• 更新日 : 2024年1月19日

特許出願の分割とは?分割出願のタイミングやメリットを解説

特許出願の分割とは?分割出願のタイミングやメリットを解説

特許出願の分割とは、2つ以上の発明をまとめて出願する際、発明の一部を新たな出願として分割できることです。分割により審査をスムーズに進められたり、特許として認められる可能性が高まったりします。

今回は、出願を分割するメリットやタイミング、分割すべきケースなどを解説します。分割の手続きも紹介しているため参考にしてください。

特許出願の分割とは?

特許出願の分割とは、特許出願書類に2つ以上の発明が記載されている場合、それを新たな出願として分割できることです。分割することを「特許出願の分割」、もともとの出願を「原出願」、分割された後の出願を「分割出願」と呼びます。

以下では、特許出願の分割が認められる理由と、分割が認められるケースについて見ていきましょう。

特許出願の分割が認められる理由

特許出願の分割が認められるのは、特許制度が目的とする産業の発達を促すことにつながると考えられているためです。

複数の発明をまとめて申請し、一部について拒絶理由が指摘されたとしましょう。この場合も、特許出願を分割できれば、要件を満たしている発明が早期に特許権を取得できるよう進められます。また、拒絶理由を指摘された発明についても、分割によって特許要件を満たしやすくなる可能性も高いです。

特許出願の分割を認めることで、発明を奨励し、産業の発達に寄与することが期待されます。

特許出願の分割が認められるケースは?

特許出願の分割が認められるためには、形式的要件と実体的要件の2つを満たさなければなりません。

形式的要件とは、以下の2つのことです。

  • 原出願の出願人と分割出願の出願人とが、分割時において一致していること
  • 分割出願ができる指定の期間内に出願していること

また、実体的要件とは、以下の3つの要件を指します。

  • 原出願の分割直前の明細書等に記載された発明の全部が、分割出願の請求項に係る発明とされたものでないこと
  • 分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であること
  • 分割出願の明細書等に記載された事項が、原出願の分割直前の明細書等に記載された事項の範囲内であること

参考:特許庁 第1章 特許出願の分割(特許法第44条) 

特許の分割出願ができるタイミング

特許の分割出願ができるタイミングは、以下のいずれかの時期です。

  • 明細書、特許請求の範囲または図面について補正できる時期
  • 特許査定の謄本送達日から30日以内
  • 最初の拒絶査定の謄本送達日(拒絶査定が届いた日)から3ヶ月以内

つまり、特許出願をしてから拒絶理由通知が届くまでは、基本的にはいつでも分割出願できます。しかし、拒絶理由通知が届いた後は、拒絶理由通知の応答期間内に分割出願しなければなりません。

また、拒絶査定となった場合は、3ヶ月以内に分割出願しなければなりません。拒絶理由通知や拒絶査定が届いた場合は、分割出願をするか速やかに判断する必要があります。

特許出願の分割を行うメリット

ここでは、特許出願の分割を行う4つのメリットについて解説します。

分割をしても原出願の先願の地位を維持できる

出願を分割した際も、原出願の先願の地位を維持できるのがメリットです。

日本では「先願主義」が採用されており、同じ発明が出願された場合は早く出願された方が特許として認められます。分割せずに再度出願する場合は、その時点で出願したとみなされます。そのため、出願し直す前に別の人が同じ内容をすでに出願していた場合、特許権は認められません。

一方、分割する場合は、原出願と同じ時点で出願したとみなされます。つまり、新たに出願し直す場合に比べると、分割した方が出願時点が早くなり、特許権を取得できる可能性が高まる、というわけです。

特許の審査が迅速に進められる

分割することで、特許の審査を迅速に進められるというメリットもあります。

複数の発明をまとめて出願し、一部の発明が拒絶されるケースは少なくありません。この場合、分割を利用することで、認められた発明については特許権取得手続きを素早く進められます。そして、早期に特許権を取得することが可能です。

さらに、拒絶査定となった出願については、拒絶理由を解消したうえで分割出願できます。そのため、スムーズに特許登録できる可能性が高まります。

また、市場や競合他社の動向に合わせ、一部の内容は迅速に審査を進め、一部は審査を遅らせるという戦略をとれるのも特長です。

原出願が公開されても新規性・進歩性の要件を満たしやすくなる

分割により、原出願が公開された後でも新規性・進歩性の要件を満たしやすくなるのもメリットです。

特許出願した内容は、原則として出願から1年半後に誰もが閲覧できるように公開されます。すでに公開されている内容に似通った発明を出願しようとすると、新規性や進歩性の要件を満たしていないとして、拒絶される可能性が高いです。つまり、原出願が公開された後、その発明に関連する発明を新たに出願し直そうとすると、新規性や進歩性の要件を満たせなくなる恐れがあります。

一方、出願を分割する場合は、原出願が出願された時点で出願したものとみなされます。分割した内容が新規性や進歩性の要件を満たしているかどうかは、原出願が出願された時点を基準に判断されるのがポイントです。そのため、原出願が出願された後でも新規性・進歩性の要件を満たしやすくなります。

