- 更新日 : 2022年3月30日
シュリンクラップ契約とは?法的有効性や判例、問題点について解説!
他人が権利を有するソフトウェアを使用する場合、ライセンシー(実施権者。ソフトウェアを使用する者)とライセンサー(実施許諾者。権利を保有する者)が使用許諾契約を締結することが一般的です。使用許諾契約を締結する方法の一つに「シュリンクラップ契約」があります。これは、どのような契約方法なのでしょうか。
今回は、シュリンクラップ契約の法的有効性や注意点について解説します。
目次
シュリンクラップ契約とは?
シュリンクラップ契約とは、ソフトウェアの記録媒体(CD-ROMなど)が梱包されたケースを覆うフィルムを開封することで効力が発生するとみなす契約のことです。
「シュリンクラップ」とはポリマープラスチック製の素材のことで、商品を梱包するフィルムなどに使用されます。たとえば、CD-ROMを購入して使う際、パッケージ(外箱)を開封してCD-ROMが入っているケースを取り出し、さらにそれを覆っているフィルムを開封して中身を取り出します。シュリンクラップ契約ではこの時点で契約が成立したとみなされます。
ソフトウェアの使用許諾契約が成立するのはどの時点?
一般的なシュリンクラップ契約では、ソフトウェアの記録媒体が入ったケースを覆うフィルムを開封した時点で「使用する意思がある」とみなされ、契約が成立します。
使用許諾契約を締結する際は、ライセンシーとライセンサーが契約書を交わすのが本来の流れですが、市販ソフトウェアの場合は多くのユーザーに販売されるため、ユーザーごとに使用許諾契約書を作成するのは現実的ではありません。そのため、このような方法が採られているのです。
ケースやパッケージのフィルムは、一度開封したら元に戻すことはできません。開封したタイミングで契約が成立したとすれば、開封済みのケースという明確な証拠が残ります。その後ソフトウェアをインストールして、実際に使用したかどうかは問われません。
クリックオン契約との違いは?
ソフトウェアの使用許諾契約において、シュリンクラップ契約と同様によく用いられる方法に「クリックオン契約」があります。
前述のとおり、シュリンクラップ契約は記録媒体のフィルムを開封した時点で契約が成立しますが、クリックオン契約ではその次の段階が契約締結のタイミングとなります。ソフトウェアをインストールする際、あるいはソフトウェアを初めて起動した際に契約条件が表示され、「この契約に同意しますか?」「使用許諾契約を締結しますか?」といった文言が表示されます。これがクリックオン契約です。質問に対して利用者が「はい」「同意します」といったボタンをクリックすると、契約が成立したとみなされます。
シュリンクラップ契約の法的有効性は?
ほとんどの契約は当事者の一方が申込みを行い、相手方がそれを承諾した時点で成立します。
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
引用:民法|e-Gov法令検索
契約は書面(契約書)がなくても相手方が申込みを承諾した時点で成立しますが、契約書を交わすケースでは申込者が契約書を作成し、相手方がそれに署名・押印(=締結を申し入れる意思表示)をした時点で契約が成立すると考えられています。使用許諾契約においても、申込者(ライセンサー)が相手方(ユーザー)に対して申し入れる意思を表示し、ユーザーがそれに承諾(契約書を作成する場合は署名・押印)することで契約が成立します。
そのステップがないシュリンクラップ契約が有効となると考えられる根拠として、民法第527条が挙げられます。
第五百二十七条 申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。
引用:民法|e-Gov法令検索
市販のソフトウェアはユーザーがライセンサーから直接購入するケースは稀で、多くの場合小売店を経由して購入します。よって、ユーザーとライセンサーは顔を合わせたり、契約書を交わしたりすることはありません。そのため、ユーザーが契約に同意したことがライセンサーに通知されないまま、ソフトウェアの利用が開始されます。
署名・押印がなされた契約書などで契約に同意したという通知を受ける代わりに、承諾の意思表示と認めるべき事実(=フィルムの開封)をもって契約が成立したとみなすのです。
シュリンクラップ契約の判例は?
