- 更新日 : 2022年6月10日
偽装請負とは?労働者派遣や、委任・準委任契約との違いも解説
「企業の偽装請負が発覚する」「偽装請負をしていた企業が訴えられる」といったニュースを見ることがあります。今や偽装請負は社会問題になっており、発覚すると企業の信用が失墜するだけでなく、法による制裁を受けることになります。人を雇っている以上他人ごとではなく、「知らなかった」では済まされません。
今回は、あらためて偽装請負についておさらいします。労働派遣や委任・準委任契約との違いや偽装請負になるケース、偽装請負のリスクについても解説します。
目次
偽装請負とは
偽装請負とは、書類上や形式的には請負(委託)契約とされていても、実態は労働者派遣であることを指します。偽装請負は、派遣法を潜脱する違法行為です。本来労働者派遣となるはずの派遣労働者を、業務委託や請負契約、委任・準委任契約を締結して働かせます。派遣労働者を受け入れるためには労働者派遣法を守らなければならず、それにはコストもかかるため、偽装請負が横行しているのです。
労働者派遣契約とそれ以外の契約形態の違いを把握すると、偽装請負の問題点を理解することができます。
業務委託
業務委託契約は、委託者が外部の個人や企業に業務の一部を委託する契約です。いわゆる「外注」のことで、フリーランスや自営業者はクライアントと業務委託契約を締結します。業務委託は雇用契約ではないため、受託者は委託者の指揮命令下・労務管理下には入らず、自らの裁量で委託された業務を遂行します。
委託者側にとっては「労働基準法が適用されないため、コストを削減できる」「税務申告や保険などの手続きを行わずに済む」「仕事を依頼したい時だけ依頼できる」といったメリットがあります。一方で、「直接的に業務に関する指示ができない」「労務管理ができない」というデメリットもあります。
受託者側にとっては、「自分のやり方で自由に仕事を進められる」「勤務時間や場所に縛られない働き方ができる」といったメリットがあります。一方で労働基準法の対象外であるため、「労働時間の規制や社会保険への加入」「労働者としての保護を受けられない」といったことがデメリットといえます。
請負契約
請負契約は業務委託契約の一種であり、委託者が外部の受託者に業務を委託する際に締結します。民法には、以下のように定義されています。
第六百三十二条 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
引用:民法|e-Gov法令検索
つまり、受託者(請負人)が仕事を完成させて初めて報酬が発生するのが請負契約です。家を建てて報酬を受け取る工務店やハウスメーカーは、施主と請負契約を締結します。フリーランスのデザイナーはクライアントと請負契約を締結し、デザインを納品して報酬を受け取ります。ライターはクライアントと請負契約を締結して原稿を納品し、報酬を受け取ります。
このように、外部の人や企業に仕事の完成を目的として業務を依頼する場合は請負契約を結ぶのが一般的です。
委任・準委任契約
委任・準委任契約も業務委託契約の一種です。
(委任)
第六百四十三条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
引用:民法|e-Gov法令検索
委任契約とは、外部に法律行為を委任することです。例えば、弁護士に訴訟を依頼する、司法書士に会社設立手続を依頼するといったケースが挙げられます。
(準委任)
第六百五十六条 この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
引用:民法|e-Gov法令検索
準委任とは、法律行為以外の事務(仕事)を委任することです。例えば、患者が医師に診察を依頼する、企業がコンサルティングをコンサルタントに依頼するケースが挙げられます。
請負契約と異なるのは、仕事の完成を目的としてないことです。もちろん委任者は結果が出るよう最善を尽くしますが、例えば弁護士に依頼しても必ず勝訴するとは限りません。経営コンサルタントに依頼しても、不景気などの外的要因で業績が上がらないこともあります。このように、必ず結果が出るとは限らない仕事を外部に依頼する場合は、委任・準委任契約を締結します。
委任契約については、こちらの記事で詳しく解説しています。
労働者派遣
労働者派遣では、派遣元(派遣会社)が派遣スタッフと雇用契約を結び、派遣元が派遣先(企業)と派遣契約を締結します。派遣スタッフは派遣元に雇用されますが、実際に業務を行うのは派遣先であり、指揮命令や労務管理も派遣先が行います。業務委託(請負・委任・準委任)の場合は、注文者(委託者。企業など)と請負人(受託者。派遣会社など)が請負契約を締結します。また、請負人が自らの指揮命令・労務管理下にある労働者(従業員)に業務を遂行させるケースもあります。
業務委託契約(請負・委任・準委任)と労働者派遣が大きく異なるのは、派遣スタッフが労働者であるという点です。派遣スタッフを受け入れる場合、労働基準法に沿って業務に従事させなければなりません。例えば、週40時間を超えて働かせてはならず、それを超える場合は残業代を支払う必要があります。報酬は最低賃金を守らなければならず、強制適用事業所(株式会社などの法人事業所や従業員が常時5人以上いる個人の事業所)については雇用保険や社会保険の加入も必須です。
これらは労働者の権利を守るために必要不可欠な規制ですが、企業の負担は決して小さくありません。前述のとおり、請負であれば労働者派遣法や労働基準法による規制を受けません。派遣労働者と請負契約を結べば規制から逃れられるため、偽装請負が横行するようになったのです。
偽装請負の主なパターン
