- 更新日 : 2024年2月9日
不正競争防止法における営業秘密とは?法的な定義や対策を紹介
営業秘密とは法的保護の対象となり得る情報のことで、不正競争防止法(不競法)で定義されている法律用語です。本記事では営業秘密について詳しく解説します。同法の保護を受けるための3要件や企業秘密・知的財産との違い、漏洩事例とその対策・秘密保持誓約書の書き方についても説明するため、営業秘密を守る際に役立ててください。
目次
不正競争防止法における営業秘密とは?
「営業秘密」をそのまま読み取ると、「営業に関する秘密」となります。この解釈自体は間違っていませんが、法務担当者等が企業の重要な情報を守るためには法律上の定義を知っておく必要があります。
そこで、実務で営業秘密に関係する「不正競争防止法」の定義を紹介します。また、似た言葉である「企業秘密」や「知的財産」との違いも確認しておきましょう。
なお、不正競争防止法自体については、下記記事で詳しく紹介しています。
営業秘密と不正競争防止法の関係
不正競争防止法は、企業の営業上の利益と公正な競争秩序を保護するための法律です。
同法で保護される営業上の利益には「営業秘密」が含まれ、これが不正に持ち出されるなどの事態が生じた場合、被害者は侵害者に対して差止請求や損害賠償の請求といった措置を取ることができると定められています。
つまり、同法は企業の営業秘密を守るための法律でもあり、そのために必要なルールが具体的に定められているのです。
なお、同法における「営業秘密」には後述の「有用性」「秘密管理性」「非公知性」を持つ情報であることが求められます。
営業秘密と企業秘密の違い
営業秘密と似た言葉に「企業秘密」があります。
いずれも企業が持つ秘密情報を指しますが、不正競争防止法で保護されるのは「営業秘密」に限られます。また、営業秘密は法律用語であり、企業秘密は一般用語ともいえます。一般的には企業活動に関する経済的価値を持つ情報で、公表されていないものを指しますが、明確な定義はありません。
企業秘密は法的保護の有無を問わずさまざまな情報を指すのに対し、営業秘密はそのうち法的保護を要する情報であると認識しておくとよいでしょう。不正競争防止法上は、所定の要件を満たす情報であるか否かで区別できます。
営業秘密と知的財産の違い
営業秘密は、不正競争防止法で定められている3要件を満たす情報を指すケースが多いです。
これに対して「知的財産」は、財産的価値を持つものや情報のことを指します。
知的財産に関しては知的財産基本法など、創作者の権利を保護するための知的財産権制度による保護を受けられるかどうかが重要になるため、知的財産基本法上の定義を理解することが大切です。
同法第2条で、「知的財産」は以下のように定義されています。
第二条 この法律で「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう。
知的財産基本法のほか、著作権法や特許法、実用新案法、意匠法、商標法、不正競争防止法でも知的財産は保護対象とされており、これらの法律をまとめて「知的財産法」と呼ぶこともあります。
ただし、各法律で定義が異なるため、注意が必要です。例えば、著作権法の著作物として保護を受けるには「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」でなくてはならず、特許法の保護を受けるには「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」でなくてはなりません。
知的財産基本法第2条の定義に「営業秘密」の言葉が含まれているため、営業秘密は知的財産の一種といえます。
不正競争防止法における営業秘密の3要件
実務上は、不正競争防止法における「営業秘密」に該当するか否かが重要です。
同法2条6項で、「営業秘密」は以下のように定義されています。
この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。
具体的には「秘密管理性」「有用性」「非公知性」の3要件を満たすことで、同法上の営業秘密として扱われます。
要件① 秘密管理性
秘密管理性が認められるには、企業が客観的に当該情報を秘密として管理しようとすること(秘密管理意思)に関して、「アクセスできる者が制限されていること」「アクセスした者が当該情報が営業秘密であることを認識できること」が求められます。
従業員や外部者等が管理状況を見たときに、「この情報は秘密として管理されている」と認識できる状態でなければなりません。
