• 更新日 : 2023年11月24日

不正競争防止法とは?対象となる行為や注意点をわかりやすく解説

不正競争防止法とは、事業者間の公正な競争を維持することを図るための法律です。営業秘密の侵害や他社製品等の模倣などを禁止したもので、様々な規定が置かれています。

この記事では不正競争防止法の概要を紹介し、不正競争に該当する行為や違反した場合の罰則などについて解説します。

不正競争防止法とは?

不正競争防止法は国民経済の健全な発展を目指し、「事業者間の公正な競争を促進」および「これに関連する国際約束の実施」を図るための法律です(1条)。そのための措置として、不正な競争に対する防止・差止め・損害賠償に関する規定が置かれています。

(目的)

この法律は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

引用:不正競争防止法|e-Gov法令検索 第1条

関連する法律に、民法や独占禁止法、景品表示法などがあります。
例えば、民法には不法行為による損害賠償請求権(民法709条)が規定されていますが、不正競争防止法では特に不正競争に対する差止請求権が認められており、民法に対する特別法として位置づけられています。
一方で、独占禁止法や景品表示法は一般法と特別法という関係ではなく、競争秩序維持を狙いとする、似た目的を持つ法律といえます。

不正競争防止法違反となる行為は?

不正競争防止法第2条1項にて「不正競争」が定義されており、大きく10の行為に分類することができます。具体的な内容を解説します。

周知表示混同惹起行為(1号)

不正競争行為の一類型として「周知表示混同惹起行為」が挙げられます。
これは「広く認識されている、他人の商品等と同一または類似の表示を使い、その他人の商品等との混同を生じさせる行為」のことです。

例えば、すでに売れている他社製品に似たものを作り、消費者に対して真正品かどうかの判断を誤らせるような行為を行うと、周知表示混同惹起行為として同法上の不正競争に該当することがあります。

この行為に該当する要件として「商品等の表示(商標や商品の容器・形態など)が広く認識されていること」が定められていますが、必ずしも全国的に知られている必要はありません。ある地方でのみ知られているものであっても、保護すべき一定の事実状態が形成されていれば、当該要件を充足し得ます(ニューアマモト事件 最決昭和34年5月20日刑集13巻5号755頁)。
混同を生じさせる行為に関しては、実際に混同が生じる必要はなく、そのおそれがある段階で足りると考えられています。

著名表示冒用行為(2号)

「著名表示冒用行為」とは「他人の著名な商品等の表示を、自己の商品等の表示に使う行為」のことです。

周知表示混同惹起行為に似ていますが、著名表示冒用行為の要件としては「混同を生じさせるおそれ」は必要ありません。

近年の有名な事例としては、マリカー事件が挙げられます。原告(任天堂株式会社)の有名キャラクターのものと類似するコスチューム等の表示を用いた被告の行為が問題となった事案です。同事件での行為は任天堂が公式に展開するサービスであるとの混同を一般に生じさせるものではありませんが、著名表示冒用行為にあたると認定され、差止め・損害賠償が命じられました(知財高判令和2年1月29日 裁判所ウェブサイト掲載 )。

「顧客吸引力の不当利用」「ブランドイメージの汚染」といった被害が生じる可能性があるため、著名表示冒用行為は不正競争防止法で禁止されています。

この行為における「著名な」は、混同が要件とされていないこととの関係で、単に広く認識されているだけでは足りず、具体的には全国的に知られている程度まで求められます。

形態模倣商品の提供行為(3号)

他人の商品の形態を模倣し、これを提供する行為も禁じられています。

多品種少量生産品やサイクルが短い商品などは、意匠権を取得して法的保護を受けることが現実的に難しいといえます。物品の形状や模様、色彩等に対し、意匠権付与による保護を受けるには特許庁による登録が必要であり、時間やコストがかかるからです。
そこで、不正競争防止法では、商品の形態(外観や形状、模様、色彩など)を模倣・譲渡等をする行為を禁止することで、商品の形態を保護しています。

同法上の保護を受ける上で登録などの手続は不要であり、意匠法のように新規性なども求められません。ただし、ありふれた形態のものに関しては保護が受けられない可能性が高くなります。

営業秘密の侵害(4号~10号)