保護範囲を拡大できる

分割出願を利用することで、発明の保護範囲を拡大できるというメリットもあります。

競合他社が、自社が出願した発明の内容を少し変えて出願しようとしてくることもあるでしょう。

1つの発明に関連する複数の発明を分割して特許出願することで、特許で保護できる範囲を広げられます。その結果、競合他社が模倣したり類似の発明で特許を取得しようとしたりするのを防げ、競争優位性を確保できるでしょう。

特許出願の分割を行うデメリット

一方、特許出願の分割を行うことには、以下のようなデメリットや注意点があります。

  • 分割出願を行わないときよりも手間や費用がかかる
  • 親出願に不備がある場合、不備の解消が必要

出願を分割する際は、審査費用や弁理士費用、特許登録費用などが発生します。1回のみ出願する場合に比べると、手間や費用がかかる点に注意が必要です。

また、親出願に不備があり、不備を解消できないまま分割した場合は、子出願にも不備が引き継がれる恐れはあります。

特許出願の分割をした方が良いケースや具体例

特許出願の分割は、そもそも複数の発明をまとめて出願する場合に用いられます。たとえば、複数の技術から成り立つ先進的な製品を研究開発している企業は、1つにまとめて出願する方が効率的です。

この場合、以下のケースでは特許出願の分割を検討するとよいでしょう。

  • 一部について早急に特許権を取得したい場合
  • 発明の単一性を満たしていないという理由で拒絶された場合

一部の発明のみ特許が認められた場合は、特許出願の分割を行うのが効果的です。認められた発明は早期に特許権を取得し、残りの発明については、原出願の先願の地位を維持しながら再度権利化を目指せます。

また、「発明の単一性を満たしていない」という理由で拒絶された場合も分割が有効です。発明の単一性とは、1つの出願で複数の発明をまとめて出願する際、発明同士が関連性や共通性を持っている必要があるというものです。この場合、該当する発明を分割し、単一性の要件を満たせるよう調整するとよいでしょう。

特許出願の分割を行う場合の手続き

特許出願の分割は、以下の順に手続きを行いましょう。

  1. 原出願の一部を分割出願する
  2. 分割可否の審査を受ける
  3. 分割出願の審査を受ける
  4. 査定後、特許権の設定登録を行う

ここでは、手続きの流れや必要書類について解説します。

原出願の一部を分割出願する

まずは、原出願の一部を特許庁に分割出願しましょう。

その際は、通常の特許出願と同様に、願書や特許請求の範囲、図面、要約書などを改めて提出する必要があります。

また、審査請求以前に上申書の提出も必要です。上申書では、以下の点を説明しましょう。

  • 原出願からの変更箇所の明示、および原出願からの変更箇所が原出願の明細書等に記載された事項の範囲内であること
  • 分割出願に係る発明とほかの特許出願に係る発明とが同一でないこと
  • 他の特許出願に係る拒絶の理由を解消していること

なお、審査を効率化するため、原出願からの変更箇所に下線を引いてわかりやすくすることが大切です。

参考:特許庁 出願を分割する際の説明書類に関する出願人への要請について

分割可否の審査を受ける

次に、分割の要件を満たしているか審査が行われます。

前述のとおり、分割が認められるためには形式的要件と実体的要件の双方を満たさなければなりません。

形式的要件を満たしているものの実体的要件を満たしていない場合、原出願のタイミングで出願したとはみなされません。

形式的要件を満たしていない場合は、そもそも出願自体が却下されます。

参考:特許庁 第1章 特許出願の分割(特許法第44条) 

分割出願の審査を受ける

分割の要件を満たしていると判断された後、分割した内容について特許要件を満たしているかが審査されます。

通常の特許出願と同様に、新規性や進歩性、産業上の利用可能性などの要件を満たしていることが必要です。

査定後、特許権の設定登録を行う

拒絶理由が存在しないと判断された場合は、審査官によって特許をすべき旨の査定が行われます。その後、特許権の設定登録を行い、特許権が認められるという流れです。特許権は、設定の登録によりはじめて発生する点に注意しましょう。

一方、何かしらの拒絶理由が存在する場合は、拒絶理由が通知されるか、または特許出願を拒絶すべき旨の査定が行われます。拒絶査定の結果や理由は、特許庁長官から送付される査定謄本に記載されています。再度権利化を目指す場合は、拒絶理由通知や拒絶査定の内容を確認しましょう。

参考:e-Gov法令検索 昭和三十四年法律第百二十一号 特許法

特許の分割出願を活用して競合優位性を確保しよう

特許の分割出願とは、2つ以上の発明をまとめて特許出願した場合、そのうちの一部を分割して新たな出願として取り出すことです。一部の発明のみが拒絶された場合は、分割することで、新たに出願し直すよりも特許取得を目指しやすくなります。早期に権利化したい方や発明の保護範囲を拡大したい方には、分割が効果的です。その際は、要件をすべて満たせるよう注意が必要です。

特許の分割出願をうまく活用して、競合優位性を確保しましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談していただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事