一般的にはアクセス制限や、情報にアクセスしたときにそれが秘密であるとわかるような措置を取り、秘密管理性を持たせます。
要件➁ 有用性
同法における有用性が認められるには、生産方法や販売方法、その他の事業活動にとって有用な情報であり、その内容が技術上・営業上の情報であることが求められます。
したがって、「情報自体が客観的に見て事業活動に利用されていること」または「情報の利用により経費の節約や経営効率の改善等に役立つこと」などにより要件を満たします。
例えば、設計図や製法、製造ノウハウ、顧客名簿、仕入先リスト、販売マニュアルなどは有用性を満たすと考えられます。
要件③ 非公知性
非公知性とは公然と知られていないことを意味し、「当該情報を保有している企業の管理下以外で一般に入手できない」ことによってこの要件を満たします。
そのため、すでに一般消費者や取引先等が知っている、あるいは容易に知り得る情報について、自社の営業秘密であると主張することはできません。
不正競争に該当する行為と罰則
不正競争防止法2条では、以下の点を営業秘密に係わる不正競争行為と定めています。
条項 | 内容 |
---|---|
不正競争防止法2条4号 | 不正な手段により営業秘密を取得・使用・開示する行為 |
不正競争防止法2条5号 | 不正取得行為により取得された営業秘密であることを知りながらもしくは重大な過失により使用・開示する行為 |
不正競争防止法2条6号 | 営業秘密を取得した後に不正取得と判明したが、その旨を知りながらもしくは重大な過失により使用・開示する行為 |
不正競争防止法2条7号 | 保有者から得た営業秘密を不正に利益を得ることを目的にもしくは損害を与える目的で使用・開示する行為 |
不正競争防止法2条8号 | 営業秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為 |
上記の点が不正に情報を漏洩(取得・使用・開示)したと見なされるため、従業員の秘密情報の利用には注意しましょう。
例えば、営業秘密が記録されたハードディスクを不正に持ち出したり利用したりすることが不正競争行為と見なされる事例です。他にも、顧客情報を持ち出して同業他社に転職し、持ち出した情報を利用して利益を得る行為も挙げられます。
不正競争防止法に違反した際には、10年以上の懲役もしくは2,000万円以下の罰金またはその両方の罰則が科せられます。
不正競争になる行為と罰則を理解して従業員にも周知しておくとよいでしょう。
不正競争防止法の営業秘密を保護するための対応策
不正競争防止法において営業秘密を保護するには、企業において対策を考える必要があります。例を挙げると、社内で秘密管理のルールを制定して、営業秘密になるデータが流出しない対策が求められます。
また、従業員から秘密保持誓約書を取得し、情報を漏洩させない決まりを作る方法も効果的です。
本項では、不正競争防止法における営業秘密を保護する対策を解説します。
秘密管理のルールを明確にする
秘密管理のルールを明確にすると、秘密文書の紛失リスクや情報漏洩の防止につながります。ルールを詳細に記載することで、従業員が「どのような対策を取ればよいのか」が明確になり、営業秘密を保護する対策を取りやすくなるためです。
例えば、以下のようなルールを決めておくとよいでしょう。
- 重要データはマル秘と記載して保管する
- 営業秘密が含まれている紙を机の上におかない
- 機密情報を確認したらすぐに保管場所に戻す
- 機密文書一覧表に記入
また、制定したルールを見て不明点がある際には、上司に相談できるしくみ作りを構築してください。
さらに、eラーニングや研修で制定したルールを周知する点も必要です。秘密管理のルールを従業員が守れるように理解する場を設けましょう。
「秘密保持誓約書」を取得する
秘密保持誓約書とは、業務において、取得した情報の持ち出しや不正利用を防ぐために取得する契約書です。
秘密保持誓約書を取得することで、自社の従業員が顧客情報等の秘密情報を持ち出したり不正利用したりした場合に、営業秘密に限らず広く損害賠償請求を行えます。これにより、抑止力となり不正競争防止法の営業秘密を漏洩させる可能性が低くなるでしょう。
秘密保持誓約書に法的拘束力を持たせるためには、以下の点を明記することが必要です。
- 秘密情報の定義
- 秘密保持義務の内容
- 退職後の秘密保持義務
秘密保持誓約書の作り方がわからない方は、以下のサイトで弁護士監修のテンプレートを用意しているため活用してください。