営業秘密への侵害も大きな被害が生じ得るものであり、同法で禁じられています。
具体的には、「窃盗など不正の手段によって営業秘密を取得して、これを自ら使用または第三者に開示する行為」が不正競争に該当し得ます。

このような侵害行為が横行すると、企業が努力するインセンティブが減退してしまいます。また、競争の秩序が乱され、さらには国内で起こるイノベーションに悪影響を及ぼすため、規制しています。

同法上の営業秘密に該当するには、当該情報が以下の3つの性質を備えている必要があります。

  1. 秘密管理性
    (従業員等から見て、企業が秘密にしたい情報であることがわかる程度に管理されていること)
  2. 有用性
    (技術上または営業上、有用な情報であること)
  3. 非公知性
    (情報を管理している者以外が容易に入手できないこと)

例えば、これらの性質を備える顧客名簿・顧客対応マニュアル・新規事業の計画・製造ノウハウ・設計図面などは、営業秘密に該当し得ます。

営業秘密に関しては、以下の記事も参考にしてください

限定提供データの不正取得等(11~16号)

特定の者に対してのみ提供されているデータを、窃盗や不正アクセスなどの不正な手段で入手し、自ら使用または第三者に開示する行為も禁止されています。

例えば、自動車メーカーは災害時に公共機関へ車両の走行データを提供し、公共機関はこれを道路状況の把握などに利用しています。
その他、限定提供データによって新たな事業の創出や付加価値の向上といった効果が期待されますが、不正取得が行われるとこれらの利益が妨げられるおそれがあります。そのため、同法で保護を図っているのです。

技術的制限手段無効化装置等の提供行為(17~18号)

制限されているコンテンツの視聴・記録や、プログラムの実行を可能にする装置・プログラム・役務の提供も禁止されています。

例えば、依頼者から預かったゲーム機に対して「海賊版のゲームができるようにする改造」「セーブデータを改ざんする」といったサービスを提供すると不正競争に該当し得ます。
ほかにも、ビジネスソフトを不正に作動させるために用いるシリアルコードを提供したり、衛星放送の暗号を無効化するプログラムを提供したりすると、不正競争に該当する可能性があります。

ドメイン名の不正取得等の行為(19号)

Webサイトをインターネット上に公開する際には、一般的にドメインを取得する必要があります。ドメインとは、インターネット上で個々のWebサイトを識別するために割当てられる、番号等の組み合わせのことです。
要は、Webサイトにアクセスするために用いられる文字列等のことです。

不正競争防止法では不正の利益を得る、あるいは他人に損害を加える目的(図利加害目的)で、他人の商品等の表示と同一または類似するドメイン名を使用する権利を取得する行為を禁止しています。

例えば、類似するドメイン名を使用すると、誤ったアドレスを入力したユーザーを誤認させたままアクセスを獲得することができます。つまり、他人と類似するドメイン名を取得することで、事業を邪魔することができてしまうため、禁止されています。

なお、図利加害目的は「不正の利益を得る目的」または「他人に損害を与える目的」を意味します。

誤認惹起行為(20号)

商品等について、原産地や品質、内容等を誤認させるような表示をする行為は「誤認惹起行為」として禁止されています。

例えば、ある食品の名称として特定地域の名称を付することは原産地の誤認を生じさせる可能性があるため、当該地域にて製造等がされていない場合は誤認惹起行為として違法になることがあります。

表示の方法としては「広告」または「取引に用いる書類もしくは通信」が挙げられており、前者の例としてはインターネット上の広告やテレビ、新聞など、後者の例としては注文書、電話、見積書などが挙げられます。

信用毀損行為(21号)

不正競争防止法では、積極的に他社に損害を与える「信用毀損行為」も禁止しています。

具体的には「競争相手にあたる他人の信用を害する、虚偽の事実を告知・流布する行為」のことです。
需要者や取引先について共通する可能性があれば、ここでいう「競争関係」に該当すると考えられています(ハンガークリップ特許警告事件 東京地判平成18年8月8日 裁判所ウェブサイト掲載)。
また、具体的な名称を付さなくても、「他人」とは誰のことを言っているのか理解できる場合には、「他人」が特定されているといえます。

代理人等の商標冒用行為(22号)

本来商標権は、登録国においてのみ効力を発揮します(属地性の原則)。しかし、近年はグローバルに展開する企業も少なくないため、国際的に商標権を保護する必要性が高まっています。
そこで同法では、パリ条約の同盟国等おいて権利を持つ者の代理人が、正当な理由なく、権利を有する者の承諾も得ず、当該商標を使用することを禁止しています。

参考:不正競争防止法|e-Gov法令検索

不正競争防止法違反による罰則は?