日本ではまだシュリンクラップ契約が有効であるという判例はありませんが、米国では以下のような判例があります。
ProCD, Inc. v. Zeidenberg判決
原告であるProCD社は、同社が開発した電話帳データベースを小売店で購入し、「データの使用は非営利での目的に限る」という内容のシュリンクラップ契約条項がありながらも、Web上でデータベースの情報を有料で公開していた被告をライセンス違反として訴訟を起こしました。
アメリカ合衆国第7巡回区控訴裁判所は、「外箱にライセンス条項が封入されている旨の記載があること」「『非営利目的での使用に限る』という旨がマニュアルに記載されていたこと」「ライセンス条項に同意できない場合は返品可能であること」などを理由に、シュリンクラップ契約が成立していることを認めました。
参考:シュリンクラップ契約
M.A. Mortenson Co. v. Timberline Software Corp.判決
原告である建設業者のM.A. Mortenson社は、原価計算や建設工事の入札を補助するソフトウェアを使用したところ、意図していた入札額より低い価格で入札されるというバグが発生し損害を被ったとして、被告であるTimberline Software社に対して損害賠償請求を行いました。そのソフトには「プログラムの利用によりライセンスに同意したものとみなす」「同意しない場合は返品できる」「バグにより生じる原告の損害に対する被告の責任はライセンス料まで」というシュリンクラップ契約条項が添付されていました。
ワシントン州最高裁判所は統一商事法典の「物品売買契約成立の一般的要件に関する規定」が成立し、その締結の時点が確定できない場合でも契約の成立を認定できる旨を規定していることを根拠とし、「ライセンス条項はパッケージのさまざまなところに記載されていて、原告はそれを読む機会があったこと」「旧バージョンのソフトウェアも同じライセンス条項のもとに使用していたこと」「取引慣習としてライセンス条項は普遍的に利用されていること」を理由に、シュリンクラップ契約が成立しているという判決を下しました。
参考:シュリンクラップ契約
シュリンクラップ契約の問題点は?
このように米国ではシュリンクラップ契約を有効とした判例がいくつかありますが、日本ではまだ判例がなく、シュリンクラップ契約が有効であるかどうかは議論が分かれています。
前述のとおり、シュリンクラップ契約は民法第527条の「申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合」には該当すると考えることができるかもしれません。しかし、フィルムを開封する行為が「承諾の意思表示と認めるべき事実」に該当するかどうかは議論が分かれています。
代金を支払った後に契約条件を示される取引は以前から存在しています。たとえば映画やコンサートのチケットの裏面には「注意事項」として利用条件が記載されていて、それに同意した上で映画やコンサートを観覧します。こうしたことも鑑み、購入フィルムの開封をもって契約に同意したとみなすシュリンクラップ契約も、合理的な商習慣であるという見解もあるようです。
一方で、ユーザーにとってはフィルムを開封する行為の主な目的は内容物を取り出すことであり、契約の申込者(ライセンサー)もそれを明らかに知っているため、開封行為を契約締結の意思表示として指定することはできないという見解もあります。 社団法人著作権情報センターの山本隆司氏は1997年6月著作権研究会の講演において、シュリンクラップ契約に同意します」という文言が入った登録証をつけて、「返送してくれればサポートします」「バージョンアップの際に安く提供します」としてシュリンクラップ契約を担保するケースもあることを指摘しています。
参考:シュリンクラップ契約の問題点(講演録)
参考:民法|e-Gov法令検索
シュリンクラップ契約の成立時期に注意しましょう!
シュリンクラップ契約の有効性は議論が分かれており、現在はグレーゾーンです。ユーザー側はパッケージなどに記載された条項をよく読み、フィルムを開封した時点で使用許諾契約に同意したとみなされる可能性があることを認識しておく必要があります。
ライセンサーはシュリンクラップ契約よりも、ソフトウェアのインストール時に契約条項を表示してユーザーに同意してもらうクリックオン契約を採用することで、トラブルになるリスクを低減することができます。
よくある質問
シュリンクラップ契約とは何ですか?
ソフトウェアの記憶媒体が入ったケースを覆うフィルムを開封することで、相手方が使用許諾契約に合意したとみなす契約形態です。詳しくはこちらをご覧ください。
クリックオン契約とは何ですか?
ソフトウェアをインストールした後や初めて起動した時に契約条件が表示され、ユーザーがそれに対して同意することで、使用許諾契約に合意したとみなす契約形態です。詳しくはこちらをご覧ください。
シュリンクラップ契約の有効性は?
日本ではシュリンクラップ契約が有効であるとする判例がなく、有効とする見解と無効とする見解があるため、現在はグレーゾーンです。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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