- 更新日 : 2024年8月20日
電子契約の法的有効性を関連する法律と合わせて解説
電子契約を導入するにあたって気になるのは、その法的効力でしょう。本当に電子契約で契約は成立するのでしょうか。
そこで、今回は関連する法律を見ながら電子契約の法的効力について考えてみます。また、電子契約ができないケースについても解説します。
目次
電子契約とは
電子契約はパソコン等を使って契約書を作成し、電子データのままでやり取りをして契約を締結する方法です。書面の契約書とは異なり、紙に印刷する必要も、署名や捺印をする必要もありません。締結済みの契約書は、電子データのままパソコンのハードディスクやクラウドなどに保存します。
従来の書面と比較すると、印刷や郵送の手間やコストを省ける、印紙代がかからない(詳しくは後述します)、押印する必要がない、管理や検索がしやすいことがメリットです。デジタル化やリモートワークの推進、「脱はんこ」の動きに伴って、電子契約を導入する企業が急増しています。
電子契約は法的に有効なのか
そもそも契約は当事者同士の合意があれば成立し、例外を除いて合意を形成する方法は問われません。その根拠については法律を見ながら詳しく解説しますが、書面であろうとメールであろうと口約束であろうと契約は成立します。
ただし、口約束の場合はトラブルに発展するリスクが高いため、契約の内容をまとめた契約書を作成し、当事者が署名捺印するのが一般的です。
電子契約も例外ではありません。電子契約であっても「電子署名」を付すなどして、後々トラブルが発生した際に備えて、証拠力が認められるような措置を施すことが望ましいです。
電子契約に関わる法律
前述のとおり、契約は当事者同士の合意によって成立し、合意形成の方法は問われません。民法にもその旨が記載されています。
しかし、一般的にはトラブルを防ぐために契約書を交わします。裁判になった場合は、契約書を証拠として提出することになります。その際にまず必要になるのが「認証」という作業です。「合意した人が誰なのか」「本当に本人が合意したのか」を確認しなければなりません。それには「電子署名法」と「民事訴訟法」という法律が関わってきます。
契約書の「保管」もキーポイントです。契約書が証拠能力を有するためには、改ざんされていないことを証明する必要があります。電子契約の場合、保管方法は「電子帳簿保存法」という法律で定められています。
それぞれの法律を詳しく見ながら、電子契約で契約を締結する際のポイントを考えてみましょう。
民法
契約の成立には当事者同士の合意が必要です。これは民法第522条に規定されています。
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
引用:民法|e-Gov法令検索
1項には「当事者同士の意思表示があれば契約は成立する」ということ、2項には「書面などがなくても契約は成立する」ということが書かれています。
つまり、書面の契約書や電子契約データがあろうとなかろうと、原則として、当事者同士が合意した時点で契約は成立するのです。電子契約も口約束も例外ではありません。
電子署名法
電子署名法は、電子署名(電子契約で行う署名捺印のようなもの)の効力について規定する法律です。
第三条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
電磁的記録とは電子データのことで、具体的には電子契約書のファイルを指します。これに電子署名が付加されていれば、その内容に合意して契約が成立したと推定されます。電子署名として電子署名法上の効力が得られるためには、「本人性」と「非改ざん性」の要件を満たす必要があります。
民事訴訟法
民事訴訟法は、民事訴訟(個人間の法的な紛争を解決するための訴訟)の手続きに関する法律です。文書の成立について定めている第228条には、以下のように記されています。
第二百二十八条 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
民事訴訟においては「その(文書の)成立が真正である」、つまり「文書が本物であって、かつ成立していることを証明する必要がある」ということが書かれています。では、どのような状態が「成立が真正である」といえるのでしょうか。その答えは、4項に書かれています。
4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
契約書に本人もしくは代理人の署名または押印があれば、契約に合意した意思表示とみなされ、その契約書は有効といえます。電子契約においては、電子署名が署名または押印にあたります。
電子帳簿保存法
電子契約を導入した場合は、「電子帳簿保存法」という法律に従って電子契約書を保存しなければなりません。電子帳簿保存法は、国税関係書類(帳簿、領収書、請求書、注文書など)や電子取引に関する書類を電子データで保存することを認め、その方法について規定している法律で、契約書もこれに含まれます。具体的には、電子データで書類を保存することを許可される要件や保存の方法、タイムスタンプの付与、書類の要件などが定められています。
電子帳簿保存法について詳細はこちらのページで解説しています。
また、実際に電子契約を導入する際は国税庁の『電子帳簿保存法の概要』ページを一読し、内容を把握することをおすすめします。
e-文書法
e-文書法は、「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」と「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の総称です。契約書などの文書を電子データで保存する際のルールについて定めています。
e-文書法では、文書をデータで保存する場合は「見読性(情報の読み取りやすさ)」「完全性(作成後に改変されていないこと)」「機密性(盗難や漏洩、不正アクセス等が防止できていること)」「検索性(文書を必要に応じて探せること)」を要件として定義し、それぞれ具体的に示しています。
詳しくは以下のページに記載しています。
具体的な要件については、厚生労働省のサイトをご覧ください。
参考:「厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令」の概要|厚生労働省
IT書面一括法
IT書面一括法の正式名称は「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律」で、顧客保護を目的として事業者に電子メールなどを使った書面の交付や手続きに関するルールを定めている法律です。
IT書面一括法という独立した法律があるわけではなく、金融庁、総務省、財務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省がそれぞれ定めている法令をまとめたものを指します。
IT書面一括法については、以下の記事も参考にしてください。
条文については以下の衆議院のサイトに掲載されています。
