• 作成日 : 2023年9月8日

地役権設定契約書とは?ひな形をもとに基本項目を解説

地役権設定契約書とは?ひな形をもとに基本項目を解説

地役権設定契約書とは、地役権を設定する際に、利用する側と利用される土地の所有者との間で地役権設定に関して合意を得るための書類です。地役権設定契約書には、地役権を設定する土地の所在地や設定目的などを記載します。

本記事では、ひな形に沿って地役権設定契約書の書き方や作成ポイントについて解説します。

地役権とは?

地役権(ちえきけん)とは「自分の土地の利便性を向上させるために、他者の土地を利用する権利」です。地役権で多いのは、他者が所有する土地を通行した方が便利なときに設定される「通行地役権」です。下図のように、自宅から目的地に行く際に隣の敷地を通った方(青点線)が近い場合、隣の敷地に通行地役権が設定されます。

地役権では、他者の土地を利用する側を「地役権者(ちえきけんしゃ)」と呼びます。また、地役権者が所有する土地を「要役地(ようえきち)」、利用される側が所有する土地を「承役地(しょうえきち)」と呼んでいます。

地役権設定の際は、利用者と土地の権利者間で「地役権設定契約書(ちえきけんせっていけいやくしょ)」を交わす必要があります。

地役権設定契約書は印紙税法上の課税文書ではないため、収入印紙の貼付は不要です。

地上権との違い

地役権と似た権利として「地上権」が挙げられます。地上権を簡単にいうと「工作物を作るために他者の土地を使用する権利」です(民法265条)。地上権における工作物とは、建物や道路など他者の土地の区画内で作られたものです。他者の土地を利用して畑を持っている場合は、畑で収穫した作物も工作物となります。

地上権では、地上権が設定された土地の上下に存在する空間で作られた工作物も対象です。必ずしも工作物が地面に接している必要はありません。

地上権と地役権は、土地の利用目的が異なります。地上権の場合は、工作物や竹木を所有、利用するために他者の土地を利用します。自分の土地を利用するかどうかは関係ありません。

一方、地役権は、自分の土地の利便性を向上させるために他者の土地を利用します。地上権との大きな違いは、自分の土地を使いつつ他者の土地も利用する点です。

地役権が設定される主なケース

地役権が設定されるケースとして、主に以下の3つが挙げられます。

  • 通路としての利用
  • 送電線や水道管の設置
  • 遊水地としての利用

通路としての利用

他者の土地を通路として利用する場合「通行地役権」が設定されます。

地役権が設定されるのは、ほとんどがこのケースです。先述の通り、目的地に向かう際に隣の敷地を通った方が便利な場合や、自宅の周りに道路がなく、隣の敷地を通らないと道路に出られない場合に通行地役権が設定されます。

送電線や水道管の設置

自分の土地に送電線や水道管を通す場合も、地役権の設定対象です。

電力、水道会社は、地域の電気や水道の安定供給のため、地域内の土地に送電線や水道管を設置します。土地の所有者と各会社との間で送電線や水道管を敷設する契約を締結すると同時に、地役権が設定されるケースが多くあります。

遊水地としての利用

大きな河川の氾濫を防ぐために、河川に面した土地を遊水地として利用する地役権が設定されるケースもあります。

遊水地として利用される要役地は、普段は農地として利用可能です。しかし、河川の水が増え洪水が予想される際には、地役権により要役地に河川の水が流されます。この場合、要役地に河川の水が流された際は一定割合の補償金が支払われる契約が交わされるケースがほとんどです。

地役権設定契約書のひな形・テンプレート(ワード)

地役権設定契約書の作成にはテンプレートが便利です。以下のページよりひな形(テンプレート)のダウンロードができますので、ぜひご活用ください。

地役権設定契約書の主な条項

ここからは、前章で紹介したテンプレートに沿って、地役権設定契約書に入れるべき条項について解説します。

承役地の所在、地番、地目、地積

最初に、地役権を設定する承役地の所在、地番、地目、地積を記載します。登記事項証明書(登記簿)に記載された情報を転記しましょう。

地番は住所(住居表示)と違う場合があります。地番と住所が異なる場合は、住所を記載しないように注意が必要です。

地役権設定の目的

次に、通行地役権であること、送電線や水道管を敷設することなど、地役権を設定する目的を記載しましょう。地役権の対象範囲もここで記載しておくとわかりやすいです。

地役権の存続期間

地役権の存続期間を記載します。具体的には、発効開始日、存続年数を記載しましょう。契約更新の有無も、ここで記載します。

地役権設定中の使用制限

地役権設定中に承役地の使用を制限する条項も忘れてはいけません。通行地役権の場合は、通行を妨げる建造物や工作物の設置を禁止する旨を記載しましょう。水道管や送電線敷設では、水道や電気を通す際に支障をきたす建造物・工作物の設置を禁止することが大切です。

