• 作成日 : 2022年12月2日

取締役委任契約書とは?雛形つきで記載すべき内容を解説!

取締役委任契約書とは?雛形つきで記載すべき内容を解説!

社外取締役の設置義務化等により、取締役契約書の重要性が高まっています。取締役は株式会社との間で委任の規定が適用されますが、不明瞭な点も多く十分とはいえません。この記事は、取締役の責任や義務に対する理解が深まり、取締役委任契約書の重要性を学ぶことができます。

取締役委任契約書とは?

「取締役委任契約書」とは、株式会社と取締役が取り交わす契約書のことです。取締役の任期や報酬、秘密保持事項などが記載されています。

ここでは、契約書を交わすメリットを取締役の役割も含めて解説します。

取締役の就任と責務とは

会社法上、取締役は役員になります(会社法第329条)。そのため、契約形態が雇用契約ではなく、委任契約になる点に注意が必要です(会社法第330条)。取締役と会社との委任契約は、契約締結に対する意思の合致があれば成立します。

■民法第643条(委任)
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

取締役は会社法330条により、委任に関する規定に従うとされています。取締役にかかる委任の主な規定は次の通りです。

■民法第644条(受任者の注意義務)
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

■民法第645条(受任者による報告)
受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。

■民法第648条(受任者の報酬)
受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。

取締役には「善管注意義務」及び「報告義務」があり、報酬については別段定めなければなりません。

引用:民法|e-Gov法令検索

取締役委任契約書を取り交わすメリット

取締役の責任の範囲など委任を受けた範囲で網羅できない点もあり、トラブルになるケースもあります。会社法が適用されるのは、原則として取締役の在任期間中になります。契約書が存在せず新たな取り決めをする場合、定款もしくは株主総会の決議が必要です。会社とトラブルになっている場合にこういった対応をとるのは困難なことが多く、就任時に契約書を作成して取り決めることに意義があるといえます。

取締役委任契約書の雛形

会社法の一部改正により、大会社等に社外取締役の設置が義務付けられました(会社法327条の2)。
ここでは、取締役委任契約書のテンプレートをご紹介します。状況に応じて適宜、項目の追加や削除をして活用ください。
契約書テンプレートは下記ページからダウンロードできます。

取締役委任契約書の記載事項は?

ここでは、契約書に記載する主な事項について解説します。

目的

取締役への就任にあたり、いつ開催された株主総会なのかを明記しましょう。

任期

会社の組織形態によって任期は異なります。原則2年以内になり、指名委員会等設置は1年以内です。ただし、非公開会社は任期を10年まで延長することができます(会社法332条)。

地位

解任などによって契約が解除になった場合や、損害賠償責任の範囲などを定めるとよいでしょう。

報酬

年俸や賞与などの報酬、退職金に併せて、報酬の振込口座、支給日も記載します。報酬は、定款または株主総会の決議によって定めます。取締役会設置会社の場合は、株主総会において報酬総額のみ定めることも可能です。

競業避止義務期間

退任後の競業禁止期間を定めます。期間の長さによっては無効になる可能性もあります。社会的に相当とされる範囲にしましょう。

秘密保持条項

取締役は業務上、会社の秘密情報や個人情報を多く取り扱う立場にあります。この項目は不正利用や漏洩を防ぐ目的として不可欠です。委任契約とは別途、秘密保持契約を締結することを考えても良いかもしれません。

反社会的勢力排除条項

取締役に反社会勢力との関係があった場合、企業イメージの低下と信用の失墜は避けられません。会社が取締役を一方的に排除した場合、損害賠償責任が生じるリスクがあります。反社会勢力ではない旨の誓約に加え、解除などの項目を定めておくと、トラブルを回避できるでしょう。

その他記載があると望ましい事項

責任限定契約を定めるケースも増加傾向にあります。損害賠償額が大きくなるケースが多く、取締役の背負うリスクは大きいといえます。そこで会社法では、一定範囲において責任を減免できる手続きが定められてあり、そのひとつが「責任限定契約」です。

責任限定契約を締結する要件として、事前に定款に定めておく必要があり、株主総会の特別決議が必要です。ただし、代表取締役と業務執行権限のある取締役は契約締結ができません。最低責任免除額にも留意しましょう。

役員の会社に対する損害賠償責任の免除も可能です。責任免除規定を定めるには、総株主の同意が必要です。

この他に、第一審合意管轄裁判所を決めておくと、訴訟手続きがスムーズになります。

取締役委任契約を締結する際の注意点は?

取締役委任契約書を取り交わす際に注意したい点を3つ解説します。

取締役の権限

取締役の権限は、取締役会の有無など会社の組織形態で変わります。
取締役会設置会社の場合、契約締結の権限を有するのは代表取締役です。他の取締役に権限を付与するには、取締役会の決議や代表取締役からの委任が必要になります。
取締役会非設置会社においては、代表取締役が定められていない場合、取締役全員が業務執行権を有します。複数名の取締役がいる場合は、過半数をもって決定します。

株式会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合には、当該取締役がした行為について、善意の第三者に対してその責任を負う規定があります(会社法354条)。

取締役は割増賃金が発生しない

取締役は原則として労働者ではないため労働基準法の適用がされず、時間外労働の割増賃金が発生しません。「労働者」とは事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者とされ、会社と雇用契約を結ぶことが要件になっています(労働基準法第9条)。

会社と取締役の関係は委任契約に基づいています。ただし、代表の指揮命令に従って労務に従事し、その対価を得ていると評価できる取締役は、その限りで労働基準法が適用される可能性もあります。

競業避止義務の適用期間に注意

自らが自分の会社に競合する会社を設立することを一般的に「競業避止義務」とよばれ、株主総会もしくは取締役会の承認決議によります。代表取締役に限らず、すべての取締役に適用されます。取締役が会社と競業する取引をする場合、事前に会社の承認が必要です(会社法356条1項)。

承認を得ず取引を行った場合、解任事由に該当する可能性があります。また取締役には役員等に対し損害賠償責任もあるため、承認を得たとしても責任を免れられない点に注意しましょう。

退任後には基本的に競業避止義務が生じません。

委任契約時に期間を定めて制限する場合がありますが、無期限に有効ではありません。

取締委任契約書はリスク回避に有効

取締役委任契約書は、委任内容を明示すると共に取締役の責務の確認に有効です。契約書の取り交わしは、双方にとってリスク回避になるためメリットがあります。

取締役には労働基準法が適用されないため、会社に残業手当の支払い義務はありません。しかし、必要以上の長時間労働と報酬対価などが見合わず、訴訟へ発展するケースもあります。取締役であっても代表の指揮命令に従って労務に従事している場合など、勤務実態によっては割増賃金が発生する可能性があります。事前に定款や株主総会の決議内容を確認し協議をすることでトラブルを避けやすくなります。

退任後にも注意が必要です。競業禁止規定が定められている場合が多いので、退任後の期間に留意しましょう。違反した場合、会社に対して損害賠償責任が生じる恐れがあります。責任一部免除規定や責任限定契約を締結したとしても、損害賠償責任がなくなるわけではありません。

よくある質問

取締役委任契約書とは?

株式会社と取締役が締結する契約書です。詳しくはこちらをご覧ください。

取締役委任契約を締結する際の注意点は?

会社法上の競業避止義務は原則取締役の任期中のみ適用されます。退任や解任前に、別途協業禁止契約を結ぶことは困難になりやすいので、就任時に、秘密保持契約と併せて締結することが望ましいです。詳しくはこちらをご覧ください。


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