電子契約における例外を定めた特別法
さまざまな法律によって電子契約に関するルールが定められており、これらを遵守していれば電子契約書であっても法的効力が認められます。しかしながら、どのような契約においても電子契約を用いることができるわけではありません。契約の種別によっては、従来の書面での契約しか認められないものもあります。ここからは電子契約が認められていないケースについて、法律を交えながら解説します。
これは2021年12月現在の情報であり、今後法律が改正される可能性があるので、電子契約を導入する際は最新情報を参照してください。
借地借家法
借地借家法は、土地や建物の賃貸借契約に関するルールを定めた法律です。定期借地権について定めた22条と定期建物賃貸借について定めた38条に「書面によって」と明記されているため、現在は電子化することが認められていません。
(定期借地権)
第二十二条 存続期間を五十年以上として借地権を設定する場合においては、第九条及び第十六条の規定にかかわらず、契約の更新(更新の請求及び土地の使用の継続によるものを含む。次条第一項において同じ。)及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第十三条の規定による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができる。この場合においては、その特約は、公正証書による等書面によってしなければならない。
(定期建物賃貸借)
第三十八条 期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。
2021年5月に改正借地借家法が公布され、1年以内に電子化が可能になる見通しです。ただし事業用の定期借地契約については、これまでと同様に書面(公正証書)が必要です。
宅建業法
宅建業法(宅地建物取引業法)は、宅地建物取引に関するルールについて定めた法律です。賃貸アパートやマンション、借地の賃貸契約に関わる書面については、電子データではなく書面を交付しなければなりません。第37条では契約時の書面の交付について、第35条では重要事項の説明時の書面について定められています。
第三十五条 宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第五号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。
第三十七条 宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換に関し、自ら当事者として契約を締結したときはその相手方に、当事者を代理して契約を締結したときはその相手方及び代理を依頼した者に、その媒介により契約が成立したときは当該契約の各当事者に、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。
宅建業法も2022年5月までに改正法が施行される見込みで、電子契約や電子データ交付による重要事項説明が可能になる見通しです。
特定商取引法
特定商取引法(特定商取引に関する法律)は、業者と消費者との間にトラブルが起こりやすい特定の商取引のルールを定めた法律です。訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売取引、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売、訪問購入においては、書面での契約書の交付が義務付けられています。
こちらに関しては、電子データの取り扱いに関する議論が行われているようです。
下請法
下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、親事業者の下請業者に対する優越的地位の乱用を規制する、つまり下請業者を守る法律です。
下請業者と業務委託契約や守秘義務契約などを締結する際は電子契約を利用できますが、事前に同意を得る必要があります。
第二条 親事業者は、法第三条第二項の規定により同項に規定する事項を提供しようとするときは、公正取引委員会規則で定めるところにより、あらかじめ、当該下請事業者に対し、その用いる同項前段に規定する方法(以下「電磁的方法」という。)の種類及び内容を示し、書面又は電磁的方法による承諾を得なければならない。
2 前項の規定による承諾を得た親事業者は、当該下請事業者から書面又は電磁的方法により電磁的方法による提供を受けない旨の申出があったときは、当該下請事業者に対し、法第三条第二項に規定する事項の提供を電磁的方法によってしてはならない。ただし、当該下請事業者が再び前項の規定による承諾をした場合は、この限りでない。
取引先が電子契約での契約締結に同意しない場合は、書面で契約を締結する必要があります。
電子契約は印紙税の対象外?
書面の契約書においては契約金額に応じて収入印紙を貼付する必要がありますが、電子契約においては印紙税がかからないとされています。国税庁では「課税文書を作成したときに作成者に対して印紙税の納税義務が発生する。」としており、さらに「作成とは課税文書となるべき用紙に課税事項を記載し、これをその文書の目的に従って行使する」と定義しています。契約書のように相手方に交付する目的で作成される課税文書における「作成の時」とは、当該交付の時であるとされているため、紙に印刷し、相手方に交付されなければ課税対象とはなりません。
詳しくはこちらのページをご覧ください。
2005年当時の首相である小泉純一郎氏の名前で書かれた国会答弁書にも、「文書課税である印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されない」と明記されています。
このような根拠もあり、電子契約は印紙税の課税対象外となっています。
電子契約の法律を理解することで電子契約への不安を払拭しよう
電子契約を導入するにあたっては、関連する法令を理解しておく必要があります。今回は条文も交えてさまざまな法律を解説したので、「難しい」と感じた方もいるかもしれません。ポイントを押さえておけば問題ありませんし、電子署名法や電子帳簿保存法などの法律をクリアした電子契約システムを導入すれば、電子契約はさほど難しくありません。
よくある質問
電子契約は本当に有効なの?
はい。そもそも契約は当事者同士の合意によって成立し、合意形成の方法は問われません。書面の契約書であれ、電子契約書であれ、口約束であれ、合意があれば契約は成立します。詳しくはこちらをご覧ください。
電子契約で守らなければならない法律は?
民事訴訟法、電子署名法、電子帳簿保存法、e-文書法、IT書面一括法などです。詳細については記事でわかりやすく解説しています。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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