就業規則の秘密保持に関する規程を定める
従業員から秘密保持誓約書を取得するだけでなく、就業規則の中で営業秘密を守る規定を設ける点も重要です。ルールとして明記していれば、従業員が守りやすくなるためです。
例えば、以下のような内容を記載するとよいでしょう。
- 営業秘密の定義(個人情報や自社のノウハウ等)
- 情報の管理保管方法
- 営業秘密の漏洩による懲戒事由
特に、秘密保持義務違反を懲戒事由に定めると、違反した従業員を懲戒処分とすることが可能です。従業員への周知を行い守るように指導しておきましょう。
秘密保持義務や秘密保持条項については以下の記事で解説しているため、参考にしてください。
【秘密保持義務】
【秘密保持条項】
紙文書で保管する場合の秘密管理
営業秘密が漏洩しないように、紙文書で保管する場合の秘密管理ルールを定めておきましょう。具体的な方法は以下の通りです。
- 重要書類に「マル秘」「社外秘」「機密情報」等を記載
- 重要書類が入っている保管工を施錠する
- セキュリティカードを利用する
- 営業秘密が記載されている書類を廃棄する際はシュレッダーをかける
紙文書で営業秘密を管理する場合は、紛失のおそれや持ち出しの危険性があるためルール作りの明文化をおすすめします。
データで保管する場合の秘密管理性
データで営業秘密を管理する場合においても、従業員の持ち出しや情報流出を防ぐためにルールを定める点が必要です。
例えば、以下のような方法が挙げられます。
- USBやディスク等の記録媒体にマル秘表示を記載する
- パソコンのファイル名やフォルダ名にマル秘表示を記載する
- ファイルにパスワードをかける
- 廃棄する場合、消去ソフトを利用するかハードディスクの破壊をする
データで書類を保管する場合は、誰でもアクセスできるようにするのではなく、限られた従業員のみ閲覧できるようにしておきましょう。
さらに、データが記録されているハードディスクを廃棄する際には、データ消去ソフトを利用して完全に情報が消えるようにしてください。
信頼関係の向上
従業員と信頼関係を築くことも、営業秘密の漏洩リスク低減に効果があります。当事者意識を持つと、自社の情報を守ることにつながるためです。
例えば、働きやすい職場環境の構築や社内のコミュニケーションの活性化、公平な人事評価への改善等の手段が有効です。
企業においては、会社と従業員の関係を良くするために従業員の現場での工夫を作業マニュアル化・全社に共有することで「会社の知的財産を作り出している」と当事者意識を芽生えさせた事例もあります。
ルールを明記するだけでなく、信頼関係を構築して営業秘密を漏えいする従業員を無くす点も考慮しておきましょう。
アクセス記録を確認しておく
情報を管理するうえでは「どの情報に誰がアクセスできるのか」を決定したうえで、営業秘密が含まれるデータはアクセス記録を取得する必要があります。
誰がいつ閲覧したのかを確認することで、不正行為といった怪しい行動をした従業員に気付けるためです。
アクセス記録を確認しておくと、従業員が営業秘密を漏洩する前に気付け、事前に防止できるようになります。
不正競争防止法の営業秘密が漏洩した事例
日本においては、不正競争防止法の営業秘密が漏洩する事件が度々起きています。例えば、顧客情報を不正に持ち出し名簿業者に開示した事例が挙げられます。
その他、転職前の会社の営業秘密が含まれているデータを持ち出して、競合他社が有利になるように提出した事件も起きました。
本項では、不正競争防止法の営業秘密が漏洩した事件を4件紹介します。それぞれの特徴を理解して、自社の営業秘密を守るための対策に活かしましょう。
顧客情報を不正に持ち出した事例
不正競争防止法の営業秘密が漏洩した事例として、顧客情報へのアクセス権限を付与されていた被告人が、情報を名簿業者に開示した事件が挙げられます。具体的には、被告人により以下の顧客情報が流出しました。
- サービス登録者の名前
- 性別
- 生年月日
- 住所
本件において、裁判所は被告人が「顧客情報は一定のアクセス制限の措置が取られており、営業戦略上重要な情報であって機密にするべき情報を容易に認識できた」と判断しています。
そのため、不正競争防止法2条6条の「営業秘密」の要件である秘密管理性は満たされていたといえると述べています。
日時の売得データ等を不正に取得した事例
元従業員による営業秘密の漏洩事例も有名です。被告人(元従業員)は、転職前の会社の食材の原価や仕入れ先に関するデータを持ち出して、転職先の上司にメールで送信し、両者の原価を比較する資料を作成させました。
