- 作成日 : 2022年2月24日
営業秘密とは?不正競争防止法との関わりから解説

営業秘密とは法的保護の対象となり得る情報のことで、不正競争防止法で定義されている法律用語です。ここでは営業秘密について詳しく解説し、同法の保護を受けるための3要件や企業秘密・知的財産との違い、漏洩事例とその対策などを紹介します。
目次
営業秘密とは?
「営業秘密」をそのまま読み取ると、「営業に関する秘密」となります。この解釈自体は間違っていませんが、法務担当者等が企業の重要な情報を守るためには法律上の定義を知っておく必要があります。
そこで、実務で営業秘密に関係する「不正競争防止法」の定義を紹介します。また、似た言葉である「企業秘密」や「知的財産」との違いも確認しておきましょう。
営業秘密と不正競争防止法の関係
不正競争防止法は、企業の営業上の利益と公正な競争秩序を保護するための法律です。
同法で保護される営業上の利益には「営業秘密」が含まれ、これが不正に持ち出されるなどの事態が生じた場合、被害者は侵害者に対して差止請求や損害賠償の請求といった措置を取ることができると定められています。
つまり、同法は企業の営業秘密を守るための法律でもあり、そのために必要なルールが具体的に定められているのです。
なお、同法における「営業秘密」には後述の「有用性」「秘密管理性」「非公知性」を持つ情報であることが求められます。
営業秘密と企業秘密の違い
営業秘密と似た言葉に「企業秘密」があります。
いずれも企業が持つ秘密情報を指しますが、不正競争防止法で保護されるのは「営業秘密」に限られます。また、営業秘密は法律用語であり、企業秘密は一般用語ともいえます。一般的には企業活動に関する経済的価値を持つ情報で、公表されていないものを指しますが、明確な定義はありません。
企業秘密は法的保護の有無を問わずさまざまな情報を指すのに対し、営業秘密はそのうち法的保護を要する情報であると認識しておくとよいでしょう。不正競争防止法上は、所定の要件を満たす情報であるか否かで区別できます。
営業秘密と知的財産の違い
営業秘密は、不正競争防止法で定められている3要件を満たす情報を指すケースが多いです。
これに対して「知的財産」は、財産的価値を持つものや情報のことを指します。
知的財産に関しては知的財産基本法など、創作者の権利を保護するための知的財産権制度による保護を受けられるかどうかが重要になるため、知的財産基本法上の定義を理解することが大切です。
同法第2条で、「知的財産」は以下のように定義されています。
第二条 この法律で「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう。
知的財産基本法のほか、著作権法や特許法、実用新案法、意匠法、商標法、不正競争防止法でも知的財産は保護対象とされており、これらの法律をまとめて「知的財産法」と呼ぶこともあります。
ただし、各法律で定義が異なるため、注意が必要です。例えば、著作権法の著作物として保護を受けるには「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」でなくてはならず、特許法の保護を受けるには「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」でなくてはなりません。
知的財産基本法第2条の定義に「営業秘密」の言葉が含まれているため、営業秘密は知的財産の一種といえます。
不正競争防止法における営業秘密の3要件
実務上は、不正競争防止法における「営業秘密」に該当するか否かが重要です。
同法2条6項で、「営業秘密」は以下のように定義されています。
この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。
具体的には「秘密管理性」「有用性」「非公知性」の3要件を満たすことで、同法上の営業秘密として扱われます。
要件① 秘密管理性
秘密管理性が認められるには、企業が客観的に当該情報を秘密として管理しようとすること(秘密管理意思)に関して、「アクセスできる者が制限されていること」「アクセスした者が当該情報が営業秘密であることを認識できること」が求められます。
従業員や外部者等が管理状況を見たときに、「この情報は秘密として管理されている」と認識できる状態でなければなりません。
一般的にはアクセス制限や、情報にアクセスしたときにそれが秘密であるとわかるような措置を取り、秘密管理性を持たせます。