地役権設定に対する対価支払い

地役権の設定に対して対価の支払いが必要な場合は、支払金額と締日、支払方法を記載します。金額改定の可能性についても言及すると良いでしょう。

地役権設定登記の規定

地役権設定契約を締結した後は、地役権設定登記も速やかに行うことを記載しましょう。地役権設定登記をすることで、承役地の所有者が変わっても、新所有者に対して地役権があることを主張できます。登記費用の負担者も同時に記載します。

地役権設定契約解除に関する規定

地役権設定契約を解除する条件として、次のようなケースを記載しておくと安心です。

  • 対価支払いがある場合、対価の未払いが続いた年数
  • 通行、水道管、送電線設置の必要がなくなった場合

第三者に承役地を譲渡した際の規定

承役地所有者が第三者に承役地を譲渡した場合の規定も記載します。この場合、下記の内容を記載しておきましょう。

  • 地役権もあわせて譲渡すること
  • 譲渡したことを承継人と連名で地役権者に伝えること

契約に定めのない事項の決定方法

契約に定めのない事項があった場合は、協議して定めることを記載します。協議して定めることを記載しておくことで、当事者間のトラブルを未然に防止できるでしょう。

紛争を管轄する裁判所

紛争が生じた場合、土地の所在地を管轄する地方裁判所が管轄となることを記載します。地役権の設定により第三者に損害を与えた場合、誰が損害賠償を行うかも記載しておくと良いでしょう。

締めの文章と署名捺印

最後に、契約書を2通作成し、当事者双方が署名捺印の上1通ずつ保管する旨の文章を記載します。その下に、契約日、地役権者と承役地の所有者それぞれが住所氏名を記入押印する項目を作成します。

地役権設定契約書の書き方・作成ポイント

地役権設定契約書には、注意すべき箇所がいくつかあります。ここからは、地役権設定契約書の書き方や作成ポイントを見ていきましょう。

住居表示ではなく登記簿上の地番を記載する

土地に付された登記上の権利は、地番によって表されます。住所は、建物を判別するために市区町村がつけたもので、多くの場合地番とは別です。

地番は、地役権を設定するときや登記事項証明書(登記簿)を取得する際に必要となります。地番がわからないときは、当該土地を管轄している法務局か市区町村役所に問い合わせましょう。

地役権設定登記を同時に行うことを明記する

地役権設定登記は義務ではありません。しかし、地役権設定登記がないまま承役地の所有権が第三者に移転してしまうと、地役権者と承役地の旧所有者との間で合意があった地役権の内容を新所有者に対抗できない(地役権の存在を主張できない)場合があります。

承役地が第三者の所有となっても地役権を有効にするために、地役権設定契約と同時に登記することを明記しておきましょう。

契約書に記載がない事項は合意によって決めることを明記する

本来は、地役権に関する事項は契約書にすべて書かれていることが望ましいといえます。とはいえ、将来的には契約当時と状況が変わるかもしれません。状況が変わった際のトラブルを未然に防ぐためにも、契約書に記載がない事項は双方の協議により決定できることを記載しておきましょう。

地役権設定契約書は他者の土地を利用するために必要

地役権とは、自分の土地の利便性を向上させるために、他者の土地を利用できる権利です。代表的な地役権として、他者の土地を通行できる通行地役権が挙げられます。地役権を設定する際は、土地を利用する地役権者と利用される土地の所有者双方の合意のために、地役権設定契約書が必要です。

地役権設定契約書には、承役地の所在地や地役権の設定目的や期間、設定範囲などを記載します。設定範囲や地上権設定契約と登記を同時に行うこと、規定にない事項に関しては、双方の合意により決定する旨を記載しておくと安心です。


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