• 作成日 : 2024年3月22日

著作隣接権とは?事業者がおさえるべきポイントや権利内容を解説

著作隣接権とは、著作権に隣接する数々の権利のことで、著作物を広く伝えていく人に与えられる権利です。著作物を利用する場合は、著作権だけでなく著作隣接権にも注意が必要ですので、事業者の方は「どんな種類があるのか」「侵害してしまうとどうなるのか」についてチェックしておきましょう。

著作隣接権とは?

「著作隣接権」は著作物を伝達するための権利です。

著作権や著作隣接権について規律している「著作権法」では次のように定義しています。

第一項から第四項までの権利(実演家人格権並びに第一項及び第二項の報酬及び二次使用料を受ける権利を除く。)は、著作隣接権という。

引用:著作権法第89条第6項|e-Gov法令検索

そして、この条文にある“第一項から第四項”とはそれぞれ次の権利を指しています(各権利の詳細は後述)。

  1. 実演家の権利
  2. レコード製作者の権利
  3. 放送事業者の権利
  4. 有線放送事業者の権利

これらの総称が「著作隣接権」です。

著作隣接権が認められる対象者

著作隣接権が認められる対象者は、下表の4つに分類できます。

著作隣接権の
対象者
定義
実演家“俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者及び実演を指揮し、又は演出する者”(第2条第1項第4号)

著作物を演奏したり演じたり、歌ったりする者を指す。プロに限らず、一般の人が歌ったり踊ったりするときはここでいう実演家にあたる。

レコード製作者“レコードに固定されている音を最初に固定した者” (第2条第1項第6号)

物に音を固定したもの(レコード)を最初に作った者を指す。CDを販売する者ではなくその音源を収録した者がレコード製作者にあたる。

放送事業者“放送を業として行う者” (第2条第1項第9号)

電波を出して公衆に対して無線の送信を行っている事業者のこと。テレビ番組を作った者ではなく、テレビやラジオなどの電波を出している者が放送事業者にあたる。

有線放送事業者“有線放送を業として行う者” (第2条第1項第9の3号)

公衆送信のうち有線で送信を行っている事業者のこと。ケーブルテレビなどの有線放送を行っている者が有線放送事業者にあたる。

著作隣接権と著作権との違い

著作物を作り出した人物に「著作権」が付与されるのに対して、その著作物を放送したり演奏したりする人物に「著作隣接権」が付与されます。

これら2つの権利はそれぞれ異なる役割を果たしており、例えば著作権だと映画や音楽、番組、小説、美術品などを作る人物の権利を守ることで世の中にさまざまな作品が創出されることを支えています。

ただ、その著作物を楽しむためには著作物が世の中に広められる必要があります。その活動をしている者に著作隣接権は与えられ、著作隣接権によって、世間に著作物が伝達される仕組みは支えられているのです。

事業者がおさえるべき著作隣接権のポイント

著作物の活用をする事業者は、著作権のみならず著作隣接権についてもその仕組みを理解しておくべきです。

ポイントの1つは「自動的に発生する」という点です。実演やレコード製作、放送などの行為があるとその瞬間に権利が発生します。著作権と同じく、申請や登録などの手続が必要ありません。

また、「プロ以外の人物にも発生する」という点も押さえておきましょう。事業としてプロが行った行為ではない、一般の方が歌ったり録音したりしたときにも権利が発生します。

もう1点、「著作者とは別に実演家等からの承諾が必要になる」ということも押さえておくべきです。利用するものによっては著作権と著作隣接権の両方で保護されているケースもあり、その場合は著作者からの承諾に加えて実演家等からの承諾も受けなくてはなりません。

実演家の著作隣接権の内容

実演家については、①許諾権と②二次使用料・報酬請求権、そして③実演家人格権の大きく3つが与えられています。

許諾権は後述する他の対象者についても認められる、著作隣接権の基本的な権利といえます。他人による無断利用を止めるための権利で、実演家については「録音権」や「録画権」「放送権」「有線放送権」「譲渡権」「貸与権」が付与されます。