要件➁ 有用性
同法における有用性が認められるには、生産方法や販売方法、その他の事業活動にとって有用な情報であり、その内容が技術上・営業上の情報であることが求められます。
したがって、「情報自体が客観的に見て事業活動に利用されていること」または「情報の利用により経費の節約や経営効率の改善等に役立つこと」などにより要件を満たします。
例えば、設計図や製法、製造ノウハウ、顧客名簿、仕入先リスト、販売マニュアルなどは有用性を満たすと考えられます。
要件③ 非公知性
非公知性とは公然と知られていないことを意味し、「当該情報を保有している企業の管理下以外で一般に入手できない」ことによってこの要件を満たします。
そのため、すでに一般消費者や取引先等が知っている、あるいは容易に知り得る情報について、自社の営業秘密であると主張することはできません。
営業秘密の管理について具体例を紹介
営業秘密の管理に関しては、「秘密情報に対する認識の向上」「持ち出しを困難にする」「信頼関係の向上」といった対策が基本になります。
「秘密情報に対する認識の向上」のためには、入社時・退職時の秘密保持契約締結、プロジェクト開始時の秘密保持契約の締結が有効です。場合によっては、競業避止義務契約の締結も検討します。
「持ち出しを困難にする」ためには、以下の具体例が有効です。
- アクセス権を設定
- 私物の記録媒体持ち込みを制限
- 秘密情報が記録された媒体に「持ち出し禁止」等の表示を行う
- 退職者に対し社内情報へのアクセス権を制限し、IDやアカウントを削除
- 退職申出前後のログをチェック
後述の事例で示すように、退職者からの情報漏洩には特に注意が必要です。
「信頼関係の向上」については働きやすい職場環境の構築や、公平な人事評価などが有効です。従業員等と信頼関係を築くことも、漏洩リスクの低減に効果があります。
近年はテレワークを導入する企業が増えていますが、テレワークへの切り替えに際しては情報管理のルールを新設し、周知を徹底すべきです。不正アクセスの問題もありますが、従業員等による持ち出しが漏洩のきっかけになりやすいため、従業員に向けた啓蒙も重要といえます。
営業秘密の漏洩事例
経済産業省は、近年の営業秘密の漏洩事例を紹介しています。
事例1:従業員による競業会社への漏洩事例
元役員が、ある会社の主力商品の営業秘密(設計情報)を複製し、それをUSBメモリに保存して持ち出した。元役員は営業秘密を開示したとして、不正競争防止法違反の疑いで逮捕。刑事裁判を経て、懲役2年6月執行猶予3年、罰金120万円の判決を受けた。
事例2:海外からの接触による漏洩事例
元従業員が関連会社の事務所にて、被害会社の主力商品に関連する技術情報を自身のハードディスクに不正複製したとして、不正競争防止法違反の疑いで逮捕。懲役2年、罰金200万円の実刑判決に処された。
参考:最新の営業秘密侵害事例から見えてくる「営業秘密」保護のポイント|経済産業省
こういった事例から、中途退職者による漏洩が多いことがわかります。そのため退職時には秘密保持契約書、合意書を作成するなどの対応が必要です。
営業秘密を理解し、適切な管理体制を整えよう
営業秘密に関しては、法的な保護を受けるためにも情報漏洩を防ぐためにも、適切な管理体制を整えることが大切です。
法的な保護を受けるためには有用性と非公知性を満たす情報でなければならず、企業では秘密管理性があると評価されるような管理体制を整えておかなければなりません。
紹介した漏洩事例のように、内部の者が営業秘密を持ち出すケースが多いため、これを防ぐための対策を講じましょう。
よくある質問
営業秘密とは何ですか?
営業秘密とは、秘密として管理されていて(秘密管理性を満たし)、生産方法や販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって(有用性を満たし)、公然と知られていない(非公知性を満たす)ものを指します。詳しくはこちらをご覧ください。
営業秘密と企業秘密の違いは何ですか?
いずれも企業が持つ秘密情報を指しますが、不正競争防止法で保護されるのは「営業秘密」に限られます。また、営業秘密は法律用語であり、企業秘密は一般用語ともいえるでしょう。詳しくはこちらをご覧ください。
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