- 作成日 : 2022年2月25日
職務著作とは?定義と要件について解説!
会社(法人)が提供するプログラムやアプリ、冊子などの著作権を、その会社が「職務著作(法人著作)」として有していることがあります。
ここでは職務著作の定義や必要性、ある著作物が職務著作となるための要件、職務著作における注意点などについて説明します。
目次
職務著作とは?
職務著作は、著作権法15条1項で「法で規定された一定の要件を充たすことで法人その他使用者(法人等)が著作物の著作者になること」と定義されています。
著作物は著作権法(以下「法」とします)2条1項で「思想または感情を、創作性を持って表現したもの」と定義されていますが、音楽や美術、小説などに加えてソフトウェアやゲームソフト、スマホアプリなども「プログラムの著作物(法10条1項9号)」として保護の対象になっています。
本来著作権は、著作物の創作と同時にその創作者が取得するものです。同じ知的財産権でも特許庁への出願や登録が必要となる他の権利(特許権、商標権など)と違い、著作権は原始的に著作物創作と同時に発生します。
したがって、企業名で販売・提供されている著作物の著作権は、会社内のプログラム開発者や冊子の制作者に属すると考えるのが自然です。
しかし、アプリやソフトなどのプログラムは社内でチームを組んで開発するケースが多いため、誰を著作者とすべきかの判断が難しい場合があります。一定の要件を充たせば共同著作物(法2条1項12号)として著作権を共有することは可能ですが、いずれにせよ従業員に著作権があるとなると、会社は著作物の公開や複製、改変などのたびに、著作者である従業員の許諾を得なければなりません。さらに、共同著作の場合は共同著作者全員の合意が必要になるため、多大な手間と時間がかかり、それによって業務が滞ってしまうでしょう。
このような事態を避けるため、法で一定の成立要件のもとに会社自身を著作者とすることができることを定めたのです。
職務著作の成立要件については、その解釈の違いによって問題になることがあります。
有名な判例に、SMAPへのインタビュー記事について、記事を出版した出版社が職務著作の要件を充たすとして著作者と認定された「「SMAP「大研究」事件(以下「インタビュー事件・平成10年10月29日東京地裁)」があります。人気グループのSMAPのメンバーが原告となったことで話題になりました。この地裁判決では、インタビューを受けたSMAPのメンバーはインタビュー記事の共同著作者とはいえないとされました。
ただし、すべてのインタビュー記事が職務著作として認められるわけではありません。次章で説明する職務著作が成立するための5つの要件を読み間違えることのないよう、企業の法務担当者は職務著作に関する案件について正しく把握しておきましょう。
参考:
著作権法|e-Gov法令検索
裁判例結果詳細(平成10年10月29日)|裁判所
職務著作の成立要件
法15条1項は、職務著作の成立には以下5つの要件を充たす必要があると定めています。
- 法人その他使用者(法人等)の発意に基づき
- その法人等の業務に従事する者が
- 職務上作成する著作物で、
- その法人等が自己の著作の名義のもとに公表し、
- その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない
では、各要件について詳しく見ていきましょう。
法人等の発意に基づく
法人その他使用者の「使用者」とは、職務従事者に対し指揮監督権限を持つ者のことです。法人格を持たない団体であっても、使用者といえる者がいれば職務著作になり得ます。
「発意に基づく」とは、法人等がある目的を持って構想した著作物の具体的な作成を従業員に命じることを意味します。前述のインタビュー事件で考えると、出版社がインタビュー記事の企画を立て、テーマや質問内容を決めて執筆者に取材及び記事原稿の作成を依頼していると認定されたため、「法人等の発意に基づく」という要件を充たしています。
法人等の発意に基づく業務に従事する者
「法人等の発意に基づく業務に従事する者」は会社と雇用関係にあり、上司など指揮監督権を持つ使用者の命を受ける従業員を指すのが一般的ですが、パートタイマーや派遣社員なども業務従事者に含まれます。しかし、外注先は委任や請負などの契約形態を採ることが多く、法人等とは指揮監督の関係にないため、原則として業務従事者となりません。
インタビュー事件の記事執筆者は出版社の従業員であるかどうかはわかりませんが、「(出版社の)指揮命令に従いながら」とあるため、業務従事者の要件を充たしているとされています。