不正競争防止法に違反した場合のペナルティとして、どのような措置があるのか見ていきましょう。

民事上の措置

不正競争を行った場合の措置は、大きく民事上の措置と刑事上の措置に分類できます。
刑事上の措置に関しては後述するとして、まず民事上の措置にあたる「差止請求」「損害賠償請求」「信用回復措置請求」について説明します。

差止請求

上で挙げた不正競争により、営業上の利益が侵害された・侵害されるおそれがある、という場合は差止請求ができます。

具体的には、「侵害行為停止の請求」「侵害行為をはたらくおそれがある者に対する予防請求」「侵害行為を組成する物の廃棄など侵害の停止や予防に必要な措置の請求」が可能です。

たとえ侵害者に故意や過失がなかったとしても、請求できる可能性はあります。
すでに侵害が現実化していて、そのまま放置していると著しい損害が生じる可能性があるなど緊急性がある場合は、侵害行為停止の仮処分が認められる可能性もあります。

損害賠償請求

不正競争により損害が生じた場合は、当該損害の賠償請求ができる可能性があります。
被害を受けた側が、行為者の故意または過失を証明することになります。

ただし、営業上の利益に関する損害額に関しては立証が難しいため、立証を容易にするための規定が不正競争防止法に定められています。

信用回復措置請求

不正競争行為によって、信用を毀損されることも考えられます。例えば表示の誤認をさせたことによって、ブランドイメージが失墜することもあるでしょう。このような信用の毀損については、単に損害賠償をしてもらうだけでは十分な救済とならないこともあります。
そこで同法では裁判所を介し、行為者に対し信用回復措置を講ずるよう求めることができると規定されています。
被害を受けた会社等は裁判所に申し立て、謝罪広告を出してもらうといった対応を求めることができるのです。

刑事上の措置

不正競争の行為類型のうち、一部に関しては刑事罰が規定されています。

刑事上の措置が定められているのは、以下の行為です。

  • 営業秘密に係る不正競争行為
  • 周知表示混同惹起行為
  • 著名表示冒用行為
  • 形態模倣商品の提供行為
  • 技術的制限手段無効化装置等の提供行為
  • 混同惹起行為
  • 誤認惹起行為

特に営業秘密の侵害に関しては、他の行為と比べて重い罰則が規定されています。

営業秘密の侵害:10年以下の懲役、もしくは2,000万円以下(海外使用等に関しては3,000万円以下)の罰金、またはその両方
その他の行為:5年以下の懲役、もしくは500万円以下の罰金、またはその両方

法人に対しては多くの行為類型で3億円以下の罰金が法定されており、営業秘密を侵害する行為の一部については5億円以下の罰金(海外使用等に関しては10億円以下)が科される可能性があります。

不正競争防止法違反となった事例は?

不正競争防止法ではさまざまな行為類型が不正競争として定義されており、同法違反事例の内容も多種多様です。
上述のマリカー事件も同法違反の一例です。営業秘密の侵害に関しては、内部不正による漏えい事例が増加傾向にあるとされています。
具体的には、元役員が主力商品の営業秘密を複製し、USBメモリーに保存して持ち出したとして同法違反の疑いで逮捕された事例があります。また、元従業員が主力商品の技術に関する情報を自らのハードディスクに複製し、同法違反の疑いで逮捕された事例もあります。

企業としては、従業員および退職者による漏えいリスクを低減するような対策を講ずることが大切で、近年はテレワークにおける漏えい対策も重要といえるでしょう。

国際約束において禁止されている行為

不正競争防止法では以上のように、他の企業や個人の商号や商標、標章あるいは商品・サービスの形態と同一のもの、あるいは模したものを無断で使用する行為を規制していますが、保護対象は企業や人だけではありません。