ここからは、偽装請負に該当するパターンを見ていきましょう。特に、正社員以外の雇用形態で人を雇っている方や、外部に仕事を発注している企業は、以下のパターンに当てはまっていないか確認することをおすすめします。もし該当している場合は、すぐに改善しましょう。
代表型
偽装請負の典型的なパターンで、請負契約を締結した委託者が受託者に業務の進め方などを細かく指示する、業務時間や休日などを決めて管理して働かせることを指します。前述のとおり、業務委託契約(請負契約・委任・準委任)を結んだ場合、委託者は受託者を指揮命令下・労務管理下に置くことができません。業務について指示・命令したり、勤務時間などを細かく管理したりして働かせている場合は、実質的に労働者とみなされる恐れがあります。
形式だけ責任者型
受託者(請負業者)が責任者を置いてスタッフを集め、委託者の指示に基づいてチームで仕事をさせる形式です。受託者側のスタッフは受託者の指揮命令下にあるということになっているので問題ないように思えますが、委託者が受託者を通してスタッフに細かく指示したり、管理したりしている場合は偽装請負に該当する可能性があります。
使用者不明型
関係者を増やし、雇用関係や責任の所在を分かりにくくする方法です。例えば、委託者であるA社が受託者のB社と業務委託契約を締結し、さらにB社はC社に業務を発注し、C社は労働者DにA社の業務に従事させます。労働者DがC社の指揮命令・労務管理下で働くのであれば問題ありませんが、労働者DがA社に出向してA社が指揮命令・労務管理を行うと偽装請負に該当する可能性があります。
一人請負型
受託者が委託者に自己が雇用する労働者を斡旋し、委託者と労働者個人が業務委託契約を締結するパターンです。本来、企業が個人と業務委託契約を締結して業務を委託する場合、受託者は委託者の指揮・管理下に入りません。受託者は労働者ではなく、フリーランスや自営業者に近い立場になります。委託者が受託者個人に細かく指示したり管理したりする場合は、雇用契約を結ぶことは必要となる場合があります。
偽装請負の判断基準
偽装請負に該当するか否かは、厚生労働省の『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準』が参考になります。ポイントは以下の4点です。
- 業務の遂行に関する指示、その他の管理を委託者が行っているか?
- 労働者の始業および終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示、その他の管理(これらの単なる把握を除く)を委託者が行っているか?
- 企業における秩序の維持、確保等のための指示、その他の管理を委託者が行っているか?
- 受託者が請負契約により請け負った業務を自己の業務として、当該契約の相手方から独立して処理しているか?
詳細は以下のリンクで確認できます。
参考:労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準|厚生労働省
個別の事例についての判断は、『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)関係疑義応答集』が参考になります。
参考:労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)関係疑義応答集|厚生労働省
偽装請負の問題点
偽装請負は労働者の権利を大きく侵害する行為であり、主に以下の3つが問題視されています。特に近年は労働者を保護する動きが加速しており、これに反する企業は信用が失墜します。偽装請負によって生じる問題点については、すべての企業が把握しておく必要があるため、覚えておきましょう。
福利厚生が提供されない
福利厚生には、「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」があります。法定福利厚生には健康保険や介護保険、雇用保険、労働災害保険、厚生年金保険などがあり、労働者を雇用する際は必ず実施しなければなりません。偽装請負が横行すると、このようなセーフティネットを利用できない人が増えます。
法定外福利厚生には家族手当や住宅手当、交通費などがあります。これらの福利厚生を受けられないと、困窮する人が増えます。
契約解除・賠償責任のリスクがある
雇用契約の場合は正当な理由なく契約を解除する(解雇する)ことができませんが、業務委託契約を締結している場合は、発注者が請負人と契約を解除することができます。偽装請負を締結し、不要になったら「契約不適合責任」を持ち出して一方的に辞めさせるという悪質なケースも散見されます。
契約不適合責任とは、受託者が委託者に対して負う責任のことです。受託者が納めた成果物が契約の内容に適合していない場合、委託者は契約の解除や損害賠償請求、減額請求などを行うことができます。労働者にとっては偽装請負によって一方的に解雇されたり、法外な損害賠償を請求されたりするリスクが高くなります。
中間搾取が起こりやすい
労働基準法では他人の就業に介入して利益を得る行為(中間搾取)は禁止されています(労働基準法6条)が、偽装請負は中間搾取の抜け穴になります。本来企業が労働者に支払うべき金額から手数料などの名目で中間業者が中抜きを行うため、労働者はわずかなお金しか手に入りません。すると、労働者は生活に困窮することになります。
偽装請負の罰則
偽装請負を行った場合は、労働者派遣法、職業安定法、労働基準法違反として刑事罰が科される可能性があります。罰則は、どの法律で摘発されるかによって異なります。それぞれ見てみましょう。
労働者派遣法
受託者(請負業者)が許認可を受けず、偽装請負で委託者に労働者を派遣していた場合は、労働者派遣法第59条違反に該当します。
