- 作成日 : 2023年3月10日
過失とは?故意との違いや民法・刑法上の扱いを簡単に解説
過失を一言でいうとすれば、注意義務違反です。この記事では、民法や刑法における過失の定義や分類などについて解説します。
民法における過失
民法におけるとは、損害の発生が予見可能であることを前提に、それを回避すべきであったにも関わらず、回避しなかったことをいいます。
損害の発生を認識したうえであえて行う故意とは異なります。民法における過失は、程度によって「重過失」と「過失(軽過失)」に分けられます。
重過失
重過失とは、わずかな注意をしさえすれば簡単に結果を予測できたにも関わらず、怠慢により注意を怠った過失です。
例えば、荷物室の扉が完全に閉まらない状態で運送したことで荷物室から高価な絵画を落下させ紛失したという例で、裁判所は、わずかな注意をしさえすれば容易に避けられたとして、運送会社の重過失を認めています(東京地裁平成2年3月28日判決)。
重過失によって損害が発生した場合、故意とほぼ同程度の責任を負うことがあります。
過失(軽過失)
重過失が認められなかった場合でも、「過失」が認められれば損害賠償責任を負う場合があります。重過失との対比によって「軽過失 」と表現されることもありますが、法律上用いられる用語ではありません。
過失(軽過失)があったと判断されるのは、普通人として通常なすべき注意を欠いたためにその損害を発生させてしまった場合です。
ただし、普通人という言葉が指し示す意味は、職業や立場などによって基準が変わります。例えば、医療事故の場合、医師には「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準」が求められるでしょう。そのため、それに満たない処置をしたために損害が発生したと判断されれば、過失があったとみなされます。
刑法における過失
刑法における過失とは、結果が予見できたにもかかわらず予見せず、さらに、結果の発生を回避できたにもかかわらず回避しないことをいいます。結果を認識したうえでそれを認容する故意とは異なります。刑法における過失には、以下のような分類があります。
- 一般の過失
- 業務上の過失(刑法第211条前段)
- 重過失(刑法第211条後段)
業務上の過失
たとえば医療行為のように、危険性のある活動を継続的に行っている医師などが、その業務を行う上での注意を怠った場合に問われるのが、「業務上過失」です。
判例によると、「業務上」の判断基準は、「社会生活上の地位に基づき、反復・継続する行為であって、その行為が他人の生命・身体などに危害を加えるおそれがあるもの」とされており、必ずしも仕事中の過失に限定されるわけではありません。
業務上の過失には一般の過失よりも高度な注意義務が課せられ、刑罰も重くなります 。
重過失
重過失とは、わずかな注意で結果が予見できたにもかかわらず予見せず、さらに、容易に結果の発生を回避できたにもかかわらず回避しないことをいいます。
契約書締結上の過失
民法では契約締結上の過失が問題となる場合もあります。契約締結上の過失は、契約の交渉段階において信義則上の義務違反がある場合などに問題となります。たとえば、契約交渉を一方的に不当に破棄した場合などです。契約締結上の過失が問題となり、損害賠償責任を負う場合もあるので、注意しましょう。
過失の内容を理解して法的リスクを最小限に抑えましょう
民法と刑法では過失の分類などに違いがあります。民法については、代表例として不法行為により損害賠償責任が発生する要件としての「過失」があり、分類として重過失と軽過失がありました。
他方、刑法上の過失については、分類として、一般の過失、業務上の過失、重過失がありました。
過失がもたらす法的リスクを最小限に抑えるために、過失の定義や民法における過失と刑法における過失の違いなどを理解しておきましょう。
よくある質問
過失とはどのような意味ですか?
一言でいえば過失とは注意義務違反のことをいいます。詳しくはこちらをご覧ください。
過失と故意の違いは何ですか?
故意とは意図してその結果を発生させることや、発生しても構わないという心理状態を指し、結果を意識的、無意識的に意図している点で過失とは異なります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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