外国の国旗や紋章、外国政府の印象・記号のうち経済産業省令で定めるものを商標として使用したり、外国紋章を使って需要者に対して原産地を誤認させたりする行為は禁止されています。

同様に、国際機関の標章のうち経済産業省令で定めるものを使って、国際機関と関係があるように需要者に誤認させる行為も禁じられています。

国旗や紋章をロゴや商品のパッケージなどに使う際には不正競争防止法違反に抵触しないかどうか注意が必要です。

また、国際的な商取引に関して外国公務員(外国の政府や地方公共団体の公務、政府関係機関の事務に従事する人など)に利益を得る目的で賄賂などを渡す行為も禁止されています。

不正競争が適用されないケース

不正競争に該当する行為であっても、差止請求、損害賠償、罰則の規定が適用されないケースがあります。以下が適用除外になるケースです。

    1. 商品及び営業の普通名称・慣用表示の使用 (第19条第1項第1号)
    2.  自己の氏名の不正の目的でない使用 (第19条第1項第2号)
    3.  周知性獲得以前からの先使用 (第19条第1項第3号)
    4.  著名性獲得以前からの先使用 (第19条第1項第4号)
    5.  日本国内で最初に販売された日から3年を経過した商品 (第19条第1項第5号イ)
    6.  デッドコピー商品の善意取得者保護 (第19条第1項第5号ロ)
    7.  営業秘密の善意取得者保護 (第19条第1項第6号)
    8.  差止請求権が消滅したあとの営業秘密の使用により生産された製品の譲渡等 (第19条第1項第7号)
    9.  限定提供データの善意取得者保護 (第19条第1項第8号イ)
    10.  限定提供データと同一のオープンなデータ (第19条第1項第8号ロ)
    11.  技術的制限手段の試験又は研究のために用いられる装置などの譲渡行為等(第19条第1項第9号)

引用:不正競争防止法の概要|経済産業省 知的財産政策室

例えば、「周知な商品等表示の混同惹起(第2条第1項1号)」にあたる行為をしたとしても、それが上記の「商品及び営業の普通名称・慣用表示の使用」に該当するケースである場合、差止請求、損害賠償、罰則の対象外となります。

法人や個人事業主が気をつけるべきポイントは?

不正競争防止法に違反しないためには、上記で記載したように「どのような行為が不正競争にあたるのか」をしっかりと把握しておくことが大切です。例えば、商標や商品・サービス名を考える際には、他社のものと同一のものや模倣したものを利用しないことはもちろん、決める前にすでに同一のもの・類似したものがないか調査することも重要です。

また、競合他社の営業秘密の利用にも注意しましょう。特に同業から転職してきた人が、転職前の会社の顧客データや研究データ、ノウハウなどを使った結果、不正競争防止法違反に該当してしまうケースが考えられます。そういった行為が発生していると疑われる場合、どのようなプロセスを経て業務を行ったのか、詳細に確認して記録することが大切です。

また、逆に自分が不正競争に該当する行為をされて不利益を被る場合があります。その際には相手方に差止請求、損害賠償請求ができるため、これらの法的措置についても検討しましょう。

不正競争防止法違反となる行為に注意しましょう!

故意でなかったとしても、不正競争防止法違反に該当する可能性があります。ここで挙げた行為類型を参考にして、自社が不正競争を行わないようにし、損害賠償請求などの民事上の責任や刑事上の責任を追及されないように注意しましょう。

参照:裁判所判例|不正競争行為差止等請求事件
参照:経済産業省|最新の営業秘密侵害事例から見えてくる「営業秘密」保護のポイント

よくある質問

不正競争防止法とは?

国民経済の健全な発展を目指し、「事業者間の公正な競争を促進」および「これに関連する国際約束の実施」を図るための法律です。詳しくはこちらをご覧ください。

不正競争防止法違反になる行為は?

営業秘密の侵害や他人の商標等と混同するような表示、その他さまざまな行為類型が同法で不正競争にあたると定められています。詳しくはこちらをご覧ください。

不正競争防止法違反による罰則は?

損害賠償請求や差止請求などの民事上の措置のほか、刑事上の措置として懲役刑や罰金刑が法定されています。詳しくはこちらをご覧ください。


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