職務上作成するもの
「職務上」という言葉は、具体的案件に即して実質的に考えるべきとされています。例えば、勤務時間終了後、家に持ち帰って作成したとしても、その業務に法人等の指揮監督関係が認められれば職務上の作成になります。一方、休日に従業員が趣味で著作物を作成した場合は職務上といえないため、職務著作にはなり得ません。
では、プログラム作成を業務とする法人の従業員が指揮命令を受けず、自身で独自にプログラムを開発した場合は職務著作となり得るのでしょうか。判例は「(従業員の)職務の遂行上、そのプログラムの作成が法人にとって予定又は予期されていたと言えれば、職務上の作成と認められる」としています(平成18年12月26日知財高裁)。
法人等が自己の著作の名義のもとに公表するもの
1~3の要件を充たしていても、その著作物が作成した業務従事者の名前で公表されれば職務著作とは認められません。
インタビュー事件では、執筆者が自身の作成した記事の著作権を出版社に帰属させる、すなわち出版社名で公表するという認識だったため、3と4の要件も充たすとされました。
ちなみに条文が公表「する」ものとなっているのは、公表予定の著作物も含まれるからです。
ただし、「プログラムの著作物」においては、この要件が外されています。
通常、社内で作成したプログラムを用いて何らかのシステムソフトを制作し公表しても、用いたプログラム自体は公表しないことが多いです。このような特質により、公表要件は不要とされているのです。
作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない
1~4の要件を充たす著作物であっても、雇用契約や社内の勤務規則等に「作成した著作物の著作権は作成者に留保する」と定められていれば法の適用を受けず、職務著作とはなりません。研究者や特定分野の専門家と雇用契約を締結する際に、著作権に関する別段の定めを求められるケースなどが考えられますが、特段の事情がない限り、勤務規則にこのような定めを置いている会社は少ないでしょう。
企業の法務担当者が職務著作において気を付けること
企業において職務著作となり得る著作物の有無や種類は、その業種や従業員の業務によって多岐にわたります。出版社であれば出版雑誌の掲載記事や写真など、機器製作会社なら機器に使用するプログラムなどが挙げられますが、機器製作業務であっても操作マニュアルが言語の著作物となる場合もあるので、注意が必要です。
法務担当者は自社の業務からどのような著作物が創作され得るかを把握し、勤務規定や契約書の雛形などに職務著作に関する特段の定めがないか確認しておきましょう。また、自社の業務遂行上生じる著作物につき、職務著作といえるかどうかを要件に当てはめて、記録を残しておきましょう。
念のため、職務著作としたい場合に契約書で「本業務で生ずる著作物の著作権は当社に属する」と決めておくと安心です。
職務著作に関する法的トラブルの例
- 会社内において、現(旧)従業員との間で「著作権が作成者と会社のどちらに属するか」というトラブル
- 社外において第三者が著作権を侵害された時に「当該著作物は職務著作であるから作成者でなく会社に損害賠償を求める」といったトラブル
同じ著作物について、前者の場合は職務著作で後者の場合は職務著作ではないというような、その場しのぎの主張をするようでは会社の信用が失墜しかねません。首尾一貫した主張ができるような体制を整えておきましょう。
職務著作の著作権について理解を深めておこう!
インターネットの普及によって誰もが気軽に情報を公開・収集できる現代社会は、誰もが著作権を侵害でき、侵害されるおそれがある社会でもあります。著作権に関する関心が高まる中、企業にも職務著作に関する正しい理解が求められています。従業員が作成者であれば、何でも職務著作になるわけではありません。トラブルを未然に防ぐためには、企業側が法の趣旨と要件を正しく把握しておくことが大切です。
よくある質問
職務著作とは何ですか?
本来著作物の著作者は作成者個人になりますが、一定の要件を充たすことで法人等がその著作者となることです。詳しくはこちらをご覧ください。
職務著作の著作権は誰に帰属しますか?
別段の定めがない限り、職務著作の著作権は会社(法人)に帰属します。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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