第五十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
(略)
二 第五条第一項の許可を受けないで労働者派遣事業を行つた者
この場合、請負業者は「懲役1年以下もしくは100万円以下の罰金」という重いペナルティが科せられる可能性があります。
職業安定法
労働者の供給事業は、職業安定法で禁止されています。
(労働者供給事業の禁止)
第四十四条 何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。
(労働者供給事業の許可)
第四十五条 労働組合等が、厚生労働大臣の許可を受けた場合は、無料の労働者供給事業を行うことができる。
厚生労働大臣の許可を受けることなく労働者供給事業を行った場合、同法第64条9号により刑事罰が科せられます。
第六十四条 次の各号のいずれかに該当する者は、これを一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
(略)
九 第四十四条の規定に違反した者
この場合は偽装請負の委託者、受託者だけでなく、労働者を指示・管理して業務を行わせた会社の経営者や管理職なども処罰の対象になります。
労働基準法
労働基準法では、第三者の就業に介入して中間搾取する行為を禁止しています。
(中間搾取の排除)
第六条 何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。
これに違反すると、同法第118条によって刑事罰が科せられます。
第百十八条 第六条、第五十六条、第六十三条又は第六十四条の二の規定に違反した者は、これを一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
労働者を供給した受託者はもとより、委託者に関しても幇助したとして罰せられるおそれがあります。
偽装請負の事例
偽装請負の事例は多く、大手企業や有名企業でも多くの偽装請負が発覚しています。大手自動車メーカーのグループ会社では、労働者を従業員として雇わず請負契約を締結し、自社の指揮命令下に置いて働かせていました。当該労働者がケガをしたにも関わらず、労働安全衛生法で義務付けられている労災報告を行わなかったことで、偽装請負が発覚しました。
参考:トヨタ系企業が労災隠し 偽装請負が背景に|asahi.com
大手精密機械メーカーでは、労働者5人が正社員の地位を求めて訴訟を起こしました。当該労働者は請負会社の社員でしたが、実態は精密機械メーカーの指揮・管理下で業務に従事させられるという偽装請負が行われていました。その後2人を関連会社で正社員として雇用し、3人は金銭解決によって和解したため、原告は告訴を取り下げました。
参考:キヤノン偽装請負訴訟が終結 2人を関連会社で正社員化、3人は金銭解決|論座
大手光学機器メーカーでは派遣労働者の男性が過労によって自殺し、男性の母親が派遣元と派遣先である光学機器メーカーに損害賠償を請求しました。光学機械メーカーと派遣元は委託契約を締結し、男性が派遣元の社員でありながら光学機械メーカーの指揮・管理下で働いていたという偽装請負の実態が明らかになりました。
参考:派遣社員の過労自殺! 業務請負の問題点が浮き彫りに!|企業法務ナビ
偽装請負で告発・通報されないための対策
偽装請負で告発・通報されないためには、労働者との雇用形態と勤務実態をあらためて見直す必要があります。特に大切なのは、「偽装請負の判断基準」で挙げた4つのポイントです。もう一度おさらいしておきましょう。
- 業務の遂行に関する指示その他の管理を委託者が行っているか?
- 労働者の始業および終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示、その他の管理(これらの単なる把握を除く)を委託者が行っているか?
- 企業における秩序の維持、確保等のための指示、その他の管理を委託者が行っているか?
- 受託者が請負契約により請け負った業務を自己の業務として、当該契約の相手方から独立して処理しているか?
偽装請負をしているつもりがなくても、実態が偽装請負になっているケースは少なくありません。例えば、業務委託契約を締結している外注業者の社員を自社の工場に出向させ、指示をして作業させている場合や、勤務時間や休憩時間、休日などを指定して働かせている場合は偽装請負とみなされることがあります。
労働者派遣契約と業務委託契約の違いを正しく把握し、契約に合わせて対応することが重要です。
こちらの記事でも詳しく解説しています。
偽装請負に気を付けましょう
労働者の権利を守る機運が高まり、偽装請負に対する世間の目が厳しくなっています。偽装請負が発覚すれば、法的にも社会的にも甚大な損害を被ることになります。そもそも偽装請負は労働者の権利をないがしろにする恐れがある行為であるため、行うべきではないでしょう。
あらためて自社が偽装請負を行っていないか、各種法令に違反していないか、確認しておきましょう。
よくある質問
偽装請負とは何ですか?
業務委託(請負・委任・準委任)を締結している社外の人を自社の従業員のように働かせる行為です。詳しくはこちらをご覧ください。
偽装請負はどのような罪になりますか?
労働者派遣法、職業安定法、労働基準法など違反に該当する可能性があり、いずれも重大な刑事罰が科せられる可能性があります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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