そこで実演の録画や録音のされたDVDなどを販売するなら、著作者に対する承諾のみならず、実演家からの承諾も受けなければなりません。この点に注意が必要です。

また、二次使用料や報酬の請求権は、実演等を利用したときに使用料や報酬の請求ができる権利のことです。

そして実演家人格権は実演家についてのみ認められた権利で、具体的には「氏名表示権」と「同一性保持権」が付与されます。人格権が付与されることで、著作者が持つ権利に近い性質を実演家は持つこととなります。

実演家の権利
実演家人格権氏名表示権(自己の名前を付すかどうかを決定する権利)
同一性保持権(実演を改変されない権利)
許諾権録音権・録画権(録音や録画をする権利)
放送権・有線放送権(放送または有線放送をする権利)
送信可能化権(端末からのアクセスに対応して送信できる状態にする権利)
譲渡権(録音物や録画物を公衆に譲渡する権利)
貸与権(CD等を貸与する権利)
二次使用料の
請求権
CD等が放送で使われたときに、使用料を事業者から受ける権利
報酬の請求権CD等の貸与を行う事業者から報酬を受ける権利

なお、著作隣接権の保護期間は実演から70年間です。
※実演家人格権については“生存中”が保護期間。

レコード製作者の著作隣接権の内容

レコード製作者には、許諾権と二次使用料および報酬の請求権が認められます。

許諾権として「複製権」「送信可能化権」「譲渡権」「貸与権」が与えられています。そこで例えばCDに録音された楽曲をSNS上にアップロードする場合には、著作権からの承諾に加えてレコード製作者からの承諾も受けないといけませんので、注意が必要です。

レコード製作者の権利
許諾権複製権(CDなどを複製する権利)
送信可能化権(端末からのアクセスに対応して送信できる状態にする権利)
譲渡権(CD等の複製物を公衆に譲渡する権利)
貸与権(CD等を貸与する権利)
二次使用料の
請求権
CD等が放送で使われたときに、使用料を事業者から受ける権利
報酬の請求権CD等の貸与を行う事業者から報酬を受ける権利

このように、実演家の持つ著作隣接権とは多くの内容が共通しています。ただし実演家のする実演ように、自らの個性を強く発現するものではありませんので人格権までは付与されていません。

なお、同法による保護は最初に録音・録画をしたときから始まり、保護期間は発売から70年間(発売されなければ録音時から70年間)と定められています。

放送事業者の著作隣接権の内容

テレビ局やラジオ局などの放送事業者には許諾権のみが付与されます。

具体的には「複製権」「再放送権・有線放送権」「送信可能化権」「テレビジョン放送の伝達権」の4つが付与されています

放送事業者の権利
許諾権複製権(放送を録画するなどして複製する権利)
再放送権・有線放送権(放送を受信して再放送をしたり、有線放送をしたりする権利)
送信可能化権(放送内容のデータにいつでもアクセスして送信できる状態にする権利)
テレビジョン放送の伝達権(テレビ放送を受信して大型の画面で公衆向けに見せる権利)

そこで、テレビ放送の録画を行いその内容をSNS等にアップロードする場合は、当該放送内容を制作した著作権者に加え、放送事業者の承諾も受けなくてはなりません。

なお、同法による保護はその放送を行ったときから50年間に渡り続きます。

有線放送事業者の著作隣接権の内容

ケーブルテレビや有線音楽放送を行う、有線放送事業者には許諾権のみが付与されます。「複製権」「再放送権・有線放送権」「送信可能化権」「有線テレビジョン放送の伝達権」の4つが付与されている点も放送事業者と共通しています。

放送事業者の権利
許諾権複製権(有線放送を録画するなどして複製する権利)
再放送権・有線放送権(有線放送を受信して再有線放送をしたり、有線放送をしたりする権利)
送信可能化権(有線放送内容のデータにいつでもアクセスして送信できる状態にする権利)
有線テレビジョン放送の伝達権(有線テレビ放送を受信して大型の画面で公衆向けに見せる権利)

そこで、ケーブルテレビ放送の録画を行いその内容をSNS等にアップロードする場合は、当該放送内容を制作した著作権者に加え、有線放送事業者の承諾も受けなくてはなりません。

なお、同法による保護はその有線放送を行ったときから50年間に渡り続きます。

著作隣接権を侵害するとどうなる?

