係する契約が多岐にわたります。基本的には契約上の地位の移転について、すべての契約当事者と合意しなければなりません。後々トラブルにならないようにしっかり計画を立てて、漏れのないように対応しましょう。

よくある質問

契約上の地位の移転とは?

契約の一方当事者が、第三者に自分の契約者としての地位をまるごと譲り渡すことです。詳しくはこちらをご覧ください。

契約上の地位の移転が成立する要件は?

一方当事者が第三者と地位の移転について合意し、かつ他方当事者が地位の移転を承諾することです。詳しくはこちらをご覧ください。

契約上の地位の移転が関連する契約には何がある?

事業譲渡契約や不動産賃貸借契約、売買契約などがあります。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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