本件では、営業秘密を不正に利用・入手したとみなされ、不正競争防止法違反で懲役3年(執行猶予4年)・罰金200万円の有罪判決を言い渡されています(2023年5月時点)。
参考:読売新聞
従業員による競業会社への漏洩事例
従業員による競業会社への情報漏洩として、被告人(元役員)が会社の主力商品の営業秘密(設計情報)を複製し、USBメモリーに保存して持ち出し、開示した事例が挙げられます。
被告人は営業秘密を開示したとして、不正競争防止法違反の疑いで逮捕され、懲役2年6月(執行猶予3年)・罰金120万円の判決を受けています。
海外からの接触による漏洩事例
日本から海外への情報漏洩事例も起こっています。被告人(元従業員)が関連会社の事務所にて、被害会社のスマートフォン等に使用されるタッチセンサー技術に関する情報を自身のハードディスクに不正複製しました。
これにより、不正競争防止法違反(営業秘密領得・海外重罰適用)により逮捕されています。そして、懲役2年と罰金200万円の実刑判決を受けました。
このような事例から、中途退職者による漏洩が多いことがわかります。そのため退職時には秘密保持誓約書を作成する等の対応が必要です。
参考:経済産業省 最新の営業秘密侵害事例から見えてくる「営業秘密」保護のポイント
不正競争防止法の営業秘密侵害罪の検挙件数
警察庁生活安全局生活経済対策管理官の「令和4年における生活経済事犯の検挙状況等について」によると、不正競争防止法の営業秘密侵害罪の検挙件数は、令和4年時点で29件でした。平成25年の検挙件数は5件であるため、緩やかに増えていることがわかります。
自社において不正競争防止法における営業秘密の漏洩を起こさないためには、入社時や退職時などに秘密保持契約を結び、情報が漏れにくい体制を作る点が必要です。
また、企業内で決定権を持っている従業員には、競業避止義務契約(所属する企業の不利益となる競業行為を禁ずる契約)を結ぶことも効果的です。
参考:警察庁生活安全局生活経済対策管理官 令和4年における生活経済事犯の検挙状況等について
参考:経済産業省 競業避止義務契約の有効性について
不正競争防止法の改正の概要
「不正競争防止法等の一部を改正する法律」は、2023年6月14日に公布され、改正は2024年4月1日に施行されます。
営業秘密に関わる内容として、不正競争防止法第2条7項の改正が決まりました。
具体的には、不正競争防止法第2条7項では、営業秘密に加え限定提供データ(ビックデータ)を保護しています。
この法律において「限定提供データ」とは、業として特定の者に提供する情報として電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方法をいう。次項において同じ。)により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(秘密として管理されているものを除く。)をいう。
そのなかで「秘密として管理されているものを除く」という要件は、営業秘密と限定情報データが重複しないように定められていました。
しかし、この要件では「秘密として管理されており、公然と知られている」情報は、営業秘密と限定情報データいずれにもみなされず、保護されません。
そのため「秘密として管理されているものを除く」という要件を「営業秘密を除く」と改正することで、営業秘密と限定提供データの両方に当てはまらない公知情報(秘密保持契約が結ばれた時点で、すでに広く公に知られている情報)を保護できるようになります。
実務においては、保護が手厚い営業秘密として情報を管理しつつ、当てはまらない場合には限定提供データで守る対応が求められるでしょう。
なお、不正競争防止法の改正については、下記記事で詳しく解説しています。
営業秘密を理解し、適切な管理体制を整えよう
営業秘密に関しては、法的な保護を受け情報漏洩を防ぐためにも、適切な管理体制を整えることが大切です。
法的な保護を受けるためには有用性と非公知性を満たす情報でなければならず、企業では秘密管理性があると評価される管理体制を整えておかなければなりません。
紹介した漏洩事例のように、内部の者が営業秘密を持ち出すケースが多いため、情報漏洩を防ぐ対策を講じましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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