• 作成日 : 2023年9月29日

【2023年施行】民事訴訟法改正を解説!業務への影響や今後の変更は?

【2023年施行】民事訴訟法改正を解説!業務への影響や今後の変更は?

2023年に民事訴訟法が改正され、新たな仕組みが順次適用されます。訴訟準備や口頭弁論期日の参加などにWeb会議システムが利用しやすくなるなど、全体としてIT化が進む内容となっています。

当記事で改正内容をまとめて紹介しますので、新しい訴訟の進め方を確認しておきましょう。

2022年5月に公布された民事訴訟法改正

2022年5月に公布された民事訴訟法の改正は、以下の表のとおりです。改正は段階的に適用されます。

企業・個人を問わず、民事訴訟の在り方に関わる改正点も多いため、法務担当の方は一度改正法の全体像をチェックしておきましょう。

2022年5月に公布された民事訴訟法の改正内容
住所や氏名の秘匿制度創設
  • 2023年2月施行
  • DVや性犯罪被害者による訴えの提起がしやすくなるよう、一定の場合には氏名や住所を隠すことが可能となる。
弁論準備手続や和解期日におけるWeb会議等の利用要件の緩和
  • 2023年3月施行
  • 弁論準備手続や和解の期日に、Web会議等で参加しやすくなった。
口頭弁論におけるWeb会議を使った口頭弁論への参加
  • 公布から2年以内の施行
  • 口頭弁論期日にもWeb会議等による参加が可能となる。
Web会議を使った離婚調停の成立等
  • 公布から3年以内の施行
  • 離婚調停など、人事訴訟や家事調停においてもWeb会議を使うことが可能となる。
民事訴訟制度全般のIT化
  • 公布から4年以内の施行
  • 訴状の提出、裁判所からの送達がオンラインで可能となる。
  • 訴訟記録が電子化され、閲覧もオンラインで可能となる。

それぞれの改正点について、詳しく見ていきましょう。

住所・氏名等の秘匿制度創設(2023年2月施行)

2023年2月20日には、「民事訴訟の提起において住所や氏名などを隠すことのできる制度」が新たに開始されます。

本来訴状には、訴えを起こす方(原告)の住所や氏名を記載しなければなりません。訴訟記録の閲覧は誰でもできることになっており、これまでDVや性犯罪の被害者が加害者に対して訴えを提起しづらい状況がありました。

加害者に現在の住所が知られてしまうことは被害者にとって重大な問題であり、二次被害を生むおそれもあります。そのため、損害賠償を請求したくても躊躇してしまうという問題があったのです。

そこで訴訟の当事者である加害者側に氏名や住所等を秘匿事項として知られないよう、一定の場合には訴状への記載をしなくてもよくなりました。また、秘匿事項やその推知が可能な事項について閲覧制限をかけられるようになったこと、さらに強制執行の申立においても秘匿が可能になるなど、被害者救済に向けた整備が進みました。

Web会議・電話会議の要件緩和(2023年3月施行)

2023年3月1日から、「Web会議システムを使った、民事訴訟における弁論準備手続や和解の期日への参加要件の緩和」が適用されています。

この改正法が適用される前から、Web会議システムを使った参加は可能でした。しかしながらその要件が厳しく取り決められており、実際には利用できない場面も少なくなかったのです。

例えば弁論準備という民事訴訟の手続でも、当事者の一方は裁判所に出頭していないとWeb会議や電話会議による手続は進めることができないルールでした。また、一方が現に出頭していたとしても、Web会議等が利用できるのは当事者が遠方に住んでいるなどの要件を満たす場合であり、柔軟・迅速な手続進行ができる状態にはありませんでした。

そこで、改正後は「相当と認めるとき」にWeb会議等での手続参加が認められるようになりました。遠方での居住や当事者一方の出頭などの要件は、満たす必要がなくなります。和解の期日においても同様です。

この改正により、企業が取引先や一般消費者とトラブルになったとしても、訴訟手続にかかる負担を軽減できるケースが増えるでしょう。いつでも自由にWeb会議等で参加できるわけではありませんが、従来に比べて裁判所に出頭しなければならないケースは減ります。

今後施行が予定されている民事訴訟法の改正内容

2022年5月に公布されたものの、執筆時点(2023年8月)ではそのすべてが施行されているわけではありません。他にも民事訴訟法の改正点はいくつかあり、今後さらにIT化が進めば、より効率的な訴訟手続が実現するでしょう。

それらについて、簡単に紹介します。

Web会議による口頭弁論への参加

公布後2年以内に施行するとされているのが、「Web会議を使った口頭弁論への参加を可能とする仕組みの創設」です。

民事訴訟の期日は、弁論準備や和解期日を除き原則は口頭弁論期日が開かれます。この口頭弁論期日は、従来、当事者が裁判所へ出頭しなければ手続きを進めることができないとの取り扱いがなされてきました。

しかし改正法では、当事者の一方または双方が直接裁判所に出頭せず、Web会議等の方法で口頭弁論に参加することが可能であると定められています。

なお、家庭裁判所の管轄である人事訴訟(親子関係や婚姻関係などの身分関係に関わる訴訟)についての口頭弁論は、通常の民事訴訟に遅れて適用される予定です。

Web会議による離婚調停の成立等

公布後3年以内(令和6年度中)に施行するとされているのが、「Web会議システムを使った離婚や離縁の調停手続を可能とする仕組み」です。

前項で説明した民事訴訟の口頭弁論期日のように、離婚調停についても実際に裁判所に出頭をしないと手続きが進められない運用がなされてきました。

しかし、この改正法が適用されることにより、当事者双方とも裁判所に行くことなく離婚調停の成立が可能となります。

離婚調停では特に当事者間が強い対立関係にあり、感情的になっていることも珍しくありません。

そのため、直接裁判所に出向くことが危険を伴うケースもあります。実際に対面しないよう配慮されることもありますが、待ち伏せされるといったリスクを完全に回避することは難しかったのです。

この改正は企業には直接関係しませんが、訴訟手続の問題を解決する改正といえるでしょう。

民事訴訟制度全般のIT化

訴訟手続へのWeb会議システムの導入が、上記の通り段階的に進められる予定です。そして公布から4年以内(令和7年度中)には、その他の部分についても広くIT化が適用されていきます。

ポイントは以下の2点です。

  1. オンライン提出が可能になる
    訴状のオンライン提出が一律可能になる。裁判所からのオンラインでの送達も可能になる。
  2. 訴訟記録の電子化
    訴訟記録がデータとして記録・保管される運用に代わり、訴訟記録の閲覧なども当事者は裁判所のサーバーにアクセスしてインターネット上で行うことが可能となる。

民事訴訟のIT化とは異なりますが、「期間を定めて審理を行う」というルールも同じ時期に適用が開始されます。これまで審理期間を定める規定はありませんでしたが、当事者双方の意見が揃えば、審理が終結する時期を定め、手続が終わる見込みを立てることも可能となります。

民事訴訟の効率向上に期待

民事訴訟法の改正によりWeb会議システムを活用できる範囲が広がり、訴状等の提出や訴訟記録の閲覧などをオンライン上で行うことも可能になります。

これらの改正内容に沿った運用が始まることで訴訟手続の効率が向上し、その影響は個人のみならず企業にも及ぶでしょう。


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