著作権のみならず、著作隣接権を侵害する行為も犯罪にあたります。実演家等の権利者が告訴を行うことで、最大10年の懲役刑、または最大1,000万円もの罰金刑を受ける可能性があります。

※懲役刑と罰金刑を併せて言い渡されることもある。
※法人が侵害行為をはたらいたときは、罰金の額が最大3億円となる。

また、実演家人格権を侵害したときの法定刑として「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」も定められています。

さらに、権利者から民事上の責任追及として次の請求を受けることもあります。

  • 損害賠償請求
    故意または過失によって著作隣接権を侵害し、その結果、実演家等に損害が発生したときは、実演家等からその損害を賠償するため金銭の支払いを求められることがある。
  • 差止請求
    実演家等に自身の著作隣接権を侵害のおそれがあると判断されたときは予防措置、侵害が続いているときは停止を求める請求を受けることがある。
  • 不当利得返還請求
    著作隣接権の侵害行為により利益を受けたとき、実演家等が「残っている利益の範囲内(侵害の事実を行為者が知らない場合)」または「利益+利息分(侵害を知っていた場合)」を請求することがある。
  • 名誉回復のための措置の請求
    実演家等の人格権が侵害されたとき、被害者の名誉を回復するため、謝罪文を掲載してもらうなどの請求を受けることがある。

著作隣接権について注意点

著作隣接権に関してはいくつか注意しておきたいことがあります。

著作隣接権は他の人にも譲渡できる?

著作権も、著作隣接権も、契約に基づいて他人に譲渡することが可能です。個人間で取引することも可能ですし、ビジネス用途で権利のやり取りを行うことも可能です。

なお、実演家やレコード製作者に認められる譲渡権とは、著作隣接権の譲渡ではなく作成されたCDなど、物の譲渡のことを指していますので混乱のないようにしましょう。

著作隣接権は申請する必要がある?

著作隣接権は、実演等の行為があったときに当然に発生するものです。そのためどこかの窓口へ申請を行う必要もありません。

ただ、著作権等の事実関係を公に示し、取引の安全を確保するために登録制度も設けられています。登録をしなくても法的保護は受けられますが、事実関係の証明がしやすくなるというメリットが得られます。

著作隣接権については「権利の譲渡やその権利を目的とする質権の設定」に関して登録をすることができ、登録を受けることで第三者へ対抗できるようになります。

YouTubeなどでの音源利用の注意点は?

YouTubeなどのSNSをビジネスで利用することも珍しくありませんが、音楽を流すときは取り扱いに注意が必要です。著作権への配慮が必要であることはもちろん、著作隣接権に基づいて実演家等から承諾を受けないといけないこともあります。

また、差止請求を受けたり損害賠償請求を受けたりするリスクもありますし、使用料についての請求を受けることもあります。

意図的でなくても権利侵害は起こり得ますので、他人が作成したものを活用するときは法的な問題がないことを一度考えることが重要といえます。

SNSを利用するときは著作隣接権に要注意

著作隣接権とは著作物を伝達する人たちに認められる法律上の権利であり、俳優や演奏家などの実演家やCD、DVDを製作する人、放送事業者・有線放送事業者などに認められます。

特にSNSを利用する際に他者が制作した音楽や動画を使用すると著作隣接権の問題が生じやすいため注意が必要です。また、法人が著作隣接権に反する行為をしてしまうと特に高い罰金刑が科される可能性があるため十分注意しないといけません。

むやみに他者の制作した音楽や動画を使用しないことが一番ですが、もし動画作成などの際に「著作隣接権に抵触する可能性があるかも」と思われる場合は弁護士に相談し、必要に応じて著作者および実演家等から承諾を受けてから使用するようにしましょう。


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